ファストフードで繋がるハイ ファッションとロー カルチャー

100%ビーフ パティ×2枚、スペシャル ソース、レタス、そしてラグジュアリー

  • 文: Mayukh Sen

昨年の9月、TELFARとハンバーガー チェーンのホワイト キャッスル(White Castle)が提携して、アメリカ国内各地のホワイト キャッスル店で働く従業員のユニフォームを作った。TELFARを立ち上げたテルファー・クレメンス(Telfar Clemens)は、2017年9月の『フェーダー』誌インタビューで、ストリートウェアの視覚要素を真似てはもっと金のある顧客層に売りつけるファッションの在り方に若干の嫌悪を示している。「『ストリート』をヒントにする人間が多くて、ありとあらゆる流用転用がまかりとおっている。『ロー』なものが『ハイ』なものへ作り変えられる」と、クレメンスは言う。「僕たちは、『ハイ』と『ロー』という考え方はしない。僕にとって、ファッションはあくまで横並びだ」

クレメンスのような発言は、そもそもこの種のコラボレーションが流用的であり、裕福と貧困にきちんと分別された社会的権力の力学に基づくことを示唆している。さらに、ファストフード企業が引き寄せる得意客は、通常、貧しくて、太っていると思われている(オハイオ州立大学人的資源リサーチ センターが昨年5月に発表した研究結果によれば、程度の差こそあれ、ファストフードの利用者は中産階級に偏っており、この推測は事実と相反する)。そこでファストフード企業は、往々にして、顧客として獲得したい人口層、もっと健康的な食べ物を選べる金銭的余裕を持ちうる人口層にアピールする商品を利用して、提供する食べ物の話題づくりを試みる。

Forever 21 x タコ ベル(Taco Bell)からKith x コカ コーラ(Coca Cola)まで、見渡す限りあらゆる分野で、ファストフードと(ファスト)ファッションは互いをパートナーに選んでいる。まさにお似合いのカップルだ。ファストフードもファスト ファッションも、必ず消費されることを前提としたスピードに重点を置き、いずれも速いペースの生産サイクルで稼働する。手のかかる作業は省かれる点、意義が曖昧な点も共通する。何にもまして重要なのは、そんな労働体系による商取引が買い手にもたらす快感だ。

ファストフード企業は、なぜ、ファッション ブランドと手を結ぼうとしているのだろう? いくらかシニカルではあるが、私の頭に浮かぶのは、好き好んでファストフードを食べること自体が裕福な人々にとってソーシャル カレンシーのひとつとなったこと。そして、労働者階級より上位の社会的地位にある人のファッション表明となったことである。その結果、食べ物を通じて私たちがひとつに団結できるという幻想が増大し、幻想が資本主義社会で民主化を実現する素晴らしい均一化の要素として作用し、あらゆる社会階層が結び付き、資本とは無縁にすべての人が同じものを食べているかのごとき錯覚が生まれる。金銭的な理由でファストフードの利用が制限されることはほとんどない。ファストフードは食べ物で最下位の共通項なのだ。しかし、現実として、そのような流動性は上方向には働かない。つまり、誰もが意図してロー カルチャーを味わう贅沢を許されているわけではない。


ファストフード チェーンの視覚イメージは、もう何年も前からランウェイに忍び寄っている。ジェレミー・スコット(Jeremy Scott)の2006年秋冬コレクションは、ファストフードのテーマに貫かれていた。スウェットシャツにはしかめ面をしたフライドポテトの箱が描かれ、ドレスは直方体のポテトで埋め尽くされた。2014年2月にMoschinoから発表した初のコレクションはさらに発展し、マクドナルド(McDonald's)の鮮やかなイエローのアーチを転用してロゴに仕立て、セーターとハンドバッグにあしらった。太鼓腹を作る食べ物が、日々の苛酷なエクササイズなくしてはとても維持できない類の肉体を装う...そんな視覚表現は、愉快な風刺でもありうる。マーク・ジェイコブズ(Marc Jacobs)は、2013年にコカ コーラのロゴでおなじみの白い波線を借用し、シークインをあしらったデザインに変えた。その後、ダイエット コーク(Diet Coke)とのコラボレーションでは、全体に水玉と鳥の模様をちりばめた限定ボトルをデザインした。

2015年3月、マクドナルド スウェーデンはビッグ マック ショップを展開し、ハンバーガー模様のドローストリング付きレインコートとレインブーツを販売した。2016年12月、チートス(Cheetos)オンライン ストアはキャラクターの「チェスター・チーター」(Chester Cheetah)によるデザインと銘打って、なんとアトミック オレンジ カラーのSpeedo水着、「オー ド チート」コロン、チートス カラーの日焼けパウダーを並べた。このコレクションのマーケティングは、遊び半分と本気半分の境目だった。なんせ、モデルがチェスター・チーターのつなぎを着てランウェイを闊歩したのだから。翌年の3月には、Betabrandと組んだ「特別スナックウェア」が売り出された。

2016年12月に発表されたKith x コカ コーラのコラボレーションは瞬く間に完売したため、両社は大きな成功を梃子に、水泳用トランクス、スウェットシャツ、Converseで構成したサマー カプセル コレクションを販売した。昨年の6月には、日本ブランドBEAMSとマクドナルドがパートナーシップを組み、ハンバーガー模様のトート バッグとキャップを売り出した。その翌月、マックデリバリー(McDelivery) の顧客を対象に、7月の1日限定で、スウェット スーツとつなぎの販売が発表された。

ケンタッキー フライド チキン(KFC)は、昨年の夏、期間限定ストアでセレクト商品を販売した。キャッチフレーズの「FINGER LICKIN' GOOD」(指まで舐めちゃうおいしさ)を綴ったゴールドカラーのチェーン(12ドル)、小さなドラムスティックを格子模様に並べたベビー ブルーのシャツ(30ドル)、「FRIED CHICKEN USA」と書いた卵黄色のスウェットシャツ(76ドル)。ホリデー シーズンには、カタカナで「フライドチキン」と書かれた帽子(25ドル)など、新たに数点を加えて一部が再販された。12月はコカ コーラとHexが組み、おなじみの赤と白のカラー モチーフを使ったスニーカー スリング バックパックとスニーカー ダッフルが登場した。同じく昨年の10月、Forever 21はタコ ベルと提携し、タコスが飛び交うボディスーツとTシャツを、SサイズとLサイズで売り出した。5月には、ハンバーガー チェーンA&Wのトロント店がOff-White x Nikeスニーカーが当たる抽選を開催した。A&Wはティーン、ママ、パパ、アンクルなど家族になぞらえたセット メニューを出しているが、ママより年長のセット メニューを注文すれば抽選に参加できる。ちなみに同店の従業員にコメントを求めたところ、「あれって、特別なスニーカーなんだろ?」と逆に質問された。

こうしたコラボレーションの流行を、高級レストランのシェフたちに見られる昨今の一般的な傾向と合わせて考えてみよう。いわば「高級な」味覚の権威である一流シェフが、概して「低級」と分類される食べ物を是認するようになった傾向だ。そのようにして「高級」と結びついた結果、ファストフードはデカダンスの重みを帯びた。今年の3月、ライターのクリス・クロウリー(Chris Crowley)は、「ビッグ マック好きを公言するシェフは、とりもなおさず、高級レストランにありがちな高い価格設定、気取り、排他的な性質についても、特に危惧していないことを示唆している」と、レストラン情報サイト「グラブ ストリート」に書いている。世界の高級ダイニング界の広告塔のはずだった一流シェフたちは、知らず知らず、抑圧された欲望へ手を伸ばすことを消費者に許した。タコ ベルのクランチ ラップやピザ ハットのチーズ クラストの姿でやってくる欲望だ。


モモフク(桃福)レストラン グループの創業者デイヴィッド・チャン(David Chang)のような人物がファストフードの美点を誉めそやすようになる前、ファストフードがひたすら悪であった時代はすでに思い出すことさえ難しい。ネットフリックスで放映されているチャンの番組「アグリー デリシャス:極上の”食”物語」で、彼は宅配ピザ チェーンのドミノ(Domino’s)へ注文し、ドリトス ロコス タコスを求めてタコ ベルへ出向く。高級ダイニングとファストフードの境界をどんどん曖昧にしていくことでキャリアを築いたチャンは、どこにも違いはまったく存在しないという幻想を助長する。手軽なファストフードを提供するフク(福)チェーンの8ドルのスパイシー フライド チキン サンドイッチは、「ある意味で、数あるおいしいフライド チキン レストランと広く親しまれているファストフードのコンセプトを高く評価し、それを彼なりの商品に変え、願わくばもっといいものに改良する試み」だった。昨年、チャンがNikeと提携して、モモフクのトレードマークである小さな桃を足首の下方にあしらったブラックのハイ トップ スニーカー「Nike SB ダンク ハイ プロ」を上手く消費者に売り込んだのも、驚くにはあたらない。

2008年2月、マンハッタンでオープンしたモモフク コのメニューには、マクドナルドと同じようなフライド アップル パイがあった。低級な欲望を充たす食べ物が、高級料理の衣装をまとって登場したわけだ。「私たちはみんな、菓子メーカーのホステス(Hostess)やマクドナルドのアップル パイを食べて育ちました。(モモフクのフライド アップル パイは)私たちが愛するそんな食べ物に目を向けることから誕生したのです」と、 共同創業者のクリスティーナ・トシ(Christina Tosi)は2011年に出版した料理本『モモフク ミルク バー』に書いている。ここで、トシは「私たち」という集団を指している。自分が何を食べているかもわからない頃からある食べ物を食べて大きくなり、長じてそれが何であるかを認識し、やがてまた、餌に引き寄せられる動物のようにそこへ舞い戻る。だが、そんな「私たち」という集団は本当に存在するのだろうか?

こうして作られる新たな神話は、民主化された贅沢としての外食をすべての人が体験できるかのように思わせる。チャンのような人物の嗜好と、彼のレストランにはとても手が届かず、仕方なくファーストフードのポパイ(Popeyes)へ家族を連れて行かざるを得ない母親の嗜好に、まるで違いがないかのように暗示する。そんな視点に立つのは、なにもチャンとトシが初めてではない。多くの一流シェフが声を大にして、裕福でありながら時としてKFCの誘惑に負ける人々の食欲を、当然のものとして肯定している。イギリスで展開するレストランでミシュランの三ツ星を獲得しているマルコ・ピエール・ホワイト(Marco Pierre White)は、「大多数のレストランよりマクドナルドのほうが良い食べ物を提供する」 と言明し、多くの場合、マクドナルドに対する批判は「非常に不当」だと付け加えている。北カリフォルニアの「フレンチ ランドリー」も同じくミシュラン三ツ星のレストランだが、シェフのトーマス・ケラー(Thomas Keller)は、2007年11月の『ヴィア マガジン』インタビューで、イン アンド アウト バーガー(In-N-Out Burger)好きを公表し、その冠商品を「たとえファストフードであっても、何かを誠実に立派に反復できることは、真に賞賛に値する」と評価している。

控えめではあるものの、ケラーの発言はファストフードを公式に是認した。短時間での生産と短時間での消費を前提としたファストフードには、通常、「誠実」や「立派」といった修飾は結び付かない。有名シェフのヒュー・アチソン(Hugh Acheson)は、2010年出版の『アトランタ ホーム & ライフスタイル』 で、たまにチック フィレイ(Chick-fil-A)へ行くのが好きだと言っている。「ニューヨークでもっとも予約が取りにくいレストラン」として名を馳せるユニオン スクエア カフェの創業者ダニー・マイヤー(Danny Meyer)は、2016年7月の、ポパイとメキシカン グリルチェーンのチポートレ(Chipotle)のファンであることを『ブルームバーグ』に語っている。理由は、そういうファストフードを食べると「邪悪な幸せ」を感じるから。

これら公けの告白が積もり積もった結果、あまりに長く食体験を左右してきた気取りは崩壊するに至った。抑圧を感じさせることの多い高級ダイニングの価値体制を構築した、まさに同じ人々が、今度は徹底してそれをはねつけ、続いて、ファストフード以外にほとんど選択の余地を持たない人たちの食生活に自分たちの嗜好を重ね合わせようとした。その過程で、どんな食べ物を手にできるかは本質的に財政状態によって制約されるという現実が、図らずも覆い隠された。そして、みんながチック フィレイが好きなことを引き合いに、階級間に横たわる亀裂に蓋がかぶせられてしまった。

高級ダイニング側に立つ人々の発言から抜粋された言葉や映像では、圧倒的に満足感が前面に押し出される。非常に広範囲の人々が共有する快感だから、とても反論は適わない。前述した昨年の夏のコカ コーラとのコラボレーション期間中、Kithのオーナーであるロニー・ファイグ(Ronnie Fieg)は、コカ コーラが「成長期にいちばん好きな飲み物だった」と語った。「だから、とても懐かしい。コカ コーラの素材や昔のロゴを見ると、すぐ心に響くものがあった」

ここで再度ファイグを持ち出したのは、ノスタルジアによって食べ物はより大きな共鳴を引き起こす、という考えが広く行き渡っているからだ。それがファッションに使われると、効果は倍増する。ノスタルジアは、ファストフードと分かち難く結び付いた不公平を隠すマスキング剤として作用し、業界が基盤とする階級格差を払い落とすことができる。その表と裏の不協和を、ファッションは上手く利用する。最高にロマンチックな空想の中で、ファストフードはノスタルジアの媒体となり、ファッションはノスタルジアに物質的な形を与えることで、私たち自身に内在することすら知らなかった渇望を呼び覚ます。

マクドナルドのフライド ポテトの匂いが、今ほど分別のなかった、かつてのあなたを思い出させるとしたら、フライド ポテト模様のスウェットシャツは、あなたがなりたい姿を暗示する。若かりし頃のジャンク フードを食べることに後ろめたさを感じる代わりに、自信をもって貪欲にむさぼり、大多数の人には手に届かない贅沢かのごとく、ファストフードへの愛情を公然と表現するあなただ。

Mayukh Senは、ニューヨークで活動するフード&カルチャー ライター。 料理界のアカデミー賞と言われるジェームズ・ビアードジェームズ・ビアード賞を受賞した経歴がある

  • 文: Mayukh Sen