エディソン・チャンが解き明かす、グローバル時代のスワッグ
中国のセレブリティ起業家が、Google翻訳、コンテンポラリーアート、マイケル・ジョーダンの力について語る
- インタビュー: Thom Bettridge
- 写真: Cameron McCool

「僕たちはエモな時代に生きているんだ」。われわれの会話が、Drake(ドレイク)の歌詞から、ひび割れたiPhoneのスクリーン、そして悲しみの流行へと流れる中で、Edison Chen(エディソン・チャン)はそう語った。Chenは、複数のアイデアを即座にひとつのアイデアへ変換する才覚を備えている。わいせつ写真の流出スキャンダルによって、中国での俳優やラッパーとしてのキャリアを断念した彼は、ロサンゼルスに移り、瞬く間にストリートウェアを手がける起業家へと変身した。新しい役柄に定着したChenは、世界を駆け巡り、あらゆるタイムゾーンで発生しているストリート カルチャーやコンテンポラリー アートへ貪欲な食指を動かしつつ、突き進んでいるように見える。香港を拠点とするChenのブランドCLOTは、コンテンツに対するそのような病的執着を糧に、展覧会やアパレルへと形を変えると同時に、Cali Thornhill Dewitt(カリ・ソーンヒル・デウィット)、Perks and Mini、Hood by Airらとのコラボレーションも生んでいる。しかし、Chenの使命はTシャツの世界にとどまらない。ストリートウェアとすべてのレベルのカルチャーが急激に衝突しつつある事実は、デジタル時代の今、クリエイティブな一体化を世界規模で実現しうる可能性の証明に他ならない、とChenは考える。そして、自分はJPEGやハイプの支配圏におけるロールモデルだと言う。
Thom Bettridge(トム・ベトリッジ)が、ロサンゼルスでAcne StudiosとRaf Simonsに身を包むエディソン・チャンと話した。


トム・ベトリッジ(Thom Bettridge)
エディソン・チャン(Edison Chen)
トム・べトリッジ:グローバル文化の近未来は、ヒップホップとストリートウェアとコンテンポラリーアートの三角形で支配されることが、ますます明らかになっていますね。あなたはその全部に同時に関わっている。
エディソン・チャン: 僕はNBAで育ったんだ。Michael Jordan(マイケル・ジョーダン)の3連覇が、僕の人生の進路にかなり影響を与えたよ。マイケル・ジョーダンを通して、ヒップホップを聞くようになったし、Tupac(トゥーパック)を追いかけるようになったんだ。香港に引っ越した後は、中国文化やカンフー映画の影響を受けるようになった。当時は中国支配にイギリス植民地支配が入り込んでいたから、物事が急激に変化していくのを目の当たりにしたよ。ストリートのレベルの葛藤というより、文化の狭間で葛藤していたんだ。その頃、僕の人生にアートが入ってきて、新しい影響を与えた。自分の表現方法に、新しい次元が拓かれたんだ。ただ「クソ喰らえ」って繰り返すだけじゃなくて、もっとエレガントな方法で自分を表現できることを知ったわけだ。中国で面白いのは、言ってはダメなことがある。だから、自分がやりたいことをするためには、ちょっとした仮面でメッセージを隠すんだ。本当に表現したいメッセージを解読できるかどうかは、受け取り手次第なんだよね。
中国の若者がアメリカのストリートウェアを熱烈に受け入れているのは、そのためですか? デザインが暗号として機能しているからですか? 親には思いもつかないを、こっそりと表現している、というような。
表現の自由だよ。中国では、若者たちが自分たちを表現する場所がないように感じる。「こういう生活をしたい」なんて発言できないんだ。中国がいわゆる「ストリートウェア・マーケット」にいち早く気付いたのは、それをムーブメントとして、若者が自分たちを重ね合わせたからだと思う。単に「この服、いいね」というだけじゃなくて。何かの一部になりたいし、何かを表現したいんだ。
「僕がロールモデルになろうとしているんだ。僕をマネしろってことではなくて、自分を自由に表現する意味で」
でも、ストリートウェアの文化は、他の国や、他の大陸から持ち込まれています。中国では、意識のズレみたいなものがあるのでしょうか?
だから、僕がロールモデルになろうとしているんだ。僕をマネしろってことではなくて、自分を自由に表現する意味でね。僕は限界に束縛されない。今まで制限された環境にいたことがないから、僕のクリエイティブな考えは、はるか遠くまで行ける。大学にも行ってないし、高校も卒業していない。だから箱の中に入ったことがないんだ。画一化された教育システムを思い浮かべて、それを10倍してみるといい。それが中国にいる人の気持ちだよ。だから、人々の精神を、閉じ込められている箱から解放したいんだ。
ファッションや文化の創造全般に関して、中国の製造業の歴史はアイデアのアウトプットに対して、どのように影響していますか?
アイデアだけを取ってきて、それを作ればいい、という考えに洗脳されてきたんだ。「よし、自分で何か新しい物を作ってみよう!」っていう道が、そんなにはないように感じる。いつも何かをコピーして、それをちょっと変えるだけなんだ。だから僕のCLOTは、そういう考えから、はるかに離れた彼方にいる。例えば、Hood by Airとのコラボレーションだって、メッセージ性を損うのではなく、別の視点を与える方法を試すんだ。クリエーターのメンタリティは工場で働く労働者とは違うんだ、ってことを見せるのがとても大切だと思うからね。それで、誰かが「よし、僕もできる」って思うようになるんだ。

しかし、店頭の前に行列を作って、同じTシャツを買う人たちを見ると、どうも解放されているようには思えないですけどね。本当にあなたが言うようなアイデアを支持しているんでしょうか? それとも、友達が持っているカッコいいものを、自分も買っているだけなんでしょうか?
今が転換期の始まりだと思っている。こうやっていろいろなものを試して、経験を積んでいく。そして自分のものにするんだ。3125Cというアートの取り組みがあるんだけど、僕がいつも言うのは、ここに来たら何かを持ち帰ってもらいたいということ。何かを買って帰って欲しいということじゃないよ。経験して欲しいんだ。家に持ち帰って、刺激を受けて、それで何か他のことを始められる経験をね。
転換期だと表現するのは興味深いですね。と言うのも、今、とんでもないエネルギーがあって、それは嘘偽りのない本物です。ただ、そのエネルギーが、陳腐なTシャツなんかに注がれている。でも、このエネルギーは、いったいどこへ向かえばいいのでしょうか? ソーシャルメディアの世界でも同じことです。ネット回線ははちきれんばかりのエネルギーが集まっていますが、僕たちができることと言えば「これが私のランチです。これが私の猫ちゃん。これが私の写真。これが世界一のリップライナー」
それは両刃の刃だと思うよ。僕たちはすごい量の情報を消化しているけれど、実際に社会に影響を及ぼすオピニオンリーダーになるには、どうやってその情報を使えばいいのかな? 若い子たちは、Raf Simons(ラフ・シモンズ)の経歴を全部知ってると言うだろうね。でも、スクロールして、いくつかの段落を読んだからって、それは知っていることにはならないよ。知らないんだよ。もっと深く掘り下げないといけない。僕の世代は、図書館まで出向いて、紙面で調べる時代だった。だから、僕にとって、今の時代はとても新しくて、興味深いよ。そして責任も感じる。次の世代は、本を読むこととか、実際に体験することとか、何も知らないんだから。
「見ることと知ることの違いを、若い人たちに示したい」
つまり、あなたには、そのふたつの時代の架け橋的な役割りがあると?
見ることと知ることの違いを、若い人たちに示したいんだ。彼らはネットで見たどうでもいいことを僕に教えてくれる。そういう時、僕は言うんだ。「おい、日本に連れてってやるから、行って実際に体験して来い」ってね。Undercoverの回顧展には、誰か連れて行くつもりだ。実際に触れるために。JPEGを見てるだけじゃ、だめなんだ。かき氷の屋台をやっている友達が香港にいるんだけど、この前、彼に聞いたんだ「美味しいの?」って。すると彼は「味なんかどうだっていいんだ。見た目が良ければ、写真がネットに上がって、商売ができるんだから」って。それは完全に間違ってるって思うよ。インターネットはツールであるべきなんだ。真実であるはずがない。「僕は40センチのペニスを持っている」ってツイートしても、それは現実にはならないからね。
あなたはしょっちゅう旅をしていますね。それによって、現実世界との接触が保たれるのか、それとも物事がより複雑になっていくのか、どちらでしょうか?
旅をすることは、僕のクリエイティブなプロセスの大切な部分なんだ。あらゆることを吸い込んで、僕をフォローくれる人たちにあらゆることを吐き出すんだ。いろんな所に行けて、幸運だよ。世界中でいろいろなものを見てこなかったら、今のようなクリエイティブな人間にはなってないだろうね。
こんなに多数のファンがいて、シェアにすぐ反応があるって、どんな感じなんでしょうか? ポケットの中に、調査団がいるような感じですね。
全く気にしないね。その半分は、ただコンピュータの前に座って、無責任に発言しているだけだからね。スクリーンの後ろにいる時は話をしたがるけど、僕の前に来ると何も言わない、って人が多いんだ。僕は、ある種のライフスタイルを見せるために、ソーシャルメディアを使っているんだ。実際に気にかけている人たちへ向けて、彼らがは見ることができない何かの新しい側面を見せるためにね。

今までの中で、反響が大きくてあって驚いたことはありますか? 例えば、あなたの「Emotionally Unavailable」と書かれたTシャツ。人気が出るアイデアだと直感しましたか?
時には、本質が剥き出しになる瞬間って、とても大切だよ。1年半前、僕がまだ独身だった時、友達に元気にしているって聞いたんだ。そしたら「気持ちが萎えているんだ(Emotionally Unavailable)。体は元気だから、誰とでも今すぐセックスできるんだけどな」って言ったんだ。だから「おお、それTシャツにしよう」って。みんな、このアイデアが受けたんだ。
孤立や悲しさがトレンドになっていますね。ドレイクを見てください。
エモだよね。僕たちはエモな時代に生きているんだ。
僕の壊れたiPhoneのスクリーンを見てください。このせいで、私の世界全体にトラウマ フィルターがかかるんです。みんなスクリーンがひび割れた電話を持っています。この電話は作りが良くないんですよ。
この前、僕がスクリーンを壊した時、恋人に言ったんだ。これが新しいトレンドなんだって。歪んだ、ひび割れた現実なんだって。毎日、驚かされることがある。それは、現代われわれがどうやって生きているのか、自分たちが誰なのか、ということの証拠なんだけどね。CLOTのシーズンに「New Age Ethnic(ニューエイジの民族)」というタイトルを付けたのは、インターネットのせいで、現代には境界がないからなんだ。香港では何がクールで、ニューヨークでは何がクールか、なんてもうないからね。違いなんてほとんどない。インターネットの一部である限り、どこへ行っても同じ人たちが同じ物を着ている。ニューエイジのスピリチュアリティのひとつなんだ。親しい友だちのグループがいるんだけど、彼らはみんなDMT(ジメチルトリプタミン)のような薬物を使って、スピリチュアリティを冒険しているんだ。彼らが僕に教えてくれる体験談を聞くと、僕たちはある同じ次元から来たんだと感じるんだ。この世界に置かれて、目に見えない境界線で、日々テストされているに過ぎないって。だから僕は、自分たちが住んでいる世界はひとつだって感じるんだ。同じ空を共有して、同じ地球を共有して、同じインターネットを共有している。
「現代には境界がないから。香港では何がクールで、ニューヨークでは何がクールか、なんてもうないから」

私たちのスピリットはWiFiの中で合体している。
もう境界なんてないんだよ。ひとつもね。Google翻訳があればとくにね。僕らは同じ信念を共有している。権力を持っている人たちは、僕たち分離させたがっているんだと感じている。僕たちがひとつになれば、その力はすごくパワフルだからね。
言語は大切ですね。ファッション、バスケット、コンテンポラリーアート、これら全てがどの言語でも普遍的に存在します。ラップでさえも。
アメリカにいる人でさえ、ほとんどの人はYoung Thug(ヤング・サグ)が何をしているのか分かってないんだよ。
でも、あなたは好きですよね。剥き出しの感情というのは普遍的であって、興奮させますからね。
ホラー映画だよ。ホラー映画が、この考え方を説明するのにぴったりだ。タイの映画だとしよう。映画の中で、みんなが何を言ってるかさっぱりわからない。でも君はひどく怖い。僕たちは誰もが、内面に何か同じ物を持っているからね。だから、ただ無知であることを止めるべきなんだよ。
- インタビュー: Thom Bettridge
- 写真: Cameron McCool