時間をかけて聴く:Noah × ザ・キュアー
最新のカプセル コレクション公開に際し、Noah創設者でデザイナーのブレンドン・バベンジンが、伝説のイギリスの伝説のロックバンドへ向けた彼のオマージュについて語る。
- インタビュー: Erika Houle
- 画像提供: Noah

ブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien)が初めてザ・キュアー(The Cure)を聴いたのは13歳の時だった。最初、サーファー少年を惹きつけたのは、1979年のヒット曲「Jumping Someone Else’s Train」のアップテンポなギターリフだった。次第に彼らの音楽に魅了され、共感と尊敬の念を抱かずにはいられなかった。バベンジンは、ごく自然な形で、筋金入りのファンへと進化したのだ。大人になっても相変わらず、バベンジンは、このイギリスのポストパンク バンドの一風変わった歌詞と楽しいような悲しいようなメロディーの意味について考え続けた。「スローな音楽だ。曲の実際のテンポの話ではなくてね」と彼は話す。「一緒に時を過ごす必要があるんだ」。

30年以上経ち、12枚ものスタジオ アルバムが出た後で、ついにニューヨークのメンズウェア ブランドNoahの創設者兼デザイナーは、この音楽を、伝説的なグラフィックや膨大な文化的遺産とともに、自身の最新カプセル コレクションという形で新たな世代へ向けて、売り込み始める。ストリートウェア業界で、ツアーグッズやデザイナーとミュージシャンのコラボレーション熱が高まる中、ひときわ特異なのは、バベンジンのコレクションがアンチ日和見主義的である点だ。グラフィックTシャツやフーディーといったNoahの定番から、バベンジンが高校生のときに着ていたようなロバート・スミス(Robert Smith) にインスパイアされた水玉のシャツに至るセレクションは、むしろ純粋なファンアートの類である。音楽へ立ち返り、実際にちゃんと音楽を聴くことを、このコレクションは思い出させてくれる。
コレクション公開の2日前、ブレンドン・バベンジンが、そのコラボレーションの過程について、そして偉大なる狂気のフロントマン、ロバート・スミスの美学がNoahに完璧にふさわしいものである理由について、エリカ・フウル(Erika Houle)に語った。
エリカ・フウル(Erika Houle)
ブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien)
エリカ・フウル:まず初めに、コレクションについて詳しく聞かせてください。なぜ今なのでしょうか。
ブレンドン・バベンジン:「なぜか」は簡単なことだよ。 ザ・キュアーはずっと僕のいちばん好きなバンドだった。初めてバンドの音楽を聴いてからもう30数年は経つ。時間が経っても、今、振り返ってみると、彼らの音楽がいつもそこにあった。彼らは素晴らしい音楽をずっと作り続け、ぼくがどんな気持ちのときでも絶えず聞きたくなるバンドだったし、ライブで見ても、相変わらず彼らは良かった。去年、彼らがニューヨークに来て、マディソン スクエア ガーデンで3度のコンサートをして、どれも売り切れだったんだよ。また彼らを見に行ったけど、昔と同じで良かった。いやむしろ、さらに良くなっていたかもしれない。僕はずっと彼らの大ファンで、彼らと一緒に何かが作れるというのは、ある意味、僕の夢が叶ったようなものなんだ。特に、彼らの音楽の大部分は古くなっていて、古い時代の彼らのグッズは恐ろしいほど高額か完全にボロボロになっていて、そうでない物を見つけるのは本当に難しいからね。だから昔のものから、人々が買えるような何か新しいものを作れたら面白いだろうと考えたんだ。今後彼らが予定している特別なイベントに関連づけたわけでもない。現に、そういうものだったら多分、正直に言えば、僕のやる気が失せただろうな。多くの場合、まだ知られていないものに、光を当てて輝かせるのがいいんだ。


どのようにしてコラボレーションは現実になったのですか。ロバートに直接申し出たのですか。
これがかなり簡単に始まったんだ。通常こういう音楽関係のことは、いくつかのライセンス機関が管理しているんだけど、彼らが厄介な存在なんだ。だけど、ザ・キュアーのライセンスを管理している会社、Bravadoの代表、マット・ヴラシック(Mat Vlasic)に連絡したら、この人がすごくいい人だったんだ。「じゃ、ロバートの弁護士と連絡を取れるようにするから、彼に直接話してくれ」っていう感じで。僕たちはロバートの代理人とメールでのやり取りから始めたのだけど、早い段階からメッセージがロバートにすぐに直接届いているのは、明らかだった。ここまでロバートに近づいて話せることなんてないだろうから、僕としてはかなりすごいことだったんだ。本当にドキドキした。僕の中の10代の頃の気持ちに戻って、彼に連絡がつくなんて、もう興奮しまくりだった。実際、僕たちが進めていることに対して彼なりに意見もあって、いくつかの点については具体的なコメントもくれたんだ。だから、ちょっとしたコラボレーションのような感じもしてた。
彼はこのコラボレーションに対して、ためらいはなかったのでしょうか。それとも最初からとても乗り気でしたか。
僕は、この企画に当たり、あらかじめごく個人的なメールを送って、これをどうしても実現させなければならない理由を説明したんだ。それは、ファンとしての僕の気持ちの説明と、自分はこれで正しいことをしたいのだという事実の説明が混ざったものだった。なにせ商業的には大きなプロジェクトではないからね。いわば、好きでする仕事だよ。でも、ブランドとしてのNoahは、ザ・キュアーをよく知らないかもしれない顧客にザ・キュアーについて教え、情報を提供できるポジションにもある。若い世代の間でも人気を維持することは、誰もが目指すところのはずだ。やることだけ勝手にやっていなくなってしまうような考え方には、僕は興味がない。もしそれが良いものだったら、それは誰が何と言おうと、良いんだ。僕はみんなにそのことに気づいてもらいたい。プロセスのかなり早い段階からその点を明確にしていて、彼に疑問を挟ませる余地を作らなかったんだ。僕がSupremeにいたときに、僕たちがやったスージー・スー(Siouxsie Sioux)関連のことも話したように思う。彼らは友だちだからね。僕は、「彼女に確認してみてください。信用して大丈夫って言うと思いますよ」って感じだったよ(笑)。


いいですね。Noahの立ち位置は、リアルタイムでこの音楽を聴いて育ったのではない世代にそれを伝えるには、最適だと思います。
そうなんだ。僕たちは本当に恵まれていたというか。ひとつには、僕たちのアプローチはとても率直なものなんだ。現時点で、顧客として僕たちと何らかの取引をしたことのある人であれば、誰もがそのことは分かっていると思うよ。僕たちはある水準の信頼を築き上げたんだ。僕たちが何かについて話すとき、それが誠実なもので、僕たちが実際にそれに従事していて、決して節度を越えて何かを利用しようとしたりしない、っていうことをみんな分かってくれている。僕たちはこういうことをやるとき、勢いで進めたりしない。きちんとしたやり方でやりたいんだ。
以前、ザ・キュアーの全盛期に彼らのコンサートに行くことができなかった人は、本当に大切なものを見逃したんだと言っていましたね。Noahの顧客層の一般的な年齢を見るに、顧客のほとんどはザ・キュアーの全盛期は知らないと思うのですが、このコレクションを通して、彼らの中にどういった感覚を起こしたいと考えていますか。
僕の考えでは、Tシャツやスウェットや僕たちがやっているようなことは、単なる入り口に過ぎないんだ。みんなにはこれをきっかけにして彼らの音楽に、はまってほしい。誰もがザ・キュアーを知ってるし、誰もが「Boys Don’t Cry」を知ってる。ヒット曲はヒット曲でかっこいいよ。でも、他の、多分いちども聞いたことのないような曲にも、素晴らしいものがある。きちんと知るためには、たくさんの時間をかけてちゃんと彼らの音楽を聴き込まないと。ある曲を10回聴いて初めて、その曲で音楽的に彼らが実現したことに気づくこともある。初めて聴いたときはわからないような歌詞の意味を、何度か聴く中で理解できることもある。何であれ、それに時間を費やすほど、より深く理解できるものだよ。
つまり、服が絶えずそのことを思い出させてくれるという感じですね。
その通り。まずは彼らのことを思い出してほしい。それから、「これは要チェックだな」と感じたら、実際にきちんと聴いてほしい。そんな曲が何百曲とある。もうみんなフルアルバムを買って、最初から最後まで聴いたりしないだろ。僕はアルバムがそういうふうに作られている時代に育った。アルバムは全て詰まったフルパッケージだったんだ。洋服のコレクションとそれほど変わらないよ。コレクションを作るのも同じだ。最初から最後まで、Tシャツからジーンズ、そしてその間のものを全て作るだろう。帽子だけ取り出して、「これが私たちです」とは言えない。全てを語らなくてはならないんだ。


最近は、ジェリー・ロレンゾ(Jerry Lorenzo)とジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)とトラビス・スコット(Travis Scott)のように、ブランドとミュージシャンがコラボレーションしたコレクションが、引っ切りなしに登場しているように思います。先ほども、Supremeとスージー・スーのコラボレーションに触れておられましたが、このコレクションがこれらのトレンドと一線を画しているのはどういう点だと思いますか。違いは何なのでしょうか。
いちばんの大きな違いは、これらのアーティストのほとんどが、お金を稼ぐための商売道具として自分自身を使わせているという点だね。彼らの言い分はこうだ。「これが今はクールなんだ、音楽で金を稼ぐにはこうするんだ。なぜなら、音楽産業はもう終わったからだ。自分たちと親しい奴の中から、自分好みのセンスの人を探してきて、コラボレーションして売り出そう」。僕がいた世界の一部では昔からずっとこうだった。違いは、僕のごくごく個人的な音楽に対する思い入れにあるってことじゃないかな。業界の新しい商売の流れはあまり関係ない。これは僕たちが今までもずっとやってきたことだから。
ルックブックで、アルバム『Standing on the Beach』のジャケットに出ていた漁師だと思うのですが、ジョン・バトン(John Button)が出ているのを見て、Noahとの面白い結びつきだな、と思いました。ザ・キュアーの美学や、べったりとついた口紅に逆毛のヘアスタイルで知られているようなロバート・スミスの美学と、ブランドの美学を繋げる過程は難しくありませんでしたか。
それはなかったかな。全然難しくなかったよ。僕たちは自分たちが好きなことにとても正直にやっているんだ。もしそれが好きなら、それは僕たちに合ってるってことだ。僕たちにはこれっていうのはない。クラシックなメンズウェアだとか、パンクロックだとか、アスレチックだ、といった明確に方向性の定まった美学がない。実際、僕たちはこれら全てを同時にやってる。僕たちにこれが可能で、しかもそれが機能する理由は、いつでも自分たちにとってリアルなものにしか手を出さないからなんだ。僕たちの視点を通じて取り入れるものは、僕のチームの誰かが正真正銘そのカルチャーの一部にいて、それについてとてもリアルな方法で語れるっていうことなんだ。ザ・キュアーの場合、たとえロバート・スミス自身のスタイルはちょっと変わっていて、髪もボサボサで、メイクもしてて、何もかも僕自身のスタイルとは違ったとしても、それでもなお、僕はファンとして彼から常に影響を受けてきた。10代の頃、大きな水玉のシャツを着てたのを思い出すよ。あれは、彼が大きな水玉のシャツを着てたのを見た直接の影響だった。どういう風に見えるかなんて、大して重要じゃない。僕たちにとってはリアルだし、僕たちはファンだ。だから僕たちの美学に反するはずがないんだよ。

SSENSE Noah x The Cure

SSENSE Noah x The Cure
- インタビュー: Erika Houle
- 画像提供: Noah