過去を振り返り、
未来を問う
SSENSEマガジン第3号
- 写真: Sara Cwynar

空飛ぶ鳥のように、高みから俯瞰することはできない。今年がどれほど私たちを圧迫したか、それを表す点数表も簡潔な方法もない。世界的なパンデミックが猛威を振るい、悲しみと怒りと蜂起が湧き起った夏だった。「Movement for Black Lives」と「Black Lives Matter」の素晴らしい盛り上がりによって、私たちは孤独をかこっていた家から通りへ出て、白人至上主義、黒人に対する人種差別、トランスジェンダーに対する暴力、警察の蛮行に抗議した。真の支援を実現するには、地域から世界まで、個人から体制まで、あらゆるレベルで現状と向き合い、幅広い活動を展開していく必要がある。
したがって、過去の要約などはありえない。これからもっと、やるべき仕事があるだけだ。歴史を振り返れば、いつまでも癒されることのない盲点が浮かび上がる。幾度も繰り返し危機で露呈されていることが耳目に新しいとすれば、それまで注意を怠っていたからに他ならない。現在の差し迫った状況を新たな年へ引き継ぐには、どうすればいいのだろうか? 拡大しつつある繋がり、助け合い、緊急を要する事態の省察を継続するには、どうすればいいのだろうか? アートとは生来安寧を嫌うものであり、ビジョンには勇気ある声が必要だ。だからこれらの視点は、大幅に立ち遅れた前進の道筋を描く推進力になる。
SSENSEマガジン第3号は、このことだけに焦点を合わせた。表紙に選んだジェレミー・O・ハリス(Jeremy O. Harris)は、『Slave Play』や『"Daddy"』で観客と批評家の両方を歓喜させただけでなく、見たくないものを眼前に突きつける多才な劇作家だ。白人、ストレート、特権、いわゆる善意という名の責任回避にハリスは挑む。ドリーン・サンフェリックス(Doreen St. Félix)が書いているように、「ハリスは新しい世紀の文化セレブリティとなった…カテゴリーを定義したといってもいいかもしれない」。リアーナ(Rihanna)が開演に遅れれば幕を開けずに待ち、スタジオ A24やHBOと契約を結び、GucciとBodeのミューズとなり、今や既成の権威と先鋒的アバンギャルドの狭間で輝く新星だ。
本号は、どのページも、未完了のままに決意を孕んだ記録となることを目指している。選ばれた記事には、過去を振り返り、未来に目を向ける視線がある。結局のところ、大切なのは注意を払い、耳を傾け、記録することではないだろうか? 未来を私たちの手に取り戻すために。


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- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: November 13, 2020
- 写真: Sara Cwynar