Rick Owensの道化プリンス

パフォーマーでありRick Owensのアンバサダーである ヴァーニャ・ポルニンが、現代社会における道化師の位置付けを語る

  • 文: Adam Wray
  • 写真: Rebecca Storm

初めて会ったとき、ヴァーニャ・ポルニン(Vanya Polunin)は長いグリーンのオーバーコートを羽織り、イヤーフラップが翼のようにまっすぐ突き出したピンクの帽子をかぶり、大きくて丸くて赤い鼻を付けていた。ちょうど仕事をしているところだった。ポルニンには様々な顔があるが、そのひとつが道化師なのだ。現在は、父親スラバ(Slava)を座長に、楽しくて間抜けな一連の寸劇を展開する「スラバのスノーショー」をツアー中。ポルニンは、Rick Owensファミリーの一員でもある。先ず2012年春夏シーズンの前にモデルとしてブランドに入り、その後セールス チームへ異動した。

モントリオールでポルニンとお茶を飲みながら、演劇の重要性と黒が嫌いな理由について対話した。

アダム・レイ(Adam Wray):

ヴァーニャ・ポルニン:

道化師と聞くと、北米ではふたつのことを連想します。普通のサーカスの道化師か、スティーブン・キング(Stephen King)の「IT」に出てくる道化師。今の世界で、道化をどう位置付けますか?

僕たちの使命は、みんなを子供の頃の状態に戻すことだ。想像や空想を膨らませる状態。ショーはあらゆる人のためのものだけど、僕は大人が来てくれる方が好きなんだ。子供たちはすでにその状態にいるから。子供の心はもう開いてる。大人も、物事を深刻に考え過ぎないで、たまに心を開いて遊んでみるのが大切だよ。親父の使命は、悦びの感情を表現する方法を教えることだったんだ。

このショーが誕生した経緯を教えてください。

このショーができたのは23年前だよ。僕は基本的に最初から参加してるんだ、7歳のときから。親父は大学を出た後に、20名程度のメンバーで別の劇団を立ち上げたんだけど、そこで創作した寸劇を組み合わせた構成なんだ。団員はもともと同じ学校の学生でね、やりたいことを指導できる教授がいないから、他の場所から探したアーティストに特別クラスを依頼したんだ。図書館で、何週間もかけて、仮面を使う中世イタリアの即興演劇「コンメディア デッラルテ」とかダンスとか、学べることは何でも学んだ。基本的に独学だったから、やることはどれもとても斬新だった。このショーはそこで生まれたんだ。もちろん、最初のものとは変わってるけどね。

7歳から参加しているということですが、どんな立場で参加したんですか?

色んな端役。よく、小さいときからショーに出演していたのは自分の意志だったんですかって聞かれるんだけど、大の大人が舞台の上でおどけてるのを見たら、子供は自分も一緒にやりたくなるもんだよ。

道化師にはおどけが要る

今朝インスタグラムを拝見しましたが、しょっちゅう旅をしているようですね。

色んな端役。よく、小さいときからショーに出演していたのは自分の意志だったんですかって聞かれるんだけど、大の大人が舞台の上でおどけてるのを見たら、子供は自分も一緒にやりたくなるもんだよ。

今朝インスタグラムを拝見しましたが、しょっちゅう旅をしているようですね。

ほとんど1年中、ショーをしてるからね。8〜9ヶ月かな。僕は、そのうち6ヶ月はやってるよ。

育ったのは?

ロシアを出たのは、僕が7歳のとき。1993年にロシアでショーを作って、ロシアとパリで初演して、その後、シルク・ドゥ・ソレイユ(Cirque Du Soleil)に参加するためにモントリオールへ来たんだ。23年前に「アレグリア」に出演した。最初から、家族全員でモントリオールへ来たよ。親父のリハーサルが終わった後は、ツアーに出た。僕も小さな役を貰った。即興の自由はなかったけどね。どのショーも、全く同じじゃないとダメだったから。

それは、道化と正反対のように思いますが。

親父にとっては、すごく窮屈だった。道化師にはおどけが要る。観客から何かを聞き取って、それに反応しなきゃいけない。僕たちのショーが23年も続いて、今でも新鮮に感じられる大きな理由のひとつは、即興があるからだよ。ふたつとして同じショーはない。同じメンバーが、同じ役柄を演じて、同じことをやり続けたら、沈滞して、観客もそれを感じ取る。だから、メンバー全員が全部の役を理解した上で、毎日入れ替えるんだ。ツアーに参加するメンバーも入れ替える。僕は今、君が昨日見たメンバーと一緒にツアーしてるけど、多分、次のツアーには参加しない。お互いに会えなくて恋しくなる時間があるから、ツアーは毎回刺激的だし、新しいエネルギーがある。それが、本当に力になるんだ。

もうひとつのビジネスにも携わっていますね。外側から見てると、まるで家族のようなRick Owensブランドです。どうして、あの世界に関わるようになったのですか?

僕の最初の夢は画家になることだったんだ。アート スクールでは彫刻を勉強してたけど、ファッションは大好きだった。それで、ファッションの世界にいちばん近付ける方法はモデルになることだと思ったんだ。大学でファッションを勉強してた友達のために、撮影モデルをしたよ。撮影は好きじゃなかったけどね。カメラの前に立つのはすごく嫌だった。道化師が舞台で緊張するなんておかしいんだけど、仮面がないから、恥ずかしいんだ。だけど、スタイリストとかフォトグラファーとか、そういう人たちのまわりにいるのは好きだったね。

みんないい感じの人たちですよね。

すごくいい人たちだよ。僕はモデル事務所を探したんだけど、なかなか見付からなかった。典型的なモデルの型にはまらなかったんだと思う。それで誰かが、変わった男の子ばかり集めてるっていう「Tomorrow Is Another Day」を教えてくれた。僕にぴったりだ、って友達に言われたよ(笑)。それで最初にもらった仕事がRickで、ショーのトリを務めることになった。それが、2012年春夏シーズンの「Naska」

彼のことは、前からよく知ってましたか?

うん。僕が好きな数少ないデザイナーのひとりだった。RickとJohn Gallianoが好きだったんだ。Gallianoはショーが演劇的だったから。服はほとんど着れるもんじゃないけど、彼の個性にすごく興味を感じた。Rickは、やること全部が過激だった。それが好きだったんだ。

他のブランドからは声がかからなかったね。誰も僕を使いたがらなかった。でも、それでも良かったんだ。Rickのところが好きだったから。他のショーに出ようが出まいが、本当にどうでもよかった。何シーズンかショールームをやって、みんなと友達になったよ。外から見ると、Rick Owensの集団はちょっと威圧的に見えるけど、みんな人を引き付ける魅力がある。よく知り合うと、みんなとても優しくてとても親切だって分かった。本当、小さな家族みたいな感じ。だからもっと関わる必要があると思って、コマーシャル部門のディレクターのルカに手紙を書いたんだ。僕はロシア語を話すし、Rick Owensにはロシアのクライアントがたくさんいるけど、ロシア人の販売員は少ない。だから多分僕が役に立つ、って。Rick Owensの仕事をして、5年になる。

道化師が舞台で緊張するなんて おかしいんだけど、 仮面がないから、恥ずかしいんだ

今でもモデルをやってますか?

それほどやってない。ショーは好きだよ、パフォーマンスだから。大音響の音楽で、テンションが最高潮になる。でも僕は撮影が嫌いなんだ。ポーズをとるのは嫌いだ。

道化師とモデルに接点はありますか?

ああ、ファッション ショーは役を演じることだからね。自分がインプットできることはあまりないけど、キャラクターを演じることに変わりはない。Rickのためにやってる仕事も、役を演じることだ。完全に違う人間にならないきゃいけないから。今日の僕は、カラフルな服を着ていてハッピーだけど、Rickのところでは、僕はシリアスで、全身黒づくめ。やるのは1年で4回だけだけどね。Rickで仕事をしているのは、もうひとりの自分なんだ。現実世界の僕は黒を着るのが好きじゃないから、なんて言うか、ちょっと後ろめたい快感だな。でも1年に何週間かだけなら、良い気分だよ。すごくクールに見えるし。

どうして黒が嫌いなんですか?

まわりにいる人をハッピーな気分にしないから。黒い服を着ている人を見ると、ああクールだなとか、お洒落だねとか、ちょっと威圧感を感じる。でも、黒を着ている人を見て、「ああ、良いなぁ!」なんて絶対思わないよ。

黒については、山本耀司の有名な言葉があるんです。「黒は傲慢であると同時に謙虚でもある。黒はこう言っている。『お前の邪魔はしない。だからオレに構うな』」

じゃ、僕が気に障るだろうね(笑)。色は笑顔を引き出すんだ。例え僕のことを笑っていてもね。同時に、色は僕が身に着ける仮面だ。僕はとても内向的で、本当はすごくシャイなんだ。だから僕にとって、色を着るのは僕から注目を逸らせること。洋服にみんなの目が行って、僕は目に入らなくなる。

  • 文: Adam Wray
  • 写真: Rebecca Storm