宇宙の中心で自撮りをする
アーティスト、Cyril Duval(別名:Item Idem)がタイムズスクエアの精神的秘密を解き明かす
- インタビュー: Thom Bettridge
- スタイリング: Cyril Duval
- 撮影: Mark Jen Hsu

「タイムズスクエアは世界の中心なんだ…、それか、もしくは世界一のくそったれかもしれない」。アーティストのCyril Duvalは、100メートル下の混み合った歩行者が往来するブロードウェイを見下ろしながら言う「ほんとクレイジーな渦のようだ」。
製作者の意図から離れたところで、ロゴはどのようにその人生を送ることができるのか。それをテーマに、大量消費主義の宝物を求めて世界中を旅しながら、アーティストのCyril Duval(別名:Item Idem)は作品を作る。タイムズスクエアのカオスのちょうど真上、ブロードウェイに建つオフィスビル19階にある現代美術のレジデンシー、Work in Progressの一員にDuvalは任命された。そこで彼は、中国の葬儀で燃やされるという、歯磨き粉からLouis Vuittonのバッグにまで至るボール紙でできた数々のブランド品の複製を使いプロジェクトを展開する。このロケーションは、彼の作品にはうってつけだ。年間に2600万人が訪れる、資本主義にとって聖地なのだ。いくつもの空気ビニール玩具、彼の蔵書、3週間前にUber XLからもらった小さいJeff Koonsの犬などの荷ほどきを終え、与えられたこの小さな部屋を使いながら、これから始まる作品の準備をしている。そして、タイムズスクエアに捧げる抒情詩として、彼はスタイリストのMark Jen Hsuとともにストリートへ繰り出し、Kenzo、Comme des Garçons Homme Plus、Hood by Air、Gosha Rubchinskiyに身を包み、自らを写真に収めた。

Thom Bettridge
Cyril Duval
タイムズスクエアで、けっこうな長い時間過ごしてみていかがでしたか? ビルの下はたいへんなカオスですね。
夜にもっとここで時間を過ごしたかったね。まるでディストピアのようなクレイジーな夜景になるからね。日本に長く住んでいたから、そういうのには慣れてるんだ。それにしてもクレイジーだよ。
ここで何をしているか教えてもらえますか? 少し博物学的なオブジェのようにも見えますが。
そう。これらのオブジェを、時代遅れになった静物として展示しようと思っているんだ。永遠に対する「メメント・モリ(死の記憶)」だね。このオブジェのことは知っている?
教えてください。
中国の南部では、こういうオブジェを葬儀に使うんだ。僕は、このオブジェをけっこう長い間作品として使っている。


複製品ですか?
ボール紙で精密に作られた日用品の複製。Louis Vuittonの靴から銃や食料、歳を取って死の間際に必要な物までも揃うんだ。つまり、人生のあらゆる側面に区分けされていて、子供のための物もあればタバコもあるんだ。
これを葬儀に使うんですか?
そうだよ。これを捧げて焼くんだ。2年前にCheng Ranと「Joss」という映像を作って、いろんなオブジェに火を付けたんだ。いろんなやり方で火を付けてね。それで今、ようやく立体作品として見せられる面白い方法を見つけたところだよ。僕がいちばん関心を持っているのが、これらのオブジェが消費者と精神性とにどうやって同時につながっているか、ということなんだ。
これらの品々は、現地を旅行して見つけたんですか?
旅行をしながらたくさん調達した。7月にまた深センに戻ってレジデンシー・プロジェクトをやろうと考えているんだ。中国の南部で、珠江デルタの側だから、深セン、広州、香港、マカオの辺り。そこで工場に行って、自分でドキュメンタリーを制作しようと考えている。製造工程から、なぜこういう物を作るのか、そして人々や経済との関わりなんかについて調べようと思っている。なぜなら、僕たちは古くからある中国の風習について語っていても、それは西洋文化が入り込んだことで変化してきているからね。今までは、商品という考えも大量消費とも無縁だったんだから。かつては、先祖の肖像だったり、ちょっとした手で書かれた文字だったり、そういう物だったはず。面白いことに、今はすべてが機械で作られている。だから、全部が同じ見た目だし、標準化されてしまっているとも言えるね。

こういう種類のオブジェのことを、一般にはコピー品やニセモノと言いますが、これらのオブジェ自身も独特のオーラを放っているんですよね?
深センで作られたプロダクトを何年も使っているけれど、それらはもっと誰にでもわかる明らかな物だから、知的所有権や著作権に抵触しているとは思わないよ。僕にとっては、もっと精神世界の物なんだ。それだからこそ魅力的でもある。どことなく、より高潔に感じられる。と同時に、言ってみればタブーでもあるんだ。たとえば、キリスト教の文化では、十字架を冒涜すれば気が狂ったとみなされるよね。中国人にとっては、これらのオブジェをもてあそんだり、単に所持しているだけでも、そんなにいいことではないんだ。彼らを怒らせることはないけど、邪悪な魔術とか風水的に良くないと見なされているんだ。僕は迷信なんて信じないけど、たぶん信じた方が良さそうだね(笑)。
コピー商品ではなく、それ自身で独立した商品であるためには、どこまで変更を加えないといけないのでしょうか? たとえば、この乳児用の服は明らかにLouis Vuittonのモノグラムを参考にしてますよね。しかし丸のかわりにミッキーマウスの切り抜きが使われています。
それがまさに偽造品と深センのプロダクトとの違いだよ。あるブランドが持つイメージの複製を安く行う、それがラグジュアリー商品の模倣だよ。一方で、深センのプロダクトは、彼らなりにもっと大胆でふざけていて全く異なる話なんだ。乳児用の服を見て、これがDisneyかLouis Vuittonかなんて誰も信じないよ。たまに、5つのブランドがいっしょくたになったような最高の商品に出合うこともある。ひとつの柄の中に、Calvin Klein、Angry Birds、Kmartが混ざっている物を僕は持っているよ。

精神性という考え方にたいへん興味があります。というのも、ロゴはある意味で特別な力を持ったお守り的な性質を持っています。
僕の個人的な見解は、歴史的なことは考慮せずに、中国人がロゴやブランドのイメージを集めるのは、われわれとは全く異なる意味があるという考えに基づいているんだ。西側の富の象徴や成功のシンボルではないんだ。僕がロゴで何度も見た接点のひとつがAppleのロゴ。たとえば、Appleのロゴと「1日1個のリンゴで医者知らず」と書いてあるジーンズ。富が健康へと変換されているんだ。財政的に富んでいることは財政的に健康であるということ。会社の健康状態とも言うようにね。ブランドの価値の中にはいつもいろいろな物があって、そのクールである物に惹かれる方法があるんだと思う。
ロゴとは正反対の物は何でしょうか? 空白であることも、ロゴのひとつではありますね。
少なくともデザイン的な観点からすると、Missoniのような、柄のことがすぐ頭をよぎるね。または、Louis Vuittonの配列。あの配列の力がどれほど強烈か。まるでカラーコーディネーションやカラーブロックみたいだ。Tommy HilfigerやPradaのように、いつも2〜3色の色がある。モノグラムって柄のようでもあるけど、よりロゴに近いし、また広告の中にも入り込んで来ている。たとえば、Calvin KleinのキャンペーンがどれだけCalvin Kleinのキャンペーンに似ている必要があるか。過去20年間に渡って。あれは、とても強烈な手法だよね。素晴らしいよね。一連の「My Calvins」を見てみると、80年代からのストーリーが見える。Kate Moss、そして今はJustin Bieberの股間ね。
面白いですね。Marky Markのときと同じですね。
完全に同じだね。セクシーな男、大きな股間、「My Calvins」。ハッシュタグだよ。

「My Calvins」は、ハッシュタグが生まれる前のハッシュタグですね。
ほんとにすごく優秀だとよね。
Calvin Kleinは、とても興味深いブランドです。白と黒を基調としたラグジャリーな現代的な着こなしを提案するハイエンドな路線がある一方で、下位の消費者レベルでは、ウエストにゴムバンドの下品な下着があります。
またニセモノ産業の話に戻るね。Calvin Kleinの下着を身に付けない人なんているかな? 香水やライセンス商品も。このブランドは、なんて未来なんだろうね。
- インタビュー: Thom Bettridge
- スタイリング: Cyril Duval
- 撮影: Mark Jen Hsu