ぶらり、モスクワの旅

スケート キッズが案内する、ロシアの首都ツアー

  • 文: Arseniy Kazimirov
  • 写真: Stas Galaktionov

モスクワ生まれでゴーシャ・ルブチンスキー(Gosha Rubchinskiy)のコラボレーターでもあるアーセニー・カジミロフ(Arseniy Kazimirov)と、フォトグラファーのスタース・ガラクチオノフ(Stas Galaktionov)が案内するロシアの首都。私たちは、スケーターの目を通してこの街を知る。クィアのダンス パーティーを開催する人目に付かないクラブから、伝統の野菜サラダやニシンを味わえるいちばん歴史が古くてエレガントな場所まで、アーセニーのアドバイスは「プーシキン(Pushkin)にちなんだ名前が付いてれば、見る価値がある」。人気のないレイブ明けの朝、ロシア皇帝の壮大な浴場...。アーセニ―とスタースとその仲間は、行きつけのたまり場を訪れながら、モスクワの街を駆け抜ける。

  1. アイス クラブ
    (Айс Клуб)
    住所:Stoleshnikov pereulok, 7/2

このクラブの在り処を示すのは、しゃれたネオンのサインだけ。中に足を踏み入れると、モスクワでもっとも名うてのクィア集団が、ロシアの90年代ヒット曲に合わせて、白い発泡スチロールの玉の上で踊りながら恍惚に酔いしれている。クラブのオーナーは、(出来の悪い)ロッキー・ホラーのコスプレでよく知られる存在。いくつかふざけたジョークを飛ばした後、私たちに曲のリクエストを尋ねる。もちろん、この場にうってつけなのはマドンナの「ライク・ア・プレイヤー」だ。

  1. NII(Наука и Искусство)
    住所:Nastavnicheskiy pereulok, 24

NII(「科学とアート」の略称)は、モスクワをいちばん象徴する場所のひとつであり、インディペンデントなアーティストやミュージシャンが目指すパワー ゾーンだ。2015年のオープン以来、このコンクリート壁の建物はJohn's Kingdom、Gost Zvuk、Oblastといった地元のアンダーグラウンド アーティストやアート集団を紹介し、Boiler Roomなるイベントを開催してきた。成功の波に乗って先頃オープンした2番目のスペースは、複数の分野にまたがるプロジェクトや、もちろん大規模なレイブのプラットフォームになる。週末ともなると、モスクワのクリエイターやアナログ シンセのファン、そして地元の美術学校の学生らが混ざり合ったエネルギッシュな雰囲気の中で、のんびりと過ごせる。

  1. カフェ プーシキン
    (Кафе Пушкин)
    住所:Tverskoy Bulvar, 26

プーシキンにちなんだ名前の場所は、100%行ってみる価値がある。バロック様式の邸宅の2階分を占めるこのカフェは、ほぼ20年にわたって名声を守り続けているロシア料理レストランである。かつての偉大なるロシアをしのばせる華やかでノスタルジックな世界は、現在なお、モスクワでの最初の夜を祝うに相応しい一押し候補のひとつ。24時間営業。贅沢、ステータス、冷たいウォッカ、ビネグレットサラダに浸る場所だ。

  1. サンドゥヌイ
    (Сандуны)
    住所:Neglinnaya Street, 14

君が男で、ロシア人仲間たちといっしょに時間を過ごす場合、おそらく一番典型的なシナリオは「風呂」へ行くことだろう。19世紀に建造されたサンドゥヌイ、別名「すべての風呂の母なる風呂」は、モスクワで最古の場所であり、帝政ロシアの世界へ旅する扉が開く場所でもある。高貴なローマ様式のインテリアに囲まれた温水に浸りながら味わうビールと新鮮なエビは格別だ。この体験は、体に巻くシーツと髪を熱から守る帽子のサンドゥヌイ セットを利用すると、少々高くつく。

  1. VDNKH(ВДНХ)
    住所:Mira Avenue, 119

ソビエト時代の名称であるVDNKH(ソ連国民経済達成博覧会)のほうが有名なVVTs (全ロシア博覧センター) は、ソビエト時代の虚飾とロシアになってからの貪欲な資本主義によって色褪せてしまった、興味深く記念的な建造物だ。現在は、農業博覧会や見本市、ショッピング センター、スロットマシンのゲームセンターが奇妙に混在する。また、モスクワでもっとも伝説的なスケート スポットのひとつにも数えられる。

  1. ラビッツア
    (Рабица)
    住所:Olhovskaya street, 14

新規オープンのラビッツアへ行くと、モスクワにいながらにしてベルリン気分。際限なく続くテクノ レイブと「パーティ中の撮影は禁止」というポリシーが、このナイトクラブを雄弁に物語る。元は倉庫だった内部は、美しくも恐怖に満ちたDIY的アプローチの極致だ。私たちが訪れた日曜日の夜は、空間を楽しめる最適の時間。なんということもなく、闇の中を歩く。時たま出会う友人たちは、まるでレイブ後の天国モードにはまった迷子のようだ。

  1. プーシキン美術館
    (Пушкинский Музей)
    住所:Volhonka street, 12

モスクワ観光の必見スポットを聞かれたら、真っ先に頭に浮かぶ場所のひとつがプーシキン美術館。3つの建物で構成されたこの美術館は、カルト的なステータスを与えられた建築モニュメントである。世界でもっとも大規模かつ多岐にわたる開架式の美術館コレクションを有し、古代史からの絵画、彫刻、応用美術など、アーカイブには5000年にわたる世界文化および1600年以降のヨーロッパとアメリカの名作が含まれている。プーシキン美術館を訪れる芸術愛好者は、さらにそれ以上を目にするだろう。

  1. 中央芸術家会館
    (Центральный Дом Художника)
    住所:Krymskiy Val, 10/14

ロシアで最大規模の展示センターとして有名な中央芸術家会館は、クレムリンから遊歩道を歩くこと20分、クリムスキー ヴァルと呼ばれるエリアに位置する。カジミール・マレーヴィチ(Kazimir Malevich)、ワシリー・カンディンスキー(Vasily Kandinsky)、クズマ・ペトロフ=ヴォドキン(Kuzma Petrov-Vodkin)など、ロシアとソビエトを代表するアーティストの10年に及ぶ作品のアーカイブから、迷宮のごときコレクションが展示されている。モスクワツアーでは、ここで長時間過ごす覚悟をしておくこと。

  1. フリック フラック
    (Фрик Фрак)
    住所:Shabolovka street, 25

クラシックなLevi’sのブルー ジーンズ、ガバ達に人気の光沢のあるAdidasアイテム、80年代のスーツ、地元のパンク バンドのポスター。これら全部が見つかる小さな古着屋が、何の変哲もないアパートの地階にある。初めてFrik Frakへ入ったら、隙間なくぎっちりと吊るされた大量の服や小物に没頭してしまう。店主によれば、それほど多くの服があっても、店を始めて15年、同じアイテムが2度登場したことはないそうだ。

  1. チェブレッチナヤ
    「ソビエト時代」
    (Чебуречная "Советские Времена")
    住所:Varsonofyevsky Lane, 6

過ぎ去った共産主義時代を回顧する、言うなれば#TBT(スローバック サースデイ)な雰囲気。ドリンクは首の部分に溝のある伝統的なデカンタで供され、お茶は切子ガラスに注がれる。カリッと揚げたチェブレキを食べながら、建築を学ぶ地元の学生や、近所の店で働く従業員、さらにはソ連の宇宙計画元メンバーに囲まれて、まさしく80年代のメロディーとかつてのモスクワの写真を楽しもう。

  • 文: Arseniy Kazimirov
  • 写真: Stas Galaktionov