Cottweiler 2016年秋冬コレクションにおけるリサーチ

農業というテーマとインターネット上のフェティッシュビデオから、いかにハイパーミニマルなメンズウェアのビジョンを抽出したのか、ロンドン在住のデザイナーが明かす

  • インタビュー: Isaac Penn
  • 画像提供: Cottweiler

「未来は輝いているわけではない」とCottweilerの共同デザイナー、Matthew Daintyはいう。「数年前、誰もが未来はタッチスクリーンの電話だと思っていた。今、みんな指紋がべっとり付いた、へこんで粉々になったタッチスクリーンの電話を持ち歩いている」

農業、刑務所の屋上で起こった暴動、そしてオンラインのフォーラム上にある、泥とクイックサンド(流砂)のフェティッシュビデオ。Cottweilerの2016年秋冬コレクションは、彼ら自身によって行われるインターネット上のリサーチをもとにした、上記のようなモチーフからの引用で満ちている。最先端の製造工程と超ミニマルな現代的着こなしを得意とするハイテク・インディペンデント・レーベルを知るには、それはけっしてわかりやすい情報ではない。にもかかわらず、ランウェイショーの背後にあるリサーチや趣旨についてのカタログを含む、彼らが作るイメージは、ファッションとサブカルチャーの間にある新しい関係性を拡張している。都会のユニフォームとしてのトレーニングウェアを中心に展開するCottweilerのコレクションは、再び加工し直された新しい誠実さを提案する。

デザイナーのIssac Pennが、Cottweiler共同デザイナー2人、Matthew DaintyとBen Cottrellに話を聞いた。そして彼らは、2016年秋冬コレクションの背後にあるリサーチについて教えてくれる。

アイザック・ペン(Isaac Penn)

マシュー・デインティ(Matthew Dainty)、ベン・コトレル(Ben Cottrell)

アイザック・ペン:いつも画像はどこで見つけるんですか?

マシュー・デインティ:これまでは、YouTubeのいくつかのグループから見つけていたね。そういうグループはだいたいタグやキーワードを使っているから、フェティッシュ関連の映像にどんなキーワードが使われているのかを見極めるところから始めるんだ。われわれの新しいコレクションは、泥の中に靴を埋め込む男たちについての話なんだ。スニーカーでもブーツでも、屋外のあらゆる状況があるんだ。YouTubeで映像を探し始めたとき、そこから直接取り出すのではなく、自分たちのやり方で画像を作っていったんだ。FlickrのグループとYouTubeのコミュニティーとの間にはかなりつながりがあって、両方のサイトだけを使うユーザーがけっこう多いんだ。自分たちにとっては、それがなぜこれらの素材がフェティッシュの対象になっているのか知る方法なんだ。だから自分たちでやるんだ。自分たちのやり方でね。

mudboyuk.comにあるコミュニティーについて教えてください。

MD:それは、少し秘密のコミュニティーなんだ。だから、好きなんだけどね。たいていの人は見ないだろうね。性的な表現が含まれる物だから。だから、視聴者がすべてなんだ。何についての話かがわかる視聴者のコミュニティーなんだ。

ベン・コトレル:製品のテストと見間違われるかもしれないよね。製品テストの映像とそっくりだから。

MD:そうだね。すごく似ている。たとえば、ウォータープルーフ仕様のブーツを買おうとしたら、水や泥などのアウトドアのシチュエーションで、ブーツがテストされてる映像を見るよね。で、そのビデオには「泥」というタグではなくて、靴のモデルと名前のタイトルが付けられているよね。

BC:このコミュニティーは、いろんな意味でマニアックで技術的なんだよね。

MD:いつも探しているタグのリストがあって、何を探しているのかによるけど、自分たちのビデオを表に出すためにYouTubeの検索に引っかかるタグを付けている人がいる。そしてそのタグと同じタグを使っているユーザーがつながっているので、そのユーザーたちとつながる、そころから始めるんだ。でも、かなり不透明で秘匿的な世界なんだよ。

こうした映像を作っている人たちは、中流階級の労働者か、地方在住者ですか?

BC:いろいろだと思うよ。

MD:そうだね。それと、必ずしもゲイフェティッシュであるわけではないと言っておくことも大切だね。「フェティッシュ」というと、たいていの人はゲイと関わりがある物だと思ってしまう。でも、何年かかけてコミュニティーの中の何人かと接触してきたんだけど、彼らにはいろんな地位の人たちがいるんだ。労働者階級の文化に取り憑かれている人もいるし、その場合はNikeなんかのフェティッシュになりがちだね。でも、もっと技術的な、防水性のアウトドアウェアに取り憑かれている高齢のドイツ人男性たちもいるからね。

BC:かと思えば、農場で働いている16、17歳の青少年もいるよ。彼らはもう現場にいるわけだから、ただ自分たちを撮り始めるだけでいい。たぶん、退屈しているんだろうね(笑)。

あなたたちの昔のビデオでは、服を着たままシャワーをしている男の子たちを撮影していましたよね。そして今は、泥の美しさを扱っています。こうした、清潔なシルエットを見せるところから、物を汚すというところまでどうやってたどり着いたのでしょうか? スニーカー文化では、汚すことはタブーですよね。

MD:泥フェチに関しては、けっこうどこにでもあるものなんだ。ポルノのサイトではそういうのを見せているところもあるし、たくさんのウェブサイトがある。けど、われわれは、それとは違うものだ。けっしてポルノではないからね。われわれは、ハイテク素材が、天然素材や天然組織とどう折り合うかを考えるための糸口として使っているんだ。2016年の秋冬コレクションで、ブークレニットとセロファンを併置したのは、こうしたハイテクのウォータープルーフ素材が天然の汚れた素材にさらされることに対するわれわれの解釈なんだ。

もしムードボードがデザイナーにとっての言語だとすると、その内容はどのようにプロダクトに変換されるでしょうか?

BC:あらゆる面で、かなり忠実だと思うよ。とくに色に関してはね。ムードボードはいつも、実際に製造するときに使うカラーパレットだったり質感の反映だからね。

MD:われわれはファッションとは関係のない衣類業界についてかなりのリサーチをしているんだ。化学防護服、作業服、安全服、そしてケータリング業界で着用される服までもね。だから、リサーチに費やす間ずっと、こうした会社や製品がわれわれのムードボードの上にあることになる。いつも、その中の誰かとコラボレーションすることになるんだ。たとえば、先シーズンはセメント加工の靴を使ったんだけど、それはまず最初にムードボードに登場したアイテムだったんだ。

BC:インテリア関連の物もいつもたくさんあるよね。

MD:ある壁の仕上げについて調べているとすると、それに似た質感や仕上げの生地を探して、身に付けられるように試してみるんだ。

最新のコレクションでは、麦の風景、ガラスの風景、屋根の風景が並んでいましたが、どれも単色の世界でした。そこから、景色ですら均質的であろうとするあなたたちの姿勢が見て取れました。

MD:そうだね。コントラストの違い以外はね。麦のような場合は、育ち方によって順番を付けたりはしていないんだ。もっと自然や無秩序を感じるためにあるからね。一方で、現代的な素材の場合は、われわれが未来をどう見ているかについて表している。未来はつやつやと光っているわけではないんだ。クリーンな素材なんかではない。数年前、誰もが未来はタッチスクリーンの電話だと思っていた。けど今、みんな指紋がべっとり付いた、へこんで粉々になったタッチスクリーンの電話を持ち歩いているよね。それが現実的な未来なんだ。まったくクリーンでもなければ、技術的でも先進的でもない。自然が介入してくれば、もしくは人間が介入してくれば、瞬く間に他の物に姿を変えてしまう。われわれが試みているのは、未来に対する自分たちの考えを表現しようとすること。より現実的な方法でね。

あなたたちのコレクションはいつも連続していますね。パターンも似ているし、同じ 美意識に貫かれています。衣服の均質性とともに、そうした雰囲気の均質性にも興味があります。それについて、少し話していただけますか?

MD:われわれはいつも本能のままに、ほぼ無意識で制作しているんだ。とは言いつつも、長年かけてなぜ無意識のうちに、ある美意識に惹かれるのか理解しようとしてきたんだ。そう考えると、われわれは季節ごとにあるパターンや均質性を作り出してきたことがわかると思う。それがわれわれのアイデンティティーなんだ。けっして変わることはない。進化していくんだ。だから、そのパターンにはルールがあるけれど、同時にわれわれとともに成長し発展していくものなんだ。

あなたたちのリサーチやデザインにおけるプロセスは、とてもパーソナルでプライベートなものです。しかし逆に、あなたたちの考えと多くのオーディエンスをつなぐコミュニケーションには素晴らしいものがあります。

BC:われわれがインスピレーションを受けている物が、多くの人たちにとって馴染みがある物だからだと思うよ。誰も見たことがないような物から選んだりしないからね。いつも住まいや日常のことを扱っているから。

MD:そうだね。そして、われわれのやり方がカルトのようになってきたんじゃないかな。集団に興味があるし、集団がどのように形作られ、お互いに関係を持つために何を使っているのかなどに関心を持っているんだ。

BC:そして、彼らは互いに教育し合っているよね。

MD:いつも集団の中には、全員が共有している教義がある。もしくは、従うべき共通の理論があるんだ。それは、ハレ・クリシュナ教徒であろうとスキンヘッズであろうと、YouTubeのグループであろうとね。全員が熱中していたり夢中になっている共通の興味があるんだ。われわれのバックグラウンドにも、そういうオブセッションがあるんだ。ぼくは、幼少期になんとなく宗教的な教育を受けたし、Benの家族はテディー・ボーイ(50年代から60年代初めのロンドンの不良少年)だったりスキンヘッズ(60年代のロンドンにて頭を丸めた若者)だった。Benの父親はレイブカルチャーにのめり込んでいたし、どれも集団という考え方だよね。集団の中には均質性がある。ただ、彼らは、他の社会からは孤立しているんだ。

あなたたちは、プリントからも距離を置いてますね。なぜ、プリントよりも素材にこだわっているんでしょうか?

MD:またマニアックな話になるかもしれないけど、われわれは作ることに興味があるんだ。また、色を使わずにレイヤーや透明素材だけで光を生み出す方法にも興味を持っている。

BC:現在は、刺繍について詳しく調べているんだ。それの方がプリントよりも衣類のクオリティを高めると思うんだ。

MD:ハイテク加工をした生地に刺繍を施すことは、さっき話していた、2つの世界が衝突するというわれわれの美学に当てはまると思う。われわれの活動には、このコントラストが不可欠なんだ。ただ、それでいて調和が取れていてクリーン。われわれの顧客は、季節に応じて彼らの衣服をクロス・マーチャンダイジングできればいいなと思うよ。加えて、ロンドンはプリントで有名だから、そこからは距離を取りたいんだ。飽和状態にある物をやりたいとは思わないから。われわれが活動を始めたときに、みんなやっていたからね。

BC:一度、あるバイヤーあらもっとプリントをやるべきだって言われたんだよ。だからやらなかったんだ(笑)。

前回のコレクションの色、つまり茶色の土と翡翠を使い、黒と白からは離れましたね。それはあなたたちを自由にさせたのではありませんか?

MD:白を使うのも好きだし、黒を使うのも好きだけど、それらを混ぜたことはないんだ。初期のころ、Benとぼくが洋服を作り始めたとき、黒い服に白いプリントをしていたことがあるんだ。でも、それにはオリジナリティーがないことにすぐ気付いた。それに、われわれは長く愛されることをいつも念頭に置いている。新しい作品が、やがて時間を問わない定番になるように、長い間ずっと側にある物を作るにはどうすればいいのかをいつも考えているんだ。だから、流行は避けるようにしている。他の誰かがやっている物を目にすると、すぐにそれとは反対の方に向かうんだ。いつもコンセプトに合う色を選んでいる。2016年の秋冬コレクションなら、メインのシンボルが麦の束なので、麦色の服を作ったし、2016年の春夏コレクションも同じ。すべて白のコレクションを披露したけれど、われわれのインスピレーションを表現するために、すべてを珊瑚色でも作り直したんだ。それはハレ・クリシュナや他の宗教の衣類の規則からヒントを得ていたんだ。

それにしても、ほとんどのブランドがやっているようなポップな色は一度もないですね。

BC:全然だね。正直言うと、すごく限られた選択肢しかないんだ。いつも、青、白、ベージュ、黒の範囲の中だね。

MD:ブランドのアイデンティティーが、繊細なステートメントを発することになってきたんだ。大袈裟に見栄をはったり、必ずしも大衆の中で目立とうとすることではないんだ。時間をかけて気付いてもらうことが、われわれのアイデンティティーなんだ。

こうした人工の色とニュートラルな色がしっかり結びついているのは、どのような方法を使っているのでしょうか?

BC:それは、直感だね。

MD:そうだね、直感的なものだね。均一性に取り憑かれているという話に戻るね。

BC:数シーズン前に気付いたのは、われわれが行うリサーチは極めて強いものだったけど、自分たちで画像を作るようになると、よりそれがリアルに感じるということ。

MD:なぜなら、われわれがいつショーをやったとしても、それは常に感覚的な体験だからね。人に何かを感じさせるためには、自分でそれを体験して感じないとね。

あなたたちの顧客は、ブランドが作るイメージや製品にある誠実さに気付いていると思いますか? そして、それはどのようにしてブランドのアイデンティティーに反映されるでしょうか?

BC:何人かは気付いていると思うよ。

MD:何人かは気付いて、何人かは気づいてないね。

BC:われわれはすべての情報をさらけ出したりしないからね。それでも、もっと発見したいことや知りたいことがあるなら、調べるための素材はたっぷりある。そして、それらのつながりを見つけることもできる。

MD:情報で攻めたてたくはないんだ。われわれのインスタグラムには、2週間に1度しか投稿されない。プレスとの関係も同じ。事あるごとに記者会見的なことをやるわけではないし、インタビューも何でもかんでもやるわけではないからね。

BC:Wスタジオまで来て、自分たちで実際に見るつもりがなければ、リサーチもシェアしないからね。

あなたたちの洋服には、どのように着るべきかという決まりがあるように思います。いつも全体像があって、カバンがあり、帽子があって、トップがあって、スボンがある。

MD:そうだね。

では、あなたたちのユニフォームを買うときに、顧客は何に捧げているんでしょうか?

MD:ぴったりと釣り合う服が好きなだけなんだ、本当のところは(笑)。そういう不確実性が、われわれの均一的な部分にも含まれているんだ。

BC:でも、集団の中でサブカルチャーを作ったりアイデンティティーを作ったりすることと同じだと思うよ。どんなサブカルチャーでも、まともな集団はいつも全体像があった。頭からつま先までのね。サスペンダーをしただけでスキンヘッズにはなれないよ。ジーンズは正しく裁断して、正しいブーツを履かないといけない。わかるでしょ? 正しいCottweilerボーイになりたいなら、頭からつま先までCottweilerに身を包まないといけないんだ。他のブランドを足したりしたら、それは奇妙だよ。もちろんそれでもいいけど、君はブランドや集団の一部になるためにすべてを捧げているんだから。

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