マイケル3世式 クリスマスのお祭り騒ぎをめぐる考察
ライターとモデルもこなすエッグノッグ愛飲家が、浮かれ気分の正しい匙加減を探る
- 写真: Michael the III
- 文: Michael the III

クリスマスと聞いて大抵の人が思い浮かべるのは、柔らかく降り積もる雪と温かいココア、薪のはぜる暖炉、綺麗なリボンで飾られたプレゼントの山だろう。だが、スターバックスが懸命に盛り上げる陽気な気分では捉えきれない別の側面が、クリスマス シーズンにはある。そちら側では、多分サンタは気味の悪い奴で、雪はネズミ色のぬかるみだ。気が滅入る。お祭り気分を象徴するひとつひとつに、苦悩が潜んでいる。やたらと楽しい集いが強調される時期だからこそ、あまりの楽しさで…ゲップが出る。

Michael the III 着用アイテム:帽子(Alanui)、ネックレス(Balenciaga)、ネックレス(Christopher Kane) 冒頭の画像のアイテム:コート(Gucci)、ピアス(Ambush)、サングラス(Ray-Ban)、グローブ(Burberry)、ピアス(Balenciaga)、ピアス(Erdem)、ピアス(Marni)、ピアス(Bottega Veneta)、ピアス(Mounser)、ネックレス(Balenciaga)
仮にそうだとしても、オレのお祭り気分は最高潮。何がそんなに楽しいのかはわからないけど、そのうちきっと、内面のどこかから答えが浮かび上がってくるはずだ。誰かに「マイケル、目が光ってるよ」と言われたら、「余計なお世話」と答えよう。本当のことを言うと、思春期を境にオレの元気は目減り傾向にあるんだけど、それはセラピストに聞かせる話。今は「1年のうちで、いちばん楽しいとき」とオレは自分に言い聞かせる。「夏は別にして」
ところで、クリスマス シーズンのお祭り気分ははた迷惑だと言う人もいるけれど、果たして本当にそうだろうか? やたらと甘いお菓子に見苦しく興奮し、まるでサンタが本当にいるみたいに歓喜するのは、鬱陶しいことだろうか? オレは、クリスマス イブも11時を過ぎると、「ひいらぎ飾ろう」をバス クラリネットで演奏する。確かに音が大きすぎたこともあったかもしれない。それは認める。だが責めるべきは音量であって、陽気な気分ではないはずだ。去年の12月には、オレの目は茶色ではなく「栗色」だとパスポート発行所で力説した。修飾の語彙に興味がない人の目には、オレの熱意が攻撃と映ったかもしれない。だが、彼らの気分が苛立ちへ傾いたのは、快活であろうとしたオレのせいだったろうか、それとも色彩論に関する彼らの乏しい理解力のせいだったろうか? 答えは、ひときわ大げさにラッピングされたプレゼントと同じくらいに明々白々だ。そう、クリスマスのお祭り気分ははた迷惑ではない。ただ、人々に望むものを与え、地球に平和を与え、その他諸々に諸々を与える意味で、オレは考察を続けることにした。

Michael the III 着用アイテム:タートルネック(Ambush)、サングラス(Tom Ford)、スカーフ(Tricot Comme des Garçons)、帽子(Paul Smith)、スカーフ(Comme des Garçons Homme)、スカーフ(Marni)、帽子(Jan-Jan Van Essche)、サングラス(Oakley by Samuel Ross)、タートルネック(Fendi)、帽子(Burberry) Michael the III 着用アイテム:スカーフ(Burberry)、スカーフ(Comme des Garçons Homme)、帽子(Eckhaus Latta)、サングラス(Ray-Ban)、スカーフ(1017 Alyx 9SM)
まず、すべてのお祭り気分の源である「小売業」について。押し合いへし合いの大混雑で目眩を起こしそうなショッピングセンターは、オレにとっては『不思議の国のアリス』のウサギ穴と同じだった。つまりオレは、自分が誰でどこへ向かっているのか、自問し始めたのだ。当然ながら、オレは「マイケル3世」であり、目指すはキッチン用品と食器と調理器具の専門店「ウィリアムズ ソノマ」だった。だが店内はどこもかしこも、酸っぱいレモンでも齧ったような渋い顔つきの人ばかりで、爽やかな酸味の「レモンドロップ カクテルを飲みたいな」という顔つきではない。押され、押しのけられ、ぶつかられ…、この違いがわからない人は、近頃のショッピング センターを体験していない人だ。図星だろ? ひとりの子供が、クリスマスに定番の硬いキャンディ ケインを、なんと半分食べかけの状態でオレの顔へ向けて突き出した。おいおい、耳に穴が開くじゃないか。そこにピアスをする気はないんだよ。少し離れた場所では、口も覆わずに盛大に咳をする奴がいる。ベビー服しか売っていない「Baby Gap」の10代の店員が、オレに礼儀正しく挨拶してきた。何から何までうんざりだ。しかし、労苦なくして何事も成しえない。だから、オレはお祭り気分の源をさらに追究する。

Michael the III 着用アイテム:タートルネック(Ambush)、ジャケット(Nanushka)、ジャケット(AMI Alexandre Mattiussi)、ジャケット(Nanushka)、トラウザーズ(Sies Marjan)、トート(Palm Angels)
新鮮な空気を求めてよろめきつつ、オレは、カーペットを敷き詰めたサンタの工房へと進んだ。ペパーミントが香る涼風で気分は一新。サンタのお膝に座る順番待ちの列に並ぶ頃には、オレの顔にもお尻にも善意が戻っていた。さてここで、報告しておきたい。サンタは確かに愛嬌があるが、絵で見るのと実物はちょっと違う。サンタは「なりすまし」だという人もいるが、オレが見る限り、毛むくじゃらのスポンジに近い。ともあれ、オレがサンタのお膝に座っていると、順番待ちの列からふつふつと不機嫌が湧き上がっているのに気づいた。「一体何時間そうやってるつもりだ!」と怒鳴っている。だけどオレは今年犯した罪の告白が半分しか済んでいなかったし、まだ山場に近づいてさえいなかった。そもそも今回の考察では、いついかなるときも陽気な精神を奨励することが実験の条件だったから、オレは気楽な調子で「楽しくやろうよ!」と呼びかけた。なのに連中ときたら、不平不満を喚き立てるだけ。だから言い返してやった。「陽気な気持ちはどこへ行っちゃったの? もっともっと陽気に、ゲイにならなきゃダメだよ!」

Michael the III 着用アイテム:タートルネック(AGR)、ジャケット(Maison Margiela)、ブーツ(1017 Alyx 9SM)、タートルネック(Balenciaga)、トラウザーズ(Neil Barrett)、スカーフ(Giu Giu)、帽子(Levi's)、ベルト(Matthew Adams Dolan)、ベルト(Fleet Ilya)、ベルト(Maison Margiela) Michael the III 着用アイテム:ソックス(Off-White)、サンダル(Rick Owens)、タートルネック(Sies Marjan)、ソックス(Collina Strada)、スニーカー(Gucci)、ピアス(Panconesi)
言わせてもらうなら、クリスマスの気分というのは若干謎なところがある。最高にウキウキしてる人でも、なにがしかの苛立ちを抱えていたりするのだ。例えば、同じアパートに住んでるバーバラは、ドアをクリスマス仕様に飾り付けるくせに、アーモンド スノーボール クッキーは気に入らなくて、「あんなものは真っ平!」と吐き捨てる。以前オレを指導してくれたカウリー教授は、プレゼントを入れる靴下は大好きだけど、地面から引き抜かれ豆電球を灯された木の姿にイライラすると書いてきた。オレも「あんなにたくさん電気がついた部屋へ入ると、びっくりします」と返信した。食品店で最後にひとつ残ったザクロを奪い合った赤の他人のジョージは、自分からザクロを盗もうとする奴が気に障ると言ったから、その気持ちはよくわかると請け合った。オレの嫌いなもの? オレはエルフが大嫌いだ。生まれつき耳が尖がってるからどうだっていうんだ? そんなの、Instagramのフィルターを使えば、どうにでも細工できる。
わかったわかった、白状するよ。本当はオレ、エルフが大好きなんだ。すごく面白い連中だもん。デートしたことだってある。嫌いなのは、そのデートしたエルフさ。名前はチャック。だけど並のエルフじゃなくて、身長196センチのマイアミ生まれ。手の指がゴツくて不器用だから、とてもじゃないけど、素敵なオモチャは作れないね。イビキもかく。でも彼の名誉のために言っておくと、タイツ姿は半端なく素敵なんだ。最初は、すごくうまくいってたよ。映画館の外に寝転んで、一緒にスターを見上げた。ちなみに、このときのスターはジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)とブルース・ウィリス(Bruce Willis)だった。キスはすごく情熱的だったし、オレは浮かれるのを通り越して舞い上がったな。夜も、週末も、元彼も、チャックのために多くを犠牲にした。でも結局飽きられた。1月のはじめのある日、メッセージが着信。「どんなポインセチアが完璧かなんて、知るかよ」だって。ほんの何回か、1年中タイツ姿でいてくれたら素敵って言ってみただけなのに、まずはミルクとクッキーでもてなす良識もわきまえずに、オレをポイ捨て。チャックなんか大嫌い。エルフなんて大嫌い。

Michael the III 着用アイテム:タートルネック(Sies Marjan)、ピアス(Panconesi)
オレの考察実験に対する人々の反応は、どうも芳しくない。例えば兄のマキシマス。先日、一緒に列車に乗っていたときのことだ。環境に優しいリボンの長所と包装の選択肢に関するオレの熱弁を遮って、こう言うんだ。「今年は、エッグノッグはナシに決めたからな」。トナカイが勝手に隊列から離れたみたいに、とんでもない言葉が頭上を飛び越えていくのを、オレはなすすべもなく見守った。マキシマスがそんなことを言い始めたのは、携帯のWiFiがうまく繋がらなかったせいかもしれない。あるいは、オレはポーカーフェイスで必死に誤魔化したけど、切りたての髪が後ろから見たらどうなっているのか、自分で気づいてしまったせいかもしれない。いや、別に変じゃない。ただ、なんと言うか「かなり変わってる」のは確かだった。

Michael the III 着用アイテム:ドレス(Lemaire)、ピアス(Bottega Veneta)
「エッグノッグなし」のご託宣にかてて加えて、マキシマスはクリスマスを一切祝わないと宣言した。オレが夜明けに起き出して、否応なくマキシマスの家を飾り付けたとでも言うのだろうか? これからも夜毎、眠っているマキシマスの耳に向けて、オレはクリスマス キャロルを歌ってもいいのだろうか? クリスマスの定番、ニコラおばさんのハム料理の匂いを思い出すために、毎年、マキシマスのミトンの中へシナモンを振りまくのは? プレゼントも欲しくないと言うけれど、まったく何もなしではオレの気が済まない。その程度のことは我慢してほしい。ともかく包みは渡すけれど、中には何も入れない。いつも言ってるように、プレゼントには相手への「心遣い」が大切なんだ。それからオレは、「何が欲しい?」とか「これ、喜ぶかな?」といった、気持ちの込もらない形式主義とはずいぶん前に訣別した。マキシマス以外の兄弟には、お掃除道具をプレゼントする。オレが欲しいのは、Y/Projectのブーツ、ときちんと伝えてある。

Michael the III 着用アイテム:シャツ(Wonders)、トラウザーズ(Wonders)、ジャンプスーツ(Gucci)、シューズ(Eckhaus Latta)、ブーツ(Y/Project)
先週、オレは近所でソリの試運転を敢行した。大音量で音楽を流しながら、ビートに合わせ、鈴を付けた靴下でリズムを刻む。と、誰かが叫んだ。「それ、モーツァルトか?」オレは怒鳴り返す。「モーツァルト? これはヒラリー・ダフ(Hilary Duff)!」その後で、池のアヒルたちにキャンディ ケインを食べさせてあげた。ちなみにここでも音楽は大音量だけど、ブルートゥース スピーカーはサンタがくれたものじゃない。自腹で買った。すると公園で暮らしてるホームレスが怒鳴るんだ。「おい! 何やってんだよ! おまけにそれ、ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 作品21 第2楽章ラルゲットだろ? ロマン派の巨匠、フレデリック・ショパンの名曲だ」。ここでも、オレは間違いを正さなくてはならない。「アメリカン ロックの天才、スマッシュ マウス(Smash Mouth)の『ザ ギフト オブ ロック』だ!」。さらにその後、慈善活動のためにショッピング センターへ舞い戻り、人々の問題ある態度を正すべく、BGMをオレ自身が制作したプレイリストに取り替えた。「それ歌ってるの、ビング・クロスビー(Bing Crosby)?」と尋ねる子供の声がする。「違うよ、坊や。これはオレ、マイケル3世の新アルバム『フルーツケーキ』」。坊主の両親はイカれた野郎という「フルーツケーキ」の意味を正しく理解したらしくて、ちょっと困った顔つきだったな。失敗失敗。

Michael the III 着用アイテム:帽子(Undercover)、ピアス(Gucci)、グローブ(Raf Simons)

Michael the III 着用アイテム:タートルネック(Lanvin)
何の気兼ねもなく、クリスマス気分に浸れる場所は多くない。カレッジの寮は、そんな貴重な場所のひとつだ。日頃は知的な学生が、恒例の「アグリー クリスマス セーター パーティ」で、クリスマスをモチーフにしたセーターの「ヒドさ」を競う。「楽しい笑い」ではなくて「馬鹿にする笑い」だが、一応「笑い」には違いない。それから、クッキーで組み立てた「ジンジャー ブレッドハウス」を飾り付けるデコレーション コンテスト。今も世界のあちこちで開かれるこの催しの会場も、クリスマス気分全開だ。わざわざそういう場所へ集まる人たちばかりだから、当然と言えば当然。もちろん、疑うことを知らない子供たちのハートにも、それを言うなら、北極に住んでる誰かさんが見ていると信じる人のハートにも、混じり気なく陽気な気持ちは残っている。コンピューター内蔵のウェブカメラにテープを貼ってこのエディトリアルを読んでいる君、君もこの部類に入るよ。おめでとう! さて、クリスマス気分を残す素晴らしいフロンティアは、職場のパーティーだ。無料のフードに無尽蔵のドリンク。日頃の思わせぶりが実を結ぶ。何かとモメる家族もいないから、修羅場の心配なく、思いっきりクリスマス気分を満喫できる最高の環境だ。

Michael the III 着用アイテム:シャツ(Sies Marjan)、トラウザーズ(Sies Marjan)
適切なアプローチでここまで説明すれば、クリスマス シーズンのお祭り気分が決してはた迷惑ではないことを、十分におわかりいただけたと思う。まだ納得できない人は、オレを信じるしかない。見方が偏ってる? 実は、こんな言い方をするのは、確実にサンタからプレゼントをもらうためなんだ。だって、サンタのお膝に坐って以来、オレは、サンタは本当にいるって納得したもんね。
プレゼントにお願いしたいのは、次のとおり:新しい靴。ふたり乗り用一輪車、別名「トゥーニクル」。マキシマスのための新しいヘアカット。鳩時計。屋内プール付きのツリー ハウス。一度でいいから、本当に素敵な大晦日パーティ。トリ・スペリング(Tori Spelling)のサイン入り自伝『トリ・スペリングのストーリーテリング』。すべすべの O ライン。『ゲーム オブ スローンズ』最終シーズンのリメイク。ドラゴン。クリーミーなハバティ チーズが流れ落ちる滝へ行ってみたい。ただし「着衣でもヌードでもOK」と「刻んだオレガノなし」が条件。ペプシとコークの友情。ヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)を含めた、スパイス ガールズ(Spice Girls)の再結成。絶対オレが気に入ると保証付きのタトゥー。今は駄作だと思われてるけど、いつの日か何百万ドルという値がつくアート作品。あ、最後にもうひとつ。クリスマスのお祭り気分ははた迷惑だと言うのを止めてもらうこと。
Michael the IIIはライター、フォトグラファー、モデル、調査ジャーナリスト。『THEFINEPRINT』、『Document Journal』、『SSENSE』など多数に執筆を行う。初のクリスマス アルバム『フルーツケーキ』は、人気殺到のためお届けに遅れが生じている
- 写真: Michael the III
- 文: Michael the III
- モデル: Michael the III
- スタイリング: Michael the III
- ヘア&メイクアップ: Michael the III
- サンタ: Michael the III
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: December 20, 2019