ユーザー体験:
ローズボール フリーマーケット

ロサンゼルス最大のビンテージ セールが行われる大人の遊び場に潜入する

  • 文: Erika Houle
  • 写真: Erika Houle
UX: The Rose Bowl Flea Market

3月半ば、日曜の午前3時のロサンゼルス。携帯アラームがけたたましく鳴り、待ちに待った究極のショッピング遠征が始まる。9万席を誇るスタジアムの周りで毎月開催され、セレブも集まる、ローズボール フリーマーケットへ出発だ。ミッドセンチュリーのコーヒーテーブルから、90年代のトレーディング カード、ヒマラヤ岩塩のランプまで、あらゆる物で溢れるフリーマーケットの迷宮を極めようと私の血が騒ぐ。常日頃からショッピングモールをうろうろするのが好きで、ボクシング デーのセールはスポーツだと考えているような人間にとって、ホームページの謳い文句にあるような「世界で最も特別なフリーマーケット」で「スター御用達」のイベントを訪れることは、人生をかけて訓練を積んできた難関へのチャレンジに等しい。

UX: The Rose Bowl Flea Market

早朝から入場できる20ドルのVIPチケットを購入すれば、あと2時間足らずで2万人以上が訪れるフリーマーケットへの扉が開く。唯一の気がかりは、この遠足が私の銀行口座に与える影響だ。ウェストポーチの準備が整い、弁当のバナナも持って、私のエネルギー レベルは急上昇する。Lyftで車を呼び、おびただしいガラクタの渦に向けて出発だ。

チケット売り場に到着すると、ちょうど午前5時過ぎだった。空はまだ暗く、ぼんやりとしたスタジアムの照明が、駐車場の濡れた地面に反射して不気味な光を発している。チケット売り場には誰も並んでいない。従業員のひとりが、今日は常連客の多くをまだ見ていないと話しているのが聞こえてきて、もしかすると私は何か重大なものを見逃したのだろうかと考える。とにかく私はチケットを購入し、特徴のあるエリアごとに色分けされたマップが載った、山積みのパンフレットを手にする。最初の目的地? フードコートだ。そこで4ドルのドリップコーヒーをゲット。そこから「ホワイト エリア」、ビンテージ デニムやワークウェア、軍払い下げのミリタリーウェアの深淵へと直行する。業者のほとんどはまだ店舗設営の最中で、トラックいっぱいに詰め込まれた服を、防水シートの下のメタルラックに並べているところだ。防虫剤とマリファナが混ざったような臭いがする。そしてその霞の中で、私は自分の犯した最初の間違いに気づく。ヘッドライトだ。ここでは、玄人っぽく見える人は全員がヘッドライトをつけているのだ。理想的環境にほど遠い状況の中でのショッピングにかけては、この人たちは腕の立つベテランだ。私が完全に新米の気分で、携帯のしょぼいフラッシュライトで照らしながらHarley Davidsonのアイテムを探し回る中、彼らは私の3倍のペースで次々と選別し、カーゴパンツやメタリカ(Metallica)やスレイヤー(Slayer)のTシャツでカートを一杯にしていく。これはどう見ても、彼らにとって初のローズボールではない。

UX: The Rose Bowl Flea Market
UX: The Rose Bowl Flea Market

日が昇り始め、ヘッドライトとそれを身につけた人々が徐々に姿を消していく。スタジアムの照明が消え、日光が照りつけると、会場は全く別の姿になる。一度は把握したかに思えた、位置感覚が失われる。2,500以上に及ぶ出店者の海にもまれ、どういうわけか、私は最初に見たテントに戻ってしまっている。だが、確かにここにあったChampionのフーディの巨大な棚はきれいさっぱり消えており、フリースのベストやポロなどの新たなアイテムで埋められている。この区画にいるバイヤーたちが、サイドスプリットのパンツに、バケットハット、Supremeのバックパックに鼻ピアスといった特徴的なユニフォームを着ていることに気づき、どのくらいの時間でこの棚の商品は入れ替えられるだろうかと考える。それを見たとき、私がここに来た本来の目的は変わったことに気づいた。実際のショッピングに対する興味は消え、自分の周りにいる人たち全員を観察したいという執念に取って代わった。私の数歩前に世界一スタイリッシュな人が歩いているのに気づいた。FKAツイッグス(FKA Twigs)だ。彼女が、同じようにスタイリッシュな、見たところ全員がモデルかDJと思われるクルーと一緒にいる。私の理論は間違っていない。

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この街における私のSNS上のネットワークはそれほど広くないので、ネット友だちのジャズミン・バルデス(Jazmin Valdez)とばったり出会ったのは、嬉しい驚きだった。彼女は、ここで長年続いているビンテージ ショップ @hotcocoavintageを出店していた。彼女に現実世界で会って、今日初めてちゃんと生きている心地がした。ここは、ビンテージの『Playboy』雑誌や、やたらと高いタコスを中心に回る異次元の世界ではないのだ。こういう場所で純粋に人と変わることには、魔法のように特別なところがある。彼女としばらく話をして、私は今日初めての買い物をした。マーブルのボタンがついたデニムのグランダッド カラーのシャツだ。わずかにダメージ加工が入り、着慣らして柔らかい手触りの、ベーシックだが、ありきたりではない1品だ。数年前、ネットで偶然発見して以来、私がずっと尊敬していたジャズミンのコレクションの持つクオリティそのままだ。お金を払っている間、今度は、常に変化し続ける買い物客の集団を分析したいという衝動で気もそぞろになっていた。私の手前のテントの周りに男たちの一団が集まっており、彼らは全員がどことなく2002年頃のジョン・メイヤー(John Mayer)に似ていた。いまだにローデニムとシャンブレーシャツにRed Wingのブーツを合わせているのを見るに、近くにブリムハットの店か、あるいは職人の作るレザーのブースがあるに違いない。私の左にいたふたりの女性は、クリスティン・カヴァラーリ(Kristin Cavallari)のブランドでの販売員としての仕事について愚痴をこぼしていた。そもそも、ブランドがまだ存在していたことが驚きだ。もう少し離れたところでは、SNSのスター@jayversaceとUnited Arrow’sのポギーを見かけた。このような人たちに囲まれているなど、普段の生活では考えられない。このフリーマーケットはショッピングの場というより、新手の社会実験の場という感じがする。

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ローズボールでの人間観察はとても楽しい。ただし、その対象が自分自身になると話は別だ。まるで人を混乱させ、同時に現実に引きとどめようとせんばかりに、あらゆる形とサイズの鏡が至るところに置かれている。レアなスチームパンク サングラスを試着していようが、あてどなく歩き回りながら自分のことに集中していようが、ここでは自分から逃れることはできない。鏡に映った自分の姿を見て、まるで実物大のジオラマで作られた懐かしい別世界から引き戻されたような気分になる。それはレトロな家具の山と、草の色が染み付いた野球のユニフォームの間にある世界で、そこではどんなロジックも消えてしまう。気がつくと、スタジアムの近くの丘の方を見ていた。この場所がボールと呼ばれるのは偶然ではない。今年で50年目になるこのフリーマーケットは、あらゆるカルチャーから深刻な格差まで、ロサンゼルスの全てが詰まった社会の縮図となった。おそらくここは、ロサンゼルスでいちばん、ロサンゼルスという街がわかる博物館だ。

UX: The Rose Bowl Flea Market
UX: The Rose Bowl Flea Market

アメリカ人建築家、フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)は「世界を横に傾ければ、緩んだものはすべてロサンゼルスに落ちる」と言った。だが、ロサンゼルを横に傾ければ、緩んだものはすべてローズボールで売り物にされてしまうと考えるのが妥当だろう。あらゆるものが何らかの偽の現実の背景となっているような場所、ロサンゼルス。ここに初めて来た時のことを改めて思い返してみると、今回のショッピング遠征というのは嘘だったかもしれないが、この街の入り組んだガラクタに対する私の視点は、ファンタジーと同じくらいリアルだったことを悟った。

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Erika Houle はSSENSEのエディターである。モントリオール在住

  • 文: Erika Houle
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