マイケル3世式 ドッグショーの装い
ファッションのカリスマ兼ドッグマッサージ師の卵が、ショーで誰よりも注目を集めるための12の勝負スタイルを紹介
- 文: Michael the III
- 写真: Michael the III
- モデル: Michael the III

犬とは究極のアクセサリーなのだろうか。それとも実際には、オレたちの方が、犬の専属アシスタントと専属トレーナーと専属シェフとソーシャルメディア マネジャーと最高の友人がひとつになった存在なのだろうか。しかも無給インターン同様の格安な報酬で犬の世話をやく。とはいえ、今日はもっと喫緊の課題に取り組まねばならない。来たるウェストミンスター ドッグショーで人間はどんな服をきるべきなのか、という問題だ。はりきりすぎれば手塩にかけた芸術品がかすんでしまうし、だからといって手を抜くと、大事な犬が猫と大差ないものになってしまう。犬の品種にふさわしい装いをすることは最重要事項なのだ。
そこで、オレの出番というわけだ。ここに挙げる12の犬種ごとの例を見れば、「最高賞」獲得のために必要な知識と戦略的な考え方がわかるはずだ。さあ、「コロコロ」をカバンに詰めて、出発だ。

Michael the III 着用アイテム:ジャケット(Loewe)、ジーンズ(Loewe)、スカーフ(Acne Studios)
パピヨンは、自然の作り出した蝶の別の姿である。このような犬で大会に出ようとしているということは、おそらく君は上流階級の人間なのだろう。このチャーミングな愛犬には、悠久の歴史のように壮大なファッションの視点を持ち合わせた飼い主こそ、ふさわしい。パピヨンの祖先は、何世紀にもわたりヨーロッパの王族の臀部をくんくん嗅いでいたということをお忘れなく。だから、今さら浪費に尻込みする必要などどこにもない。そこで、例えば巨大な蝶ネクタイのようなアクセサリーをつけてみるのはどうだろう。飼い犬の象徴的なシルエットを思わせるかわいい姿を見れば、審査員の注意も、愛犬の卓越したフワフワ姿に向くはずだ。これに完璧にマッチするアンサンブルを合わせて、さらにレベルアップしよう。ルイ14世が股間から乳首までしか服を身につけていなかったとでも?当然、そんなことはない。これは、頭からペディキュアを塗った足の爪の先までのトータル コーディネートなのだ。いかにも身分の高い人物という雰囲気や、お高くとまって文句を言う姿がライバルの気に触っても、それは彼らの問題であって、君の知ったことじゃない。

着用アイテム:サングラス(Dries Van Noten)、ジャケット(Saint Laurent)、トラウザーズ(Raw Research)、ブーツ(Alexander McQueen)、バッグ(Gucci)、バッグ(Marsèll)
セントバーナードのような巨大で威厳ある犬は、食も旺盛だ。そして、映画を信じるならば、それ以上に、寛大な心の持ち主だ。彼らの旺盛な食欲にも対応できるような小物を選ぶことで、大会で勝つためのコンディションを維持すべきだ。そんな時は、ずらりと犬用おやつが入ったバッグを重ねづけすれば、一挙に問題解決だ。山岳救助犬にインスパイアされた装いで、ちょっと羊飼いの気分がしてきたかな?すばらしい。ちなみに、誰かに聞かれたら、君が着ている色は「ディープアンバー」、「ローシェンナ」または「オークル」と言い、決してただの「茶色」とは答えないように。何しろ、これはウェストミンスター ドッグショーなのだから。
君の愛犬が、オスカーにノミネートされた映画に出ていたウィッグの代役も務まりそうな姿をしているなら、彼女はかなり派手めの女の子に違いない。根っからの短気な性格は抑えて、トレンディーなボブ カットの下に隠れたラサ アプソのクリエイティブな天性を、戦略的に強調するのが賢いだろう。彼女はダライ・ラマによって作られた犬種かもしれないが、僧院を去り、今ではアイドルの道を進むことを考えている。彼女はスターなのだ。なので、最高のポロにかわいいショートパンツを身につけよう。一部の人たちにとっては、自分自身がスポットライトの中心にいたいという欲求を抑えるのが難しいのはわかるが、あくまで過保護に育ててきたワンちゃんに注目が集まることが、君にとって最も有利になるものだ。
温和で神経質なところがなく、協調的。それが君と愛犬のハンサムなファラオ・ハウンド、別名ケルブ・タル・フェネックだ。ピラミッドの時代から、この犬種はライバルに怖気づいたりしない。彼の目はその毛とマッチし、彼の毛はその鼻とマッチし、彼の鼻は君のトラックスーツとマッチしている。そして、彼のメイクアップは「パーフェクト」だ。君のテーマは、琥珀の魅惑。昼夜を問わず、ドッグショーからDJブースまでいけるスタイルだ。これほど調和のとれた服を着ている君を疲れさせるものなど、何もない。今ちょうど横を通ったのは、昔の恋人と彼の飼ってるティーカップ ポメラニアンじゃなかったっけ。だが、君はそんなことは知る由もない。自信に満ちた様子で遠くを見つめていたからね。
考えて見れば、君が大型のシュナウザーを連れているのなら、ワイドレッグパンツを履くのが効果的だろう。ジャイアントシュナウザーが君のペットの場合も、同じことが言える。このような並外れた犬を大会に出場させたいのなら、会場にドラマを持ち込むべきなのだ。主張するパンツで目的を明確に主張すること。主張するベルトでさらに一歩踏み込んで、主張するメガネで、スタイルに花を添える。最終的に、ボンド映画に出てくる悪役が、休日姿で、ドッグショーの「最高賞」を勝ち取るという唯一の慰みに興じているように見えれば、スタイルは完成だ。ライバルたちを脅せと言っているわけではない。
いや、でも、そう言っているかも。
人生やドッグショーの中で、人はただ「チワワのような」服を着るのではない。人は「チワワと一緒に」服を着るのだ。お揃いのアンサンブルで一段上のスポーツ精神を表現する。君のチワワの長所を引き立てるアイテムを選び、この小っちゃなメキシコ乙女たちの群れを引き連れて行こう。審査員たちは、鼻も爪先もお尻も一物も、何もかも見ているぞ。その視線を気負うことなく受け止めよう。そうすれば十中八九、君と君のワンちゃんの勝利だ。もし負けても、近所のドッグ バーではいつでもゲイナイトがやってるから大丈夫。
キャバリア キング チャールズ スパニエルを君は飼っているのか。どういう裏話があるんだ?まあ、君の愛犬の品種には4つも名前があって、君はそのすべてを使い分けることができて、君は彼女にルクレティアやコンチェルティーナなどの名前をつけたことだろう。さすがお金持ちは違う。君は、ドッグショーに白のパンツを着ていくタイプだな。そして君のもふもふのベイビーのためのドッグ トレーナーも連れていることだろう。これで、白のパンツ スタイルの他のご婦人たちとゴシップに興じられる。上品でありながら快適で暖かい服を着ていこう。なにせ、「冷たい」印象を持たれがちな君だから。ただの見せかけだったとしても、そういう小さな努力が、常に最終スコアの役に立つものだ。それでも、君の犬は君が大好きだし、君も彼女のことが大好きなのだ。自分にかける時間と同じくらい、君は彼女にも時間をかけている。要するに、君は彼女のステージママなのだ。そのローファーのせいでスタジアムを駆け回ることができなくても、写真撮影に向けた準備はばっちりだ。

着用アイテム:シャツ(Calvin Klein 205W39NYC)
ダルメシアンに合わせた着こなしは、この世界で考えうる中で、最も困難な仕事だ。まず、ストライプは問題外。大抵の場合、柄物も難しい。色の使いすぎで色が喧嘩すると、現代美術作品のように見える可能性がある。しかも、これは褒め言葉ではなくただ変だという意味においてだ。というわけで、オレのオススメは断然赤だ。美しいスポットを持つ愛犬からスポットライトを拝借しよう。モノクロがテーマのパーティーに赤のスパンコールの服を着て来るような、友達のふりをした敵になってやれ。君にちょっとした秘密を教えよう。実は犬は赤色を認識することができない。犬はあらゆる感覚器官の能力で人間に勝っているが、人に印象づけるための装いに関しては、オレたちが一段上をいっている。さてここで問題。全体が白と黒で読まれる(readの過去分詞:発音「レッド」) のは、新聞。では、全体が白と黒でレッド(red)で、そこにちょっとパープルとイエローを加えたものは、何だ?答えは、表彰台に立つ君だ!

着用アイテム:Tシャツ(Marcelo Burlon County of Milan)、トラウザーズ(Burberry)、シューズ(Prada)、キーチェーン(Maison Margiela)、キーチェーン(Fendi)
ドゴ アルヘンティーノは、言うなればワイルドカードだ。公式にはこの犬種で大会に参加することはできない。だが、ここは大きく考え、夢も大きく持とう。オレたちの犬は大型犬だ。もし、ドゴ アルヘンティーノなどの禁止された犬種で勝利しようと考えているのなら、ポーカーのフラッシュのごとくド派手(flashy)な登場を演出する必要があるだろう。お分かりだろうか。まさにオレがここで示したことが、そのド派手な登場だ。つまり、冒頭の「ワイルドカード」と、「フラッシュ」に「ド派手」(flashy)をかけたダジャレの部分だ。それはさておき、ここでいくつかの対策を紹介する。1) 綿密に計算して服の選択する。君と君の愛犬を自分ブランドだと考えること。2) タフに見えるようにし、タフな人間を演じること。たとえ、本来は君も君の愛犬も、ぎゅっとしたくなるような可愛い性格だとしてもだ。3) 昔、寝室用に買った、あのスモークマシーン、まだ捨ててない?なら持って行くこと。4) 登場場面では、たゆたう煙とABBAのメロディックな「The Winner Takes It All」のBGMで観客を魅了すること。5) 最後に君の愛犬を登場させよう。ウェストミンスターの闇から抜け出して、大会に飛び込み参加だ。君は「最高賞」を獲得できないかもしれない。それどころか、その場でたちまち失格となる可能性が高い。だが君は、見事、家から見ている数百万人の人の心を掴み、力強い政治的意見を表明したのだ。

着用アイテム:タンクトップ(Rick Owens)、トラウザーズ(Jil Sander)、ネックレス(Versace)、リング(Versace)、ネックレス(Versace)、リング(Versace)、タイ(Versace)、トート(Gucci)
イタリアン グレーハウンドのアクセサリーには、鼻筋の通ったローマ鼻が最適だ。とはいえ、もし君が古代ローマ貴族を思わせる特徴に恵まれておらず、ジーナ・ロロブリジーダ(Gina Lollobrigida)でもなく、それにも関わらず、なおもイタリアン グレーハウンドで大会に出場するつもりなら、VersaceやGucciやPradaを使うという手がある。そう、君も厳選したほんの数点の価値あるアクセサリーを使えば、たちまちヨーロッパで最も熱い半島を散策する人のように見られることが可能だ。オレはイタリアを宣伝して歩けと言っているのではない。だけど、イタリアっぽくないなら、普通のグレーハウンドと何が違うってんだ。いや、マジで。
ワイヤー フォックス テリアをショーに出すつもりなのか。君は勝ちに来たんだな。これは14回も「最高賞」を獲得しており、ウェストミンスター ケネル クラブ ドッグショーにおいて最も成功している犬種だ。テリア種で見ると合計46回の受賞経験があり、これは次に受賞回数の多い犬種の2倍以上の回数となっている。これだけでかなり自信過剰な気分になっても仕方ない。そうだろ? 君は僕のアドバイス通りに、Thom BrowneのセーターにThom Browneのベストを合わせ、君の勝利への確信を刺繍で表現しているな。そう、君はこういう人だ。自信に満ちて、覚悟もあり、かつコンセプチュアルだ。気に入った。そのままで行こう。ここでは特に付け加えることはなしだ。
この大会では、何もかもが精神的に疲れるものである必要はない。1877年からずっと続いている権威あるイベントで、他の2,999匹の犬と一緒に競争するだけの、マディソン スクエア ガーデンで過ごす普段通りの日と考えることはできないだろうか。一部の犬種ならは、この大会に対してよりリラックスしたアプローチで臨むこともできる。例えばウェルシュ コーギーだ。後ろから見ると、彼らは巨大なハムスターか、毛で覆われたジャガイモのようだ。ベージュ色の地面すれすれの姿。彼らの絶え間ない微笑みは、くつろいで一服でもして、気軽に行こうぜとせがんでいるかのようだ。伝説によると、彼らは妖精からの贈り物なのだそうだ。コーギーには、開襟のボタンを緩めたシャツを合わせよう。彼らは解き放たれた胸毛を見て憤慨したりしない。ジーンズもコーギーの雰囲気に合っている。ここではプレスの効いたパンツで誰かに印象づけようとする必要もない。少なくとも、コーギーがついている君には、がんばらなくても勝利を手にすることなど簡単だ。
Michael the IIIは、俳優兼モデル兼歴史家兼作家であり、ドッグマッサージ師の卵である。SSENSEをはじめ、「Gayletter」、「The Editorial」にも執筆中
- 文: Michael the III
- 写真: Michael the III
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- スタイリング: Michael the III
- ヘア&メイクアップ: Michael the III
- 犬用グルーミング: Michael the III