雰囲気を創造する達人、ネイト・ブラウン
ビヨンセ、アレキサンダー・ワン、カニエ・ウェストの背後で活躍する俳優兼クリエイティブ ディレクター
- インタビュー: Thom Bettridge
- 写真: Eric Chakeen

「僕たちがこの惑星で暮らすのは、ほんのわずかな時間だ」。ウエストフィールド ワールド トレード センターのモールを歩きながら、ネイト・ブラウン(Nate Brown)は言う。今ブラウンと私が連れ立って通過しているサンティアゴ・カラトラバ(Calatrava)設計のショッピングセンターは、グラウンド ゼロからゴールドマン サックスがオフィスを構える200 ウエスト ストリートの地下まで広がっている。見渡せば、そこはもう、まるでSF世界だ。ブラウンは宇宙やイーロン・マスク(Elon Musk)の起業に取り憑かれているが、クリエイティブ ディレクターとしては、カニエ・ウェスト(Kanye West)、ジェイ・Z(Jay Z)、Alexander Wang、ビヨンセ(Beyonce)、John Elliottらのスーパー ショーを考案するという、地球的な関心事に繋がれている。
携帯電話を使わない口実がほぼ皆無に等しい時代で、ブラウンは雰囲気を創造する達人だ。コンサートやファッション ショーを、全身が没入する体験へと変容させる。クリエイティブ ディレクションに定型はない。例えば、前回のツアーでは、カニエを天井から吊るすことにした。そんな仕事を、ブラウンは非常に数学的に語る。そして、いかなる場合も、署名した幾多の守秘義務を侵さないように細心の注意を払う。

フットボール スタジアム
じゃなくて、
宇宙でコンサート
トム・ベットリッジ(Thom Bettridge)
ネイト・ブラウン(Nate Brown)
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ネイト・ブラウン:インタビューされるときは、いつも最初に聞きたいんだ。どうして僕と話そうと思ったのかな?
トム・ベットリッジ: まず何より、「クリエイティブ ディレクター」という仕事が実際にはどういうものか、あなたと一緒に定義してみたいんです。
面白いな。それを知りたがる人が多いんだ。クリエイティブ ディレクターと名乗っている人も含めてね。建築家に聞いても、アーティストに聞いても、当然、それぞれの能力に応じて違う答があると思うよ。
では、具体的に話しましょう。あなたはファッションのプレゼンテーションを手掛けますね。ファッション ショーは、以前は非常に業界特有の経験でしたが、今ではポップカルチャー的な経験です。なぜでしょうか?
僕は、そういうものにアプローチするとき、ドクター・スース(アメリカの絵本作家)のレベルまで、つまりいちばん基本的なレベルまで、対象を解体するんだ。あらゆる知的な部分を剥ぎ落として、できるだけシンプルにして、そこから組み立てていく。今は誰もがファッションに目を向けている。実際に現場で経験する人もいるし、オンラインで見る人もいるし、インスタグラムを通して触れる人もいる。スナップチャットやフェイスブックのライブかもしれない。媒体は何であれ、基本的には、複数の感覚を刺激する経験が形成されているわけだ。服はその一部だけど、今は服が占める割合が小さい。そうだろ? 先シーズンのYeezyのショーなんて、誰かの服を見るために、わざわざ何にもない場所へ出向く究極の遠足だった。そして、完璧に本格的なスペクタクルだった。果たしてそれが正しかったかどうか、僕はコメントしない。とにかくあれは、2016年の文化的体験としてのファッション ショーを象徴していた。
コンサートでも、日常のバーチャル体験から断裂できる、生の体験が生まれますね。ああいう独特の雰囲気を創造するには、どんな戦略があるのでしょうか?
僕にとってはいつも楽しいよ、たくさんの感覚を刺激できることがね。僕たちは、感覚を逆方向に辿るんだ。人間が取り込む何を提供できるか? 音楽がある。イメージもある。匂いだって使える。クリエイティブ ディレクターの可能性は無限じゃない。僕はそれが気に入ってる。具体的な範囲内で仕事をするのが好きなんだ。例えば、予算、空間、前座、ツアー全体。たくさんの制約がある。色々な制限に合わせなきゃいけない。あまり高過ぎる理想を追わないから、自然と地に足がつく。ビヨンセのボニー&クライドをやる前に、どんなステージ表現が心に深く染み込む体験になるか、それを僕らは考えたんだ。従来のコンサートは、ステージとスクリーンの集合体だ。でもカニエを天井の近くまで吊り上げたショーは、僕たちの仕事の良い例だよ。あれは、VIP席対一般席っていうこれまでの図式をぶち壊したんだ。いちばん安い席がいちばん近くでショーを見られた。そんなこと、今までなかったよ。
政治的というわけではありませんが、それでも、政治と同じような手法ですね。集団に人気があるのものを取り上げる。でも、あなたは、そこにあるヒエラルキーも分解しますね。
あのレベルのポップ スターだったら、どうしても対処せざるをえないことだよね? 超が付くセレブリティやスーパースターは、どうやって大衆目線を作り出すか? そこを有利に使うのがとても大切だ。スーパーボウルでのレディ・ガガ(Gaga)のパフォーマンスには、いろいろな意味で圧倒されたよ。あのスーパードームだか何だかの屋根から飛び降りるなんて、全く怖いもの知らずの勇気だ。僕だったらあれとは違う方法でやったかもしれないけど、それにしても、あのパフォーマンスは今まで見たもっとも素晴らしいパフォーマンスのひとつだった。

大抵の場合、クリエイティブ ディレクションというのは、様々なタイプの雰囲気を設計することのようですね。
まさしくその通り。でも、プロジェクトについてクリエイティブ ディレクターと話したら、おそらく、とても複雑で詳細な話になると思うよ。詳細の多くは、多分、投資家に金を出させるためだ。クリエイトするだけじゃなくて、資金も出すとしたら、とてもじゃないけど、雰囲気に形を与えるなんてできないよ。
しかし、定義が不十分であるにせよ、あなたは雰囲気を操ることが仕事ですよね。私は、クリエイティブ業界に、タンブラーから派生した型通りではない新しいアプローチ、たとえばムードボードや参考イメージを使ったアプローチがあるように感じているんです。実際に業界で仕事をしている立場から見て、そういうアプローチはどのように仕事に影響していますか?
インターネットが登場する前のクリエイティブ ディレクターは、図書館へ出かけたりカメラを担いでインドへ行ったりして、参考になるものを引っ張ってくる必要があった。自分で出かけて見つけた資料だから、きっといつまでも大切にするだろう。ところが、今の時代は、参考資料を見つけるのが、仕事の中でいちばん簡単な部分なんだ。みんなそれぞれ、仕事のやり方は違うと思うけど、僕のスタイルは数学的だと形容したいね。存在しうる問題に注目して、解決策を見つける。視覚的要素か、聴覚的要素か、他の感覚に結び付いた経験か分からないけど、何らかの要素で解決する。方程式を解くんだ。
すべての画像をコンピュータで見つけていると、断絶が生じるように感じます。それが現実の空間へ置き換えられると、コンピュータ上の現実のようになるからです。感覚的が分断されるんです。
本当にそうだよ。そして、欠かせない現実の感情に欠けるんだ。どんな方法で出力しようと、僕たちがやろうとしていることは、最終的に、観衆にある種の体験を得させることなんだ。だから、目からコンピュータ画面までの40センチに限定されている人は、体験容量も限定される。

資金も出すとしたら、
とてもじゃないけど、
雰囲気に形を与える
なんてできない
いつもやりたいと夢見てきたことは?
僕は大きく考えるんだ。NASAと仕事をする、とかね。今はNASAとはかけ離れてるけど、2030年頃にはヘンリー・フォード(Henry Ford)みたいなものさ。そうだろ? イーロン・マスクがやってるみたいに、宇宙旅行を開拓する。そういうことを考えてると「どこかのフットボール スタジアムじゃなくて、宇宙でコンサートをやろう」って、思うんだ。僕が考えようとしてるのは、そういうことなんだ。過去に作られた基準の型を、どうやって壊すか。小さい規模だと、家庭のベッドルームでコンサートをやるっていうコンセプトを考え出した、すごく賢い会社があるんだ。とても興味を持ってる。
夢のプロジェクトは? ウォルト・ディズニー(Walt Disney)は、ある日、「フロリダに街を作る」と思ったそうですが。
僕の夢のプロジェクトは、寿命を延ばす方法を見つけることだな。それはとても広い意味があるんだ。とにかく、寿命を延長して、ある程度のところまで、人を地球から連れ出す。
ビヨンセを宇宙へ連れて行ったり、みんなを宇宙へ連れて行ったり?
みんなを宇宙へ連れて行く。そしてもっと有意義に人生を送る。
私たちは、地球を出て行く準備をしていると思います。それが今の時代を要約する特性のように感じます。
僕たちは、一生懸命、その方法を探してるんだ。僕たちがこの惑星で暮らすのは、ほんのわずかな時間だ。永遠に地球で暮らすなんて厚かましいことを考えるのは、ちょっと狂ってるよ。
今やっている仕事は?
それなんだけどね、やり終わるまで、詳しくは話せないんだ。僕は守秘義務に支配された領域で生きてるから。でも、人間としての能力を最大限に引き出そうとすること、それが一番僕の意欲を掻き立てるんだ。今は、The Conditionっていうプラットフォームを作ってる。福祉、健康、アクティビティのための初めてのプラットフォームだけど、僕たちが日常的にやってるクリエイティブなコラボレーションの視点から構築するんだ。誰でも最高の人生を送りたいと願うけど、方法を知らないんだよ。
インタビュー:Thom Bettridge
写真:Eric Chakeen
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