美しきホラーを描くライアン・ウーの変身メイク

水原希子のコラボ パートナーでもあるアーティストは、ダークな楽観主義で新たな美の基準を作り出す

  • インタビュー: Erika Houle
  • 写真: Julian Burgueno

熱狂的なフォロワーを持ち、メイクアップ界の最先端を突き進む弱冠22歳のアーティスト、ライアン・ウー(Ryon Wu)と待ち合わせたのは、いかにも季節にふさわしい、ロサンゼルスの明るくうららかな午前だった。バギー パンツとオーバーサイズな黒のスウェットシャツで現れたウーは、顔の輪郭に沿ってフードをきっちりと引き絞っていた。人間としての理想の美を超越した変身で知られるウーの個性は、医療用マスクでほとんど隠されている。ソフトな錆色のシャドウが目を縁取っている。これがウーの普段の姿だ。物静かな声と温かみのある挨拶から、マスクの下で彼が微笑んでいるのが感じられる。私とウーは、倒錯したダークな魅力に心惹かれる者同士、すぐに意気投合する。ウーはニセモノの傷やカラコンが大好きだし (とはいえ、サイズの大きいカラコンを入れるときは、緊張して全身に力が入るというが)、私はといえば、グリーンの口紅とマスカラが筋を引いて流れるのが大好き。

他のメイクアップ アーティストたちは、立体感を出すコントアー メイクに磨きをかけたり「ノーメイク メイク」の宣伝キャンペーンに精を出しているが、ウーがやっているのは、不気味なミュージック ビデオ「Nobody」でシンガーソング ライターのマック・デマルコ(Mac DeMarco)をトカゲ男に変身させたり、モデルから今や業界の重要人物になった水原希子(Kiko Mizuhara)の最新ハロウィーン アイテムでコラボをしたり。このOpening Ceremony限定ハロウィーン コレクションには看護婦、魔女、悪魔、メイドのコスチュームがあり、ウーがふんだんにほどこした大量のラインストーン、付けまつげ、炎のフェイスペイントが華を添えた。

カリフォルニア州リアルトで成長したウーは、家族が地元で営んでいるヌードル ショップの手伝いが最初の仕事だった。今も、副業のモデルをやったり、「Dazed Beauty」のためにゴシック風ミッキーマウスに変身したりしていないときは、店で働いている。両親やふたりの兄弟と充実した時間を過ごせるのが、ヌードル ショップの仕事のいちばんいいところだとウーは言うが、実は豊富な視覚イメージの源でもある。食品の包装など、思いがけないところでインスピレーションが拾えるのだ。GoogleとYouTubeで独学したウーの手法は、使う製品すべての性質や相性を最大限に生かしたメイクから、完璧なひねりを加え、巧みに組み合わせた数々のスタイルの見せ方まで、細部への配慮、伝統への敬意、新たな工夫を凝らす才が基盤にある。調理用語や食用の素材が美容界の主流になりつつある現在、ウーは美と食、両方の世界の背後で仕事にうち込む。

Krispy Kremeドーナツを食べつつ、オーガニック コンブチャを飲みながら、ウーが、アートとメイクアップのおかげで心を開けること、ビューティ ヴロガー(Vlogger)の修羅場には交じらないこと、水原希子と仕事をする楽しさを語った。

人形がミューズ

いつも両親にねだって、「ブラッツ」ドールを買ってもらってた。あのファッションとメイクが大好きだったんだ。雑誌なんかで、もっと普通の綺麗なものを見るのも好きだったけど、ちょっと変わってるのもすごく可愛いと思った。ホラー映画とホラーのビデオ ゲームもすごく好きだったな。ひとりでプレイする、一人称視点シューティング ゲーム(FPS)。ストーリーのあるゲームね。

不審にはさようなら

家族は、僕がやってることを、最初は全然理解できなかったみたい。何だか知らないけど、すごく奇妙なことをやってる、と思われてた。友達もそう。口に出しては何も言わなかったけど、僕が自分で考えたスタイルで一緒に出かけると、自然にわかったよ。人の多い場所へ行くと、みんな、決まり悪そうにしてたもんね。だから、付き合うのは止めた。

コーディネートでキャラクター作り

ウィンドウ ショッピングが好き。よく行くのはBarney’s、H. Lorenzo、センチュリー シティみたいなモールや、ロデオ ドライブにあるお店。オンラインだと、ファブリックの手触りや光の反射具合がわからないもんね。メイクアップのスタイルに合わせて、同じ雰囲気で、似合うものを探すんだ。可愛いメイクのときは子供っぽい服。おっかないメイクのときは、金具がいっぱいついたインダストリアルなファッション。Xander Zhouは、独特の雰囲気があって、お気に入りのデザイナーのひとり。

ごまかしの技

前髪はビシッと決まってても、実は後ろ髪はボサボサってこともある。写真に写る前髪さえキマってたら、それなりに見えるんだ(笑)。

鬱にはドン引きビデオ

「鬱にオススメのミーム」とか「トイレに長い間しゃがんでいるときに観るミーム」とか、面白クリップを集めたのをYouTubeでよく観てる。よく出来てるのもあるよ。若い子が作ったのはユーモアが幼いけどね。時たま名作を見つける。人がみっともないことをしてる動画がツボにハマるのは、自分が子供の頃にやってたこととか、今でも知らないうちにやっちゃうこととかに思い当たるからなんだよね。日本オタクの「ウィーアブー」っているじゃない? あの人たちの動画集も大好き。僕はアニメが好きだから、ああいうのは嫌いじゃない。だけど、コスプレをやってる人たちはねぇ…。ウェブをあちこち覗いてると、ドン引きするくらいヒドイからこそいいっていう動画が埋もれてるんだ。ああいう「本物」は、世界にそれほどたくさんはないよ。

道具とテクニック

毎日のメイクアップは、目のまわりにシャドーをちょっと。ダイソーの1ドル50セントのアイシャドウ パレットを愛用してるんだけど、好きな色が売り切れの日があって、おまけに閉店だって聞いたから、そこら中のダイソーを片っ端から回って買いだめしたんだよね。だから、今もその古いのを使い続けてる。あと、人から貰ったものとかを、うまく使うんだ。最近は、超グリッターのスタイルとキラキラしたアイメイクに凝ってる。小さい鏡を使ってメイクしながら、そこら中へモノを散らかすから、後片付けに最低30分はかかる。カオス状態。いつか、大きい化粧台が持てるといいんだけどね。そしたら、メイク道具をきちんと引き出しへ収納できるじゃない? 床の上じゃなくて。

Ryon Wu 着用アイテム:シャツ(VETEMENTS)ネックレス(Balenciaga)

Ryon Wu 着用アイテム:シャツ(VETEMENTS)

業界の受け容れ度

時々、偽善を感じる。ああいうのは、絶対に要注意だね。

ビューティ ヴログの混迷

動画ブログ、観るよ。すごく楽しめる。少なくとも僕がいっしょに仕事をする人や、オンラインでフォローしてる人たちは、いつも親切にサポートしてくれる。僕の周辺には揉め事は全然ないよ。

水原希子とのコラボ

UNIFっていう会社があって、僕は何回かそこのモデルをしたことがあるんだ。その関係で2〜3年前にパーティへ行って、希子と知り合いになって、ずっとInstagramで連絡を取り合ってる。いっしょにやったプロジェクトは、ハロウィーンのコレクション。メイクとモデルをやる気ある? と尋ねられたから、「もちろん!」ってね。メイドや看護婦や魔女や悪魔があるって知ってたから、色々とルックのアイデアを考えて、グループ チャットしたんだ。それぞれのルック用に、付けまつげもカスタマイズしたよ。何枚も重ねて、フランケンシュタインみたいにつぎはぎして、小さいカラーストーンを接着して。希子は僕と僕のボーイフレンドをニューヨークへ行かせてくれたし、彼はニューヨークへ行ったことがなかったから、超感激だった。希子はアイコンだよね。いっしょに仕事をするのは、すごく楽しい。

ダークな楽観主義

終末的で、ディストピアで、未来的なのが僕の好きなスタイル。その方がやってて楽しい。みんなが同じでロボットみたいなユートピアを想像すると、そのほうが怖いよ。

母から受け継いだもの

僕の母さんは、何はなくとも、眉毛の手入れだけは欠かさない。それが僕に遺伝したんだ。

Erika Houleは、モントリオール在住のSSENSEのエディターである

  • インタビュー: Erika Houle
  • 写真: Julian Burgueno
  • スタイリング: Jake Sammis
  • ヘア&メイクアップ: Ryon Wu
  • 制作: Becky Hearn
  • 写真アシスタント: Michael Proa
  • 制作アシスタント: Mac Bradley、Daria Suvorova
  • スタイリング アシスタント: Charlotte Patt
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: November 19, 2019