素晴らしき本の世界
オンライン ブックストアは夢の図書館
- 文: Lovia Gyarkye

「どういうふうに本を整理しているのか」と尋ねられたら、「整理しない」と答える。私は図書館員でもサイコパスでもないからだ。ちなみに私の蔵書は、愛読書、嫌いなのになぜか処分できない本、読みたい本、読んだり書いたりすることで収入になる本、と大まかに4つのグループに分類できる。本棚で暮らしている本もあるが、その他は、コーヒーテーブルや食卓、ヒーター、最近の引っ越しでそのままになっている段ボール箱、床など、あちこちの平面に不安定に積み上げられている。特にこれという順序や仕分けはない。
私の本は、年、季節、あるいは時刻次第で違うものになる。朝、窓から差し込む陽光が丁度いい角度で当たっているときは、本は純粋に美しいオブジェになると告白しよう。夜が訪れるともう少し家庭的になって、ページを開き、ワインをグラスに注き、物語に浸るように誘いかけてくる。本は私の過去の遺物であり、トニ・モリスン(Toni Morrison)やジェームズ・ボールドウィン(James Baldwin)の助言に飢え、スチュアート・ホール(Stuart Hall)の考えを追究し、バレリア・ルイセリ(Valeria Luiselli)の文章に耽溺した年月の記憶だ。思い出すのが辛い友人たちや、忘れたい恋人たちの手を経て、今私の手元にある。世界が一変して家の中に籠る生活になるまで、本に書かれているような体験や本が私の中に呼び起こす感覚は現実世界でしか起こりえないと、私は思っていた。ところがふと気づけばオンラインで過ごす時間は長くなり、際限なくスクロール、「いいね!」、コメント、ブックマーク、シェアを続けていくうちに、手元にある本やそれ以外の本との新しい出会いが始まった。
Instagramには、コミュニティ志向のキュレーションによって、本の世界を変えたアカウントがあった。例えば、「For Keeps Books」には、貴重な黒人書籍とアトランタにある同名の読書室が紹介されている。「BLK MKT Vintage」は、ニューヨークのベッドフォード=スタイベサント地区にある実店舗および黒人関連のあれこれを販売するオンライン ショップを通じて、古書と黒人の歴史に目を向ける。黒人社会の遺産に誇りを持つ「The Underground Bookstore」は、膨大な数の本を収集したアーティストのノア・デイヴィス(Noah Davis)に啓発されて生まれたアカウントだ。これらのアカウントは、米国内で、黒人書籍店の幅広く豊かなレガシーを築きつつある。黒人の言葉、美学、歴史を探究し、自らの責任を明確に自覚している。これらのアカウントは現実の延長であり、実体験であり、アーティストの精神と読者の心が出会う場所だ。
アーティストのローザ・ダフィ(Rosa Duffy)がFor Keeps Booksを立ち上げたのは2018年のことだ。彼女は、書かれている内容と手に取れる点の両方で、常に紙媒体の書籍を愛してきた。ティーンエージャーの頃は、1960年代から1970年代にかけて発行された黒人解放誌『Soulbook』など、父が購読していた定期刊行物に目を通して、自分のアートに取り込んだ。モアハウス大学の卒業生であった父は、初代黒人市長となったメイナード・ジャクソン(Maynard Jackson)を始め、アトランタの黒人政治家の下で働きながら人生の大半を過ごした人物だ。祖母のジョージー・ジョンソン(Josie Johnson)はミネソタ州の著名な公民権活動家だった。そのような家系で成長し、若くして黒人文学に出会ったことで、ダフィには書籍収集の精神が形成された。ハイスクール卒業後は、学問の自由、知的探求、進歩的思考を掲げるニュースクールで学ぶためにニューヨークへ移り、大学時代はニューヨーク中をしらみつぶしに歩き回って貴重な書籍を見つけ、かなりの数を所有するに至った。だがダフィは、自分だけのコレクションにはしたくなかった。For Keeps Booksについてのインタビューで、ダフィーは共有の欲求を繰り返し語っている。その思いとは、社会の末端に丸投げされる公共事業を自ら引き受け、黒人が集い、自らを新たに認識できる空間を作りたいという願いだ。
アカウントは、実店舗や読書室と同様に、一貫した収集方針と選別に貫かれている。パンデミックの真っただ中で、グリッドに配置された本、定期刊行物、グッズには、普通ならありえない秩序と統一性がある。過去からの貴重な書物は、真っ白な背景の上で緑や黒や鮮やかな赤の表紙を一層際立たせ、力強く主張している。スクロールしていくうちに、私はその中の1冊を手に取り、ページをめくり、折り目や消えかかった鉛筆の書き込みを読み取ろうとする自分を想像している。それらの書物が目にしてきた空間、読まれてきた方法、掻き立ててきた感覚に想いを馳せる。
For Keeps Booksは、黒人の歴史の発掘、認識、正当な評価を志向する、明白に黒人のためのプロジェクトだ。圧倒的に白人の集団が立ちはだかる文学界は、黒人の文字、文章、言語の試みを軽んじてきたから、ダフィーは、黒人によって書かれた書籍を見つけ出し、ライトを当てる使命を自らに課したようだ。だが、発掘と紹介だけではない。それだけでは、核心にある「誰が」と「なぜ」が曖昧なままに残されてしまう。本は記憶であり、感情だ。「驚き」であり「理由」だ。For Keeps Booksのページは、本を広告するのではなく、ドロップする。限定のステータスは稀少な価値を意味する。投稿は飾り気がなく、文脈から独立している。画像には、歴史に関する長ったらしい説明や解釈を添える代わりに、「わかる人にはわかるでしょ」とばかりに気の利いた短文が添えてある。For Keeps Booksはラブレターだと私は思いたい。黒人の言葉、黒人の文章、黒人が語る物語、黒人の作家、黒人全体へのラブレターだ。
For Keeps BooksとBLK MKT Vintageは、同じ「時」と「場所」で存在するにふさわしい。For Keeps Booksと同様にBLK MKT Vintageも魅力的だが、誘惑の種類は違う。For Keeps Booksがミニマリズムとも言える統一性を打ち出しているのに反して、BLK MKT Vintageはマキシマリズムに溢れている。鮮烈な赤やオレンジ、深い緑、大胆な紫などの色に弾けている。2021年初のドロップを告知した最近の投稿では、マーガレット・ミード(Margaret Mead)とジェームズ・ボールドウィン(James Baldwin)の共著『A Rap On Race』の赤い表紙、リチャード・ライト(Richad Wright)の『12 Million Black Voices』、ニッキ・ジョヴァンニ(Nikki Giovanni)のサイン入りモノクロ写真、オクタヴィア・バトラー(Octavia Butler)の人気小説『キンドレッド 絆の召喚』が集合し、ブルグリーンのファブリックの上で輝いて見える。
BLK MKT Vintageは、キヤンナ・スチュワート(Kiyanna Stewart)とジャンナ・ハンディ(Jannah Handy)が立ち上げたアカウントだが、最初からオンライン ブックストアが念頭にあったわけではない。ふたりはニュージャージー州のラトガーズ大学で知り合い、一緒にビンテージのアイテムを集め始めた。スチュワートは母に連れられて個人宅でのセールや骨董店で掘り出し物を探しながら成長したから、ビンテージのベテランだったが、ハンディのほうは実は中古品の収集にあまり乗り気ではなかった。だが結局すべてが変わり、時を経ずして、週末にニューヨーク周辺で開かれるフリーマーケットで収集品を販売するようになった。活動にしたがって、意図が生まれた。自分たちと同じような考えを持っている消費者の集団、自分たちが見つけた宝物に胸を躍らせ、共鳴し、歴史との繋がりを感じる黒人集団と繋がりたいという欲求に突き動かされて、ふたりはオンライン ショップへ進出した。
画像には、「わかる人にはわかるでしょ」とばかりに気の利いた短文が添えてある
初期の頃に比べて、現在のBLK MKT Vintageは著しく成長した。ハンディとスチュワートは現在、共通の出身地であるブルックリンに店舗を構え(現在はパンデミックのため休業中)、『Insecure』や『Lovecraft Country』など、テレビ番組とのコラボレーションで持ち前の眼識とセンスを発揮している。しかし何と言ってもいちばん魅力があるのは、本来なら互いに関わりを持たないような人たちが集うオンライン コミュニティだ。そこでフォロワーたちは互いの話に耳を傾け、情報を交換し、将来のドロップへの期待を伝える。私は、とりわけ興味のあったゾラ・ニール・ハーストン(Zora Neale Hurston)を紹介した投稿を見つけることができた。秋の彩りの植物に囲まれて、『彼らの目は神を見ていた』、『ヴードゥーの神々—ジャマイカ、ハイチ紀行』、『ヨナのとうごまの木』の、茶色がかったオレンジと茶色と青の表紙がひときわ活き活きと目に映る。1920年代から1960年代にかけてフォトブースで撮影されたスナップ写真を紹介した投稿には、自分の家でも同じような写真を見た記憶があるというフォロワーのコメントが残されている。「私のおばあちゃんも、これによく似た、40年代に撮影した写真を持ってる。私の絶対いちばんの宝物」。BLK MKT Vintageは内省を促し、情緒を育む。フォロワーたちは投稿された貴重なアイテムへの愛情と尊敬を共通項にして結びつくだけでなく、自分とそのアイテムとの関係に想いを巡らす。
フォロワーの個人的な反応やフォロワー全体の相互作用という点は、The Underground Bookstoreにも共通している。The Underground BookstoreのInstagramアカウントは、ロサンゼルスにある同名の書店を主眼として、2015年に亡くなった画家ノア・デイヴィス(Noah Davis)が着手したギャラリーとコミュニティのプロジェクトをエネルギッシュに継承したものだ。昨年の夏の初投稿には「愛書家のノアは、本屋で働き、本を収集しました」と書かれている。For Keeps BooksやBLK MKT Vintageと違う点は、最初から常にオンライン活動ではなく、重点はあくまで対人による直接の活動であり、書店がその中核的役割を担っていたことだ。「今、あなたがどこにいても体験できるように、私たちの書店をお届けします」と最初の投稿は続く。「共に世界を築いていきましょう」

主として博物館の説明員によって運営されるThe Underground Bookstoreでは、緊密な連関によって世界が築かれていく。説明員は、読者にふさわしい本を、読者にふさわしい順序で推奨していく。抜粋された文章がスナップ写真に変わり、絵画になり、動画へと発展する。文学雑誌『The Believer』のエディターや『The Creative Black Woman’s Playbook』の作者ヴェロニカ・カミール・ラトリフ(Veronica Camille Ratliff)らに、案内役を譲ることもある。そんな流動性は肯けるし、書店が育んだコミュニティをうまく再現しているとも思う。
The Underground Bookstoreのページは、担当したのが誰であれ、常に、一筋縄ではいかない疑問を投げかける。あるいは、例えばアレックス・ヘイリー(Alex Haley)の『ルーツ』に関する投稿のように、特定の箇所に読者が感じた気持ちを討議する機会として利用される。The Underground Bookstoreの投稿は、形式的には、書評の役割を果たしている。一般の批評ほどよそよそしくはないが、紹介する本の技法にまつわる論争を記述し、読み手にとっての難しさと正直に向き合う。だが投稿が目指すのはあくまで情緒にあり、読者から読者へ「読んでみたら驚くよ」の誘いが広がっていく。
そう、本は驚きだ。同じ世界のいくつもの異なる姿、あるいはまったく違う世界を教えてくれる。読む者にさまざまな感情を体験させ、忍耐と理解を求める。私にとって、本は常に変わらぬ慰めの源であり、知的活動を避難させる場所、自分自身で作り出す突飛な想像から逃避する場所だ。読むことで収入を得る場合を除けば、本は…私的な生活を規律する法と言えるかもしれない。
だが物事は必ず変化するらしい。パンデミックによる自粛生活の延長が、かつては心底愛した活動を変質させうることもわかった。日が短くなり、夜のほうががはるかに長くなるにつれ、生活のなかで本に関わることはだんだん難しくなった。別の世界を見せて、気晴らしをさせてくれるけれども、自分の世界の危機が気になり過ぎて没頭できなかった。みんなと同じように、家族との抱擁、友人との笑いが恋しかった。そして、見知らぬ人たちも恋しかった。偶然本屋で出会って、同じ著者や特定の本への共通の興味を介して繋がりが生まれる人たち。こんな私の現状をセンチメンタルな話に仕立てるなら、最後は、「For Keeps BooksやBLK MKT VintageやThe Underground BookstoreのInstagramを熟読することで、低リスクな偶然の出会いを求める私の渇望が癒された」と宣言して終わるだろう。だが白状するなら、これまでずっと好きだった本を収集し、まだ手元にない本の目録を作っていくのは、むしろ秘かな快楽に近い。
Lovia Gyarkyeはニューヨークを拠点とするライター
- 文: Lovia Gyarkye
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: February 25, 2021