Snarkitecture:
ショップは次世代の美術館となるか
ニューヨークのデザイン企業Snarkitectureによる実店舗を巡る冒険
- インタビュー: Nick Rhodes
- 写真: Adrian Crispin

デジタル革命は、いわば世界的な断捨離の過程でもあった。その過程で、何が物理的なモノとして存在する必要があるかについての判断が下された。この新秩序の陰謀のおかげで、新聞やテレビ、ラジオ、ビデオテープはすべて、携帯電話の中に吸収され、懐かしいスチームパンク世界のアイテムと化してしまった。だが、ショッピングがデジタル ライフの中心になってもなお、従来型のリテールは奇妙な中間地帯に留まっている。とりわけファッションにおいては、どこが最も人々を熱狂させ、実際に人々に足を運ばせるかをめぐり、熾烈な競争が繰り広げられてきた。そしてある意味、それが功を奏してきた。特に、あらかじめ定められた間隔で限られた数の製品のリリースを組織的に行い、入荷を制限する文化が一般的になりつつある今、ポップアップ、店舗限定という言葉に言及するだけでも、その成功例が容易に思い出されるだろう。だがこれは、モデルとなるようなショップだけが、集客のために実行できることなのだろうか。

ニューヨークを拠点とするデザイン企業Snarkitectureは、リテールを美術館に行くような体験として捉えることで、この問いに対する答えを出そうとしている。ニューヨークのストリートウェアKITHの店舗のためのコンクリート製のAir Jordansの天井、スウェーデンを拠点にするCOSのために作った、ビー玉がコース上をうねうねと転がり回るインスタレーション、イタリアの高級革製品ブランドValextraのために作った、白で統一された空間に波打つドレープの天蓋をあしらったデザイン。いずれにおいても、Snarkitectureの共同創設者であるダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)とアレックス・マストネン(Alex Mustonen)の試みは、ショッピングを実験的資本の源へと変化させようとするものだ。
ニック・ローズがロングアイランド シティのアトリエでアーシャムとマストネンと会見し、Snarkitectureにとってこれまでで最も困難だったプロジェクトについて、ネットショッピングがますます拡大する中で実店舗の意義について、近い将来実現させたい夢のような空間について話を聞いた。
ニック・ローズ(Nick Rhodes)
ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham) & アレックス・マストネン(Alex Mustonen)
ニック・ローズ:インテリアの空間をデザインする際に直面する最大のハードルはどのようなものですか。そこでは何か妥協をするのでしょうか。
ダニエル・アーシャム:僕たちにとっての最大の難関は、正直に言えば、おそらくスケジュールだね。よくあるのは、何かを実際に作るのにかかる時間に対して、非現実的な見通しを持ってくる場合。僕たちは限られた期間でモノを作り上げることにかなり長けている方だと思うけど、中にはどうしても物理的に実現不可能なこともある。
アレックス・マストネン:僕たちが手がけることの多いリテールでのデザインに限って言えば、すごく難しいと同時に解放感のようなものもある。リスクを取りやすいというか、意外性のある作品や印象に残る作品に対して貪欲な傾向がある。それがまさに、僕たちがやろうとしていることだし、その意味では、典型的なオフィスや住居空間に比べてやりやすい。だけど、それは同時にある種のトレードオフや挑戦にもなる。リテールの空間内では、他のどんな種類の空間よりも、人の移動が激しい。それに多くの商品も置かなければならない。
ブランドとのコラボレーションや、新しいリテール空間のデザインの際、通常、まず最初にその特色や美学を分析するために用いるアイテムは何かありますか。どのコラボーレションにも共通する特定のプロセスがあるのでしょうか。
D:それは当然、クライアントによるね。KITHを例に挙げると、ロニー(・フィエグ)のためにデザインしたショップは、全部がそれぞれ異なっていた。それに関する彼の考えの一部は、これらの空間では、ただ何かを買うのではなく、経験が重要だというものだったと思う。顧客はどの店舗でもだいたい同じなんだけど、それぞれの場所に違う雰囲気があって、店に置いている商品にも関連性はなかった。だけどKAWSのような他のクライアントの場合は、 彼らの特定のコレクションを見て、彼ら独自の色合いやテクスチャについて研究した。
A:とはいえ、彼らの世界からあるものを取り出して、Snarkitecture的な環境やSnarkitecture的体験に再解釈するという点で、かなり抽象的なやり方だけどね。

Snarkitecture x Kith、ニューヨーク、2017 冒頭の画像:Snarkitecture x Valextra、ミラノ、2017

従来型のリテールの崩壊という話が、もう何年もの間囁かれていますが、あなたたちが関わっている従来型のリテールについては、まだ好調のように思われます。オンラインショップの台頭により、実店舗の役割はどのように変化したのでしょうか。
D:それは双方向的なものだよね。つまり、各ブランドが実店舗のあり方について行き詰まっているのと同様に、新興ブランドやオンラインのブランドの方では、ネットのみに依存したビジネスのやり方に行き詰まり、実店舗へ進出する必要性を感じ始めている。これは、オンラインではどうしても実現できない身体的体験というものがあることの表れだと思う。その体験は、商品を直接見たり、手に取ったりすることに限らず、商品が置かれている空間自体に関係していると、僕は考えている。これはすべて、本当は何のためにブランドが存在するのかという、建築的な定義やDNAに関わってくる。そして今、人々はかつてないほどに、その身体的で触れられるものを求めているように思う。ただのデジタル画像であることは対照的に、それが現実だと知って肌で感じることというか。
A:つまり、イメージで伝えることや、ネット上のソーシャルメディアとして出来ることには限界があるんだ。自分がデザイナーで、ネットでの知名度がすごく高いとして、そのデザインする空間は顧客や観客にはどのように映るのか。その店の立地から、店に入ったときに嗅ぎとる匂いに至るまで、何もかもが、自分の作ろうとしている世界に対する人々の理解に、重大な影響を与えると思う。
オンライン ショッピングの手軽さに人々は魅力を感じているのは明白ですが、eコマースがどれほど発展しても、常に、現実の世界のショップの方が優れている点を1つ挙げるとすれば、それは何でしょうか。
D: 僕たちのクライアントは、KITHのように、自分たちのたくさんの顧客に対して提供するクオリティに強いこだわりをもっている。入荷自体はオンラインでも可能だとしても、ショップに入荷されたときのあのフィーリングは、何にも変えがたいものがある。あそこに生まれるエネルギーには独特なものがある。僕にとってショッピングのための最高の場所というのは、ただ見るためだけに足を運ぶような店だと思う。そういう店は場所としての意味づけの仕方がすごくうまいて、実は、そういう店では、僕はオンラインほどお金を使わないんだ。たとえばcoletteがそう。何かを買おうが買うまいが、パリに行ったら、毎回必ず足を運んだものだ。



Snarkitecture x COS、ソウル、2017
あなたたちの作品はすべて身体感覚に強く訴えるもので、その場で直接体験するように作られているのは明らかですが、これをデジタル空間に置き換える可能性についてどう思いますか。
A: 僕たちのつくった空間に実際に行くという体験は、写真で見るのとは大きく異なっているとはいえ、僕たちは明らかにソーシャルメディアを通して成功した例だと思う。写真は僕たちの作品をうまく伝えているし、この点は僕たちもちゃんと認識している。作品を直接ウェブサイトにするとか、アプリの企画にするとか、色々できそうだよね。
D:僕たちがこの仕事を始めたとき、身体で直接感じることのできる体験を作るという明確な目標があった。さまざまなアイデアを現実の世界で具現化する、みたいなね。だけど、今は、そういったことを10年前に考え始めた当時には存在しなかったチャンスがある。この先どうなるかわからなないけど、今の時点では、このままさらに堀り下げていきたいと思ってる。
リテール関連の試みで、特に難しかったのは、どのようなことでしたか。
A:それにはいい例がいくつかあるよ。ちょうど考えていたのは、リテール向けの最初のプロジェクトで、Richard Chaiのポップアップだ。このショップを3週間で、5,000ドルそこそこの予算でデザインしたんだ。 僕たちのアトリエで全部を作って、2日間で設置した。
D: しかも、全部を1つの素材で作ったんだ。
A: ショップのコンセプトは、組み立てられるような小さなものをデザインするのではなく、その空間全体を埋め尽くすような固形の塊を用意して、そこからテーブルや棚、ラックを作る素材を切り取るというものだった。だから全体が、この氷河を掘削したみたいに切り出したひとつの素材からできているんだ。あまりショップっぽく見えなかったけど、かなり評判は良かったみたいだよ。

Snarkitecture x Richard Chai、ニューヨーク、2010

いつか実現したい夢の空間のようなものはありますか。
D: ずっと思っているのは、「The Beach」みたいな、インスタレーションに基づいたプロジェクトをいくつかニューヨークでやりたいっていうこと。僕たちの作品をニューヨークで皆に見てもらえる機会はあまりないし、それは世界中から見てもらえるってことでもあるから。だから、ニューヨークで何かできるよう、今も色々と進めているところだ。
A: まだ取り組んだことがない分野がたくさんあると思う。僕たちはリテールでの仕事を多く手がけているけれど、それだけが僕たちがやっていることではないし、リテールだけに興味があるわけでもない。基本的には、チャンスを探して、世界の他の分野でもデザインするっていうゴールに向けて、活動範囲を広げる方法を探すのみだよ。たとえば、ホテルや駐車場や美術館など、僕たちが何かできるような他の分野には、すべて興味ある。
D: スナーキテクチャー ホテルか。それだな。
コンクリートでできた枕があるとか?
D:枕元にはね。携帯を置くベッドサイド テーブルの上でもいいな。



Nick Rhodesはニューヨークを拠点に活躍するライターである
- インタビュー: Nick Rhodes
- 写真: Adrian Crispin
- 画像提供: Snarkitecture