着る人の姿を隠す: カモフラージュ柄のサイコデジタルな驚異
Arc’teryx Veilance のデザイナーである Conroy Nachtigall が革新的なカモフラージュ技術を開発した Guy Cramer と語る
- インタビュー: Conroy Nachtigall
- 写真: Brent Goldsmith

ミラノのランウェイに最近登場した Valentino、Off-White、Marcelo Burlon County のカモフラージュ柄を見ると、時には周囲に溶け込むことが自分を目立たせる最も良い方法であることがわかります。カモフラージュ柄は、ファッション業界ではポップ カルチャーを象徴するものとして受け止められていますが、人の生と死を分けるものでもあるという事実は忘れられがちです。着る人が、背景と区別できない形状にこだわるのであれ、個人や集団の文化に関連する機能にこだわるのであれ、カモフラージュ柄のパターンは、魅惑と危険という抵抗しがたい感覚を呼び覚まします。カモフラージュ柄は、生物学と関係があります。カモフラージュ柄は、デジタルな手法で作成されます。カモフラージュ柄は、政治的な意味があります。
最新の軍用カモフラージュ柄には、カナダで開発されたものがあります。開発した Guy Cramer は、ペイントボールのチャンピオンから革新的なステルス パターンの開発者となった人物です。当時最新の軍用カモフラージュ柄が十分に効果的ではないと判断した Cramer は、2000 年代初頭に初めて実験的なデジタル パターンのデザインを発表しました。そのデザインはまもなく、アブドラ 2 世ヨルダン国王の目に留まりました。現在は HyperStealth Biotechnology Corp.の社長兼最高経営責任者(CEO)である Cramer は、数学的フラクタルに基づく軍用カモフラージュ柄によって、現在も最先端を切り開いています。同じカナダ人であり Arc’Teryx Veilance のデザイナーである Conroy Nachtigall との対談を通して、成功すれば最も大きな利益が得られるパターンのデザインについて Cramer が語ります。


Conroy Nachtigall
Guy Cramer
Conroy Nachtigall:これまでは、カモフラージュ柄を開発するのはアート作品を制作するようなものだと思われていました。アーティストが雇われ、表現主義的なデザインとパターンが考案されました。1990 年代に最初のデジタル カモフラージュ柄、CADPAT(Canadian Disruptive Pattern)が登場すると、状況は一変します。このカモフラージュ柄は「どのような背景に溶け込んで着る人を見えなくするか」という主観的な解釈に基づくものではなく、目が何を見ているかを重視する科学的アプローチに基づくものです。このカモフラージュ柄は、一見するとうまく機能するようには見えませんでしたが、その点については問題はありませんでした。なぜなら、芸術的な形ではなく、視覚の混乱という科学的事実を利用していたからです。あなたは、このカモフラージュ柄のさらに先を見ていました。カモフラージュ柄のデザインに興味を持つきっかけになったのは何ですか。
Guy Cramer:私はペイントボールというスポーツを仲間と楽しんでいました。狙った相手にペイントボールが当たると、当てられた人は少しばかり痛い思いをすることになります。仲間は、古い米国陸軍のカモフラージュ柄を使った服を着ていました。私の目には彼らの姿がすぐにわかりました。目立っていたからです。私はカモフラージュ柄について調べはじめ、英国の DPM (Disruptive Pattern Material) の方が、米国陸軍が使用していたカモフラージュ柄よりも効果的であることに気づきました。そこで、DPM を使った服を着てペイントボールに参加することにしました。すると、他の仲間たちは私よりも早く発見され、ペイントボールの標的になっていました。そこで私は考えました。「なぜこのカモフラージュ柄は効果的なのか、そしてこれをもっと改良できるのではないか」。私は、カモフラージュ柄の効果にはデザインだけではない何かが関係していることを理解しはじめました。戦術的な要素も関連していることがわかりました。私は、CADPAT カモフラージュ柄に対して批判的でした。理由は、開発するのに数百万ドルの費用と何年もの時間がかかっていたからです。CADPAT を見たときに、「子どもがグラフ用紙を使って描いたような柄だ」と思いました。私は 100 ドルで売られていたグラフィックス プログラムを買い、2 時間ほどで既存の CADPAT を改良し、インターネット上に公表しました。私は、そのカモフラージュ柄に GUYPAT という名前をつけました。数か月後にヨルダン国王が私の ウェブページを見て、簡単に言えば「国王のためにカモフラージュ柄を開発してほしい」という話になりました。
「これは私が職業として行っていることではないので、ご依頼には応じかねます」と伝えましたが、国王にはそんな言い分は通用しませんでした。国王は私の作品を気に入っていました。そこで私は、カモフラージュ柄の歴史を調べました。なぜカナダ軍は、デジタルなカモフラージュ柄を開発したのか。カナダ軍がそれを開発したのは、ある人物がいたからです。その人物とは、今はカモフラージュ柄のデザインで私のパートナーになっている Timothy O’Neill 米国陸軍中佐という紳士です。彼は、70 年代後半から 80 年代初頭に、米国陸軍のためにデジタルなカモフラージュ柄を発案しました。米国陸軍はそれをテストし、いくらか効果があることを確認しましたが、それ以上の進展はありませんでした。おそらくそのカモフラージュ柄が、あまりにも人工的に見えたからでしょう。それをカナダ軍が採用し、改良を重ねました。注目を集めるようになったのは、NATO 軍が CADPAT をテストし、DPM よりも良い成績を上げはじめてからのことです。そのとき米国海兵隊がカナダ軍にある提案をしました。簡単に言えば、こう言ったのです。「そのパターンを使いたい」。カナダ軍は、色を変えることを条件として、使ってもよいと回答しました。
科学的な側面についてもう少しお話していただけますか。最初にアルゴリズムを使うようになったきっかけは何ですか。
米軍は、現在のものよりも優れた新しいパターンを開発するに当たって、次のステップとなるのはフラクタルを組み込むことだと主張していました。フラクタルとは、幾何学的な形状が自然に繰り返されることによって生まれる模様です。脳はフラクタルをカタログ化し、無視します。外を歩くときにいちいち茂みや木の形を分析しなければならないとしたら、脳は大量のデータを処理しきれずにダウンしてしまいます。そこで潜在意識が脳にささやきます。「これは木だ、あれは茂みだ、こっちはこのタイプの茂みだ、あっちはあのタイプの茂みだ—無視せよ」。このように、パターンをカモフラージュ柄に組み込むと、それを見た脳は「無視せよ」という指令を出します。目が捉えた異常な形は実際には背景の一部であると思わせることによって、脳がその異常な形について分析しないように仕向けるのです。つまり、カモフラージュ柄のパターンをデザインするときには、目がすぐにそのパターンをスキャンするように仕向けることが重要です。しかし、脳をいつまでも騙し続けることはできません。何か別のもの、おそらく突き出した腕の形に注意を集中しはじめます。そのため、脳がターゲットそのものを分析しはじめたときにその腕をきちんと隠すことができるよう、さまざまなアルゴリズムを使います。
つまり、基準点を動かすのですね。
そうです。簡単に言えば、接合点です。接合点のアルゴリズムをカモフラージュ柄に組み込むと、ターゲットの形をさらに巧妙に隠すことができます。たとえば、左側が右側とは同じに見えないよう、対称性の混乱という手法を使います。私たちがカモフラージュ柄をアレンジするときは、必ず何らかの目的があります。私たちが参入する以前のカモフラージュ柄は、直感だけを頼りに描かれていました。


カモフラージュ柄のパターンには、別の機能もあります。特殊部隊用のカモフラージュ柄は、着る人の姿を隠すことが最も重要です。しかし一般的な陸軍兵士用のカモフラージュ柄には、外面的な目的があります。集団としてまとまりのある外見を演出すると同時に、兵士を識別する手がかりになるものでなければなりません。カモフラージュ柄は、兵士たちを一致団結させるためのツールになります。他にも、美的な要素や主観的な要素が関与していると思いますか。
私たちが開発したカモフラージュ柄のパターンには、「格好いい、すばらしい、効果的に見える」という好意的な評価から、「げっ、これは嫌だ」という否定的な評価まで、さまざまな反応があります。過去には、デジタル パターンに対するお決まりの反対意見がありました。デジタル パターンの方が効果的であるという客観的なデータが実際にありますが、それを着るくらいなら何か他のものを着たいという主観的なデータもあります。つまり、カモフラージュ柄には、非常に多くの主観的な要素があります。入隊契約書に署名して兵士となることを承諾する一般の人々にとっては、カモフラージュ柄も含めた軍服の美的な要素が、それを着るかどうかの判断を大きく左右します。
カモフラージュ柄が効果的である最大の理由は、見えないものは撃てないからです。この事実は、あなたにとってカモフラージュ柄を開発する動機付けの一部になっていますか。
軍人にとっては、これは大問題です。私たちが開発したカモフラージュ柄を着用する軍人が、わずか数秒間でも敵の目を逃れて時間を稼げるなら、陸軍がカモフラージュ柄に支出する正当な根拠になります。空軍は定期的に新しい航空機を購入しており、1 機当たり 1 億ドル以上を支出しています。この航空機 1 機分のコストは、陸軍全体に新しいカモフラージュ柄のパターンを導入するプログラムに必要な費用の大部分に相当します。そこで、こうしたプログラムはお金の無駄だという議論が持ち上がるときは、効果的ではないカモフラージュ柄の軍服を兵士に着せて戦闘に送り込むことこそ、本当のお金の無駄使いではないかと指摘します。米国陸軍が現在使用しているカモフラージュ柄は、あまりにもひどいものです。どのような提案が出されるかは問題ではありません。何であれ、現在のものよりはましです。米国陸軍は、そのことに気づいています。
そもそも、なぜ効果的ではないカモフラージュが採用されたのですか。
その理由は軍人も知りません。適切な調査が実施された形跡はありません。採用を決定したのは、当時の陸軍首脳部の誰かです。「格好いいぞ、映画に出てくるスターシップ トゥルーパーズみたいだ」と思ったのでしょう。
カモフラージュ柄であっても視覚認識の要素が存在し続けることに変わりはなく、制服としての役割を果たす必要があり、着用している人を兵士として識別可能でなければなりません。
私たちは、依頼主のために、近隣諸国とははっきりと異なるカモフラージュ柄を提供しなければなりません。ヨルダン軍のためにカモフラージュ柄をデザインしたときは、イスラエル軍、レバノン軍、シリア軍が使用しているものを調べました。フラクタルがすばらしいのは、その視覚的構成要素が数式によって決定されるからです。時には、とても単純な数式が、他の国々で使われている普通のカモフラージュ柄とは異なる独自のパターンを描き出すこともあります。
数式によって、視覚的なパラメータを設定するのですか。
そうです。生物学の世界と、同じルールがあてはまります。生物学的なカモフラージュの技法は、過去にカモフラージュ柄をデザインしたアーティストたちにとって基準点の役割を果たしました。しかしアーティストたちは、それらを最終基準点として見ていました。私たちは、それらを見て進化生物学には限界があると考えました。自然界には、ストライプもあれば斑点もあります。私たちはそれをさらに一歩先に進めて、ストライプと斑点を適用したいと考えています。背景を模倣するのではなく、背景の一部であるかのように見えるが、背景とは大きく異なる何かを描き出したいのです。バイオミミクリ(生態模倣)に基づくデザインでは、自然とデザインが相互に関連する事例を積極的に探そうとする人が多すぎます。以前は、狩猟用の服に使われるカモフラージュ柄の場合、写真のようにリアルな描写で小枝と葉をコラージュすることが重要でした。しかし、動物がそれをどのように認識するかは、人間とは違います。写真のようにリアルな描写を使う手法は、模倣に頼るものではありませんでした。写真のようにリアルな描写のカモフラージュ柄が強い印象を与えるのは、細部に至るまで描き込まれているからです。しかし、マーケティング上、激しい売り込みを展開しなければ売れないのであれば、そうした柄には実際は効果がないのだと私は思います。
都市の環境と自然環境では、視覚認識機能の働き方に差があるとお考えですか。
同じ構成要素が関係していますが、その規模は違います。都市にいる人は、立ち並ぶビルによって巨大な何も描かれていない壁に囲まれています。何も描かれていない壁に対して、どうすればカモフラージュ柄を作れると思いますか。カナダ軍は、トロント、バンクーバー、モントリールの市内の 10 か所にある正方形の区画を対象として、カモフラージュ柄を開発したいと考えていました。それらの地域では、事件が発生する可能性が高いと予測していたからです。その環境内にある色は、非常に限られていました。そこで、それぞれの場所で無数のビルから写真を撮影しました。大量の写真をある 1 つのアルゴリズムで処理し、共通する 4 つの色について答えるようコンピュータに指示しました。色の選択が終わったら、次はパターンが必要です。フラットな壁にはほとんど乱れがありません。おそらくしっくいなどの仕上げ材による線や、多少の質感の違いはあるでしょう。しかし、見た目に大きな違いが生じるほどではありません。
その背景にどのようにして人間の姿を溶け込ませるのですか。
数百種類のパターンについてデザインした後で、最も効果的なデザインにたどりつきました。それが CUEPAT1 と CUEPAT2 です。これらは互いにはっきり違っています。CUEPAT1 は従来のカモフラージュ柄に見られる細部の描写を伴いますが、実際に目で見てそれとわかる植栽などの小さな茂みは、十分詳細に描かれているわけではありません。
小さな茂みは、グリッド システムを構成しているように見えます。
そのとおりです。なぜなら、街を実際に歩けばビルの角と道路の角が作るグリッド システムに出くわすからです。ビルの角は、完全に 45 度になっています。主要な角は横並びになっており、潜在意識はそれに目を向けます。垂直線は最小限しかありません。それは、目で見た都市の風景を脳がデータとして処理するときは、そのように見ているからです。


都市にちなむカモフラージュ柄のパターンで、他に効果的なものはありますか。
CUEPAT2 では、奥行きのパターンを使ってとても風変わりなカモフラージュ柄を作りました。このパターンを見ると、脳は奥行きのある空間をのぞきこんでいると考えます。そのため、このパターンをうまく分析できません。この仕組みは、動物の目から姿を隠すためのカモフラージュ柄の効果と同じです。脳は、実際には奥行きのないところで奥行きを認識します。
「視覚の混乱」が機能するプロセスに含まれる文化的な要素について、説明していただけますか。
それは文化的な要素というより、心理学的な要素です。人間の脳は、文化の違いとは関係なく同じものを認識します。カラハリ砂漠に暮らすブッシュマンも、ヨハネスブルグのような都市に行けば、そこに住むビジネスマンと同じものを見ることになります。しかし、ある国が文化的な認識に従ってカモフラージュ柄のあるパターンを選択するということはありえます。マレーシアの場合がそうでした。マレーシア軍は、HollowTex というとても奇妙なパターンを選択しました。後になって気づいたのですが、そのパターンに描かれている幾何学模様は、カーテン、カーペット、衣服に至るまで彼らの文化の至るところで使われている形状に似ていました。この形状は、マレーシアの文化に関しては効果の高いカモフラージュ柄になるのでしょうか。おそらく、そうだと思います。マレーシアでよく使われているカーテンを背にして立っている間は。
あなたが提出した新しい提案は、Quantum Stealth つまり真の不可視性という名で知られているカモフラージュ技術を再び活用するものです。これがカモフラージュ技術の最先端になる可能性はどの程度あるとお考えですか。
Quantum Stealth は、光を屈曲させて人や物を透明に見せる光学迷彩の技術です。この技術は、特殊部隊の精鋭のために採用される可能性が高いと考えられます。私の推測では、この技術が使われている軍装品を誰かが戦闘中に落とし、拾った敵がリバースエンジニアリングを行って仕組みを解明するまでは、特殊部隊で利用されるでしょう。その後は陸軍全体に支給されると思います。
光学迷彩技術を応用した素材が、陸軍全体に支給される装備品として有望な候補となるまでには、どのくらい時間がかかると思いますか。
それは、軍司令部の判断しだいです。メディア関係者から、写真を提供してほしいという問い合わせを受けたことがあります。セキュリティ上の理由から、写真を送信することはできません。しかし、環境内で光学迷彩素材の写真を撮影し、その素材が写真に写っていないのであれば、素材そのものを撮影したのとほとんど同じです。Quantum Stealth の背後に誰かが立っている場合は、まったく誰の姿も見えません。これがこの素材の効果です。周囲の光を屈曲させるため、ターゲットそのものではなくターゲットの背後にあるものが見えるのです。
それは物体ですか、それとも実在する布地ですか。
両方です。日本の屏風のようなものであり、狩猟をする人が身を隠すハンティング ブラインドのようなものです。しかし、それを衣服そのものに直接装着することができ、その場合も同じように効果的です。私たちはテストを実施し、機能することを確認しています。
これが悪人の手に渡ったら、途方もなく大きな懸念材料になると思われます。民間人の間でさえ、大きな混乱を引き起こすことになるかもしれません。
そう思いますよね。私たちもそう考えています。しかし、意思決定を行う人々から聞いているメッセージは、それとは違います。ハリウッドが光学迷彩素材を採用し、それを使って映画を作るなら、私は報道各社からヘリコプターで追いかけられるような時の人になるでしょう。現在の段階で、軍がほとんど関心を示していないのはおかしなことです、現実の生活は、官僚主義、政治、予算の制限に囲まれています。これほど効果的なのに誰も信じていないという状況には、いらだちを覚えます。「透明人間になるためのマントは、現在の軍装品のカテゴリにあてはまりません。」

- インタビュー: Conroy Nachtigall
- 写真: Brent Goldsmith