アパルナ・ ナンチェーラのダークな笑い

2017年のアメリカで、まだジョークを飛ばせるお笑い芸人

  • インタビュー: Julia cooper
  • 写真: Brianna Capozzi

「せめてDJキャレド(DJ Khaled)が着てるシャツと同じくらいでいいから、自信が欲しいもんだわ」。アパルナ・ナンチェーラ(Aparna Nancherla)は物欲しげにツイートした。オンラインでもオフラインでも、彼女はとことん可笑しい。ナンチェーラの笑いは、2017年のアメリカで生活し呼吸している、不安な人間の特異な内面を掘り進む。

ナンチェーラは、お笑い芸人のようには見えない。彼女自身から見ても、そう見えない。レニー・ブルース(Lenny Bruce)以来、アメリカのコメディ界を背負ってきた「ストレートの白人男性という典型的な基準」に当てはまらない。小柄で、褐色の肌で、女性。おまけに、新奇と風変わりを歓迎するインターネットから誕生した、お笑いニュー ウェーブの最前線に立つ。

彼女自身の鬱にまつわるジョークから、絵文字の多重な意味を解読するパワーポイントのスライドまで、ナンチェーラのユーモアはダークで陽気だ。偽物のように感じる気持ち、テレビ界への進出、暗い出し物が大統領選挙後にとりわけ受ける理由について、ジュリア・クーパー(Julia Cooper)とナンチェーラが対話した。

ジュリア・クーパー(Julia Cooper)

アパルナ・ナンチェーラ(Aparna Nancherla)

ジュリア・クーパー:12月の「Village Voice」紙に、大統領選挙後にスタンダップ コメディをやることについて書いていますね。以前より、ダークな出し物が受けるようになりましたか?

アパルナ・ナンチェーラ:そうね。選挙の後、すごく途方に暮れたり、落胆した人がすごく沢山いるわ。コメディアンも、選挙の後は、自分が何を言いたいのか、ステージの持ち時間で何をしたいのか、考えたと思う。どうしても選挙に触れないわけにはいかないし。だって、無視はできないもの。でも今は、ちょっとニュースから逃れるためにコメディに足を運んでくる人がけっこう多いの。だから、怖い部分にハマり過ぎないようにして現在起きていることに触れる、ってバランスをとってるかな。それと、少し距離を取って、完全に落ち込まないで済むような表現も出そうとしてるの。

世界がどんどん悪い方向へ向かっているときに、ジョークを飛ばすのは間違ってると感じることはありますか? それとも、人を笑わせることに信念を持っていますか?

まさにそのふたつを行ったり来たりしてるわ。すごくひどいことが起こったときは、なかなか洒落にはできない。でも、話さないより話すほうが大切だという気もする。すごく厄介で繊細だとしても、その出来事に触れる方法は必ずあるはずだわ。

ステージでのお笑いを始めてからの11年で、状況はどのように変わってきましたか? 過去10年で劇的に変化した条件があると思うのですが...。

いちばん大きな違いのひとつは、デジタル環境が爆発的に拡大したことね。私が始めたときはちょうどYouTubeが流行り始めた頃だったわ。それからFacebookが現れて、その後にTwitterとSnapchat。そういうサービスのおかげで、沢山の人が独創的なコンテンツを作ったり人の笑いを狙ったりする、遊び場ができた感じ。コメディを書くことが活発になったわ。スタンダップ コメディに関しては、ストレートの白人男性っていう典型的な基準から外れたコメディアンの需要が増えてる。みんなもっと違う立場の人を見たいんだと思う。

最近、創作のエネルギーを注いでいるのは何ですか? Netflixシリーズの「Love」シーズン2であなたを見るとは、思ってもいませんでした。台本があるテレビ番組に出たのは、あれが初めてですか?

あの年は、「Love」の前に「Inside Amy Schumer」最終シーズンにちょっとした顔を出したわ。でもそうね、あれが台本のある初めてのシリーズだったわね。その後には、ちょうど今、HBOで放映が始まったばかりの「Crashing」。それに「Master of None」のシーズン2でのゲスト出演。Comedy Centralの「Corporate」にも出てるわ。悪徳大企業で働く社員の話で、私は人事部の女の子の役なの。

Netflixがアダム・サンドラー(Adam Sandler)と映画8本の制作契約を結んだことについて、どう思いますか? 世間はそんなものが必要なんでしょうか?

ごく少数の特定の人たちだけが、ハリウッドでいつまでも好きなように作品を作っていられるのはちょっとガッカリだけど、期待できるのは、そういう人たちが大抵自分の制作会社を持ってることよ。新しい才能や今まで見たこともないものを探すのが、きっと上手いはずだわ。だから、ポジティブな面もあるってことよね。そう願いたいわ。

今はまだ注目されていない新人は?

ニューヨークでは色んな人が活動してるわ。いつ見ても楽しい。ブルックリンで始めて、ブルックリンで個人のショーをやる人が多いみたい。例えば、ジュリオ・トレス(Julio Torres)。彼は信じられないくらいすばらしい着眼点の持ち主よ。今はサタデー・ナイト・ライブの作家をしてるから、出世街道を邁進中よね。もうひとりは アンナ・ファブレガ(Anna Fabrega)。実験的なお笑いをやっているの。ジョー・ファイアストーン(Jo Firestone) もそう。彼とも是非いっしょに仕事をしてみたいわ。出し物がすごくいいの。今は、若くて、刺激的なコメディアンがたくさんいるわ。

あなたのキャリアにとって、コメディアンのティグ・ノタロ(Tig Notaro)はどういう存在ですか?

彼女が、何て言うか、私の面倒を見てくれたのは、とてもラッキーだと思う。初めて会ったのは、私がDCに住んでいたときで、彼女が「Bentzen Ball」っていうコメディ フェスティバルを立ち上げたのがきっかけ。それから数年後に彼女が作った新しいレーベルで、アルバムをレコーディングしないかって誘われたの。本当、思いもよらなかったわ。

どうして?

だってその瞬間まで、自分がアルバムをレコーディングするなんて、考えたこともなかったもの。何も準備ができてない、って思った。だけど、彼女がその話を持って来てくれたんだから、なんかもう「やるしかない」って思ったわ。だから、やったの。それからは、HBOの収録や、去年の秋にはカーネギーホールで、前座をさせてもらったわ。すごく親切で良い人よ。とっても励ましてくれる。見せかけじゃなくて、すごく落ち着いたクールなやり方でね。

どうして準備ができてないと思ったんですか? 自分の能力を認められない詐欺師症候群なんですかか?

私の自意識は多分にそうだと思うわ。しょっちゅう偽物みたいな気がするもの。クリエティブな人にはよくあることだし、女性にもそういう人が多いのよ。その意味で私は正常だけど、時々、本物か偽物かをチェックしてもらった方がいいわね。「いいえ大丈夫、あなたならできる」って言ってくれたら、自分でも「そうか、じゃあやるしかないか」ってなるから。

自分の不安や鬱についてあけすけに話されますが、実際にステージに立ってそういうことをジョークにするのは、どういう気持ちですか?

最初は、自分の中にいる悪魔と付き合うために話し始めたんだと思う。一般的なものは、何も作れなくなってたの。落ち込んでた時期でね。他のことは何を書いていいのか分からなかったから、鬱について書き始めたわ。それをステージに出してみたら、すごく反応があった。だから、もっと掘り下げていくことにしたの。

それが上手くいった?

舞台の上で緊張してるとき、自分のやっていることに自信がないってことだけは、観客に悟られたくないわ。でも、不安について話すんだったら、気持ちの負担が多少軽くなる。そういう意味で、やりやすかったわ。

詐欺師症候群が発症しないやり方だったんですね。

そう、そう。そうよ。

ラリー・デヴィッド(Larry David)やルイ・C・K (Louis C.K.)が鬱を冗談にするときは、まだ面白おかしく聞こえますが、あなたと鬱の格闘はかなり違いますね。

あらゆる神経症を抱えて絶えず世界と闘ってる、気難しいコメディアンの見本。それが私よ。有色人種の女性がこういう問題に立ち向かってるのを目にするのは、まだ珍しいことなの。そもそも、お笑いの世界で有色人種の女性自体が珍しいんだから。有色人種の女性は世界にたくさんいるのに、大きなメディアはそれほど取り上げない。それと、ラリー・デヴィッドにしてもルイ・C・Kにしても、もっと「普通の人」だから、あの人たちが言うことは何でも、普遍的な体験にされるのよ。反対に、既成の枠から外れた芸人だったら、お客さんも一歩踏み出して、芸人と同じ場所に立たざるを得ないわ。

  • インタビュー: Julia cooper
  • 写真: Brianna Capozzi
  • スタイリング: Delphine Danhier
  • ヘア&メイクアップ: Tej Tajimal