清く、正しく、
美しく:
モード・アパトー
『ユーフォリア』で若者たちのハートを掴んだ新進スターが、成長の痛みと進歩を語る
- 文: Molly Lambert
- 写真: Aidan Cullen

大人気のテレビ ドラマ『ユーフォリア』に出演しているモード・アパトー(Maude Apatow)に、ハイスクール時代にやったいちばん反抗的なことを問い質すと、予想に難くない返事が戻ってきた。アパトーは「いい子」だったのだ。映画監督ジャド・アパトー(Judd Apatow)と女優レスリー・マン(Leslie Mann)の長女として生まれたアパトーにとって映画やテレビの世界の狂騒は身近なものだったが、両親は、普通の、つまり業界に染まらない子供時代を送らせることを断固決意していた。『ユーフォリア』のクリエイターであるサム・レヴィンソン(Sam Levinson)が監督した風刺スリラー『アサシネーション ネーション』(2018年)で演じた役からは違った印象を受けるかもしれないが、スクリーンの外のアパトーはトラブルと無縁に成長してきた。マリファナを試したこともあるし、初めてタバコを吸ってみたときは「とりわけ悪いことをした気分だった」とか、10代で試した小さな冒険は覚えているものの、「スキャンダルと言うほどのことは何もなかった」と断言する。
今日、目の前にいるアパトーは、はつらつとして、目を輝かせ、少しばかり自嘲的だ。タンクトップ、半袖のボタンダウン、小さなハート形のゴールドのロケット ペンダントというカジュアルなスタイルは、「女優らしく」見せるためと冗談を言う。これまで、父が大ヒットさせた『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』と『40歳からの家族ケーカク』で端役を演じたほか、通学していたロサンゼルスのハイスクールでミュージカルと演劇に出たこともある。Instagramのプロフィールには、「ミュージカル『アニー』のファン」とある。カレッジへ進学したものの、1年後に演技の道を選んだ。そしてこの度、再度ハイスクールへ舞い戻った。と言っても、画面の上でのこと。HBO局から放映されるやセンセーションを巻き起こした、希望がなく、時としてどうしようもないほど生なましいドラマの話だ。アパトーが演じるレキシーは、登場人物のなかでいちばん冷静で理性的だが、取り澄ましているわけではない。レキシーとゼンデイヤ(Zendaya)演じるルーのキス シーンは、最高に刺激的な場面のひとつだった。両親に『ユーフォリア』を観せるのはどうも…、というが若者が大半だろうし、出演している場合はなおさらだと思うのだが、強い絆で結ばれたアパトーの家族はすべてに対してオープンだ。「とても重い内容だから、父と母はようやくシーズンの半分くらいまで見終わったところ」と、アパトーは言う。「でもきっと、最後まで見るはずよ」

Maude Apatow 着用アイテム:ロング ドレス(Balenciaga)、ピアス(Versace) 冒頭の画像のアイテム:ブラウス(Balenciaga)、ピアス(Marni)

Maude Apatow 着用アイテム:ロング ドレス(Balenciaga)、ピアス(Versace)
『ユーフォリア』は若い女優陣がキャストの大半を占めることでも注目を集め、シリーズ1の開始以来、全員がブレークを果たした。実は、アパトーの言葉を借りるなら「いい台本だけど、すごく物議を醸す内容」なので、今ほどのヒットになるとは彼女たちの誰も予想していなかった。だが撮影が進むうちに絆が深まり、前途有望な若手俳優陣の一員になるのは楽しかったと言う。「ハイスクールみたいだったわ。いい意味でね」。登場人物の男たちは揃って嫌なやつだが、実際はいい人ばかりだと力説する。また、レヴィンソンが10代の少女たちの会話を書けるのは、出演者の言葉をよく聞いて、それぞれの雰囲気に合わせたキャラクターを作っていくからだとも言う。細かいことでも、ちょっとズレてると指摘すると、書き直してくれる。「不安や強迫性障害を語る言葉がすごくリアルなの。私自身、そういう問題に長い間苦しんだから」今よりもっと若かった頃のアパトーは、「アンダーソン・クーパー(Anderson Cooper)が私のフォローを止めちゃった」とか「ノース・ウェスト(North West)っておっかない」とか、私的なコメントをTwitterへ投稿して有名になった時期があった。だがその後、ラップトップから大スクリーンへ焦点を移した。自分がやっていることをよく考えるようになり、ツイートが楽しくなくなったとき、「すっぱり止めた」。なにより、まだ子供のうちからオンライン上のペルソナになることには、多くのマイナス面があることに気づいた。「人からの攻撃にさらされて、悪口や中傷を聞きながら成長するのは難しい。ソーシャル メディアがおよぼすストレスは、『ユーフォリア』が正確に描いていることのひとつよ。本当に辛い体験だもの」。Instagramは、彼女のハイスクール時代にはまだそれほど大きな存在ではなかった。しかし、彼女より若い世代は強く影響されているのがわかる。「妹なんて、お友達と一緒に、1日何時間も何時間もInstagramをやってるの。Instagramのせいで、私は不安感が大きくなってるし、自分自身に対してネガティブになってる。どうすればそういう問題を解決できるのか、わからないわ。だから時々、アプリそのものを削除しちゃうの」

Maude Apatow 着用アイテム:ブラウス(Balenciaga)、ピアス(Marni)

Maude Apatow 着用アイテム:ブレザー(Maison Margiela)、トラウザーズ(Maison Margiela)

Maude Apatow 着用アイテム:ブラウス(Marc Jacobs)、トラウザーズ(Tibi)、ブーツ(Alexander Wang)
仕事がないときは、音楽の仕事をしているボーイフレンドとリラックスして、ふたりの好きなリアリティ番組『90デイ フィアンセ』を観る。婚約ビザでアメリカへ移住する人を追う、リアリティ番組だ。本当にあったコメディみたいな犯罪をとりあげるポッドキャスト「マイ フェイバリット マーダー」も大好きだ。最近、ホスト役のひとりであるジョージア・ハードスターク(Georgia Hardstark)が番組で名前を出してくれたのが、嬉しくて仕方ない。「彼女とは『ユーフォリア』のことを話したことがあって、私が彼女の番組の大ファンだってことは言ってあったの。そしたらポッドキャストで名前を言ってくれるんだもの。本当、びっくりして死ぬかと思った。あれ以上の感激はないわ。こうやって話してるだけで汗かいちゃう!」ダークなユーモアを愛するアパトーのお気に入りの映画は『ブロードキャスト ニュース』だ。いずれは父のように脚本と監督をやるようになりたいが、まだまだ計画を練り始めたばかり。父との仕事は、監督としてのやり方を見習う方法でもある。「私が知ってることは、ほとんどすべてを父から学んだの」

Maude Apatow 着用アイテム:ブラウス(Halpern)、トラウザーズ(Halpern)
ここのところアパトーの頭を占めているのは、次に控えているNetflixの新番組『ハリウッド』での大役だ。監督とプロデューサーを兼任するライアン・マーフィ(Ryan Murphy)によると、「金ピカの街ハリウッドの黄金時代へ捧げるラブレター」になるらしい。一切の詳細について厳しい箝口令が敷かれているが、アパトーが漏らした一言は「すごくいい番組になるわよ」。そのほかには、『Staten Island』の撮影現場で監督の父と顔を合わせている。『サタデー ナイト ライブ』のキャスト メンバーとしておなじみのコメディアン兼俳優「ピート・デヴィッドソン(Pete Davidson)の半自伝的な」同作で、アパトーは妹役を演じる。テーマは、デヴィッドソンと家族の関係。デヴィッドソンの父はニューヨーク テロで殉職した消防士だが、映画ではテロとは無関係な火災で命を落としたことになっている。「ピートの悲しみと周囲の人たちとの関係が描かれてるの」。アパトーは続ける。「父と一緒の仕事は、私の人生でいちばん大切なことのひとつになるはずよ」。家でセリフを練習するときも、スクリーンでの演技を一緒に観るときも、家族との共同作業はアパトーにはもはや長年の習性だ。これまでも、ずっとそうしてきた。「ハイスクールの頃、私は家で両親と一緒にいるのが好きだったの」と彼女は認める。ハリウッドでは昔も今も身内びいきが幅を利かしてキャスティングを左右するが、アパトーは両親の名前を踏み石にしてキャリアを始めることに、少しも気後れを感じない。「1000倍も頑張る理由になるもの。一生、自分の実力を証明し続けると思うわ」
Molly Lambertは、ロサンゼルス在住のライターである
- 文: Molly Lambert
- 写真: Aidan Cullen
- スタイリング: Brittny Moore
- ヘア: Bobby Eliot
- メイクアップ: Mai Quynh
- 制作: Emily Hillgren
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: November 27, 2019