K・ドリューはユートピアの先を見る

museummammyが取り組む、現代美術と時代を象徴する瞬間の保存

  • インタビュー: Julia Cooper
  • 写真: Kimberly Rose Drew

ネット上で@museummammyとして知られるキンバリー・ドリュー。彼女の歩みを止めることは誰にもできない。現在27歳、ニューヨークのメトロポリタン美術館のSNSチャンネルを運営する。フォロワーは増加の一途を辿り、自身の活動も乗りに乗っている。彼女はニュージャージー州の小さな町、オレンジ出身だが、エッジが利いて頭の回転が早く、生粋のニューヨーカーのように昼食も短めに切り上げる。昨年は、私のタイムライン上でも、彼女の名前や画像を見ない日はほとんどなかった。これは、彼女が新しいメディアのプラットフォームをキューレーションのための重要なツールと捉えているからだ。2010年にハーレム スタジオ美術館でインターンをしたのち、彼女はTumblrでブログ『Black Contemporary Art』を立ち上げた。黒人アーティストを大きく取り上げ、アート ワールドにおける白人一辺倒の状況を明らかにしつつ、彼女は徐々にこの分野での第一人者となっていく。

雨が降りしきる中、私たちはメトロポリタン美術館から数ブロックの場所で会い、キヌアを食べながら話をした。ドリューは、「完全没入型」へと変容する美術館の未来や、「終わりなき」ユートピアの探求、さらにジェナ・ウォーサム(Jenna Wortham)と共同で執筆中の処女作と、時代精神をアーカイブするという根気のいる作業について語る。ちなみに、この本の現時点でのタイトルは『Black Futures』だという。

ジュリア・クーパー(Julia Cooper)

キンバリー・ローズ・ドリュー(Kimberly Rose Drew)

ジュリア・クーパー:あなたの考える100年後の美術館とはどのようなものでしょうか。

キンバリー・ローズ・ドリュー:美術館では、特に拡張現実(AR)とバーチャルリアリティの技術によって、もっと没入型の体験ができるようになると思うわ。クーパー・ヒューイット博物館でのインタラクティブ ペンや、最近ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されたマルティーヌ・シムズの展覧会、ワシントンD.C.にあるスミソニアンのアフリカン・アメリカン歴史文化博物館のデジタル ストーリーテリングを見ればわかるように、現にこの手のものは増えているの。

あなたはこれまで、多大な時間をかけて黒人の現代美術に光を当て、活性化し、批判してきましたね。黒人の現代美術にはどのようなユートピアの可能性があるのでしょうか。

私はアートをそういう風には考えていないの。私の中では、ユートピアというのは、ある特定の時間の枠に結びつくようなものだから。言うなれば、「これが究極の喜びだ、これが自由だ、これこそ探し求めていた忘我の境地だ」みたいな感じで、そういうのって、ある意味アートを制限するものよね。私は、今、さまざまな新しい声に触れてワクワクしてるし、前の世代が築いてきた礎のおかげで、私たちも参加しなきゃって意欲が掻き立てられてエンパワメントを感じる。可能性は無限大だと思うの。でもおそらく、ユートピアはそれを制限してしまう気がする。

そのエンパワメントとはどのようなものでしょうか。

私自身は、自分の研究と黒人文化から生まれた作品に関する仕事に集中しているけど、よくこうこう言って人々を励ますの。大学生を相手に話すときは特にね。「何か好きなことがあるなら、やっちゃいなさい!誰かにお墨付きをもらう必要なんてない」って。私は自分がどういう方法で成功したかはわかっているけど、「この魔法の解決方法で成功できる」とか、「この魔法の道を進めばユートピアに辿り着ける」なんてことは決して言えないわ。

Kimberly Drew 着用アイテム:サングラス(Gucci)セーター(Nehera) 冒頭の画像 着用アイテム:セーター(Marc Jacobs)

黒人文化が生み出す作品の可能性について、自分の想像力がもっと豊かだったら、って思う

私は常々、ユートピアとは、その未来性によって定義されると考えてきました。

その考え方はいいわね。もし何か黒人のアーティストの未来や、黒人のアートをめぐる「言説」の未来へ向けた私の願いがあるとすれば、それは、人々がユートピアを、未来と発展の可能性のあり方の一例として考え続けるってことだもの。だから、ユートピア自体が最終ゴールじゃないの。私は、黒人文化から生まれる作品の将来の可能性について想像力をもてるよう、いつもみんなに働きかけてるのよ。

今現在、特に関心を寄せているものは何ですか。

時間をつぎ込んでやっているのは、アートワールドの先駆者たちと話すことよ。特に選挙後はね。それに、初めて出版する本を進めているから、黒人文化から生まれる作品を通した生存戦略についてずっと考えてる。私よりも少ないリソースで、より多くのことを成し遂げた人々と話すことは、ずっと私の仕事の中核に位置していた。これは、今までは完全にネットの外でやってたのだけど。人々とただ一緒に座って大きな夢を思い描いてみたり、祖先が考えた途方もないような夢を実現した人たちから直接話を聞いたりするのが、私にはとても大切なの。

大きな夢とはどんな夢なのでしょうか。

黒人文化が生み出す作品の可能性について、自分の想像力がもっと豊かだったら、って思うの。私の密かな願望よ。

密かな願望ですか。

ええ。大々的に宣言するほどのことはない、ささやかな目標。私にはアーティストの友人がたくさんいて本当にラッキーだと思ってる。それに私はアーティストの一家で育ったから、 実際に壁にかけられた作品を見るより、作品に入り込んでいる人生やその社会の歴史を理解することに、何万倍も興味があるの。だから他の人は私の仕事を見て興味深いと思ってくれるのかもしれないわね。言わば、私がこの人たちとパーティーをするのは、私が実際に彼らと友達だからで、私が彼らの展覧会のオープニングに行くのは、彼らが面白い人たちだからってことよ。「この人は商業的に成功してるから、自分もサポートしよう」とはならないの。人生は短いんだもの。そんなことやってる暇なんてないわ。

今度出版する本について聞かせてください。

もちろん。この本は ジェナ・ウォーサムと一緒に進めているの。たまたま彼女からDMが届いたのがきっかけなんだけど、これで人生が変わっちゃった。今、一緒にこの本のプロジェクトを進めていて、これは大きな画集みたいな大型の本になると思う。アンソロジー的なものを作ろうというアイデアなの。特にインスピレーションを受けたのはトニ・モリスン(Toni Morrison) ね。70年代の彼女の本に『The Black Book』といのがあって、その中で彼女は人々と語り合い、その特別な瞬間を記録することを試みているの。

へえ、すごいですね。

そう!私たちが作りたいと思っているのも、自分たちの世代にとってのこういう本。今現在、特にネット上では、さまざまな所で色んな方法で物事が生み出されている。それをサポートできるような本を目指しているわ。#BlackoutBlackFridayからコリン・キャパニック(Colin Kaepernick)に至るまで、今、色々と信じられないようなことが起きてるでしょ。それなのに、他の時事問題と関連づけて、オンラインで起きているこれらの現在進行形の象徴的なできごとについて考えられる、適当な場所が存在しない。それに恒久的な保存という観点からも、これらすべてのツイートやスナップのスピードにアメリカ議会図書館は全然追いついていないの。ネット上で生み出されるものに関していえば、今は本当に奇妙な時代よ。だから、何かこの奇妙な時代をうまく反映しているような人物たちが結集したような本を作り上げることができたらいいと思ってるわ。

とてもいいアイデアですね。

かなり楽しみよ。それにしても、あなたは私の本のタイトルが『Black Futures』だと知らなかったのに、未来のことについて話が聞きたいなんて言うんだもの。面白いものね。絶妙なタイミングよ。

Julia Cooperはトロント在住のライターである

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