ストリートウェア界のマーサ・スチュワート

セルフィーから流行に対する感受性まで、モリー・ランバートがSporty & Rich創設者エミリー・オーバーグと語る

    ウェスト ハリウッドにあるオーガニック スーパーのエレホンで、私はエミリー・オーバーグ(Emily Oberg)と待ち合わせをしていた。ジュースバーで待つ彼女は、ライラックのスウェット姿で、1994と書かれたチャームをのついた細いゴールドのチェーンを着けている。私は、青果コーナーで話そうと提案する。あそこは静かだ。そして、私たちは山のように盛られたリンゴの横に落ち着く。

    Emily Oberg 着用アイテム:ブレザー(Jacquemus)ショーツ(Moussy Vintage)イヤリング(Sophie Buhai) 冒頭の画像 着用アイテム:ショート ドレス(Jacquemus)

    オーバーグは、たまにインフルエンサーと呼ばれることもあるが、実際は、むしろライフスタイルの教祖に近い。彼女はカナダで10代を過ごす中、オンラインでストリートウェアのコミュニティを見つけて参加し、業界をゼロから立ち上げ、現在の繁栄に至るまで尽力してきたデザイン オタクである。雑誌『Complex』の オンライン向け動画プラットフォームを構築したのち、オーバーグはKITHウィメンズでクリエイティブ リードの役職を務め、現在はブランド コンサルタントとして活躍しながら、同時に、彼女自身のブランドSporty & Richも拡大中だ。彼女に会ったときは、ブランドの延長にある雑誌『Sporty & Rich』の第3号を発行するための準備を進めていた。

    オーバーグのSporty & Rich Instragramより

    オーバーグ個人のInstagramはセルフィーとストリートウェアの写真が中心だが、Sporty & Richのアカウントの方は、彼女のヘザーグレーの90年代Nike風の頭の中を表現したビジョン ボードになっている。たとえば最近のSporty & Richの投稿では、クラウディア・シファー(Claudia Schiffer)が誘うようにブーゲンビリアが垂れ下がる自宅玄関に立つ、昔の『Architectural Digest』誌の表紙写真や、砂丘に倒れ込むビキニ姿の3人のモデルのビンテージ写真、葉巻を吸うラリー・デヴィッド(Larry David )などがある。

    それはまさに、野心的なファッション アカウントのお手本といえる見せ方だ。海辺のバケーションという空想のライフスタイル、モダンでありながら居心地の良い家庭の風景などが、これらの機会に合わせたアイテムと一緒にキュレーションされている。深緑色のレンジローバーや、薄水色の「シルクアイス」と書かれたソフトクリームのように。
    長年ファッション雑誌を愛読してきた私は、『Sporty & Rich』のセンスにしみじみと感じ入ってしまった。その中でオーバーグは、高級雑誌の写真に指を滑らせるようなあの感触、言うなれば、アマルフィ海岸の写真が掲載された『Vogue』誌を、そこまで華やかでない目的地に向かう機内で読むために買ってページを開く時の感触を思い起こさせる。ウィメンズのストリートウェアが、ファッション業界でかつてないほどに大きなマーケットになるにつれ、オーバーグは、長期的で野心的なビジョンを持つ業界のオピニオンリーダーとしての地位を確立した。Sporty & Richによって、フォームローラーから、ごついダッドスニーカー、色落ちさせたスウェット、エストニアのブルタリズム建築の不動産まで、何でも販売する中で、彼女が、ストリートウェア界のマーサ・スチュワート(Martha Stewart)として一大帝国を築いていることは想像に難くない。

    モリー・ランバート(Molly Lambert)

    エミリー・オーバーグ(Emily Oberg)

    モリー・ランバート:私の弟にSporty & RichのInstagramを見せたんです。彼から90年代のMTV ビデオ ミュージック アワード(VMA)の写真や雑誌のカバーなんかを送られてきたので、「このインスタのアカウントは気にいるわよ」って感じで。

    エミリー・オーバーグ:いいわね! 私自身のInstagramで投稿したくなるような話。でも、私のアカウントで反応がいいのはセルフィーなの。だからセルフィーを投稿するのよ。ビジネスみたいなものだから。

    それはいつビジネスになったんでしょう? 自分自身について投稿するというビジネスみたいな?

    ニューヨークに引っ越したときから、本当に儲かるようになったわ。ブランド構築の一環ね。服の写真を撮り始めたら、人々がそれを求めるようになって、そうするとブランドもそれを求めるようになった。

    あなたのスポンサーになろうと声をかけてくる人がいるんですか。

    ええ。

    提携したくないのはどのような種類のブランドですか?

    当然だけど、アルコールのブランドね。私はお酒を飲まないし、お酒を飲むような人生とは無関係だから。

    スポーツウェアは男性中心の世界だと感じますか?

    今は感じない。フィットネスジムなんかに行くと女性で溢れてる。これって素晴らしいことよ。スポーツブランドは、女性顧客をターゲットにしているし、そういうブランドの多くにはウィメンズの部署があって、ウィメンズアイテムにとても力を入れてるわ。

    女性のデザイナーにはたくさん会ったことが?

    KITHウィメンズで働いているときは、女性デザイナーが2人いた。他のブランドの人に会うと、たくさんの女性がチームにいた。何が素晴らしいって、たまにブランドに行って、そのウィメンズのデザインチームの背後にいるのが男性だと、「あなたが本当にこの仕事をできるとは思えないんだけど」ってなるでしょ。エディ・スリマン(Hedi Slimane)が Célineに行ったときがそうだった。冷静ではいられなかったわ。だって、男性が、女性デザイナーのように女性の服をデザインできるとは思えないもの。そうじゃない? フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)がCélineにいたとき、彼女は袖にこんな大きな穴の開いたセーターを作ったんだけど、それは彼女の子供たちのおもちゃを入れるためだったのよ。男性には絶対に考えつかないような発想よ。

    特にスポーツウェアみたいなものについて考える場合、ある程度は機能的である必要がありますよね。

    男は何もわかっちゃいないわ。

    確かに、わかってないですね。男性には、スポーツブラが目的に適ったものだというのが、わからないんです。あなたはインターネットで有名になったセクシーな女の子のようだという理由で、過小評価されたと感じたことはありますか。

    もちろんあるわ。キャリアを通して、ずっと自分の能力を証明しようと頑張ってきた気がする。だからこそ、ここまで色々とできたんだと思うし、今もたくさんのプロジェクトが進行中なのよ。私が始めたとき、ニューヨークに来たときから、ずっと「彼女はただ可愛いだけだよ。だから彼女はここにいるんだ。だから仕事があるんだね」って言われ続けてきた。

    セルフィーを撮りたくないような時がありますか。

    もちろん。面倒で単調な雑用みたいに感じることがある。「あー、しばらくセルフィー撮ってないな」って考えるんだけど、それは単に私がやりたくないからなのよ。時には、ただ友だちと何かしたいだけのときもあるでしょ。

    中には、本当に正確にネット上の自分自身を演じる人がいますが、あなたは自分が憧れる自分の姿を見せようとしていると思いますか。そういうことを意識することは? それはあなたにとってプラスになることですか。

    私は常に良いお手本を示したいと思ってる。特に、若い女の子たちのためにはね。威張ろうっていうわけじゃないけど、彼女たちが私を尊敬してるのがわかってるから。でも、自分が発信する側にいると、人には見られるのは当然よ。だから、私は常に自然体でいることについて話す感じね。自分を修正したり、満足感を得るために顔を変えたりする必要はないの。

    それはとても重要ですね。私もそれについて色々考えていたんです。私は大学生になって、一人前になるまで、ソーシャルメディアはやってなかったから、常にカメラを構えた中で成長するのがどういう感じか想像もつかなくて。やりすぎのメイクや唇への注射など、Instagram特有の容姿がありますが、こういう風潮はいつか消えるべきですよね。

    この流れがすべてどこに向かうのかは興味あるわね。だって、こんなことをずっと続けていけるとは思えないもの。

    でも、彼らが本当に売っているのは、幸福と自信なんですよね。私が考えていたのは、リアーナ(Rihanna)がFentyでこれほどまでに成功できた理由の一部は、彼女がリアーナの自信そのものを売っているからではないか、ということです。カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)は、ある意味、不安感を売っている。自分の見た目が気に入らないんでしょ、だったら変えなよって。でもリアーナが売っているのは、みんな美しいっていう考えです。

    自分の本来の容姿を強調しよう、隠しちゃだめってことね。

    多くの人が、いちばん幸せじゃないときに限って、いちばん良い出来のセルフィーを投稿していると思います。

    「いいね」の数を稼ぐことで、自信を強めようとしているからよね。

    日常的には何をやっているのか教えてください。

    昨年は、来る日も来る日も雑誌のことをやっていたわ。私しかいないから、1年もかかるのよ。すべてをまとめるには長い時間がかかる。デザインも私自身でやるし、レイアウトも全部自分でやるの。だから、それをやってたわね。今はSporty & Richの新しい仕事に取り掛かってる。それから、ブランドのためのコンサルティング業務。いくつかのブランドと契約して、毎月一定のお金をもらいながら、彼らのために写真を撮って、エディトリアルをやることになってるわ。ブランドをイメージとメッセージの面から支えるの。

    他のインフルエンサーたちは、ファッションにおいてより重要なポジションへと移行していくと思いますか。

    そうね、才能とスキルがあればそうなるでしょう。でもインフルエンサーの多くは、ただカワイイだけなのよね。別にそれでもいいんだけど、それだと長期的なキャリアにはならないと思うわ。

    賞味期限があると?

    インフルエンサーの?もちろんよ。今もすでに起きていることよ。ブランドは以前ほどフォロワーの数は見なくなってるわ。ブランドが見ているのは、フォロワーの質と写真の質よ。それからあなたが何者で、何を支持しているのか、何を信じているのか、あなたのメッセージを見てる。「ここに100万人のフォロワーがいるぞ」っていうのから、「この子は誰だろう」っていうのに転換してきている感じね。私はいい流れだと思う。何かを支持したり、声を上げたりする人が、もっと必要だと本当に感じるから。私たちが生きている時代や、今起きていることを考えると特にね。声を挙げずにはいられないでしょ?

    Molly Lambertはロサンゼルス在住のライターである

    • インタビュー: Molly Lambert
    • 写真: Pavielle Garcia
    • スタイリング: Emily Oberg
    • ヘア&メイクアップ: Jen Tioseco
    • 制作: Saintwoods