謎のDiet Prada
ファッション界で最も広く知られ、最も恐れられるミーム メーカーを探る
- インタビュー: Erika Houle
- 画像提供: @dietprada

@dietpradaは、ファッション界を暴露する究極のアカウントだ。意地が悪く、遠慮がない。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)を模倣した、内容のない、いわばノンカロリーのダイエット版プラダを記録していたPinterestの公開ボードは、瞬く間にファッション業界の権威となり、カルト的なフォロー(に加えて、Diet Pradaブランドの商品)を生み出した。ダイエット プラダ(Diet Prada)をスタートしたメンバーは、ブロガーとしての名声にまったく無関心なので、完全には正体を公開しないにもかかわらず、「他のみんなが声を上げられる場」を構築した。そこでは、模倣が賛辞と受け取られることはなく、流用は弁解を許されず、紛らわしくスペリングを変えたコピー商品にとてつもなく目ざとい人々が群がる。ソーシャル メディア時代には「ファッション ファイル」がそうであったように、現在は@dietpradaがファッション業界のニュースに精通した存在として、批判と秘密の暴露を繰り広げる。フォロワーは「リッチなアッパー イーストのダイエット信奉者」と呼ばれる。
だが、@dietpradaの背後に潜むグループは、アカウントを立上げたときの視点を失ってはいない。彼らは、@dietpradaを草の根運動として捉える。「不正を告発する他にもいろいろやってるけど、私たちがやってるのは最小限のことだけ。すべてはアカウント上で始まるんです」。ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)もこのアカウントの支持者の一人だ。彼女のような後ろ盾があるなら、たとえそれが「何」であれ、#callitoutして槍玉に挙げるべきだろう。ステファノ・ガッバーナ(Stefano Gabbana)からキム・カーダシアン(Kim Kardashian)に至るまで、対象にされない人物はひとりとしていない。遠慮などいらない。ドラマに身を投じよう。

謎の番号の三者通話で行なわれたインタビューで、正義に基づいたトローリングの実践と手法を質問し、携帯の中身をちょっと見せてもらい、SSENSE用のミームを貰った。
エリカ・フウル(Erika Houle)
ダイエット・プラダ(Diet Prada)
エリカ・フウル:職場の仲間が面白半分に始めたダイエット プラダが、ファッション業界の非常に大きな存在になったわけですが、どういうふうに発展してきましたか。
D:現在は世界中の人が参加しています。「あ、オーストラリアが目を覚ます時間だ。早くこれをアップしなきゃ!」って調子です。ダイエット プラダ自体の姿勢はずっと変わっていないと思いたいですね。前より威張ってると思う人が多いけど、それは自分たちが攻撃されてると感じるから。昔は笑い飛ばすことができたけど、今は膨大な数のフォロワーが見てるから、笑い事じゃ済まなくなった。だから、神経質になるし、落ち着かない気分になるんです。確かに、最近の投稿は、どれも以前よりもっと辛辣です。対象の幅も広がったけど、目的は変わっていません。
あなた自身、自分の仕事を誰かに盗用された経験がありますか。あなたにとって模倣の文化が重要になったのは、いつからですか。
P:コピー行為は昔からずっと、すごく気になってたんです。アート系のハイスクールに通ってた頃、いつも人の真似ばかりする生徒がいて、すごく才能はあったけど、「そんなものには何の意味もない」って思ってました。それから、自分の仕事を盗用された経験ですが、実は、あります。私が以前仕事で作った、ある商品が、この5年間で1000件以上の模倣品のオリジナルになっています。何の商品かはあえて言いませんが、ここ2年くらい、休暇で行った旅先で必ずと言っていいほど目につくようになって…。それも観光客が行くようなスタンドとかで。あのちょっとしたスケッチが、あれだけ模倣の対象になるなんて、おかしくて自分でも、笑っちゃいます。
面白い? それとも、ものすごく苛立たしい?
P:面白いです。
コピーを暴露するだけではなくて、もっと大きな規模での不正にも注目を集めていますね。現在、ファッション業界でもっとも急を要する課題は何だと思いますか。
D:最近話題になっていたのは、人種。白人以外のブロガーの場合、何十億ドルも売上げる大企業やスポンサーとの関係が見当たらないことです。アルゴリズムが引き合いに出されるのも、すごく興味深いですね。「私のおすすめページには、ブロガーの影も形も見当たらない」って言う人がいますが、アルゴリズムはそもそもその人がフォローしてる対象、好みの対象に基づいていますからね。だから、この問題に関する対話には、とても関心を持っています。なんらかの問題を指摘して、自分たちの意見を伝えようとする人はたくさんいるし、そういう意見に耳を傾けなきゃいけない。でも、そういうコメントは、大企業に削除されてしまう。問題解決の最初の一歩は問題を認識することなのに、大企業は端から問題があること自体を否定します。その気になれば、大企業は自分たちの力を利用して、十分に取り上げられていないブロガーたちのごく一部を表面に出すことができるし、そうやってエコー チェンバー効果を生み出すこともできる。だけど、そんな限られたバブルみたいなスペースで生活したり機能したりする気には、私はなれません。
P:もうひとつ言っておきたい問題は、ファッション業界への参加を阻む壁の存在です。すでに業界内部にいない限り、外から入るのはすごく難しい。たとえ才能があってもアウトサイダーだと、見習いでも、デザインの仕事でも、ふさわしい持ち場という意味でも、一定のところまでしか許されないんです。


具体的には?
P:それがずっと、ファッション業界の在り方ですから。まともに取り上げてもらおうと思ったら、先ず、ニューヨークかどこか重要なファッション都市に住んで、インターンをして、生活費にも足らない給料で働かなきゃいけない。私たちが業界で仕事を始めた頃、インターンは無給で、「今日のランチを食べるお金がない」という場合でも「お金は両親から貰いなさい」という環境でした。
つまり、最初から恵まれた環境にいなければ、どうしてもハンデがあるということですね。
P:そのとおり。確かに、今ではそういう障壁が壊れつつあるけど、全部が一度になくなるわけではありません。
変革に向けて、自分たちの役割をどのように位置付けていますか。
D:別に、私たちは社会の不正に立ち向かう魔法の戦士だと思っているわけではありません。すべをわかってるわけでもない。でも、みんなの意見に耳を傾けて、多くの人が語りたいと思っている大切なテーマを認識することが、私たちの仕事のひとつだと思っています。先ず、理解するために努力して、次にみんなの声を大きく高める。自分たちがやってることとまったく無関係なことまで手を広げる気はありません。「政治論を聞くためにフォローしてるわけじゃない。このことに関して意見を言ってくれなくてもいい」といったメッセージを貰うことがあるけど、実際のところ、すべてが互いに絡み合っているのが現状です。ファッションから政治を切り離すことはできない。
P:ファッションはとても強力なメッセージとして使われているんです。それに、工場であれどこかのオフィスであれ、世界人口のおよそ5人に1人がファッション業界に雇用されています。ファッションは巨大産業です。それを、実体よりも軽く見せかけようとしていると思います。
ダイエット プラダはフルタイムの仕事になりましたか。どんな1日を過ごしているのですか。
D:朝の4時から取り掛かったりすると、まさに1日仕事ですね。起きたらすぐに、投稿する記事や取り上げる話題について話し合う。いくつかシェアしているフォト アルバムがあって、作業中の仕事、アイデア、投稿準備が整った最終素材を入れておきます。
P:ほぼシフト制になってます。私はどちらかというと朝と昼間が向いている人だから、起きたら、メッセージに目を通して、ニュースを読んでスクープを探します。Twitterをチェックした後は、色々なところから配信されてくるニュースレター…寝てる間に何が起きたか、前の日に何が報告されたか。そうやって、1日を乗り切るわけです。ほかに、ウェブサイトを管理するメンバーもいます。
D:記事をアップする前に、関連事項をすべてを事前にきちんと確認するのは、みんなが考えているよりはるかに時間がかかるんです。


実は、ダイエット プラダはどうやって事実を確認するんだろうと思ってたんです。スパイでも雇っているのですか。
D:色々な材料を送ってくれるフォロワーが、とても沢山いますから。事実確認の方法は、素材次第ですね。ランウェイなら、大抵の場合、過去に遡ってチェックするのは難しくありません。ビンテージや出所のはっきりしないものは、グーグルのイメージ検索を逆行していったり、Pinterestを調べる方法で、マッチするものを探します。その気になれば、色々な道が開けてきます。
P:The Stranger Things videoを見れば、私たちのリサーチをとても正確に理解してもらえると思いますよ。「これはスゴイ」と思う情報を入手したら、何時間もかけて追い詰める。その結果、事実ではないと判明して骨折り損のくたびれもうけとか、ね。
例えば、リアーナ(Rihanna)とか、好きな人に関する暴露はどうするんですか。やはり、いつもと勝手が違いますか。
:いえ、多分ビヨンセ(Beyonce)以外は変わりません(笑)。私たちはセレブとはまったく縁がないから、一向に構わない。批評であり私たちの意見であって、それに対して気分を害するか、どれほど真剣に受け止めるか、それは相手次第です。 私たちは何も遠慮しません。
P:成長を促すためであって、糾弾ではありませんから。

イジメ役を演じているわけではない…。
P:イジメと言うなら、コピー自体がある種のイジメと言えます。強い立場を利用して、力のない人達を圧倒する。そういうことを沢山目にします。例えば、ブローチを作って売っている若い女性がいる。彼女には弁護士がついていない。
D:私は、ダイエット プラダを、とても世故に長けて意地悪な14歳の少女みたいに感じることがあります。それが、私たちの最高の資質だし、場合によっては最悪の資質です。多少狭量なところがあるかもしれないけど、それも個性です。ダイエット プラダの主張には確かに共感を呼ぶものがあるし、すべて、人々の関心を十分に喚起することが目的です。フォロワーが見世物的に興味を持つだけのこともあるけど、それはそれで構いません。
気疲れすることはありませんか。 常にインターネットで論争の渦中にいるのは、ストレスではないですか。
D:それぞれ、違う方法で対処してますね。私の場合、朝の早い時間は上手く切り上げるのが下手なので、何かいい方法を見つけないと…。実は昨日は、夜中の3時半に口論になってたんです。その人は、 マーゴット・ロビー(Margot Robbie)がゴールデン グローブ授賞式で着てたドレスが30年代風だって言うんだけど、私は「そうは思わない」。すると相手は「私はファッション工科大学で教えてるのよ」。私は「コスチュームの専門組織で2年働いた経歴があります」。おかげで、ベッドに入るのが20分も遅くなってしまった。とても子供っぽく聞こえるだろうけど、私としては、シルエットの繋がりを示したかったし、あれは全体の構造といい、ボディスといい、袖の形といい、明らかに40年代のドレスが基本でしたから

今年はいくつか、非常に楽しみなプロジェクトがあるということですね。もう少し詳しく教えてもらえますか。
P:私たち自身がすべてをフィルターできて、ユーザー同士がインタラクションを行なえる、Instagramを超えたプラットフォームを、是非立ち上げたいと思っています。掲示板みたいな場所を作りたいですね。「私の作品が誰それにコピーされたと思う」と書き込めば、みんながその討議に参加できる場所。素晴らしいと思いますよ。Redditを考えてもらえればいいかな。それから、長いフォーマットも検討したいと思っています。大きな問題は深く掘り下げる必要があるし、 Instagramに投稿できるパラグラフだけでは、さっとスクロールされて終わりですから。時間をかけて長い記事を読むということは、注意を払っているということです。
D:実験的なプラットフォームになると思うし、できれば、普段は聞こえてこない声を探るために利用できたらいいですね。後ろに広告業者がついて、宣伝に背中を押されながら書かれる同じような内容には、もうみんな飽き飽きしてるんじゃないですか。ファッションに対するもっと民主的な視点を育てて、何より楽しい場所にしたいです。
P:誰が言ったのか忘れたけど、心に残っている言葉があるんです。 コピーを材料に選べば、材料切れになることは絶対にない、って。


- インタビュー: Erika Houle
- 画像提供: @dietprada