仕事の未来
ユニバーサル ベーシックインカムと自由の哲学
- 文: Romany Williams
- 写真: Étienne Saint-Denis

アーサー・C・クラークは、古典小説『2001年宇宙の旅』の中で「仕事はどんなショックにも効く薬だ」と書いた。今日、私たちはショックの文化を生きている。恐ろしい極右のレトリックが増大し、地球全体で政治システムが激変している。この中で私たちは選び抜かれたライフスタイルの脆さに呆然とするばかりだ。仕事は気を紛らわしてくれるだけでなく、生き残るための手段でもある。ただし仕事が見つかる保証はない。この問題に着目している人に言わせれば、心配すべきことは多々ある。大きく開いた経済格差と自動化された何千という仕事の間で、ミレニアル世代は新たな「失われた世代」になる危険があると、経済学者たちは警告する。
マーク・ザッカーバーグは、2017年5月に行われたハーバード大学卒業式の祝辞で、「どの世代も平等の定義を広げてきた。そして今、私たちの世代が新たな社会契約を定義する番」であり、ミレニアル世代の課題とは「誰もが目的意識をもつような世界を創造する」ことだと述べた。この世代にとって、目的意識の大部分は仕事に由来する。これが「自分ブランド」である。だが、自分の夢を追及するチャンスを得られる人はごく一握りだ。それに仕事で成功したところで、本当に自分の人生を生きる自由があるのかといえば、それもまた疑問だ。
経済格差をなくすひとつの方法として、ユニバーサル ベーシックインカム、またの名をUBIがある。ベーシックインカム世界ネットワークの共同創立者でロンドンの東洋アフリカ研究学院開発学科教授でもあるガイ・スタンディング博士によれば、このコンセプトの起源は、13世紀の昔にまで遡る。これは政府による社会保障の形態のひとつで、すべての国民に対して、勤労所得とは別に、最低限の生活を送るのに必要な金額を無条件で毎月支給するというものだ。これまで、インドからカナダまで各国で試験運用が行われ、現在も継続中である。いずれもUBIの可能性を示しており、イーロン・マスクやビル・ゲイツなどもUBIを支持している。ハーバード大学の演説でザッカーバーグは「ユニバーサル・ベーシックインカムのような考えの探求を進め、誰もが新しいことに挑戦できるような柔軟性を持てるようにすべきだ」と話した。

モデル着用アイテム:ブーツ(Lemaire)、ジャケット(Acne Studios)、セーター(Acne Studios)、ジーンズ(Wheir Bobson) / 冒頭の画像のモデル着用アイテム: ジャケット(Loewe)、タートルネック(Issey Miyake)

目下、UBIは自動化の結果として予測される大規模な失業問題を緩和する方法のひとつとして検討されている。専門家は、将来、ポスト労働時代が来ると警告する。だがこれは単純労働に従事する多くの人にはすでに現実となっている。この種の破壊的イノベーションからは誰も逃れられない。ロボットが思考方法も習得しつつある今、単純作業ではない頭脳労働さえも危険に晒されている。UBIはこの手の解雇の場合のセーフティーネットにもなりうる。
私たちが着ている服のスタイルのほとんどは、労働者階級のニーズから生まれた。だが今日では、デニムやキャンバスの実用面も、その機能性よりも美的観点から魅力があると考えられている。肉体労働のなくなったポスト労働時代の未来には、一体どんな歪んだ作業服が考え出されるだろうか?Craig Greenはすでに作業服にインスパイアされた服をデザインしている。これは本物の職人技への回帰を切望する、幻滅した労働者たちのユニフォームとなりうるだろう。自動化された産業を新たに発明するたび、私たちはさらに新しく、実用性を最大に高めたテックウェアを求めるようになるのかもしれない。世界滅亡後の気分には、AI産業のために作られたギアが完璧にしっくりくるはずだ。HYPEBEASTのコメント欄には「オバマケア(医療保険制度改革法)が廃止されても、テックウェアがある」とある。

モデル着用アイテム: ジャケット(Craig Green)
ノスタルジックな未来派の時代に、私たちが回帰するのは、ビクトリア時代のシルエットに似たLoeweのパフスリーブのジャケットなのかもしれない。階級格差が広がるにつれ、18世紀の上流階級の美意識に基づいた衣服が、無職のミレニアル世代と、繁栄を続ける上流階級のエリートたちのユニフォームとなる。

モデル着用アイテム:ジャケット(Loewe)、タートルネック(Issey Miyake)
億万長者たち唱える、経済格差に関する主張に対し、我々は懐疑的であるべきだろうか?UBIの熱心な支持者の多くは、人間がやっていた仕事に取って代わる技術を作り出した張本人たちなのだ。彼らの関心の矛先は、そもそも経済格差を生み出している根本的な問題を解決することよりも、起業家精神を称揚することの方に向いているようだ。技術革命は常に生みの苦しみを伴うものだから、そのうち自動化によって古い仕事に代わる新たな仕事が生み出されるという人もいる。ここで起こる可能性が高いのは、技術の進歩にもかかわらず、労働者は同じ給料で同じ時間労働し続けるということだ。誰もが起業家となりユートピアのような社会が訪れるというのは一面的な見方でしかない。これらのシステマティックな理想からの解放の手段としての平等というのはどうだろう?
「UBIは自主参加型の資本主義だ。一方、現在の資本主義は強制参加型の資本主義である。この強制参加型の資本主義のモデルは、自由な社会に対する侮辱である」と、『Independence, Propertylessness, and Basic Income: A Theory of Freedom as the Power to Say No(独立、無所有とベーシックインカム:ノーと言う力としての自由論)』の著者で、ジョージタウン大学SFSカタール校の政治哲学の准教授カール・ワイダークイスト博士は言う。「資本主義は、すべてのリソースを所有する人々を中心に回っており、その下位にある他の人々は、ただこれらのリソースを利用するしかない。我々の多くは、資本家としてではなく労働者として、何年もの間この資本主義システムに参加することを余儀なくされる。ベーシックインカムは、これに対してノーという力を与えてくれる。『私は働きたいから働くのであって、ホームレスや飢え陥る恐れがあるからではない』と言えるようになるのだ」

モデル着用アイテム:セーター(Raf Simons)、トラウザーズ (Stone Island)
「ロボット工学によりもたらされる余暇の可能性はすばらしいものだ。ただし、我々がその余暇を取ることが許されるのであればだが。実際には我々の多くはそれを求めることはできない。週40時間、年50週労働しなければ、収入はまったく得られないのだ」とワイダークイスト博士は言う。「誰もが自動化による恩恵を享受できるべきだ。この40年間で仕事をしたことがあるなら、このめざましい経済成長を促進するために何らかの貢献をしたのだから」
慢性的に経済的に不安定だと心が蝕まれる。自由の感覚は、大自然の写真であふれるInstagramのフィードによってもたらされるのではないし、会社の出世コースをひた走っていれば得られるものでもない。適度な報酬が受けられず、労働者の権利が守られないために、常に欠乏状態のマインドセットでいることは、人々の精神衛生の問題を悪化させる。そして社会情勢や政治情勢はますます不安定になる。歴史をみれば、これらの状況を変化させるには、人々が結集するしかないことは明らかだ。「(世界の富の大半を所有する)超富裕層は人類のたった1%しかいないことを忘れてはならない」とワイダークイスト博士は言う。「残りの99%のことも考えなければ」
ロマニー・ ウィリアムズはSSENSEのスタイリスト兼アソシエート エディターである
- 文: Romany Williams
- 写真: Étienne Saint-Denis
- 写真アシスタント: Melissa Gamache
- スタイリング: Romany Williams
- ヘア&メイクアップ: Ashley Diabo / Teamm Management
- モデル: Daria / Folio, Daynis / Another Species
- 制作: Jezebel Leblanc-Thouin
- 制作アシスタント: Erika Robichaud-Martel