Lucien Smith とモントークに潜む

Lucien が語る、都市生活の消耗とカントリーライフのクリエイティブな可能性

  • インタビュー: Thom Bettridge
  • 写真: Angelo Baque

Lucien Smith の作品には壮大なスケールと実存的な含蓄がある。25歳になる前に何百万ドルも稼ぎ出したこの若き画家は、作品だけでなく、オークションでつけられる記録破りの値段や伝説的なパーティによって、その名を知られるようになった。Smithは、現在、ほとんどの時間をニューヨーク州ハンプトンの最果てにある海辺の町モントークの自宅で過ごす。彼は「生まれて初めて本物のアーティストになったような気がする」と言い、環境の変化が創造性を[高める助けになったと振り返る。

Angelo Baque がモントークの自宅に Lucien を訪ね、Maison MargielaLanvinRick OwensDolce & Gabbanaのウェアに身を包む姿を写真に収めた。そして Thom Bettridge のインタビューで、デジタル時代がなぜ田舎暮らしに最適な時代となりうるかを聞いた。

トム・ベットリッジ(Thom Bettridge)

ルシアン・スミス(Lucien Smith)

トム・ベットリッジ: わたしたちは、普通、最先端は都会にあると考えます。しかし、若きコンテンポラリー・アーティストとして、あなたは田舎で過ごす生活に引き寄せられていった。それはなぜなのでしょうか?

ルシアン・スミス: モントークに来るようになった大きな理由は、街が嫌になってしまったから。まだ若くてカレッジに通っていたころ、ニューヨークは、ほかのアーティストに会ったりインスピレーションを受けるのにいい場所だった。でもあるときを境に、すごく逆効果に働くようになったんだ。ニューヨークでは、誰もが有名になろうとあくせくしている。自分も、当時は、ニューヨークのアーティストとはどうあるべきかというすごくうぬぼれた不健康な考えを受け入れていた。それで、作品を発表し始めて4年くらい経ったころかな、ついにはっきり自覚したんだ。自分はニューヨークのアート界でスターになるなんて興味ない。Dash Snow や Dan Colen のようになりたいとは思わなかった。それで、限界に達したということかな。

ここでの毎日の生活を教えてください。

よく寝るんだ。サーフィンをしてる時間も長いな。それから、魚釣りもするようになった。すごく面白いよ。ここに引っ越してきた当初に比べたら、今はここであまり絵は描いていない。LAにオープンしたスタジオでもっと大きな作品を制作できるからね。とにかくシンプルな生活さ。

最近は風景にフォーカスした作品が多いですね。自然はどのように作品に影響を与えているんでしょうか?

ここに引っ越してきたことと関係があるね。どうしてアートをするのかという、自分自身の存在に対する疑問とも大いに関係している。何もかもどうでもいいなら、何かを作る意義はどこにあるのか? アートのマーケットを満足させるため? それとも、絵画を描くことが自分の快楽だから? 何に意味があるのか、それを理解したいんだ。最近になってようやくわかったのは、ここで過ごせる時間が限られているなら、今の境遇を楽しんで、自然を楽しんで、人を楽しむということ。だから、いろんな場所へ行ったり、写真を撮ったり、興味を刺激することに時間を費やしてきた。それが絵にも滲み出るんだ。

19世紀の画家像と共鳴する部分がありますね。キャンバスを広げて田園に座っているような。

そうだね。でもぼくは必ずしも、自分のことを印象派ともプレネール(戸外制作)の画家とも思っていない。「偶然の旅行者」というエッセイを出版したんだけど、まさにこのプロセスについて書いたものだ。インターネットや携帯電話がある今日では、現実逃避という問題が存在する。どんな状況にいても、絶えず画像を見て違う場所へ瞬間移動できてしまう。でも19世紀には、そんなものは存在しなかった。イメージの複製は今ほど簡単に手に入らなかったから、美しい光景を見るためにはわざわざ田舎へ行かなくてはいけなかった。反対に、ばくが今描いている絵は、ほとんどが写真を見て描くものなんだ。

つまり、あなたは田舎にいながら、携帯電話で撮影した違う場所の写真を見て絵を描いていると。

出版物や雑誌や本も見るよ。そういったイメージをスキャンするんだ。住んでいるのはここだけど、必ずしもここの断崖へ行って絵にするわけじゃない。たぶん、自分が行ってみたいけどそれが叶わない場所や、コンセプチャルな意味のある場所を絵に描いているんだと思う。だから、最近制作した絵の中には火山の噴火を描いたものがいくつかあるんだけど、必ずしもそこに行きたいという意味ではなくて、むしろ火山という概念や、大地の創造、景色との関連性をテーマにしているんだ。

景色の誕生としての火山、ということですね。

前回の展覧会は創造がテーマだったんだ。ちょうど地球のことや、どんなふうに大地が形成されるかを考えていたところだった。でもそれだけじゃなく、人類や文明の誕生のメタファーとしても捉えていた。

携帯電話で瞬間移動できるという話が出ましたが、都市に住むことや作品を展示して実物を見せることが以前ほど重要ではなくなったと思いますか? 携わっているものとの物理的な近さは、時代遅れなんでしょうか?

イエスとノーだね。じっくり作品を見たいなら、実物を見なくてはいけない。本当に体験するにはね。ぼくはそう信じている。ただどんな見た目なのか、何についての作品なのかを知りたいだけなら別だけど。だから、そういう意味では、物理的に近いことはぼくにとって重要だね。それに、アート界は売り上げを稼いだりアーティストに注目を集める必要がある。都市には巨大なマーケットが存在するから、ディーラーやギャラリーやほとんどのアーティストにとっては重要な場所だと思うよ。

すると、そういう環境にいないことで何かを諦めているという感覚はありますか?

ぼくにとっては、売り上げは一番大切なことではないんだ。とくにここに住んでいると、日常生活で使う金は都会に住んでいたころよりはるかに少ない。スタジオやアパートメントに莫大な経費をかけたりしてないし、アシスタントも雇っていない。だから、スタジオやビジネスを維持するために作品を売って稼ぐ必要はないんだ。そういうプレッシャーがないことで、とても自由になる。初めて本物のアーティストになったような感じがするよ。

それは、どういう感覚なんでしょうか?

解放感だよ。他のアーティストとも共有したい感覚だね。若い世代にもこの感覚をいつか教えてあげたい。自分のスタジオを開放して、他のアーティストたちと自由な批評ができるようにしたいんだ。そういうモデルを作りたい。僕が若いときに提示されていたモデルは不健康だった。コレクターに媚びて、一番の高値で作品を売り抜けることだった。そんなことはリアルじゃないし、アートじゃないよ。この4年間、STPという非営利団体を立ち上げようとしてるんだ。目的は、健康やクリエイティブな環境作りに対する意識を広めることなんだ。学校の外側にいる人や学校に行ったことのない人たちが自分の作品について話したり、 他の人と意見を共有できる場所を作りたいんだ。作品が世に出る前にね。そうすれば、仲間からの批評やポジティブな反応を聞くことができるからね。

STPという名前はどういう意味ですか?

Serving the People(人々に奉仕すること、役に立つことの意)だよ。石油会社の STP Motors と同じ STP。ヒッピー ムーブメントのころ、ヒッピーは STP と書いた横断幕を掲げていた。「人々に奉仕しろ」(Serving the People)とか「警察を止めろ」(Stop the Pigs)と主張するロゴだったんだ。こんなふうに、企業のロゴをポジティブなイメージに転換するというアイデアはすごく面白い。いつかこのプロジェクトがぼくの一番大きな活動になって、アートが純粋な楽しみになることを願っているよ。

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