アヴァンギャルド ファッションをコレクションする

ファッション コレクターからディーラーへ 転身したオクタビウス・ラ・ローザ

  • 文: Adam Wray
  • 写真: Victoria Rebelo

粒子の粗いスカイプ画面でさえ、オクタビウス・ラ・ローザ(Octavius La Rosa)の出で立ちには目が釘付けになる。「これは2000年夏のComme des Garçons。いちばん有名なメンズウェアは、たぶん、あのシーズンのパッチワークだろうな。18世紀のタペストリーの生地を、古着のように継ぎはぎしてるんだ」。彼が着ているコートは、過去10年をかけて前衛デザイナーの作品を着実に収集した、ラ・ローザ個人の膨大なアーカイブの1枚である。ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク (Walter van Beirendonck)やベルンハルト・ウィルヘルム(Bernard Willhelm)の強烈かつ独創的な作品に強く感銘を受けたティーンエイジャー時代の陶酔が、雪だるま式にふくらみ、やがて情熱を注ぐ活動になり、最後は仕事になった。25歳のラ・ローザが運営するDot COMMEは、日本やヨーロッパの少数デザイナーのヴィンテージを扱うメルボルンのブティック兼オンラインストアであり、とりわけComme des Garçonsに注力している。美術館への売却や、スタイリスト、出版界、アート ギャラリーへの貸し出しも行なうDot COMMEは、熱狂的ファンの拠点的役割を果たすと同時に、ファッション コミュニティ全体の貴重なリソースとして機能している。絶えざる売買の継続が固執される媒体において、ラ・ローザのごとく一途に愛情を注ぐ献身は、ファッションの近過去と繋がる貴重なリンクである。

執着の始まり、ビジネスへの移行、アーカイブの重要性について、ラ・ローザがアダム・レイ (Adam Wray)と対話する。

アダム・レイ(Adam Wray)

ラ・ローザ(La Rosa)

Comme des Garçonsに対するあなたの熱中は、どこから始まったんですか?

16歳で日本へ旅行に行った時から。その頃にはもう、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクとかベルンハルト・ウィルヘルムとか、ベルギーのデザイナーには興味を持ってたんだけど、日本のデザイナーは初めてだったんだ。いっしょに行った友達は僕ほど興味がなかったから、ひとりで買い物をしまくったね。かなり大金を貯めてたから、もう気が狂ったように買いまくったよ。それで、旅行から戻って来て、リサーチを始めたんだ。古いコレクションを全部調べてみた。

知識を蓄えていくうえで、何か特別な情報源があったんですか?

いちばん重要なツールはビデオ。コレクションを何度も何度も見るんだ。僕は、もう全部、そらで思い出せる。どの時期のどの服だろうと、見るだけで記憶をピンポイントできるから、すごく役に立つよ。いちばんいいのは、直に服を見ることだね。生地に触るだけで、すごく勉強になる。どの時代にどんな生地が使われていたか、そういうことが分かるようになるんだ。特定の時期には特定の生地が使われたから、簡単に年代を特定できるし、ボタンも、特定のディテールも、時期によって違うんだ。

最初の旅行では、どの洋服に感銘を受けましたか?

はっきりと覚えているのがふたつある。ひとつは、Isseyのレザーのボンバー ジャケット。ジッパーで取り外せるナイロンのインサートが付いてて、別々に着ることができるんだ。20通りぐらいの着方ができる。Kijinっていう、原宿の巨大な古着屋で見つけたんだ。もうひとつはComme des Garçonの長いチェックのトレンチコート。すごく気に入って、さんざん着たね。軽いコットンで、カラフルなチェックが斜めにデザインされてる。CommeやYohjiをたくさんストックしている新宿の店で手に入れたんだ。あそこは、もう今はないんだろうな。あれ以来、見つからないから。

その旅行の前にも、すでに何人かの前衛デザイナーに興味を持っていたとおっしゃいましたね。どうやって興味を持つようになったんですか?

インターネット。オンライン ショッピングからだよ。他に誰も同じ興味の人を知らなかったから。ベルギーのデザイナーは、たまたま見つけたんだ。まるで違う世界みたいで、衝撃だった。洋服がそんなにエキセントリックになれて、それほど強烈なステートメントを表現できるなんて、考えたこともなかった。ファッションに興味はあったけど、興味がオブセッションになってしまった。僕はちょっと偏執的なんだ。何かを見つけると、それについてとことん知りたくなる。子供の頃はコインや切手を集めてたし。コレクター気質の人間っているんだよ。どうしてかは分からないけど、僕も確実にそういう気質だな。他のコレクターと会って話していると、可笑しいよ。まるで、自分を見てるみたいで。僕と同じクレイジーな習慣があるんだ。こういう気質って、あるかないか、どちらかだよね。たぶん。

今は画像や情報にアクセスしやすくなったので、コレクターが増えると思いますか?

絶対増える。古いものを大切にしたり昔のコレクションを振り返る大切さが、理解されるようになったんだ。みんな、昔に戻りたいんだよ。スタイリストやデザイン ハウスも、過去を見返すために、自分たちのアーカイブを作り始めてる。歴史を理解するのは重要なことだよ。

コレクションを続けるうちに、自分が完全に取り憑かれていると、どの時点で気付きましたか?

150着ぐらいたまった頃かな。とにかく、どんどん増え始めて。仕方がないから、空いてる部屋に移動させて、その次に、多少の臨時収入を期待してeBayで売り始めたんだ。そこから、うまく回転し始めた。当時、eBayでComme des Garçonsをたくさん売ってるのは、僕しかいなかったからね。今はものすごく出回ってるけど、あの頃はとても上手くいった。そのおかげで、ビジネスを広げられたんだ。3年前にスタートして、1年半経ってからオンライン ショップを立ち上げて、次に実店舗をオープンした。全部の服が陳列されて、しかもそれを高く評価してくれる人たちと出会えるのはすばらしい気分だよ。ほんとに楽しい。洋服が売られていくのはツラいけどね。このメルボルンでは、奇抜な服はあまり売れないんだ。値段のせいもあるし、ほんとにエキセントリックだから。そういう服は倉庫にしまってる。店の方は、もっと日常着寄り。残念なことに、あまり長く保存できない生地もあるんだ。プラスチックとかビニールとか、90年代のテクノ系の生地だと、特にそう。時間が経つにつれて分解していくから、為す術がないんだ。

ビジネスを始めてから、コレクションに対する姿勢は変わりましたか?

確かに変わったね。僕が自分のために買ってた服は、他の人があまり興味を持たない服だった。それはすぐに学習したよ。そういう服は今でも自分のために収集してるけど、幅広い客層に受ける、もっと着やすい服を買うようになった。今は、コレクター用の服をオンラインで販売して、もっと着やすいセレクションを実店舗で販売してる。売上は、実店舗の方がはるかに大きいんだ。

明らかに、メルボルンは従来のファッションの中心地から遠く離れています。孤立していることは、重要ですか?

海外でもできたと思うけど、メルボルンにいるのが好きなんだ。ここのコミュニティに何かを貢献できるのは、嬉しいことだよ。気分がいい。メルボルンの人たちも、とても感謝してくれてるし。

最近、パリでポップアップをしましたね?

あれは、顧客を通して始まったんだ。顧客の親友がパリでスペースを運営してて、そこから話が始まった。結果は素晴らしかった。実は、本当に何も期待してなかったんだ。「とにかく、何事も経験だ」って感じで。ところが、ちょうどファッションウィークだったから、噂が広がって、すごくたくさんの人が来てくれた。スペース自体、とてもクールだったよ。ヴァンドーム広場の横の地下の駐車場。ブザーを鳴らしたらドアが開いて、下まで歩いて行くと、そこから訳が分からなくなるんだ。

Comme des Garçonsの何が、あなたをこの仕事に引き付けるのでしょうか?

ある種の自由の感覚だね。Comme des Garçonsの服を着ると、いい気分になって、今日も1日頑張ろうって感じる。何故だか分からないけど、とにかく好きなんだ。

誰かがComme des Garçonsを参考にしていたら、あなたにはすぐに分かりますね。そういうことが、しょっちゅうあるでしょうけど。

もちろん分かる。

他のデザイナーの新しいコレクションでComme des Garçonsを参考にしたデザインを見つけた時、どういう気持ちになりますか? 誰かが秘密の言語であなたにコミュニケーションしてるような、「なるほど」って感じですか?

その参考元が明らか過ぎない場合はね。でも、見え見えの場合は「いいかげんにしろよ」って感じ。でも、誰かから何かを取ってそれに自分独自の解釈を加える、それが自然の成り行きだ。

将来有望な新進デザイナーで、特に好きな人はいますか?

Craig Greenが好きだな。若手デザイナーの中では、彼が僕のお気に入り。寛いだ感じの服を作るんだ。独自の美学があるし、あくまでそれにこだわるところが、すごくいい。すっきりして、大胆で、気取りがなくて、着てみたくなる服だよ。

あなたがコレクションしているデザイナーには、何らかの共通項がありますか?

みんな、100%自分の道を進み続けて、他の人がやっていることやトレンドに左右されない。

コレクションしているデザイナーの中で、明らかに過小評価されている、あるいは十分にコレクションされてないと思う作品やデザイナーはありますか?

Comme des Garçonsのコレクションはいつも高い評価を受けているから、そうではないコレクションを見つけるのは難しい。ウォルターは、W<をやり始めてから、全く注目されなくなったね。ほとんど稼げなくて、破産したんだ。その後の初期のコレクションには、僕の好きなものがあるよ。2001年春夏コレクションの服は、全部、カットアウトされてるんだ。10枚とか15枚の生地が重なってて、それぞれに切り抜きがあって、その下の生地が見える。スゴいんだよ。これまであらゆるデザイナーが作ったあらゆる服の中でも、僕の大のお気に入りのひとつに入る。でも、あのコレクションからは何も商品が出なかったはずなんだ。単に、ウォルターの個人的なアート活動だったんだと思う。手描きの服もあったな。ウォルターはちょっと変わった存在でね、デザイナーとして敬意を払う人はたくさんいるけど、だからといって、必ずしもみんなが彼のデザインしたクレージーなジャケットを着るわけじゃない。商業気がないんだよ。もうずっと何年も、その調子でやってる。大金を稼ごうと思ったらデザインを加減する必要がある、なんてことは重々承知してるだろうけど、それでも、狂ったものを作り続けてるんだ。

あなたの仕事について、デザイナーから何かフィードバックを受けたことがありますか?

唯一連絡を取り合うのはウォルターだね。彼は、最初からずっと、とても力になってくれてる。アーカイブを手に入れる店として、Opening Ceremonyに僕たちを推薦してくれたのもウォルターだ。素晴らしいサポートなんだ。

プライベートなコレクションの最終目標は?

とにかく、コレクションを増やしていくだけ。最終地点は見えない。美術館レベルのクオリティにしたい。それがゴールだね。だから、これからも充実させていくよ。

自分のコレクションは、個人的な活動だと思っていますか? それとも、どこかの時点で一歩身を引いて、社会への奉仕だと考えるようになりましたか?

確実に個人的な活動だよ。興味がなくなったら、やめるだろうね。でも、これが僕の人生なんだ。まだまだ発掘していきたいし、もっと知りたいし、あらゆることを学びたい。衝動なんだ。ビジネスの問題でさえない。コレクションを続ける。それが、僕のやるべきことなんだ。

  • 文: Adam Wray
  • 写真: Victoria Rebelo