CDG VaporMaxを
解読する
ゲリー・ウォーネットが解説する
スニーカーの先端と懐古の限界
- 文: Gary Warnett
- 写真: Othello Grey

COMME des GARÇONSとNikeがコラボレーションした「Air VaporMax」 は、2月の発売以来、スニーカーのサクセス ストーリーを展開している。考えうる理由は?心地よい異質さとでも言おうか。CDGの2017年春夏コレクション「見えない服」のコンセプトと同じく、川久保玲は「VaporMax」に関して何ら特別の洞察を与えてはくれない。現在に至るまで、我々には何の説明も、正当化も、寓話的な子供時代の思い出も与えられない。与えられたのは、ただスニーカーだけ。
関連性に満ちた世界では、「発明」より「革新」という言葉を乱用する方がたやすい。 文化を推し進めるより、文化であると主張する方が簡単なのと同じことだ。ここに、本物の「新しさ」の不足がある。CDGがNikeと初めてコラボレーションしたのは2000年。当時、Nikeの「Alpha Project」コレクションはカルト的な人気を誇っていた。そのスポーツ ブランドが、トップの座にありながら意図して奇妙な方向へ向かい、非常に向こう見ずな次製品を発表したのだから、商業的に振るわないのは当然の感があった。

モデル着用アイテム:ベスト(Shushu/Tong)、タートルネック(Noamia)、スカート(Shushu/Tong)


1987年に発表された「Air Max 1」には、新しく「エア システム」に注目を集め、競合ブランドを引き離そうとする意図が込められていた。革命的なスニーカーとして激しい売り込みを展開し、製品群の先頭に立つ任務を背負ったモデルには、初めて、目に見える形で「エア システム」を採用したデザインが採用されていた。エア バブルを応用するアイデアは初期のプロトタイプで実験されていたが、このときまでコンセプトが形になることはなかった。「Air Max 1」は、形状から色使いに至るまで、競合製品より大胆でユニークだった。同年、CDGでは、後に川久保玲と結婚するエイドリアン・ジョフィー(Adrian Joffe)がコマーシャル ディレクターとなり、「黒」シリーズがスタートし、年2回発行のマガジンが企画され、ジャン-ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)がランウェイを歩いた。NikeはBlue Ribbon Sportsとして1964年に設立、COMME des GARÇONSは1969年設立と、共に1960年代生まれだが、1981年にはCDGがパリでデビューを飾り、Nikeは大きな賭けに出た「Air Jordan」に続いて1985年に「Nike Air」キャンペーンを繰り広げて、双方の名声は1980年代に大きく飛躍した。
ミニマリズムと過多が混ざり合った今回の新作には、好奇心を刺激される。本質的に、「Air Max」シリーズは常に最大限を追求してきた。だが、CDG VaporMaxが送り出される今日の市場は、「少」を通じて「多」を求める。Nikeの大量生産モデルで、「VaporMax」ほど劇的にユニークなデザインは、長年発表されたことがない。特に、COMME des GARÇONSのためにレースのない形状に作り変えた決断は、Nikeの確固たる姿勢を示している。これに匹敵するのは、2008年、Junya Watanabeが従来の「Dunk」をバイカー スタイルにインスパイアされたジッパー付きのレザー ブーツに作り変えた「MAN」しかない。最近では、アンデルセン童話「裸の王様」の「見えない」コンセプトにインスパイアされたCDGと、アッパーに透明プラスチックを使用した「Dunk」コレクションを発表した。また、DSM New Yorkでは、ラバー スパイクを付けた月世界のハイキング シューズを思わせる「LunarTerra Arktos」が発売された。これらの新モデルはNikeに対する予想を一変したが、スリッポン タイプの「VaporMax」は既存モデルの変形であり、同じ大量生産モデルでもレースアップ タイプより、見た目がおとなしい。かつてコラボレーションでのブランディングは目につかないソックライナーに限られていたが、今や、アッパーにはヘルベチカ書体の「COMME des GARÇONS」もボーナスに付いている。「VaporMax」のシルエットは明瞭に語り、異質が思いがけない親しみを感じさせる。

着用アイテム:スイムウェア(Lisa Marie Fernandez)
今夏のMETガラがテーマに選んだ川久保玲の回顧展には、学ぶものが多くあった。しかし、COMME des GARÇONSが特に過去の勝利に関心を示さないのは明らかだ。ブランドとしても、過去にブランドに参加していた人物たちも、語るときは簡潔であり、必要は満たすがそれ以上は語らない。「Nike x COMME des GARÇONS VaporMax」は、2016年10月、2017年春夏ショーの一部として、ホワイトのハイトップ「Air Moc」と並んでパリのランウェイに登場した。CDGには他のモデルも一緒に登場させる計画があったかもしれないが、積極的な参加は得られなかったようだ。
徹底した新作ではなくハイエンドな焼き直しは、過去の愛情を復活させ、突飛な「Air Woven」のような物珍しいモデルが何らかの文化として通用した時代を呼び戻す。2000年にはまだ物心さえついていなかった消費者でさえ、今もその精神を共有できる。おそらく、我々は懐古を極めたのだろう。呼び戻され、切り刻まれ、改造され、コラボレーションされなかったものが、果たしてアーカイブには残っているだろうか? コンテンツ、収入、クリック数を求めて、文化のあらゆる側面が掘り返されたようだ。復刻版の「新作」を発表し続けた結果、過去からの逸脱は必要だった。規定路線からの方向転換は起こるべくして起きたのだ。2006年の「Air Max 360」と後続のビッグ バブル モデルなど、「VaporMax」の先行モデルは誇らしく過去と繋がっていた。だが、今回の一連のシリーズは現在、元祖「Air Max」を誕生させた基本に立ち戻っている。ただし、その美学に従っているのではない。何十年ものあいだ、我々が過去に浸っていたとすれば、ようやく今、我々がその美学に追いつきつつあるのだ。
残された道は前進あるのみ。

- 文: Gary Warnett
- 写真: Othello Grey
- スタイリング: Romany Williams
- ヘア&メイクアップ: Ashley Diabo / Teamm Management
- 制作: Alexandra Zbikowski
- モデル: Sand / Dulcedo