アウトドアを広げる
Arc’teryx Veilance

ヘッド デザイナーの
カール・モリアーティが、
服と都市と自然のつながりを語る

  • インタビュー: Isaac Penn
  • 写真: (ポートレート)Arc’teryx / Kamil Bialous
  • 画像提供: Arc’teryx

バンクーバー市街からバラード入り江を隔てたノースショア、立派なモミの樹々に囲まれてArc’teryxの社屋がある。カール・モリアーティ(Carl Moriarty)は、設立当時からアパレル部門のデザイン ディレクターを務めてきた。ハイキング用ギアがメンズ ファッションに影響を与えるはるか前、都市生活者を対象にした高性能ラインArc’teryx Veilanceが誕生する前の話である。

バンクーバーは太平洋に面し、イノベーションであれアナログであれ、テクノロジーの拠点として知られる。背後に山がそびえる立地は、そこで働く者にとって、豊かなインスピレーションの源泉だ。朝はスキー、仕事は午後から。Arc’teryxのオフィスとデザインスタジオの上空はカラスが飛んでいるが、ダウンタウンの生活と抹茶ラテまで直線でわずか8キロ。Arc’teryxもバンクーバーも、共に成長と発展を続けている。雨がよく降るバンクーバーでは、ほぼすべての人がArc’teryxのアイテムを持っている。
Arc’teryx Veilanceに惹かれる都市労働者について、モリアーティがアイザック・ペン(Isaac Penn)に語る。オフィスに縛られるミレニアル世代に向けて、テクニカル ギアの「見えざる強み」を提供するブランドがArc’teryx Veilanceだ。成長著しい技術都市にあって、実に印象的な大自然とのコントラストがArc’teryxのデザイナーたちに与える挑戦は、ブランドの伝統を守りつつも、Arc’teryx Veilanceが象徴する機能ファッションで革新を発揮することだ。

アイザック・ペン(Isaac Penn)

カール・モリアーティ(カール・モリアーティ)

アイザック・ペン:山本耀司やリック・オウエンス(Rick Owens)といったデザイナーは、特定の顧客のために服を作っていたが、今はもう、その顧客を好きかどうか分からないと言っています。Arc’teryxが作るツールがトレンドやファッションになることを、どう思いますか? それによって、ブランドにはどんな変化がありますか?

カール・モリアーティ:僕たちにとって重要なのは、市場で起きていることにあまり引きずられずに、一貫して基本的な理念に従うことだ。つまり、ファッションじゃなく、工業デザインとしての視点を重視することだね。トレンドを意識するより、問題を解決する方法に注目する。時には不安定なこともあるけど、僕たちにとっては、それが堅実なアプローチだと分かってるから。

Veilanceはどのようにスタートしたのですか? 新しいラインを立ち上げる代わりに、普通のアクティブ ウェアを都市生活で着る、という提案はできなかったのでしょうか?

僕たちが持っているさまざまな技術で、どんなものが作れるか。それを追求してみたいという好奇心や欲望は、常に感じてたんだ。Arc’teryxは、主としてラミネーションと接着、そういう技術で機能性を実現して、アパレル界に貢献してきた。そういう姿勢からひとつのスタイルができあがったんだ。そして、軽くて、耐久性にすぐれて、都会空間で目立たない製品を目指すVeilanceが登場した。Veilanceを始めたのは、ひとつには、色々と探求できる自由を確保できたから。Veilanceで作ったものをサイド ライン的に発表して、色々なチャンネルで小規模にリリースして、反応を見ることができたんだ。

バンクーバーでは、今、誰でもArc’teryxのジャケットを持っていますね。でも皆が冒険的なライフスタイルを送っているわけではありません。どのようにして、Veilanceが必需品になったのでしょうか?

Arc’teryxは、都市でも十分に着られるデザイン センスで、高性能アウターウェアを作ることに成功してきた。Arc’teryxがアウターウェアを初めてリリースしたとき、早速日本で受け入れられたのも、そのせいだよ。僕たちが目指すのは、人それぞれの用途に合わせられる、もしくは色々な用途に使いまわせる、スタイル的にも優れた製品を作ることだ。ミレニアル世代は、インドア好きがマクロ トレンドかもしれないけど、アウトドアともコネクトして、インドアとアウトドアの両方を行き来したいという人たちも、まだたくさんいるはずだよ。

スポーツウェアはファッション界で地盤を築きましたが、パフォーマンス ウェアがますますファッションと一体化していく現在、今後どのように変化していくと思いますか?

ソーシャル メディアの存在がどんどん大きくなって、みんな自分のやることなすこと全部を記録するようになってるだろ。そういうのを見てると、どんな環境にいても、絶えず自分のアイデンティティを表現したいんだな、って思うんだ。以前は、例えばハイキングに行くとしたら、特別自分の外見を吟味する必要はなかった。ところが突然、ハイキングの写真をインスタグラムに投稿するんだったら、「その状況で、どう自分のアイデンティティを見せるか」って問題になる。多分、仕事に行くときや社交に出かけるときと同じくらい、考えたりチェックしたりするはずだ。場所や状況の情報を取捨選択して、常に自分のアイデンティティを見せたいっていう欲望は、アパレル界に大きく影響してるよ。

登山道具は人目につきやすいように明るい色が使われますが、Veilanceは、いつも全部、黒ですね。どうして黒一色に決めたのですか?

包み隠さず言うと、ひとつは規模の問題なんだ。規模には、商売の現実が関わってるからね。Veilanceにも、もっと色を探検できる余地があるし、将来的には、間違いなくその方向も試すよ。目下のところは、クリエイティブな欲望やビジョンというより、規模の問題だ。

ある一定の周期で客が商品を買い換えるように仕向ける戦略について、Arc’teryxはどう考えていますか?工業デザイナーとして当然、あなたは時代に左右されないギアを目標にされていますが、製品の寿命をどう考えますか?

機能的な製品にユーザーが愛着を感じるところから、長く愛される製品が生まれるんだよ。僕たちのテクニカル ギアに関して言えば、大自然の中で信頼できる道連れになれる製品を作りたいんだ。衣類にまつわる思い出も、そう。僕自身、最初のArc’teryxのバックパックをお払い箱にすることは、絶対ないよ。数え切れないほど、思い出が詰まってるからね。それが、製品を長生きさせるひとつめの要素。ふたつめは、都会であれ山の中であれ、想定した環境に十分耐えられる製品を実現すること。

衣類にまつわる
思い出

Arc’teryxの修理センターは、会社で大きな部分を占めていますね。顧客が、新しく買い換えるより修理するほうを選ぶから、主な生地を10〜15年前から保管している。Veilanceでは、その点はどう変わっていますか?

Veilanceのユーザーには、ふたつのグループがあると思う。ひとつは、品質の良いもの見分けることのできるアーリー アダプターの人たち。僕は、同じ人の同じフィールド ジャケットのファスナーを、3度修理したことがあるよ。その人はバンクーバーに住んでて、買って以来、毎年冬には決まってそのジャケットを着てるんだ。きっと、年季が入った風格を誇りにしてると思う。これからも、まだ何回も修理することになるはずだよ。その反対に、役目が終わったらすぐ引退させて、次を探すか、同じ製品を新しく買い直すグループがいる。でも、製品は、風格が出て、長持ちするように作られている。

ウェアラブルのテクノロジーについて、どう思いますか? ギアはすごく進化してきましたが、スキーヤーには、水でダメージを受けないように、いまだに携帯をジップロックの袋に入れている人がいます。

テクノロジーに関しては、僕たちは、目に見えない強みを作り出すことに焦点を合わせてる。絶えず着たり脱いだりしなきゃいけない感覚を排除したいんだ。では、どうやって見えざる経験を生み出すか? Arc’teryxは、基本的に登山ギアが中心だし、顧客は一貫した性能を期待してるんだ。だから、失敗しやすい電気装置や付属物には全く手を出さないよ。僕たちの使命は、どんなに困難な場所でも頼りになる、耐久性のある性能を提供することだからね。

個人的に、テクノロジーはアウトドア環境で役に立つと思いますか? もちろん長所も短所もありますが、スマートフォンなどのテクノロジーは、アウトドアでの一般的な経験の役に立つのでしょうか、それとも損なうのでしょうか?

ある程度は、できることを増やしてくれるね。iPhoneで、常に地図を確認できるのは素晴らしい。でも、そこには危険も潜んでる。基本的なことを学んでいないから。iPhoneを頼りにジョフリー湖から自宅へ戻るとして、暗闇の中にひとり、地図はiPhoneだけ、明かりはiPhoneの後ろにあるライトだけ。それでiPhoneのバッテリーが切れたら、どうする? 自然との触れ合いから得る恩恵を妨げる面もある。諸刃の剣だね。

  • インタビュー: Isaac Penn
  • 写真: (ポートレート)Arc’teryx / Kamil Bialous
  • 画像提供: Arc’teryx