ファッションがスケートボードに嫉妬する理由

スウェーデンのブランドPolar Skate Co.がマスニッチ化するデジタル文化を乗りこなす

  • 文: Jeff Ihaza

ソーシャルメディアと携帯の高性能カメラの急増により、スケートボード界内部では、ある種の判定が下された。

どのスケーターでも動画を撮り、それを大手の雑誌と同じくらい大きなプラットフォームでシェアできるようになったことで、スケート文化内にパラダイムシフトが起きたのだ。重要なのは、もはや最高難易度のトリックをきめることだけではない。動画を見る人々の共感が得られるスタイルを見せる必要があるのだ。

スケートボードの板を彩るグラフィックは、ソーシャルメディアを流れる投稿のように、本質的に短命である。それらは、使い古され、傷だらけになり、歪められ、最後にはペイントの染みと露わになった木の板しか残らない。だが、中にはせめて想像上だけでも、いつまでも残るようにデザインされたイメージもある。ベテラン スケーターのポンタス・アルヴ(Pontus Alv)が、彼の会社Polar Skate Co.のために、このスケートボード史上、特に印象深いグラフィックを描いた際、彼はこれが長らく人々の記憶に残ることを予期していたのかもしれない。そこに描かれているのは、マティス風の女性がノーコンプライの技をしている姿だ。このトリックは、片方の足で地面を蹴ってジャンプし、同時にもう片方の足で板を空中に押し上げるというものだ。このイメージは、グラフィックで表現したブランドのミッション ステートメントとでも言うべきものだが、それだけでなく、スケーティングの美意識がどれほど多様性に富むかも表している。

2011年、Polarはスウェーデンのマルメに創立された。Polarは、よりニッチなファンを対象とした独立企業という、スケートボーディングの新しい潮流を象徴している。ブランド立ち上げ時期のインタビューで、アルヴは、業界の現状に対する幻滅を熱心に語り、スケートボードを単なる商品としてではなく敬意をもって扱うようなものを作りたいと説明している。

このアイデアはスケーターの服の形にも表れている。Polarは、控えめではあるが遊び心にあふれたウェアで、スケートボーディングのもつクリエティブなエネルギーを前面に押し出すことに成功している。ブランドの提供するウェアは、デーン・ブレイディ(Dane Brady)のドローイングをあしらったジャケットのように、チームのライダーの作品を取り入れ、個人それぞれのスタイルからインスピレーションを得ている。さらに、チームメンバーの作品が直接使われるのではない場合でも、Polarがインスピレーションを求めるのは、やはりスケートボーディングの相互扶助的な関係、つまりスケートボード史に残る膨大なアーカイブだ。これらは特に90年代を思い起こさせる。

昨今、誰もが90年代のファッションに取りつかれていることは、この秋のルックブックで頻繁に見られるバギーのシルエットや、市場でも大人気のビンテージTシャツを見ても明らかだ。一方、今日のスケーターにとって90年代とは、たとえば、MTVの「ジャッカス」や「ビバ・ラ・バム」の時代のような、2000年代初めにスケート文化に人気が出て飽和状態になる以前を意味する。20歳そこそこのニューヨークの若者たちが、映画『Kids』の時代に勝手に親近感をもつのと同じく、スケーターたちは、その是非はさておき、もっと楽しむことに全力をかけていた時代として90年代を見ている。Polarもまた、スケートボーディング史におけるこの時代を肯定するが、それはスタイルと機能を対等に扱うという点においてである。ブランドの最新コレクションは、Osirisの『The Storm』やTransworldの『The Reason』といったスケートビデオの古典的作品の中で着られていた服を想起させるもので、これに現代的な繊細さが加わっている。濃い紫色の七分袖のジッパー付きプルオーバーや、鴨の羽色と黒曜色のストライプの厚手のTシャツ、襟元を囲むラインカラーが特徴のモックネックをあしらったシャツ、「Big Boy Jeans」と呼ばれるバギージーンズ、実際に「92 Puffer」という名がついたパファー ジャケットなどがコレクションに並ぶ。

マルメの地でスケートシーンを流行らせた功績で知られるアルヴにとって、90年代の精神は、再現する価値はあっても真似をする価値はないものなのだ。2005年、プロスケーターの世界から身を引くと、アルヴは『The Strongest of the Strange』という白黒映画を発表した。これは、当時まだ誰も見たことのないような実験的なスケートビデオだった。その中で、アルヴが率いる当時は無名のマルモのスケーターから成るクルーが、数々の自前のスケート スポットを突き進んでいく。空き倉庫から歩道、とにかく滑れるところならどこでもスポットになる。

この視覚表現は、PolarがConverseとコラボレーションした最近の動画にもつながっている。2016年にロサンゼルスで撮影された動画クリップ「LA Days」では、アクリル樹脂で作った特注のクォーター ランプが、遊歩道をイベント会場に変える。2015年にニューヨークで撮影された動画クリップ「Manhattan Days」では、チームは鉄板を持って街中を周り、平凡な景色が複雑なストリート スポットへと変容する。これは、Polarの根幹にあるコンセプトを発展させ、それを視覚的に表現してカメラに収めたものだ。

パブリック インターベンションが人々に利用されて初めて面白いものになるのと同じく、スケーター ファッションも、スケートボーディングが主として存在して初めて、その意味と美しさが見えてくる。カルチャーとしてのスケートボーディングには、商業的な側面が土台としてあり、そのために嫌悪の対象になるが、同時に人々を虜にもする。スケードボードのデッキ自体、プロモーションの道具と、美意識やその他の価値観を伝える役割という二重の働きをしている。実際には、パンツの長さからトリックの種類まで、スケーターがやることはすべてブランディングの一部であり、特定のスタイルに自分自身を合わせる行為といえる。だがそこにわざとらしさはなく、あくまでさりげない。このように、最近のスケートボーディングとファッションの発展には共通する重要な特徴があり、ファッションがスケート文化を注目し続けるのも当然だ。

PalaceやSupremeのように様々なストリートウェアが交差するブランドに加え、再定義されたワークウェアのスタイルは、それぞれのシーズンのコレクションを越えて、増大を続けている。この中で、スケーターのこれ見よがしでないファッション志向は、そのさりげなさゆえに、ファッション デザイナーを惹きつけてやまない。最高のスケータースタイルは、快適で、洗練されていて、かつ個性的だ。すべてを同時に実現する、まさにノーコンプライのようである。

Jeff Ihazaはニューヨーク在住のフリーランスのライター兼プロデューサーであり、『GQ』、『The Fader』を始め、ウェブサイト「The Outline」など多数に執筆している

  • 文: Jeff Ihaza