母なるスニーカー

Eytys Reveals the Anatomy of a Eytysが明らかにする、クラシックの構造

  • 文: Gary Warnett
  • 写真: Haw-lin Services

新たに登場したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話

極めて効率的にシンプルを追究したスタイルの背後には、ひとからげに把握できない複雑なプロセスがある。靴のディテール、パターン、際立つ特徴を追加することは簡単だが、シンプルなシルエットでブランドのアイデンティティを築くのは、それより骨が折れる。見た目の軽快さによって、製品を生み出した創意溢れる工夫は見逃されてしまう。マックス・シラー(Max Schiller)とジョナサン・ハーシュヘルド(Jonathan Hirschfeld)が2013年にスタートさせたストックホルム発ブランドEytysは、Motherと名付けたモデルで頭角を現した。Motherの名に相応しく、このモデルを母体として、入念に配慮を重ねた他のモデルが誕生した。どの子供も、遠くからすぐにそれと見分けられる。それにしても、ブランドを象徴する主力商品を生み出すには、一体どこから手をつけるのだろうか? ことハイエンド ブランドに関しては、昔の人気製品を高級素材で再現するだけでいいらしい。しかしマーケットの中でも、手頃な価格で、消費者の欲求を掻き立てることが要求されるインディー部門では、独自の美学を反映することが不可欠だ。

Motherの場合、アッパーとソールが50対50という興味深い比率を見逃すことはできない。一見したところ、不気味なクリーパー スニーカーの血を引いた雑種には見えない。むしろ、ラバーをふんだんに使うヴァルカナイズ製法で重いベーシック スニーカーが製造されていた往時、ゴム会社が靴の生産を兼業した時代へ、若干の誇張を加えつつ回帰したように見える。シラーとヒルシュフェルドの創作は、多少、50年代〜60年代にあらゆるアメリカのスニーカー ブランドが採用していたバンプが円形のオックスフォード デザインにあやかっている。揃って80年代に幼少期を過ごしたMotherの両親は、売れ残りが今でも十分通用する、重いアメリカ製スニーカーを称賛してはばからない。Eytysのビジョンは、ヒールの小さなストラップでスニーカーの形状を際立たせると同時に、90年代のハイテク感を添えている。外側からでは見えないシューズの内側にも、ドイツの古典的な矯正具を思わせるコルクのインソールが採用されている。実際に履いてみて初めて、フットウェアを知り尽くした通が手掛けたベスト ヒット製品であることを痛感する。ありがちな過去への賛辞とは訳が違うのだ。

Eytysのウェブサイトやインスタグラムからは、幅広い文化に対する多大な関心がうかがえる。デニス・オッペンハイム(Dennis Oppenheim)の荒々しく攻撃的な彫刻、グライムで踊る黒人や白人の少女たち、ブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)の妖艶なポートレート、「Back From Hell」のネオン カラージャージ期のRun–D.M.C。もっとも象徴的なのは、こうした世界観を現すスニーカーが、過剰を競い合うことなく、諸々のスタイルを補い合ったことだ。デザイナーにとって、仰々しくもなく匿名的でもない、というのは綱渡りのような離れ業だ。オンライン特有の誇張によって、アイコンとしての地位が瞬く間に獲得される世界において、Motherをクラシックと呼ぶのは時期尚早だ。それでもなお、汎用性や均質性は、無限の可能性を秘めたキャンバスである。活発な精神から生み出されるシンプルな靴は、常に勝利を収めるだろう。

  • 文: Gary Warnett
  • 写真: Haw-lin Services