アイリーン・ケリーと未来の性教育
若き編集長がデジタル時代のセックスを大解剖
- インタビュー: Arabelle Sicardi
- 写真: Brad Ogbonna

アイリーン・ケリー(Eileen Kelly)の最新のInstagramの投稿は、扇情的でセクシーなセルフィーだ。ホテルのベッドに座り、カメラの方に顔を向ける。ハトの絵文字が胸を隠し、燃えるような若さが、Glossierのハイライトを一層輝かせる。この21歳は、このような写真と一緒に問題視されかねないキャプションを投稿することで、50万近くのフォロワーを築き上げた。さらに、社会運動家向けのウェビー賞ともいえる賞にノミネートされている。「私が惹かれるのは、ソーシャルメディアとデジタル時代が、私たちのコミュニケーションの仕方や、男女関係、セックスのやり方に与える影響なの。ネットのせいで傷つくこともあるけれど、それだけじゃなく、たくさんの喜びの源でもある」。ケリーに対する注目を集める理由は、多くの意味で、彼女がミレニアル世代の最先端を走ってきたいう事実による。Café Gitaneでサラダを食べながら『W』マガジンの取材を受け(ちなみにこの紹介記事は、すばらしく、インスピレーションと嫌悪感をかき立てられる)、プロムにはルカ・サバト(Luka Sabbat)と参加した。写真の中で、ケリーはPradaのルーサイト ヒールを履き、ダンサーのように完璧なポーズをきめている。

Eileen Kelly 着用アイテム:ポロ(Prada)、スカート(Miu Miu)、ヒール(Maryam Nassir Zadeh) 冒頭の画像のアイテム:T シャツ(MSGM)
だがケリーの専門分野は、よくキュレーションされたInstagramの投稿をはるかに超えて、広範囲にわたる。彼女は、セックスや恋、それにまつわるゴタゴタなど、私たちがと呼ぶところの「大人になる」過程の体験を取り上げた、Z世代向けウェブサイト「Killer and A Sweet Thang」の編集長なのだ。現状、同意とセレブリティと権力についての議論が、カルチャーの領域の隅々まで浸透している中、ケリーは、世代やジェンダー、境界を超えて広がるプラットフォームを通して、若者の声が何よりも重視されるようなコミュニティを育んでいる。彼女は、若さやネット上の知名度、セクシュアリティ、ひたむきなロマンチックさなど、人々がバカにすることの多い資質を、他の人のために、彼女自身よりはるかに大きなものへと変えてきた。雨が降るその日、ニューヨークにあるジェーン ホテルで、ドアの上に止まったクジャクのように愛らしく、落ち着いたケリーに私は会った。
アラベル・シカルディ(Arabelle Sicardi)
アイリーン・ケリー(Eileen Kelly)
アラベル・シカルディ:あなたも私もTumblrがきっかけで今に至るわけだけど、今では、あなたには今50万人近くのフォロワーがいて、独立メディアを立ち上げるまでになった。何がきっかけで次に進もうと思ったの? Tumblrの新しい検閲ルールでは、あなたのアカウントが凍結されてた可能性は高いから、それを考えると、早めに動いて正解だったわね。
アイリーン・ケリー:ニューヨークに引っ越してきて、ジェンダー研究について学んで、セクシュアリティやジェンダー スペクトラムに関心を持つようになったの。それで、自分がもっと若い頃には得られなかった情報について書いた記事を公開するサイトを立ち上ようって決めた。若者が健康に関する質問を投稿するGo Ask Aliceのサイトみたいに、[Tumblrでは]人から質問が来ている状態だったし、私は恋愛関係やセックスについてオープンに書いていたから、サイト立ち上げは簡単だった。でも、数ヶ月間、自分ですべてのコンテンツを書いてみて、自分ひとりでサイトをやるのは不可能だと気づいたの。私の見通しは本当に甘かったわ。
私の希望は、サイトを訪問する誰もが、ごく個人的なレベルで、少なくともひとつは心に響く記事を見つけられること。今は100人以上ものライターがいる。私たちは男女の付き合いに関する危険信号から、子宮内避妊器具を入れること、10代で中絶すること、それからクィアをテーマにした多くの問題まで、何でも公開してきた。たくさんのエディターがいるから、今では私なしでもサイトが回るようになってる。
それはすごいわね。ROOKIEが潰れてしまった今、若者が運営するプロジェクトをいかに継続していけるかについて、色々と考えていたの。ROOKIEに書くことから私のキャリアが始まったこともあって、今でも若者が他の若者のために何かやっているのは、救いだと思う。
私もROOKIEは好きだった。なくなって寂しいわね。でも実際、サイト運営にはとてもお金がかかる。好きだからこそできるプロジェクトだし、そうせざるをえない。というのも、扱ってるテーマのせいで、Google Adsや従来のウェブ広告を私たちは使えないから。
厳しいね。FOSTA/SESTA法案で、今ではオンラインでどのようにセックスを取り扱うかの方向性が決まってしまった。
ネット上では、セックスに関する戦争が起きてる。それも間違った理由のせいで。彼らは子どもの人身売買や性的人身売買を止めるという正しい目的のためだというけど、実際に多くの人が傷ついているのは、ひどい状況でも、加害者が現に罰せられることがないからよ。それなのに、自立した人たちやセックスワーカーたち、そして安全にそういう仕事に携わりたいと思っている人たちが、そういう仕事をする場所を失う方向へ進んでる。私たちが育ったTumblrのカルチャーはあっというまに変わってしまった。あそこは真剣に個人的なことを話し合える場所だったのに。
たとえばテキサスに住む若いゲイの男の子だとして、自分の住んでいる場所やコミュニティに馴染めないとする。でも誰か自分を理解してくれる人に自分の体験を話したいと思ってる。そういう機会が潰されようとしてる。Xtubeはまだ存在してるし、Pornhubもあるけど、あそこには会話はない。
これらのサイトはビジネスだものね。
エンターテイメントなのよ。私は、デジタル時代が皆のセックスの仕方にどんな変化を与えているかに焦点を当てたいと思ってる。私たちはそのモルモットになる世代だから。わたしよりたったの3〜4歳年下の人たちが、ネットではすでに、私とまったく違う体験をしてる。この変化のせいで、まったく異なる関係を築いているの。
私の夢の性教育プログラムは、10代の若者のためにポルノ分析をして、あれはエンターテイメントであって、「現実」ではないと教えること。そして、出演者たちはコンドームを使っていないけど、現実の自分の性生活はそんな風であるべきではないってことを教えるの。女優は演技してるのであって、あの場でオーガズムに達してるわけじゃない。
特に貧しい地域で、皆が若い教育者からセックスについて学べるような、課外プログラムを設計できたらいいなと思う。間違った性教育が国中に蔓延してる。南部では、10代の妊娠と性感染症の割合がいちばん高いの。正しい教育と手引きさえあれば、完全に避けることができる問題がたくさんある。そして、この問題は主に低所得の黒人層に影響している。ということは、体系的な問題なのよ。どうして性に関する医療が特権なのよ?
シリコン バレーの新たな関心の矛先は、女性用のプロダクトや、女性の健康、女性限定のクラブに向かっているけど、こういうのは話半分に聞く必要がある。最終的には、この人たちは商品を売りたいんだから
だからこそ、あなたが無料のコミュニティに支えられたオンライン プラットホームを作って、ネット接続さえあれば誰もがアクセスできて、寄稿者を公募しているのは、意味があることなのよね。
そう。それに私たちたちのブログは、毎年アート プロジェクトもやろうとしてる。昨年はジン(ZINE)を作ったし、護身術のコースも開いたわ。ネットから離れて、人々が色々と打ち明けられるように、コミュニティのオフ会も計画中よ。私たちは、性の健康についての教育を、楽しくて、誰にでもアクセスできて、だけどダサくないものにしたいの。かといって、カッコ良すぎて近づきがたいものでもない、身近なものにしたい。私は、ノリに乗ったインフルエンサーだと思われることや、このプロジェクトを自分中心に進めることは全然目指してない。「Killer and A Sweet Thang」で好きなのは、私自身のブログじゃないところ。誰にでも手が届くし、他の若者たちが、セックスや生理、初めてのアナル セックスはどんな感じかについて話してる。かなり限定的な内容を扱う安全な空間よ。
自分がこれらの会話ができる唯一のつながりかもしれないと知っているのは、きっと大変でしょうね。それに、他の人たちと一緒に自分もそういうことを学んでいるような若い年齢で、サイトを運営していくのも難しいと思う。— とても簡単に批判や懐疑の対象になるから。
確かに、それが私の受けている、いちばん大きな批判よ。私は若すぎるって。実は、また学校に戻ることも考えてるの。最近、共同経営者もできたから、学校に戻って、もっと性教育や心理学について勉強したい。それに、私は自分が安心してシェアしてできるものが何か、かなり気をつけてるの。答えられる質問もあるけど、私も人間で、何百ものメッセージには応えられないし、セラピストを演じることもできない。23歳が自分の人生経験をもとに、例えば彼氏とは別れるべきだとか、ティーンエイジャーに何をすべきか教えるのはまずいと思ってる。
「Killer and A Sweet Thang」がとても面白いと思うのは、私たちはこのサイトを利用して利益をあげているのではないところ。商品も売ってない。[例えば]最近、新しい女性の生理用品の会社は、たくさん投資を受けているでしょ。シリコン バレーの新たな関心の矛先は、女性用のプロダクトや、女性の健康、女性限定のクラブに向かっているけど、私は、こういうのは話半分に聞く必要があると思う。最終的には、この人たちは何かの商品を売りたいんだから。別にそれでもいいんだけど、ただ、それは私たちがやっていることとは違う。
もしカトリックの学校でもっと良い性教育を受けられていたら、人生はどう違ってたと思う? それでもこのサイトを運営してたと思う?
やっぱりこの情熱は持っていた気がする。(間違った)性教育を学校で受けるずっと前から持っていた情熱だから。もともとは、私が父子家庭で育ったことが発端なの。子どものとき、こういうことについて話す相手が誰もいないと感じてた。当時の私にこんなプラットフォームがあれば、内心であんなに恥ずかしい思いをしなくてすんだはず。私の仕事の多くはそれがきっかけ。でも、過去に起きたことは何もかも、それで良かったと思ってる。
こうした情報は特権ではいけないのよ。自分自身の体について理解することよ? 人生を通してずっと付き合っていくものだし、最終的に、自分に残るのは体だけなんだから。
Arabelle Sicardiは美容とファッションのライター。『i-D』、『Allure』、『TeenVOGUE』などで活躍している
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- 写真: Brad Ogbonna
- スタイリング: Tess Herbert