次シーズンと未来のスタイル ガイド

SSENSE 2018年春夏トレンドレポート PART 2

  • 文: SSENSE エディトリアル チーム

シーズンが巡ってくる都度、ファッションの新たな勢力がひとつひとつの変化として登場する。そして、業界でもっとも影響力のあるデザイナーたちの姿勢と手法が変化するにつれ、私たちは特定のトレンドに引き寄せられ、あるいは反発することになる。2018年春夏シーズンに向けてSSENSEのエディターたちが予想するトレンドを、Part 1と2の2回に分けてご紹介しよう。


画像のアイテム:032c、Comme des Garçons Homme Plus、Gucci、Paco Rabanne 冒頭の画像:Off-WhiteSacaiHelmut LangMiu Miu

人間以後、クリスタル以前 第2弾

誰もが躍起になって使うような、時代精神を表す新しいアプリが、他の何よりも現在の絶望的な状況を物語っている。例えば、日本語のキラキラをそのまま名前にしたKirakiraというアプリは、アニメのシンデレラのようなキラキラで画像や動画を加工できる。誰もがこのアプリを使っている。誰もがほんの少しスパンコールで飾ったようにキラキラで、ほんの少しペトラ・コリンズの作品を彷彿とさせる仕上がりになる。言うなれば人間ミラーボール。明るく輝き、憂鬱や陰鬱とした空気を追い払う。ランウェイを見てみよう。Comme des Garçon Homme Plusの、あのバスケットボール パンツとブレザーのコレクション。『032c』の表紙のフランク・オーシャン(Frank Ocean)。あるいは、Paco Rabanneの全体的にキラキラで派手なコレクション、Gucciのスタッド付きサングラスや、セクシーに着飾ったジェシカ・ラビットのシルエット。時は来た。前進あるのみだ!外なる輝きを解放せよ。


The SSENSE Spring/Summer 2018 Trend Report: Part II

画像のアイテム:Faith Connexion、Kwaidan Editions

タイダイ トリップ

ここSSENSEラボ™では、大麻の合法化の増加と、タイダイがランウェイに登場し、私たちのクローゼットにも紛れこみ始めたことは、偶然の一致ではないと見ている。2018年の春夏コレクションでは、Gosha RubchinskiyやKwaidan Editions、Baja EastFaith Connexionなど、どのブランドもこの愛すべきサイケデリック プリントを取り入れている。となると、疑問が湧くに違いない。誰もが酩酊しているような世界では、私たちのファッション感覚も変わるのではないかと。気がつけば私たちはみな、ビーズのアクセサリーとビルケンシュトックに向かって漂流しているのではないかと。色あせたボブ・マーリー(Bob Marley)の描かれたキャンバス地の巾着型リュックが、2019年のイット バッグになるのだろうかと。それはまだわからない。だが、特に2017年以降の、めくるめく万華鏡のような色彩の渦をじっと見つめるのは、なんだ気持ちがいい。


画像のアイテム:Helmut LangGucci

毎日セールスマン

ついに、私たちはみな望むと望まざるとにかかわらず、常に自分自身を売り出す仕事を課されている、という事実に正面から立ち向かうスタイルが登場した。もし私たちがみな売り出し中であるなら、これは持っていた方がよさそうだ。両親のクローゼットから出して着てみたような似合わないスーツが、隠れ場所から一斉に出てきて、ランウェイに再登場している。実際には、それをさらに大げさにしたシルエットに80年代の色使い、あまり洗練されてなく、仕立ての良いミニマリズムを想像するといい。包み隠さない誠意など、もはや信用できない。だが、透明のスーツケースなら、隠すものなど何もないことを示してくれる。セールスマンならゴマをすろう。毎日がカジュアル フライデーなら、ある意味、やりすぎ感のあるスーツとサングラスこそが、新たなパンク スタイルとなる。


画像のアイテム:Kwaidan Editions、Sies Marjan

歴史的ゴミ袋

レフ・トロツキー(Leon Trotsky)からロナルド・レーガン(Ronald Reagan) まで、政治家たちが「歴史の屑かご」に言及したことは知られているが、時間のゴミ屑とは実際にはどんなものなのかを、立ち止まって考察した人はほとんどいない。ほとんどの人が読み切れないほどの速さでニュースが飛び交う現代において、突如、Sies MarjanやKwaidan Editions、 Helmut Langのコレクションに登場したツルツルの黒いプラスチック。あえて言えば、ゴミ袋シック。これは、今では次々にゴミ屑と化す山のような情報を取っておくことの魅力を表している。ノスタルジーなど退屈極まりないが、最近の出来事のゴミ箱漁りからは面白い成果が期待できるかもしれない。


画像のアイテム:Off-WhiteSacai

アートを纏う

2018年の春夏コレクションでも、ファッションにおけるファイン アートへの関心は続いている。今シーズンは、 Off-Whiteのモナ・リザ のプリントや、知名度は劣るが批評家のお気に入りのローレンス・ウェイナー(Lawrence Weiner)の作品をSacaiが採用するなど、全般的に、有名な作品の中でも特別有名な作品を題材にする傾向が見られる。これらのアートとファッションのクロスオーバーは、評価の高さの表れなのだろうか。それとも純粋にスタイルの問題なのか。あるいは、進化した資本主義の下では、芸術活動もコモディティと化すことを表現しているのか。このどれも正解でありうるし、場合によってはすべて同時に当てはまるだろう。背後にどんな思惑があるにせよ、これらは、会話を始めるちょうどよいきっかけとなるだろう。だからこそ、アートとファッションのクロスオーバーは、これほど持続性のあるデザイン戦略となっているのだ。アドバイスはあるかって?次にギャラリーのオープニング パーティーに行く際は、Off-White x ダヴィンチの「傑作」フーディを着て出かけ、このイメージの起源を知らないふりをしよう。 荒らし行為こそ、21世紀の純粋アートの形態なのだから。


画像のアイテム:Supreme、Eckhaus Latta、Balenciaga

初めて歩いたよ

フォトグラファーやアート ディレクター、スタイリストたちは、モデルと並べて立たせるために、いつでも新しい変わった物を見つけてくる。それまでモデルが一緒に並んでポーズをとったことのない、まったく異質なもの。エキゾチックな車、エキゾチックな植物、エキゾチックな動物など、枚挙に暇がない。だが2018年春シーズンは、文字通りの意味で、新たなアクセサリーが誕生した。人間の赤ちゃんだ。Balenciagaのランウェイにはモデルのパパの手をつないで子どもたちが登場し、 Eckhaus Lattaでは、ママのお腹の中にいるまま直接ランウェイを歩いた。今シーズンでは、至るところでファッション ベビーが出現している。念入りにキュレーションした生活を投影せずにはいられない昨今のカルチャーは、今では次世代の子たちまでを巻き込んでいる。彼らが「ノース ウェスト」と言えるようになるより早く、Balenciagaのソックスブーツは小さくなってしまうのだが、そんなことは気にしないのだ。


画像のアイテム:Helmut LangMM6 Maison Martin Margiela

神より与えられし身体

「もし私が節度を失っていると思うのであれば、赦し給え」と、レッドカーペットに登場するゲストたちは言うのかもしれない。次回のメットガラ(MEYT GALA)のテーマは、「Heavenly Bodies: Fashion and the Catholic Imagination」だ。これはデイヴ・マシューズ・バンドの楽曲「Crash」の歌詞にも登場する一節で、カトリック系の学校の女子高生を描いて大成功した新時代の映画『レディ・バード 』のサウンドトラックにスパイスを加えている。これはこじつけかもしれないが、ひとつ明らかなのは、神への冒涜が繰り返し登場する今年のテーマであるということだ。短すぎる女子高生の制服のスカートや前掛け、ハーネスは、神から与えられた身体を披露するものであり、他方、誇張したシャツや聖職者のローブは、ある意味、それを隠そうとするものだ。ならば、2018年は神から与えられた身体を好きなだけさらけ出すことで、その素晴らしさを祝福しよう。これは、まったく赦しを乞うたりする必要のないことだ。


The SSENSE Spring/Summer 2018 Trend Report: Part II

画像のアイテム:PradaOff-White

黒色よ、安らかに眠れ

「全身黒スタイル、ゴス ファッションの定番が死去。 享年不詳」
昨シーズン、数千万人のニューヨークのミニマリスト、グランジの若者、ストリート キッズを後に残し、全身黒の組み合わせが世を去った。ノームコアに先立たれ、ネオンカラーと原色カラーを残して、黒の単色コーディネートは、数々の議論を巻き起こしたその人生の幕を閉じた。アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)はかつて、「黒は悲しい色ではない。明るい色こそ憂鬱になる」と言った。だが、それに異論を唱える人もいる。決して着ないのは何かと尋ねられ、「全身黒」とアナ・ウィンター(Anna Wintour)は答えている。このトレンドに乗ろうが乗るまいが、今シーズンでは、ぜひカラフルな服で哀悼の意を表してほしい。あらゆる色が次のブラックになりうる。

  • 文: SSENSE エディトリアル チーム
  • 写真: SSENSE バイイング チーム