この記事は、「環境と共存するファッション」特集の一環として書かれたものです。
ファッションはサステナビリティの正反対にあるものだ。工場で繊維を染める染浴に何リットルもの水を使い、コットン栽培のために殺虫剤を撒き、合成繊維の衣類から出るマイクロプラスチックは海に流れ出し、ファストファッションの工場で働く人たちは悲惨な労働条件下で働かされている。その多くが、ファッションの名の下に不必要に犠牲になっているのだ。消費者主義は21世紀の特徴であり、すぐには消えてなくならないだろう。だが、それでも改善は必要だ。ファッション業界にはグリーンウォッシングが蔓延し、企業はあたかも環境に配慮しているかのように見せかける。悪質で病んだ商売だ。
1週間にわたる「環境と共存するファッション」特集にあたり、SSENSEでは20人のデザイナーから話を聞き、単にエコという流行を服に取り入れるだけでなく、真の意味で、環境に優しいブランドであるために、彼らがどのように取り組んでいるのかに迫る。

A-Cold-Wall*、2019年秋冬コレクション
「ファッション デザイナーが自分たちの活動にサステナビリティを持ち込む場合、大切なのは、自分たちの周りの環境特有のエコシステムや生産能力についてよく考えることだと思う。サステナビリティというのは、生分解性の生地や天然染料を使った染色に目を向けるだけじゃない。地域のコミュニティをサポートすることでもあるんだ」
—サミュエル・ロス(Samuel Ross)

Arc'Teryx Veilance、2019年秋冬コレクション
「グリーンウォッシングはもうたくさんだ」とVeilanceのクリエイティブ ディレクター、タカ・カスガ(Taka Kasuga)は言う。
トレンドに逆行するこのテックウェア ブランドは、より効果的な二酸化炭素排出量の削減に向け、あらゆるプロジェクトや取り組みに力を注いできた。原液着色、再生原料、動物実験を行わず動物福祉に対する配慮、有害な化学物質を含まず、大気汚染物質や水の使用を抑えた製品に与えられる認証「ブルーサイン」の導入、マイクロプラスチック汚染を減らすための剥げ落ちにくい繊維や生分解性の追求、製革工場の環境対策や労働環境を監査するレザー・ワーキング・グループ(LWG)の認定、オーガニック コットンや持続可能な綿花栽培を目指すベター・コットン・イニシアティブ(BCI)の基準に則り有害物質を含まず、土地利用と労働者の健康に配慮した環境に優しいコットンの利用、石油由来の資材ではなく植物由来の資材の優先的な使用などだ。
「僕たちのアプローチは実際のデータに基づいたもので、マーケティング目的のストーリーを重視したものではないんだ。サステナブル・アパレル・コアリション(SAC)の開発した、HIGGインデックスという指標を使って、原材料から製造、発送に至るまで、どれだけサステナブルかを計測している。2019年春夏コレクションから新たに取り入れた素材、シェイクドライは、GORE-TEXの超軽量で防水性と通気性に優れた生地だ。防水透湿膜を露出させることで、化学薬品処理を施さなくても水をはじくことができる。また製品の寿命自体を伸ばそうとしていて、シーズンごとの短期間で無駄になるものを減らし、よりミニマルなライフスタイルを支えるコンセプトも考えている。目指すのは、多様な用途に使えるアイテムを作ることなんだ」

Bethany Williams、2019年秋冬コレクション
Bethany Williams
今年2月、LVMHプライズのファイナリストであるベサニー・ウィリアムズ(Bethany Williams)は、その環境倫理的なファッションへの貢献から、英国のファッションデザイナーに贈られる「エリザベス2世賞」を授与された。メンズウェアのデザインを手がけるウィリアムズは、サステナビリティへの取り組みを、巷でバズっている流行語や中身のない宣伝文句でアピールするのではなく、自身の生活とデザイン活動の両方に、完全に一体化させることで、それ自体を別次元のレベルへと引き上げている。彼女はホームレスのシェルターやフードバンクで働き、数多くのチャリティやイニシアチブとパートナーシップを組んできた。オーガニック繊維メーカーのGreenfibres、彼女にリサイクル デニムを提供するChris Carey’s Collections、リサイクル糸の売り上げの30%を寄付しているWool and the Gang、そしてホームレス状態にある若者に特化したモデル エージェンシーのThere is Hope Modelsなどもその一部だ。
さらに、ウィリアムズのコレクションで使われる素材は全てリサイクルされたものだ。破棄された本や廃棄されたプラスチックを使った糸を生地の中に織り込み、デニムの端切れを集めてつなぎ合わせたジャケットやパンツを生み出す。ウィリアムズは、彼女のブランドを「サステナブル」とだけは、呼ばないでほしいと言う。『Vogue』誌のインタビューで、彼女は、この言葉が使われ過ぎて、意味が曖昧になっていると述べた。「サステナブルという言葉はとても広い意味を持つ言葉だわ。もしラグジュアリーなものを買えるだけのお金があるなら、自分の買っている商品にもっと意識を持つべきよ」

Stella McCartney、2019年秋冬コレクション
「ファッション業界は、何百年もの間、ごく限られた種類の素材だけをずっと使い続けてきている。それって本当に時代遅れだわ」。サステナビリティに対する取り組みが評価されてBoFグローバル ボイス アワードを受賞したイギリス人デザイナー、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)はそう語る。
ウィルソン・オリエマ(Wilson Oryemaやルーシー・シーグル(Lucy Siegleといった、環境保護に取り組むファッション界のアクティビストたちの後押しもあり、設立以来、マッカートニーのブランドは生態系を保護するための技術的革新の最前線に立ってきた。「ファッションは、原材料の調達からサプライチェーン、そして製造までを刷新する必要がある」とマッカートニーは言う。「私はこれまで、レザー、フェザー、ファーを一切使ったことがないの。今は、サステナブルに供給可能なビスコース、再生カシミア、再生ナイロンなど、従来の生地の代替となるものを人工的に作ることに目を向けているわ。私はファッションの未来について考えることが好きなの。私を駆り立ててやる気にさせてくれるし、それがブランドの持つ現代性を左右すると思うから」

Phipps、2019年秋冬コレクション
Phipps
Marc JacobsやDries Van Notenで仕事をしてきた、サンフランシスコ出身のスペンサー・フィップス(Spencer Phipps)は、それ以前から環境に対して倫理的な取り組みを始めており、自然界に敬意を払う服作りを実践することで、ファッション業界全体の基準を引き上げていた。そんなフィップス自身の名前を冠したブランドは、環境に優しい素材を使い、フェアトレードを行うメーカーと仕事をし、アニマル柄をあしらったコレクションや、「Nature Loves Courage」といったコレクションを発表している―間違いなく、今注目をすべきブランドだ。
「ブランドとしての直近の目標は、二酸化炭素排出の削減に取り組み、完全にカーボン ニュートラルになれる道筋を示すことだ」とフィップスは言う。「僕たちのブランドは、新規の工場との契約を検討する場合、尋ねるべきことのリストが5ページもあるんだ…梱包、出荷、ラベル、使用後に回収された材料をどうするのか、とかね。その他のオフィス内の現場の管理、オフィス用品とか、日常業務に関するチェック項目以外に、既にそれだけあるってこと。イヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)の『レスポンシブル・カンパニー』という素晴らしい本があるんだけど、自分たちの活動を改善したいと考えているなら、どんな企業にとっても、参考になると思うよ」

GmbH、2019年秋冬コレクション
「GmbHでは、生地の生産段階における化学物質や水の使用から、自分たちのサプライヤーやメーカーの環境対策について精査することまで、環境汚染を減らすために、あらゆる面に目を向けている。工場の近くで生地を生産することで輸送や移動を減らしたり、自分たちが作る服にも出荷にも徐々にプラスチック類を使わないようにしたりしている。ブランドを立ち上げた初日から、発送には微生物で分解できる袋を使ってきたよ。スタジオでは、毎日みんなで集まってベジタリアン ランチを作って食べてる。バイオダイナミック農法で育てられた野菜が、地元の農場から届けられるんだ。僕たちの服に付いている取扱表示のラベルでは、洗濯は最小限に抑えて極力優しく洗うことを推奨している。それはエネルギーの節約ということだけでなく、衣服が長持ちするから。もうひとつ重要な点は、1シーズンのトレンドで終わってしまわない、長く着られる服をデザインすること。これはまだ試行錯誤中だってことを強調しておかないといけないけどね。環境汚染の少ない活動を実践するのは非常に複雑なことだから、僕たちは自分たちのことをサステナブルだとはあえて打ち出していない。勉強すればするほど、どこを改善しないといけないかというのが、より明確になるんだ」
では2019年の今、サステナブルなデザインをビジネスとして確立する最大の障壁は何か? GmbH曰く「エコフレンドリーな素材を開発するためには、比較的大きな初期投資が必要」なことだと言う。「そうした素材はカスタムメイドでないといけないし、最小注文量が、大きく設定されているから」。サステナビリティを確立するまでの過渡期にある今、GmbHはさらに透明性を高めようとしている。「自分の買い物の習慣がどれほど環境に影響を与えているのかということをお客さんがより理解して、もっと良い選択をできるようにしたいんだ」
—セルハト・イシック(Serhat Isik) & ベンジャミン・アレクサンダー・ヒュズビー(Benjamin Alexander Huseby)

Collina Strada、2019年秋冬コレクション
Collina Stradaを率いるデザイナー、ヒラリー・テイモア(Hillary Taymour)は、単に他人を批難することよりも足元を見つめ直す道を選び、自身の活動のやり方を軌道修正している。2019年秋冬シーズンのプレゼンテーションにおいて、自分がこれまでやってきた、サステナブルとは言えない行動を詳細に書き並べ、自身の消費習慣を改善することを約束した。そして個人でカーボン フットプリントを減らせる方法を示したリストをシェアすることで、観客にも同じように実践することを促したのだ。
ショーは、アクティヴィストのシューテズカトル・マルティネス(Xiuhtezcatl Martinez)のプレゼンテーションで幕を開け、ランウェイを歩くモデルたちは、マイボトルやマイカップを手に持っていた。ショーの服に使われた素材のうち75%はデッドストック素材だった。テイモアは海洋環境問題に取り組む団体4oceanの力を借りて、海のゴミから作ったビーズの提供を受け、コレクションの何点かの服にそれをあしらった。テイモアが環境に対する個人的な責任を明確にしたことは、インスピレーションを与えること、そして斬新であることを矜持とするブランドの精神を、さらに強固なものにしている。「流行の最前線に立つ」ことが何たるかを理解するうえで、そのふたつは考慮に入れざるを得ない要素なのだ。

1017 Alyx 9SM、2019年秋冬コレクション
「サステナビリティは、一筋縄ではいかない話だ。誰もが、一家言を持っているからね。今度、僕たちは梱包資材の会社と一緒に、すごくクールなブロックチェーンのプロジェクトを始めるんだ。ALYXのアイテムを完全に追跡できるようになるんだけど、注目すべき点は他にも色々ある。例えば、地域で生産するということ。イタリアを拠点にしていることの良い点は、イタリアが原材料から完成品に至るまで全てが生産されている場所だってことなんだ。カリフォルニア州と同じくらいの大きさしかないから、何でも輸送できるし、その分、僕たちは水の使用削減のような他のことに力を注ぐことができる。
それから、アップサイクルしたジャージのアイテムは、生地の端切れとプラスチックボトルから新しい糸を作って、それを織ることで新品のジャージを作っている。だから、綿を栽培するために水を使わなくて済むし、地球を破壊する殺虫剤も使わなくていい。もともとコットンはどこでも育つ原材料ではなくて、栽培するために化学肥料が必要になる。だから、3〜4回も収穫すれば、土壌は完全に死んでしまって数年間栄養を注入しないといけない。コットンは、今のように地球上のどこででも栽培される材料であるべきじゃないってこと。また、テクニカルナイロンの場合は、北欧の使用済みの釣り糸をリサイクルしたECONYLという糸を使っているんだ。
最後に、二酸化炭素を使ってレザーを染める新しいシステムを開発した会社と、水を使わない染料工程に取り組んでいる。レザーを箱の中に入れて、二酸化炭素が液状になるまで超高速回転させると、顔料が表皮の内部に浸透する。そこに、もともと原料に含まれている水分が合わさって皮革が染まる。そして回転を止めれば、二酸化炭素はまた気体に戻る。これで大量の水を節約できるんだから、素晴らしいイノベーションだよ。
要は、少しずつでも前に進むことが大切なんだ。業界を牽引する全てのブランドが、デザインで最先端を行くだけじゃなく、色々と自分たちで試したり、実践したりするべきだと思うよ。僕たちは、他人にこういう生き方をしないといけない、なんて説教はしたくないし、皆それぞれ思うように生きればいい。でも、いずれにせよ会社の場合は、こういうことを実行に移す責任があると思うし、だからと言ってそれを、必ずしもモノを売るためのマーケティング ツールとして使うというわけでもない…正しい意図で行うべきものだから。そのうち、僕たちがこういうことをやっていたんだって、ただ普通に発見してもらいたいね。だって、自分たちで『僕たちは環境にやさしいブランドです』なんて、わざわざ言いたくないから。
今は、まだ自分たちのやり方にも、環境に負荷がかかっている部分がたくさんあるし、良い解決策が見つかっていないこともある。でも、できる限りのことはやっているし、中小規模のブランドでも出来るんだってことを示していると思う。 H&MやNikeじゃなくても、社内でサステナビリティに取り組むプログラムを立ち上げることはできる。会社の規模は関係ないんだ」
—マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)

Paolina Russo、2019年秋冬コレクション
Paolina Russo
ロンドンを拠点に活動するカナダ人の新人デザイナー、パオリーナ・ルッソ(Paolina Russo)は、今注目の存在だ。ルッソは革製品やニットウェアについて学び、Maison Margielaでのインターンの経験を通して、既にある素材を、ファッション用の衣服として、用途を変えたり再利用したりするのに必要な技術を習得した。そんな彼女が選んだアイテム―それは、なんと使い古したサッカー用具。「私の最初のコレクションのために、カナダのマーカム サッカークラブの代表をしている叔母が、スポーツ用具、古いスニーカー、ボールなどを寄付してくれるよう人に声をかけてくれたの。すごいことだわ。本当に地域の人たちが協力しておかげよ。寄付してもらったものを使って、私の最初のコレクションを作り上げたの」

Nudie、2019年秋冬コレクション
「私たちは世界でいちばんサステナブルなジーンズ ブランドを目指しています。それだけでなく、業界全体が、私たちが行っている製造工程の透明化に追従するよう、働きかけたいのです。そして、サステナビリティと利益を両立させることが可能だということを示そうとしています。もし世の中を少しでも変えていく、近代的な会社でありたいなら、これが唯一前へ進む方法だと私たちは考えています。私たちがこれまでずっと取り組んできた、透明性、生活賃金、修理、再利用、リサイクルといったことに加え、気候変動問題に取り組むため、新たに高い目標を設定しました。この先の何年かでこの目標が、より具体的になると思います。これまで厳密に管理されたサプライチェーンや、緊密なコラボレーションを行ってきたことで、2025年までにカーボン ニュートラルを実現するという次のステップへの道が開けたのです。
この業界の最大の障壁は、今だに蔓延っている、ファッションの早すぎる消費と早すぎる生産サイクルです。商品の寿命はもっと長くなるべきです。衣服を作るために費やされた、社会的、環境的な負荷について考慮し、衣服をもっと大切にする必要があります。特に、気候変動に関する影響という点では、業界全体が透明化していくことが非常に重要になります。ファッション業界には、自分のサプライ チェーンがどうなっているのか、アイテムがどこで、または誰によって作られているか、原材料がどこから来ているのか…それすら把握していないブランドが、まだまだあります。結局は、自分の商品を知ることであり、それはデザインの段階から始まっていることなのです」

Richard Malone、2019年秋冬コレクション
Richard Malone
誰かにとってのガラクタは、リチャード・マローン(Richard Malone)にとってのお宝だ。ロンドンを拠点に活躍するデザイナーの彼は、もっともありそうにない素材を作り変えて、自らのコレクションを作り上げることで知られている。防水シート、毛羽立った犬のベッド、リサイクルのコットンなどが、遊び心のある、最先端のデザインに生まれ変わるのだ。
業界の現状や安価な世界的ファストファッション企業が作り出す大量の廃棄物について、リチャード・マローンは「消費に対する個人の行動を、啓蒙して変える必要がある。テキスタイルの制作に、実際どれくらいのコストがかかっているのかを、理解するのは極めて重要だ」と言う。購入するアイテムを作るのにかかったコストを考え、無駄を出さないようにしないとならないということだ。

Noah、2019年秋冬コレクション
「ブランドを始めて以来、僕たちのビジネスは「サステナブル」ではないとずっと言ってきた。他の人たちが、勝手にサステナブルだと定義しているだけだ。だけど、僕たちの会社は、人を大切にし、重要な課題に真剣に取り組む「責任ある会社」だと信じている。基本的に僕たちが重視しているのは、より良い商品を作ることと、人々がよく考え、注意を払って、より賢い買い物をするよう働きかけることなんだ。
僕たちは成功とは何かを考え直し、何を優先するかを変える必要がある。だからといって、資本主義が無くなってもいいと思っているわけでもない。でも人間らしさを取り戻す必要はある。ビジネスを優先して理不尽な富の蓄積が自分たちのビジネスを操ることになってはいけない。人よりもお金を優先すれば、物事はあっという間に悪い方向へと進んでしまう。
今必要なのはライフスタイルを変えること。そして必要とするものを減らし、もっと共有をすることだ。責任を負うのはブランド側であるべきだけど、買う側も変わっていく必要がある。消費者として、僕たちは自らの行動を変え、責任ある経営を行う努力をしている企業やブランドをサポートしていかなきゃ」
—ブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien)

Eckhaus Latta、2019年秋冬コレクション
毎シーズン、ランウェイでのショーに友達や常連をキャスティングすることから、ファミリーのようなブランドとして知られるEckhaus Latta。ブランドを率いるマイク・エコーズ(Mike Eckhaus)とゾーイ・ラッタ(Zoe Latta)は、着心地の良さと遊び心を兼ね備えたDIYのアプローチをとっている。これまでデッドストックの生地を活用してきたEckhaus Lattaには、サステナビリティに走り過ぎているという評価さえあった。現に、いくつかのコレクションでは、90%がそういった素材で構成されていたこともある。
しかし、マイクは、話はそんな単純ではないと指摘する。「サステナビリティを意識して仕事をすることは、Eckhaus Lattaにとって、いつも重要なことだった」と彼は言う。「衣服を作ることは、多くの要素で成り立っているので、それに対するアプローチは、1つだけとは限らないんだ」

AGR Knits Nike Campaign、2019年秋冬コレクション
AGR Knits
ファッション業界が環境に優しくない大きな原因は、ご存知の通り、膨大な量の無駄を生み出すからだ。コレクションは頻繁に作られ、大量生産され、シーズンの終わりに売れ残って「流行遅れ」になると、余った衣料品が山のように廃棄処分される。それに対する簡単な解決方法―それは必要な数だけ作ることだ。
だが、そんなことは、ロンドンを拠点にするブランドAGR Knitsのデザイナー、アリシア・ロビンソン(Alicia Robinson)にあえて言う必要はない。新人デザイナーがサステナビリティを追求しようとすると、経済的な負担が伴うことは彼女も承知だが、ロビンソンが手掛けるニッティングの作業は、そういったことを回避できるのだ。「ニッティング自体が、きわめてサステナブルな作業よ。手編み、もしくは家庭用の足踏みミシンかDubied社のミシンなら電気も使わない。ニッティングは、必要な量だけ編むので、原料の廃棄物を大量に生み出すこともないし」。オーダーメイドや既にサステナブルな生産手法を、もっと流行らせるために我々に何ができるのか、そのヒントがここにある。

3.1 Phillip Lim、2019年秋冬コレクション
「僕にとっては『サステナブルバランス』という考え方が重要なんだ。僕たちは皆、この業界でやっていかないといけないから、100%完璧というわけにはいかない。特にファッション業界の存続は、消費主義、つまり人が洋服を買う必要に駆られることに基づいている。それでも環境負荷を軽減するために、達成可能で計測可能な対策手段を講じるとか、もっと賢くて現実的な方法を見つけることができるはずだ。ファッションは最も環境を汚染している業界の1つだから、与えるインパクトは非常に強い。だからもう一度立ち返って、当たり前になっている慣行を変えて、たとえ初めは売り上げに影響が出るとしてもこれを成し遂げることが非常に重要だということをブランドに説得することが必要だ。
もしこの対話に僕が多少なりとも貢献できるとすれば、それは僕が何年もの間、ある一定のやり方でやってきた確立されたブランドを運営していて、今はそのやり方を見直すことで少しずつ改善するための手段を講じている、ということだと思う。実行するのは簡単じゃなし、時間のかかる道のりだけど、とてつもなく価値がある。この業界で他の人たちと異なることをやるために、今日明日に一からビジネスを立ち上げる必要はない。グローバルに展開する確立されたブランドだって、生地や梱包、製造、企業文化に厳しい目を向けることで、ひとつひとつ徐々に改善していってもいいんだ。たくさん話をして、人の意見を聞いて、質問して、できるだけ多く人から学べばいい。もちろん夢は大きく、でも今自分のいる場所から、現実的に始めるべきだ」
—フィリップ・リム(Phillip Lim)

Duran Lantink、2019年秋冬コレクション
Duran Lantink
ファッション界のちょっとした扇動家、LVMHプライズのファイナリスであるオランダ人デザイナー、デュラン・ランティンク(Duran Lantink)は、ファッション業界の伝統主義者たちを居心地悪くさせるような、挑発的な活動やデザインで知られている。他のブランドのデッドストックやセール品を継ぎ合わせて新しいアート作品へと作り変えるランティンクは、不要になったものから価値のあるものを作り出すのだ。それによってLVMHのベルナール・アルノー(Bernard Arnault)のような人物を困惑させることだってある。デュランは、前に進むために私たちのファッションの今の状況を黙認するのではなく、大量消費的な傾向や無節操な欲望を根本から変えないといけないだろうと考える。「生活に対するものの見方を一から変えて、欲しいという欲求を、満たしたいと思うこと自体をやめる必要があるんだ」

RE/DONE、2019年秋冬コレクション
「RE/DONEは、ヴィンテージのLevi’sをアメリカ中のラグハウスから調達している。ラグハウスでは、パレットの上に積み重ねられた、廃棄されたジーンズが床から天井までを埋め尽くしていて、その何千本ものジーンズの中からひとつひとつ自分たちでかき分けて、リメイクするのに適した一番きれいで面白いものを見つけ出す。RE/DONEのジーンズを1本作るのには家でジーンズを丸洗いするのと同じだけの水、つまり190リットルぐらいを消費するんだ。だから、真新しいジーンズを作るのに平均して使われる9460リットルと比べると、その差は歴然としているよ」

032c、2019年秋冬コレクション
「032cは、グローバル オーガニック テキスタイル基準 (GOTS) の認証をとったのよ。この認証を受けるには何年もかかるし、収穫してからラベルを貼る瞬間まで、ずっと素材のオーガニックのクオリティで維持している繊維商品のための、国際的に認知された基準なの。私たちは、ただ単にオーガニック栽培された繊維を使うということには興味はない。取引先の施設の労働条件や梱包のシステムとかにも気に配っているの。サステナビリティとはいったい何なのか、そういう話に私たちは興味を持っている。認証を取ったからどうということではなくて、チームとして、または会社としての私たちの働き方やコラボレーションの方法についてまで、製造段階のあらゆる面について考えているの。
今日のもっとも賢明な働き方というのは、サステナブルな働き方だと思う。もし自分のやっていることが、うまくいっているなら、持続可能なやり方をしたいと思う。それ以外に結論なんてないから。つまりは、現実的で、全体的な責任を負ってことよ。持続可能な働き方をするというのは、世の中で起きていることを真摯に受け止めているということ。簡単な話ではないわ。Teslaに乗れるなら誰だってハッピーだけど、誰もそれを実現するために身を削りたくない。皆がが持続可能な働き方をするようになるまでは、不都合なことも受けいれなくてはならない。つまり、それはもっと一生懸命に働いて、多くの場合、利益が減ることを意味する。サステナビリティは、まだコストがかかるし、便利とも言えないから、誰も大規模ではやろうとしない。上辺だけ環境配慮をしているように偽るグリーンウォッシュは、企業の販売や製造の点から見ても本当に問題だし、個人レベルの倫理面でも問題がある。でも、そういう倫理的なことは別にしても、単純に事実として、今日手に入っている素材や方法には限界があるわ。もうすぐ使い尽くしてしまう。いつまでも、今のやり方で続けるにはいかないのよ」
—マリア・コッホ(Maria Koch)

Bode、2019年秋冬コレクション
「アンティークの生地から服を作ることをブランドの基盤にしているから、どのシーズンのコレクションでも、一定数の服がそうした生地で作られているわ。アンティークの生地を保存して再利用する他にも、余った素材を使って、スカーフや子供用のシャツを作ることで廃棄物を出さないように心掛けている。規模が大きくなればなるほど難しくなるけれど、サステナビリティを自分の活動の中心に置くことは何よりも重要なことだから」
—エミリー・ボーディ(Emily Bode)

Ahluwalia、2019年秋冬コレクション
Ahluwalia
「全ての人に責任があるわ。ハイストリート ファッションだろうと低価格のオンラインストアだろうと、皆、インスタ栄えのする、コストのほとんどかかってない流行りの服を売って、莫大な利益を得ている。利益が人や環境よりも尊重される限り、過剰消費はなくならないわ。それをできるだけ早く変えるためには、社会が変わらないといけないと思う。責任をもって取り組んでいる、オーガニックなところから原材料を調達したり、再生可能エネルギーを検討することから、単純に過剰生産しないようすることまで、メーカーは色んな方法で自分たちのサプライチェーンを見直すことができるはずよ。
インド北部の街、パーニーパットに車で向かっていたとき、衣類の山を大量に積んで横にまで服が溢れ出している大型トラックが何台も街に向かって走っていたの。それを見て、これは大問題だなって、私にはすぐ理解したわ。工場に入ると美しく色分けされた衣類の山に驚かされたのと同時に、私たちが手当たり次第に何でも買っていることが、いかに地球に悪影響を及ぼしているかがわかって、本当に悲しくなったの。もし、パーニーパットのリサイクル業者がああやって懸命に仕事してくれてなかったら、あの大量の服がどこへ行くのか、私には想像もつかないわ」
—プリヤ・アルワリア(Priya Ahluwalia)
- 文: SSENSE エディトリアル チーム
- 動画: Nathan Levasseur
- Date: July 22, 2019