Supremeのスケーター、ナケル・スミスが世界を巻き込む
LAを拠点に活躍する『ミッド90ズ』のスターが全領域に進出中
- 文: Molly Lambert
- 写真: Jill Schweber

ロサンゼルスのサンセット ストリップでナケル・スミス(Na-Kel Smith)に会ったとき、彼からは、周囲のランドマークに負けず劣らず陽気なエネルギーがほとばしっていた。スケーター兼ミュージシャン、俳優でもある青年は、近頃は楽しみと熱狂の無限ループに乗っており、プロ スケーターとしてのツアーと、自らのミュージック ビデオ制作の合間に、アール・スウェットシャツ(Earl Sweatshirt)と一緒にコンサートツアーを回る日々だ。
25歳のスミスには、Supreme、adidas、Fucking Awesomeといったスポンサーがついており、その刺激が詰まったスケジュール表は、そのまま彼個人の着こなしにも反映されている。通りで私に声をかけた彼は、ヒョウ柄プリントのHush Puppiesにジーンズ、そして「MOMMY, CAN I GO OUT AND KILL TONIGHT?」と書かれた白のミスフィッツ(Misfits)のTシャツを着ていた。首には、自身のニックネーム「NAK」と書かれたダイアモンドのネックレスがぶら下がっている。髪は半分ブリーチされていて、顎ヒゲはカオスだ。

Na-Kel 着用アイテム:クルーネック(adidas Originals by Alexander Wang)
スミスのアパートは、バッファロー ウィングやサンドイッチを出すカジュアルなファスト フード店が並ぶ通りの先にある、ビルの中のプレハブ ユニットだ。彼の恋人でモデルのダイモンド(Dymond)が、ジョーカーのTシャツに黒のサイクリング パンツ姿で入り口のドアに立ち、私たちを待っていた。中に入ると、スミスの貴重な持ち物が祭壇のように並べられている。スケートボード、ルネサンス期の絵画のような、自らのシグネチャー モデルのadidasを履いた自身の巨大ポスター、ジェイソンのマスクやチャッキーの人形といったホラー映画グッズ、さらに特大サイズのピンクのテディベアもある。キッチンのアイランドは、Supremeとadidasから送られてきた小包で埋もれている。水槽の中では、フランクリン・ビルと名付けられたカメが泳いでいる。スミスがスタジオとして使っている2つ目の寝室のスピーカーからはYGのサウンドトラックが流れ、モニターには『タイニー・トゥーンズ』の映像が再生されている。ダイモンドはスタジオの中に座り込むと、皿の上でマリファナの葉を細かくほぐし始める。
スミスは、ロサンゼルスのサウスセントラルで母親に育てられ、家族は今もその地域に住んでいる。世界中をスケートのツアーで回っているが、スミスはずっと、住むのはやはりカリフォルニアがいちばんだと思っている。「以前、ニューヨークに数週間いたことがあるんだ。ペースがすごく早かった。自分がL.A.出身だと痛感した。あそこでうまくやっていける処世術を身につけるのは大切だとは思ったけど、自ら身を置きたいと思える場所じゃなかった」。彼は、自分の決断は実用的な見地に基づくものだと言う。そしてこれは、彼の考え方に通底するテーマのようだった。独学で音楽を学んだのは、「歌を作る方法を学びたかった」からだ。「映画に出演するのはどんな感じなのか知りたかった。だから実際に経験してみたんだ」
スミスが話しているのは、ジョナ・ヒル(Jonah Hill)の監督デビュー作、『ミッド90ズ』で彼が演じた大役のことだ。演技に初挑戦したこの映画で、彼はスケートと同様、演技における天賦の才能を存分に発揮した。大人になる過程を描いたこの映画で、彼のカリスマは非常に目を引いたが、すぐにも映画の世界に戻りたいかというと、本人はまだ確信が持てない様子だ。「子どもの頃、母さんに子どもモデルや俳優養成所みたいなのに連れて行かれてたんだ。ああいうの、俺の趣味じゃないんだよ」と言って笑う。「オーディションに出るのも嫌いだった。あれが熾烈な競争の世界なのは、わかってる。でもすごく変な感じがするんだ。なんていうか、『ここに俺を入れてくれ、そうすれば最高の仕事をしてみせる』と言いながら、実は、自分がやりたくもないことで最前を尽くそうとしてるみたいな」。そしてさらに続ける。「だからこそ、『ミッド90ズ』は素晴らしかった。脚本を読んだとき、そこにある感情をまざまざと感じ取れたからね。この映画に出たいと思った」。彼は友人たちからレイの役を推薦され、ヒルはその役に彼を選んだ。「間違った俳優が使われてゴミみたいな映画になんて嫌だったから、良かったよ。ひとりひとりが、本当にふさわしい役をやってた。だから、すごかったんだ」。ダイモンドが、私たちのいる屋外のパティオに続くドアを開け、巻いたばかりのマリファナを手渡す。そして彼はインタビューの残りの時間、ずっとそれを吸っていた。
スミスは『Mid 90s』のためにスケートボードを6週間休み、その後、Supremeのスケート ビデオ『Blessed』の撮影を行った。「毎日滑りに行って筋肉を使う生活だったのが、こんなにも長い間離れて技をやらなかったせいで、俺のマッスル メモリーがちょっと狂ってさ。あれは、怖いよ」。プロになった後でさえ、彼はまだ自分の真の力が発揮できていないと感じている。とはいえ、『Blessed』では、スケーターとして自分が持てる最高の能力を見せることができたと考えている。「俺にとってはトリックをきめるのも大切だし、それがどう見えるかも、そのときに何を着ているかも重要なんだ。初めてスケート ビデオを見たときに思ったんだ。俺ってカッコいいじゃんって」。そう言うと、チェシャ猫のようなニヤニヤとした彼の表情が、満面の笑みへと変わる。
彼はまた監督の仕事にも関心がある。スミスは、腕に初代『ハロウィン』のポスターのイメージのタトゥーをしている。「10代の頃は、ホラー映画しか見てなかった。あの頃は、世界中めちゃくちゃになってしまえと思ってた」。映画と音楽に対する彼の興味と影響は、母親ゆずりだ。母親が息子にスレイヤー(Slayer)などのバンドを教えた。彼が初めて連れて行かれたライブは、ハリウッド パラディアムでのスリップノット(Slipknot)のコンサートだった。「俺たちの親子関係はすごく変なんだ。でもそれによって今の俺がある。好きなものも、物事に対する考え方も。衝突するときから、いちばん気持ちが通じるときまで、いつも俺たちの考えは似てる」。だが10代の頃は、このカッコいい母親の趣味に常に納得していたわけではないと言う。「断固として認めなかった。だけど、こっそりメモは取ってた」。そうせざるをえなかった。なぜなら、テストがあったからだ。「ブラック・サバス(Black Sabbath)のTシャツを着てたら、母さんが俺の部屋に入ってきて、『ブラック・サバスのアルバムを5枚挙げてみろ』って言うんだ」。自分が作る映画のアイデアについては、彼は多くを語りたがらない。ただ「作るなら、多分ホラー映画か一筋縄ではいかない映画かな。思いがけない展開でショックを受けるような、そういう映画が好きなんだ」と言う。
スケートがオフのときは、彼が情熱を注ぐもうひとつの活動、音楽に取り組んでいる。スミスの初アルバム『Twothousand Nakteen』が今年1月に発売された。今は、Pro-Toolsの使い方を独学しつつ、ビートメイキングに取り組んでいる。音楽活動を始めたときから、彼はヒップホップ集団、オッド・フューチャー(Odd Future)と繋がりがあった。ロサンゼルスの超正統派ユダヤ人地区からストリートウェアのメッカへと姿を変えた、フェアファックス アベニューに入り浸っていて、オッド・フューチャーのメンバーに自然と知り合ったのだ。スミスは、あの2000年代の短い期間について話す。当初、人が集うのが難しいことで有名なこの街で、ロサンゼルス中のキッズの間で若者が集まる場所として、この通りは人気が出たのだった。「スケートパークの面々にフェアファックスでも会ってた。それからは、顔なじみってやつだ。いろんな人に知り合うようになって、あいつはカッコいいな、一緒に遊ぼうぜってなって。俺の場合も、そういう感じだったと思う」
だが、有名ストリートウェア ブランドがフェアファックスに移ると、その状況は大きく変わった。「あれはごく短命の黄金時代だった。今じゃ、動き回ることすらできない。前のあれは、特別だったんだ。大通りだけど、たまに人けが少ないことがあって、そこに潜り込むことができたから」。そしてサウスセントラルからフェアファックス地区に行く遠距離のバス代のため、小銭を貯めていたことを思い出す。バスを途中で降りて、スケートすることも多かった。フェアファックスに通えば通うほど、多くの人と知り合うようになり、すぐにスケートボードや食べ物を無料で手にいれるコネを持っている友人もできた。彼は初期のフェファックスが消滅してしまったことを嘆く。そのシーンは、60年代のサンフランシスコのヘイト アシュベリーのように、ほんの短期間だけ花開いた。だがすぐに、そこを見つけたワナビーで溢れてしまった。「すごくいいシーンだった。誰にもちょっとした得意分野があった。でも誰もが仲良くしてた。ハリウッド、サンフェルナンド バレー、ビーチ近く、サウス セントラル、イングルウッド、ダウンタウン、どこの出身でも、誰もが繋がれたんだ」
「俺はこの精神やシーンをロサンゼルスに取り戻したい」。スミスは自身の音楽について言う。「俺は、スケートボードのレーンで作り出すみたいに、音楽でも自分自身のサウンドを作ろうとしてきた。わかるだろ?」彼は攻撃的な音楽を好む傾向にあると言う。「それがスケートの感覚だから。闘ってる感じなんだ。簡単じゃない。簡単そうに見せるのは特にね」。最近の彼は、より感情に訴えるような楽曲を作っており、ボーカルもやってみたりする。友人のアール・スウェットシャツや、今年初めに、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)が『Igor』を発表してからは、特に彼から影響を受けている。どんなジャンルでも、その時々の流行りのスタイルや、ひとつの型にはまるのを嫌う友人タイラーの姿勢について、「とにかくゾクゾクしたよ。こんなにスゲエのかって」とスミスは話す。
そして、新たな分野をマスターするのが好きだと話す彼は、「あらゆることを学びたい」と言う。それを雪だるま式の効果と比較しつつ、それは、むしろゲームの「塊魂」に近いものだと説明する。「塊魂」はカタマリを動かしてアイテムを巻き込みながら進むゲームで、最初はヘアブラシのような小さなモノから始まるが、それがどんどん大きくなり、ついには山のような大きなモノまで巻き込めるようになる。「成長が止まることなんてないような気がしてる。だって、成長して自分自身になるんだから」
Molly Lambertはロサンゼルス在住のライターである
- 文: Molly Lambert
- 写真: Jill Schweber
- スタイリング: Juliann McCandless
- 制作: Jermaine Kemp
- スタイリング アシスタント: Emma Collins
- Date: August 09, 2019