ジェナ・ウォーサムが描く健全なテクノロジー
ニューヨーク タイムズ紙の記者は、スクリーンのない未来を想像する
- インタビュー: Julia Cooper
- 写真: Magnus Unnar

「ガジェットなんて、私はどうでもいいの。分かる?」とジェナ・ウォーサム(Jenna Wortham)は言う。「ニューヨーク タイムズ マガジン」のテクノロジー記者であるウォーサムは、大方の見方より斬新にイノベーションの未来を想像する。シリコンバレーに象徴される、まことしやかなユートピア主義に乗ったりしない。それに代わる未来図は「プラットフォームに囚われない創造性」、スクリーンに縁取られない世界を経験する方法である。
蠍座には、人を惹きつける魅力があり、秘密主義で、深い直観力を備えている。ウォーサムは星座の教えを心に留めて、ソーシャルメディアや容赦のないニュースの循環が身体に及ぼす負担に注意を払う。混沌は実在するし、セルフケアはひとりでに起こるわけではない。wifiの接続範囲が広がるにつれ、血圧が上がる。禅の必要性も高まる。だから、自分の世界や仕事に対して、ウォーサムは心身一体的にアプローチする。スタートアップ文化の人種的政治について一気に書き上げ、続けて、青色の持つ癒しの特性をアドバイスできる。彼女が書く記事は、敏感かつ慎重で、ビヨンセ本人が手書きで礼状を送るほど価値がある。もしかすると黒人版ビル・ゲイツが誕生しつつあるのかもしれない。

ジュリア・クーパー(Julia Cooper)
ジェナ・ウォーサム(Jenna Wortham)
ジュリア・クーパー:今日はふたつのものをお持ちしました。ウコンの万能薬とウチワサボテンの実です。
ジェナ ウォーサム:まあ!
あなたは文化や政治における大規模な概念や転換についてよく話されますが、同時に、些細で小さな行為も取り上げますね。フルーツの皮を剥くとか、スパイスを使うとか、私たちが地に足をつけるために、日常生活で行なえる行為です。つまり、マクロを語ると同時に、ミクロ レベルの話に落とし込んだりもする。
ここのところ、ミクロについて色々と考えることが多いわ。注目を浴びる仕事をしていく上での対処方法よ。オンラインでどれだけ自分をさらけ出すか、そのバランスをとってるの。インターネットでシェアしたり、遊んだり、活動することは好きだけど、それをどうやるかに関しては、すごく気を付けて慎重でないといけない。理由はたくさんあるけど、例えば、セキュリティとか、安全とか、単にエネルギーの節約とか。世界の中でどう生きていけばいいか、私はいつもそれを理解しようとしてるの。私が人と食事をシェアしたりひとつのパンを分け合うことが好きなのは、そういう小さな儀式、些細な日常の行為が私を安定させてくれるから。エゴを抑えて、人との繋がりを感じられるから。純粋に、生きていることを感じるの。朝早く起きて、自分の朝食を用意することに大きな喜びを感じるわ。例えオレンジの皮を剥くだけでも、自分の1日に対する姿勢を考える瞬間だもの。カオスに巻き込まれる前に、自分の時間を確保するのよ。
多くの人が
不死を目指すのは、
どういう意味?
そういう意図はとても大切だと思うし、とても簡単なことに聞こえます。でも同時に、スピードを落とすことを提唱するあなたの言葉は、どこか過激な響きがあります。なぜでしょう?
実践から来る部分があるんじゃないかしら。私は、そういうことを自分の仕事に取り入れようとしているの。つまり、どう仕事をするか、どんな言葉を選ぶか、何を書くかを、よく考える。テクノロジーを追いかける経済記者だった頃は、微妙なニュアンスの余地はあまりなかったわ。「ここにどんな意味が隠されているか?」というような、重要な疑問を提起する余地がなかった。スナップチャットみたいな企業に数十億ドルの価値があって、創始者はセクハラ歴のある人物だということは知ってても、そういう大きな疑問を投じることはできなかった。ただニュースをレポートするだけ。だからニューヨーク タイムズ マガジンに移ったのよ。自分の生活にも仕事にも、ある程度の調整を取り入れるつもり。よく考えたい。あらゆる行動や、あらゆる問いについて、よく考えたい。あらゆることを考えて、性急に行動しない。性急に行動することで、私たちは何かを見逃してしまうから。


テクノロジーへの関心と心身一体的な生き方や癒やしの実践を継続することは、分裂だと考える人もいるでしょうね。テクノロジー記者として、そういう見方とどう折り合いを付けますか?
「ウェルネス」については、現在の超現代的なデジタル ライフと対話する余地がたくさん残されてると思うわ。ツイートが飛び交う嵐の中にいるとき、血圧にはどんな影響があるか? そんなこと、調べたりしてないでしょ。でも1日中ツイートを読んでいたら、間違いなく相関関係があるのよ。だから、両方を一緒に考えることは、私の関心からすれば、とても自然なの。無理やり両方を結び付けてるのかもしれない。でも、ふたつはすごく調和してる。
例えば?
去年の夏、不安感が大きくなったの。昔から不安感はあったけど、それが一挙に悪化したわ。続発する警察の蛮行や警官による殺人に対処しようとしてること、そういうニュースに関するフィードがどんどん流れ込んでくることついて、少し書いたこともあるわ。そういう事件は今に始まったことじゃないけど、新しいのは、何度も何度も繰り返し、否応なく目にせざるを得ないこと。そのせいで、本当に発疹が出ちゃった。今でも、かなり気分が悪い。直観では「関連した事件じゃない」と思うんだけど、でも本当は関連してる。何が起きているのかを理解しようとしているところよ。
スクリーンの内側に
制限されていない、
違うものを見たい。
それが私の目が
切望するもの
セルフケアよりもむしろ集団ケアを追究する考え方、とはどんなものですか。
セルフケアについては、話したくないわ。私が話したいのは、ケアでコミュニティをサポートする方法について。私、ホリスティック トレーニングやハーブ療法を実践したり、レイキを勉強してるんだけど、そういうのは全部コミュニティ志向だから、ますます集団ケアに関心を持つようになったわ。私が学ぶことはすべて、コミュニティから得るもの。だから、コミュニティへ戻って行くのは理に適ってる。
そういう考えはいいですね。私たちの文化では、ケアは個人の領域で、病は覆い隠すものだと考える風潮があります。回復した方法でさえ、コミュニティから切り離されています。
でも、コミュニティへの回帰めいた流れも、起こりつつあるわね。有名人とか黒人とかトランスジェンダーの人が死ぬと、集団で悼む傾向があるわ。それに、嘆きのプロセスも、以前より語られるようになったと思う。直接的に語らなくても、もう少し長い時間、嘆きに浸ることが許されるようになった。私は「逆もまた然り」の論理に従うから、死に浸るのはとても健康的な経験だけど、暴力的でトラウマになることもあるから、バランス感が必要ね。

では、昨年11月8日の大統領選以降、あなたの目に映っているのは?
選挙以後、私自身、ニューヨークの路上でハラスメントを受けることがはるかに多くなってる。できることなら、関わり合いたくないハラスメント。私はひとり暮らしだから、私の家を集会所にして、時々人を招待するんだけど、褐色人種、黒人、クィア、たくさんのコミュニティで今同じことが起きてるわ。どんどん広まってる。ストリートで危険を感じさせることがトランプ政権の政策の狙いだから、セオリーが効果を上げてるわけ。でも、セルフケアだと思っていたことが、実は集団ケアだって気付けたのは、本当に有意義だったわ。自分が尊敬する人たちと一緒にいて、心を通わし合っているときが、最高の気分。
あなたがマリリン・ミンター(Marilyn Minter)と行なったインタビューを読みました。ミンターは素晴らしい発言をしていますね。「目は見えないものを切望する」。あなたの場合、今、見えないもので切望するのは、何ですか?
かなり難しい質問ね。私が切望してるのは、プラットフォームに囚われない創造性。気の利いたツイートやバイラルになるミームには関係のないクリエイティビティよ。今は、あらゆるソーシャル テクノロジーを最大限に利用して資本化する方法が求められてるけど、私が期待してるのは、それと無関係なものが出現してくること。私たちが制限されてるのは、自分たちが手にしているツールばかりに目を向けてるからよ。

例えば、どんな可能性がありますか?
ジンに対する関心は、その一環だと思うわ。確かにジンもひとつのフォーマットではあるけどね。私は、実験することにすごく興味があるの。「実験的な小説を書くために、ランダム ハウスが大金をくれた」みたいな実験じゃないわよ。もちろんそんなチャンスがやって来たら最高だし、願ってもないことだけど。でも私が見たいのは、もっと違う種類のもの! 私、マルチメディア クラフトのクラスをとってるし、陶器とガラスの工芸クラスもたくさん受講してるのよ。ダンス パフォーマンスやパフォーマンス アートもよく見に行くし、演劇も鑑賞する。とにかく、スクリーンの内側に制限されていない、違うものを見たい。それが私の目が切望するものよ。
テクノロジーと未来について尋ねたら、あなたの答えは人工知能やとロボットとまったく違うかもしれないと思うと、面白いですね。もしかしたら、あなたの答えは、現代で再利用できる技術革新の古い設計図に立ち戻ることかもしれません。
そうね。そして、どうして、そういうものが現在の私たちに必要かということ。インターネット ユーザーが、長い間ずっとジンを作りたかった、というわけじゃないし。彼らが、この豊かな民主的能力主義に基づいたインターネットから得られないものって何? 新しい必要性が生まれるのは、何が上手くいっていないから? それから、私は、今のそういうシステムにはすごく批判的だし、疑問視することに賛成だわ。新しいアプリやガジェットに、それほど魅力は感じない。ガジェットなんて、私はどうでもいいの。分かる? 本当は、気に掛けたことがないし、そんなものについて書いたこともないわ。
セルフケアについて
話したくない。
私が話したいのは、
ケアで コミュニティを
サポートする方法
気に掛けてるのは?
媒介者から次の媒介者へ...あらゆることが媒介されているという事実の、文化的、社会的、そして今は経済的な意味を、気を掛けてるわ。とても徹底した仕組みなのよ。新しい機能についての報道やニュースに、いちいち気を取られたくないわ。そういうのは、ただ華やかなだけ。それから、シリコンバレーの起源、シリコンバレーを作り出した考えの起源、シリコンバレーの人たちが建設しようとしてるものについて、考えたいわ。多くの人が不死を目指すのは、どういう意味なのかしら? そんなこと、サステイナブルでさえないわ。今地球上に生きて、自然死している人間のためにすら、健全な地球を維持できていないのよ。だから、そういう疑問を提起する方法、どうしてそういう問いかけに意味があるか、それを考え続けるわ。私は、書くことが目的で書いてるわけじゃない。私は学んでいるの。今、それがすべて、私のライフスタイルで重要な役割りを持ちつつある。結局のところ、明確であること、スピードを落とすこと、スローな未来、スローなテクノロジー、それがすべてよ。そのために私はここにいるの。

- インタビュー: Julia Cooper
- 写真: Magnus Unnar
- スタイリング: Delphine Danhier
- ヘア&メイクアップ: Ingeborg