SNSの闇へ笑いの閃光を連射するユーチューバー
ソーシャル メディアに君臨するリッキー・トンプソンが、内気を克服した経緯、ハイスノバイエティの「ベスト ドレッサー ユーチューバー」受賞、人生のささやかな楽しみ
- インタビュー: Erika Houle
- 写真: Rickey Thompson

コンテンツを切望する世代にあって、リッキー・トンプソン(Rickey Thompson)には生来の極意が備わっている。はっきり言って、リッキー・トンプソンは病みつきになる。フレーバーに溢れている。俳優でありソーシャル メディアのスターであるこの22歳の投稿をスクロールしてみて、その無尽のエネルギーと度外れて強烈な喋りや仕草にハマらないでいられるなんて、ほぼ不可能に等しい。何ひとつ抑制せず、ただ放縦であるだけで – もちろん、それと同程度のセンスの良さもあるけれど – トンプソンが誘発する自由でピュアな多幸感をフォローしないなんて、無理な話だ。
現代のインターネットに君臨するその他のインフルエンサーたちは、スタイルを選んで自分をブランド化し、商品として押しつけて稼ぐが、トンプソンはただ私たちを笑わせるためだけにそこにいる。そして、世界は彼の元気な後押しを、とても必要としている。現在のソーシャル ネットワークを覆う暗い海の中で、まるで閃光を連射する燈台のように、冗談と軽口を飛ばしまくり、お洒落で、ユニークなクールを全開にする、それがトンプソン。彼のお気に入りの表現を使うなら「最高のビッチ」だ。
19歳でLAへ出るという夢を追いかけ始めて以来、トンプソンはYouTubeで熱狂的なフォロワー集団を作りだした。その数は、最近、100万人を超えた。おまけに、自分で自分を盛り上げる妙技をキャリアにしてしまった。だか、昔からこれほどあけっぴろげだったわけではない。ノースカロライナ州ローリーで暮らす内気な少年が自信を持てたのは、自分の部屋の中だけ。壁に囲まれた空間で、退屈しのぎにコメディの寸劇を考えては自演していた。 そのうちにようやく、親友に励まされて、Vineでなりすましネット恋愛をからかう動画動画を共有してみたところ、当然ながら、人々は敏感に反応した。今では、トンプソンの表現によると「インターナショナルな予約が入って」いて、ミュージック ビデオの主演から、ラッパーのアミーネ(Aminé)と組んだミックステープのナレーション、YouTube TVのシリーズ番組『Foursome』の出演のほか、自分のスケジュールと多方面での活動を管理するマネジャー役までこなしている。自分が持つようになった影響力をきちんと受け止めて、ファンが喜ぶ作品作りに配慮することも忘れない。「しょっちゅうTwitterを覗いて、みんながどんな体験をしているか、どんなことを話してるか、そこに僕が繋がれるか、考えてるんだ」と、トンプソンは言う。アジーリア・バンクス(Azealia Banks)やジャネット・モック(Janet Mock)、その他大勢から「いいね!」をもらって、トンプソンの努力は間違いなく報われている。
夏の初め、『Foursome』の第4シーズンの撮影を終え、週末には人気ユーチューバーやそのファンが集まるVidConを控えたトンプソンを電話でつかまえて、ファッション、恋のつかまえ方、手放しで自画自賛する理由を尋ねてみた。

Rickey Thompson 着用アイテム:T シャツ(Homme Plisse Issey Miyake) 冒頭の画像 着用アイテム:シャツ(St-Henri)
エリカ・フウル(Erika Houle)
リッキー・トンプソン(Rickey Thompson)
エリカ・フウル:子供時代を過ごしたのはノースカロライナですね。どんな生活でしたか?
リッキー・トンプソン:今の僕とは大違い。愛情いっぱいの家庭で、いい友達も沢山いて、すごく恵まれた子供時代だったけど、自分でも嫌になるくらいおとなしい僕ちゃんだったよ。あの辺りの人たちってとっても杓子定規で頭が固いから、僕は自分の殻に閉じこもりっぱなし。今のリッキーがタイムとラベルして、ノースカロライナ時代をやり直せたらいいんだけどね。そしたら、全然違う、もっともっと楽しい体験になると思うな。
その殻を破ったのはいつ?
ハイスクールの最後の年。当時もまだ内気なままだったけど、自分の部屋ではこっそり動画アプリのVineに励んでたわけ。それで、Vineで色んなことを喋ってるうちに、なんだか自信が出てきたんだ。世界中の人が観てくれたし、もう一晩中、寝ないで投稿しまくったね。いいたいことは山ほどあるのに、なんせ動画の制限時間はたった6秒なんだから、どんどんやりつづけるしかないだろ? Vineで人気が出て、学校のみんなも気がつくようになってからは、もうちょっと外交的になって、本当の僕を見せることにしたんだ。結局、最後はプロムのキングに選ばれて卒業したんだから、大成功だよね。
今では、それがキャリアになった。
そう、クレージー。もうあらゆることに手を出してる。

着用アイテム:シャツ(Dickies Construct)
今年は、ストリート系ファッションに特化したオンラインメディア「ハイスノバイエティ」で「ベスト ドレッサー ユーチューバー」に選ばれたわね。あなたの生活で、ファッションはどういう位置付け?
LAへ出るまでは、何をどう着ればいいのか、よくわかってなかったな。ほら、まるっきしのノースカロライナ育ちだから。だから、Tumblrでほかのやつらの着こなしを勉強して、真似たりして…。でもファッションに本気になったのは、親友のデンゼルの言葉がきっかけ。「リッキー、ファッションにも気を配ったほうがいいぜ。みんなが見てるんだから」って言われてさ。ベスト ドレッサーの賞をもらってからは、みんなが僕のファッションを認めてくれるようになって最高の気分だけど、候補に選ばれたと聞いて、椅子から転げ落ちそうになった奴がたくさんいたんじゃないかな。「なんであいつなんだよ? ファッションの話さえすることがないじゃないか」って。でも僕に言わせれば、「ファッションは見りゃわかるんだから、別に話題にしなくたっていいだろ」って感じ。
近頃のファッション トレンドで、消えてほしいと思うのは?
普通のベストはとっても素敵だけど、デニムのベストはどうにかしてよ。デニムのベスト自体もそうだけど、それを着てウロウロしてる奴らがいるんだよね。ああもう、2014年へ戻って、って感じ。みっともないったらありゃしない。カーゴ パンツも消えてちょうだい。Vネックは、絶対アウト。
今のインターネットには自分を卑下して笑いをとるユーモアが多いけど、あなたは真逆の自画自賛で、そこに人気があると思うの。ああいう徹底した自己肯定は、演技してるように感じることはある? 嫌になることはない?
全然、全然! 僕は文字通り自分を見せてるだけだから、そこにみんながコネクトしてくれるのは、ものすごくハッピー。Instagramにビデオを投稿するときだって、前もって計画なんか立てないもん。坐って食べてるときとか、シャワーを浴びてるときとか、何かをやってるとき、「今日はあんなことをやったけど、我ながら信じられないな」と思うじゃない。すると「ちょっと待てよ。じゃ、そのことを喋ってみよう」ってなるんだ。そもそも、誰も僕ほど騒々しくて極端じゃないだろうと思ってたから、共鳴してくれる人がいるとは期待してなかった。だから、そういうレベルで僕と関わってくれる人がいるのは、すごく幸せなんだ。「 OK。みんなのために、ずっと頑張るからね!」って感じ。
あなたの仕事は、基本的に、自分の行動を残らず記録して見せることでしょ。仕事と生活のバランスは大切にしてる? 仕事と生活をどう区別するの?
投稿するのはここまで、っていう境界があるんだ。プライベートな関係でも何でも、話題にはするけど、今どうなってて僕がどうしてるか、具体的なことは絶対喋らない。僕自身の感情も、それとなくほのめかすことはあっても、はっきり口にするタイプじゃないし。たとえ悲しくても、そんなこと、オンラインじゃ言わない。僕がやりたいのは、観てる人を泣かせることじゃなくて、死ぬほど笑わせることだもん。
気分が落ち込んでいるとき、元気を出す一番の方法は?
一番いいのは、鏡に自分の姿を映してみること。そうやって、いいところをひとつずつチェックしていく。 「よしよし、これはイケてる。ここに手を入れたら、これも大丈夫」ってね。僕は、いつもこの手。いつも、あっという間に立ち直れるんだ。鏡に映った自分を見て「素敵、素敵、素敵 – ここはお直しかな」。次に洋服を選んで、「う~~ん、いい感じ」って具合に。自分はスタイリッシュでホットだ、完璧だ、って自分に言い聞かせてたら、絶対そうなるんだから。
最近のあなたの投稿に、同じような性格の人がいないから、いつか「一人ぼっちで死んでいく」のが恐いというのがありましたね。相手には、どんなことを期待する?
とってもユーモアのセンスがあって、でも感受性もある人が好き。あんまり知られてないけど、実は僕は泣き虫なんだ。オープンでエクストリームな人がいいな。僕をおとなしくさせるんじゃなくて、ぼくの極端なレベルにマッチする人。とりあえず、音楽の趣味が良くないとボツだけど。
これまでのあなたの人生にふさわしいテーマ ソングを選ぶとしたら?
絶対に、ビヨンセ(Beyonce)とジェイ・Z(Jay Z)の「ボス」で決まり。
あなたの動画で私が好きなのは、恋した人の注意をひく手ほどき。たいていの場合は、かっこいいダンスの動きで成功するそうだけど、オンラインの場合はどうすればいいのかしら?
どんな場合も、先ず探りを入れること。いきなり正面から体当たりしちゃダメ。最初に、その人が君をフォローしてるかどうか、チェックする。ノーのときは、その人が投稿してる写真に「いいね!」する。たくさん「いいね!」して、喜ばせるようなコメントも書いたりして、とにかく気付いてもらうことが先決。そうやって、向こうも君の写真を「いいね!」して、君のコメントにも反応するようになったら、「フォローする」ボタンをクリックね。向こうもフォローしてくれたら、めでたしめでたし! 徐々にDMの関係になって、親密にコミュニケートするようになって、大成功! だけど、相手が君をフォローしないようだったら、君もフォローを取り消して、忘れること。それ以上未練たらしく頑張っても、うまくいかないから。
もう用はない。
当然!
いくつかの動画で、背景に「小さなことを楽しもう」っていう標語が見えるけど、あなたにとっての素朴な喜びは?
友達と一緒に映画を観てるとき、一緒に笑ってるとき、お互いにその日に起こったことを話してるとき、すごく幸せで、心が温かくなるな。家族ともそう。そういうささやかなことが好きなんだ。ひとりで散歩に出かけたり、周囲の世界を楽しんだり…。僕に与えられている恵みに感謝する。
現在のあなたの生活はとてもオンライン世界の比重が大きいけれど、それを重荷に感じることはある?
たまには、普通に戻って違うことをやりたいと思うよ。でも見られてるからね、不用意な発言をしてブランドを怒らせないとか、色々注意しなきゃいけないんだ。24時間注目されてるのはちょっとイラつくけど、今の活動を安心してやっていられるという意味で、全体的にはプラスのほうが大きいよね。ひとつ問題なのは、みんな、僕の仕事が簡単だと思ってること。「お前のやってることなんか、誰にだってできる」って言うけど、「いやいや、この仕事はすごくストレスになることだってあるんだぞ」と僕は言いたい。色んなイベントに出たり、討論会に出席したり、気の向かない連中と向き合ったり…。1日中セットで仕事をして、家に帰ってからまたYouTubeやInstagramを整理するのは、かなり大変なんだから。そういうキツい仕事やストレスに疲れて、止めた連中も見てきたよ。だけど僕は違う。リッキー・トンプソンは、いつだって東奔西走の大驀進だから。
Erika HouleはSSENSEのエディターである
- インタビュー: Erika Houle
- 写真: Rickey Thompson
- スタイリング: Angela Solouk