自分を感じれば、すべてはあとからついて来る

Mowgli Surfの創設者Philip SeastromとAlex Seastromといっしょに、南カリフォルニアでセルフィー

  • インタビュー: Zoma Crum-Tesfa
  • 写真: Philip and Alex Seastrom

「僕はモノクロ写真を見るのさえ嫌なんだ」。双子の兄弟アレックス(Alex)とファッション ブランドMowgli Surfを立ち上げたフィリップ・シーストームは、そう言う。絞り染めと90年代のサーフウェア スタイルに身を捧げるシーストーム(Philip Seastrom)兄弟は、明るい色、永遠の夏、夢見る郊外居住者の可能性を熱烈に支持する。サウスサンタモニカで写真を撮る彼らから、男性に潜在する性エネルギーの解放に関心を持つ人々へ向けて、緊急のメッセージがある。 その黒いTシャツに袖を通す前に、もう一度よく考えよ。

SSENSEのためにセルフィー スティックを駆使しつつ語るストーリーの中で、フィリップとアレックスのシーストーム兄弟は、Vetements, Raf Simons, Off-Whiteのアイテムを身に着け、スケートボードウェアの限界とメンズウェアを制限する「見えないバリア」について、ゾマ・クラム-テスファ(Zoma Crum-Tesfa)と話す。

ゾマ・クラム-テスファ(Zoma Crum-Tesfa)

アレックス & フィリップ・シーストーム

ゾマ・クラム-テスファ: うわぁ、ほんとにそっくりですね。

アレックス・シーストーム(AS):ありがとう。僕たち双子だから...。

双子は幼児期に秘密の言葉を話すことがある、という研究がありますが、おふたりは秘密の言葉を話しましたか?

AS: うん。母親が言うには、僕たちはお互いに「グー」とか「ガー」って言ってたらしい。でたらめのように聞こえるけど、僕が「ブラーーー」と言えば、彼は「グ ブラーー」って言う。それでお互いに通じてたんだ。何となく、原始的な言語のような感じだったね。

フィリップ・シーストーム(PS):それが言葉ってもんだよ、ね? 音の連なりが何かを意味する。理解の共有。何を理解し、何かがを表現される。そして、分かり合う。

高校時代に サーフィンを始めたそうですね。どうしてそんなに始めるのが遅かったんですか?

AS: 僕はずっと、サーフィンに興味を持ってたんだ。いつも「サーフ マガジン」を購読して、仲間に入りたかった。でも、ラカナダ(ロサンゼルス郡にある山に囲まれた小さな街)に住んでいたから、近くにビーチがなかったし、家族は誰もサーフィンしないんだ。だから、自分たちで運転できるようになるまで、始められなかったんだ。

スケートボードには、その前から興味があったんですか?

AS: うん。最初の若い時はね。でも、サーフィンの方がずっと魅力的だった。スケートボードの美学って、すごく暗いよね。マリファナ吸ったり、だぶだぶの服を着たり、タトゥーを入れたり。

PS: ホーボー・シックみたいだよね。20年間も、ずっとホーボー・ヘロイン・シックが続いている。とにかく、僕は魅力を感じないんだ。着古したフランネルのシャツが破けていて。わかるよね? 古いジーンズは好きじゃないんだ。こんなに流行していなかったら、好きだったかもしれないけどね。

AS: 一時、スケーターがタイトなジーンズを履いてたことがあったけど、あれはかなりクールだったよ。でも、とにかく、僕たちはサーフィンの方に惹かれてた。サーフィンに夢中になった理由は、サーファーのファッションだったんだ。90年代の後半、サーフウェアは愉快で輝いていたんだ。

サブカルチャーは郊外で生まれるという理論があります。サブカルチャーに特有の反抗精神を生み出すには、郊外の環境が必要なんだそうです。

PS: ある程度は、正しいと思うよ。「サーフ マガジン」を始めたジョン・セバーソン(John Severson)だって、パサデナ(ロサンゼルス北東にある中都市)出身だしね。

AS: 僕はビーチで育ってない。サーフィンは、本や雑誌なんかのメディアを通して知ってただけだし、ビーチから遠く離れて暮らしていたし、大きくなるまでサーフィンはできなかった。だから、サーフィンもサーフカルチャーも、ずっと長い間、空想の対象だったんだ。

では、現実から逃避するという意味合いがあったんですね。

AS: そうだね。現実逃避をするという感覚はあった。サーフウェアやサーフ ファッション全般に関しても、そうだと思う。僕の高校の生徒は2000人位で、サーフィンをしてたのは多分4人だけど、それでも、いつも街にサーフショップがあったんだ。スポーツとしてだけじゃなく、ライフスタイルという考えからしても、サーフィンは魅力的だった。これが70年代だと状況は全く違っていて、僕たちの母親は僕たちと同じ高校に通っていたんだけど、ビーチからかなり離れているのに、彼女が高校生だった頃は、みんなサーフィンをやってたんだ。表紙にサーフボードが載ってる卒業アルバムがあるんだから。

PS: サーフィンは、純粋に、とっても美しいんだよ、わかる? 自分たちもずっとサーフィンに関わりたかった。永遠の夏、永遠の青春、きらめく生き方。サーフィンは、そういうものを象徴していた。スポーツとしても面白いし、すごくカリフォルニアっぽいし。

ところで、ラカナダはロサンゼルス フォレストの近くですよね。子供の頃、山火事をよく見ましたか?

AS: よく見たよ。山火事に土砂崩れ。ロサンゼルスは、近代科学と資本主義が起こした奇跡なんだ。100年前に、ビジネスマンだったウィリアム・マルホランド(William Mulholland)やヘンリー・ハンティントン(Henry Huntington)が、オウエンズ谷から水を引っ張ってきたんだ。そうじゃなかったら、自然のままで、ここまで発達はできなかったと思うよ。他所から来た人は、カリフォルニアで1年に10〜15も山火事が起こることが、分からないみたいなんだ。ずっと干ばつが続いてるし、人口は増え続けてるし。

PS: 人口は増え続けるし、水は不足している。人が増えれば、当然、放火魔も増える。

「サーフィンに夢中になった理由は、サーファーのファッションだったんだ」
アレックス・シーストーム

恐ろしいですね。ところで、サーフィンに戻りますが、先程の話に出た永遠の青春というイメージは、時代と場所で違ってくると思いますか? 私はサーフィンを少し違う目で見ていて、職業化されたサーフィンのイメージが強いのですが。

AS: サーフィンは、まだ今でも、ほとんどアマチュア スポーツだと思うけど…

PS: なんというか、ビッグブラザー的な雰囲気があるよね。

AS: 今もまだ、そういうイメージはあると思うよ。ただ、商業的なイメージが変化したんじゃないかな。プロのサーフィンは、昔よりもっと、現実のサーフィン世界から姿を消してる。70年代や80年代にあった大きなコンテストは、もうカリフォルニアには残ってないんだ。今は、世界の色々なところでやっている。フィジーとか。マーケティングのキャンペーンで見るのは、もっぱらそれだよ。

PS: 僕の意見だと、この手の変化は悪い方向に向かってると思う。サーフィンは、なんだか、うそ臭い男らしさのスポーツになってる。黒づくめでオートバイを乗り回して、ボードショーツをはいて。それだけなんだ。soれが、今、業界の流行なんだ。

AS: 僕は、オートバイに何の問題もないよ。面白い結びつきだなって思うぐらい。

PS: 僕は好きじゃない。

サーフィンのことを考えると、すぐに、ふたつのグループが思い浮かびます。まず、趣味としてサーフィンを楽しむサーフィン愛好家。週末に、友達とサーフィンをして、ビーチ大家族のようになるグループ。それと、スポーツとしてのサーフィンに取り組む、縄張り意識の強いタイプの人たち。歩道や駐車場で、ファッションを競うことがありそうですね。ブランドの提示方法と、こうした状況には相関関係があると感じますか?

AS: そうだね。でも、2つめのグループは、現実にはそんなに存在感はないよ。毎日サーフィンしてれば、ちょっとムカッとくるヤツらはたくさんいるけど、地元だけのグループって話は誇張されてるね。ある会社がずっと使ってたスローガンがあるんだ。「今サーフィンしていないなら、もう始めるな」って。いいマーケティング戦略だよね。「君の手には入らないよ」って。

PS: Quiksilverのインスタグラムなんかは、サーフィンの写真しか載せないんだ。自分たちの製品すらアップしない。彼らは、そもそも服なんて作ってるのかな? 僕は手に入るものを美しく提示することに、もっと興味がある。サーフィンっていうのは、楽観的で、世界に対してオープンなんだ。波が来るかどうかなんてわからないし、波は毎回違う。だから僕たちの会社の名前は「ジャングル・ブック」から取ったMowgliなんだ。野生の存在、自由であるってことだよ。サーフィンをしてるときは、環境や自然と一体になるんだ。

「色彩は人生のスパイスなのに!」
フィリップ・シーストーム

あなたたちのブランドは、どう見てもスポーツウェアではないですね。

PS: スポーツウェアには興味がないね。高性能なボードショーツを作ることに興味はないよ。それだったら、Nikeがやるから。

AS: サーフィンをするのにちょうどいい、機能的なボードショーツなら作っているよ。でも、僕たちは技術系の会社じゃないから。僕たちにとって、ファッションはアートなんだ。僕はファッションのことを、アートを作り出す手段だと考えいる。人々の暮らしや自信を向上させて、いい生活をしてもらうためのアートなんだ。サーフィンだけに対象を限定しないように心がけてるんだ。

PS: 僕たちがやろうとしていることをやっているブランドは、ほとんどない。たぶん、皆無だな。このマーケット、特に僕たちのマーケットでは、メンズウェアはどれもこれも似通っていて、ほんとに退屈で、時代遅れだ。150ドルの黒いTシャツと15ドルの黒いTシャツの、どこが違う? 違いなんて、ほんのわずかだよ。多少スタイルが違っても、どちらも黒いTシャツであることに変わりがない。これほど保守的なことは、他にないよ。

ドイツの画家のカタリーナ・グロッセ(Katharina Grosse)は、異性愛が正常な性的指向だとされる文化の中で、色彩は非論理の象徴であり、往々にして女性と関連付けられると言っていました。そのせいで、様々な文化を通じて、否定される恐怖から、男性も女性も色をあまり歓迎しないのだと。

PS: 色彩は人生のスパイスなのに! 日が暮れて森の中にいるところを想像してみるといい。何もインスパイアするものがない。怖くて、思考が遮断されてしまうんじゃないかな。でも、草原を想像してみてよ。

AS: 黒いバラの花束をもらうなんて想像できる? 赤いバラをもらった時と同じ効果があるとは思えないね。

PS: 僕はモノクロ写真を見るのさえ嫌なんだ。あんなのゴミだよ。もちろん、その写真が古くて、モノクロしかなかった時代のものなら別だけど。僕はカラー写真しか受け付けないね。だってカラーが現実なんだから。モノクロなんてニセモノだと思わない? 時代遅れもはなはだしい表現手段のひとつだよ。今じゃ通用しないし、もうそんなの過去の表現だよ。カラーは今であって、未来なんだ。僕たちの生活はカラーの中にあるんだ。

今も色に怯える人については、どう思いますか?

PS: メンズウェアがもっとセクシーになるのは、大切なことなんだ。社会は、男がセクシーに感じることを、辱めようとしている。男性ヌードはいつもコミカルに見られているけど、本当はそうじゃないし、そんなのはクールじゃない。男も女と同じだけセクシーだし、かつては社会もそれをもっと理解していた。だから、僕らの服はそれを実践する。自分の体のラインが見えるんだから。

AS: 今日、僕は明るいブルーの愉快なタイダイ シャツを着てる。僕が明るくて愉快な人間だってことが、これで分かるはずだ。

男性社会で権力を集中するために、男性はセクシーでなくなったのでしょうか?

PS: いや、セクシャリティはパワフルだ。みんな、長い間、本当の自分を表現することを尻込みしていたんだと思う。ゲイだと言われるんじゃないかって、怖気づいていたんだと思う。でも、長い間、それは無視されてきた。今は、多くのブランドや製品が、「あるべき男性像」を助長している。メンズファッションには目に見えないバリアがあるみたいだね。

そういうフェミニズムの言葉、いいですね。

PS: 男性がもっと肌を見せて、色のある服を着るようになればいいね。自分のハートのままに行動すればいいんだよ。「その服いいね! でも、自分では着ないね」なんて言う人がいる。もし好きなら、着たらいいんだよ。一歩踏み出して、人から見られることを、恐れちゃいけないと思う。世界に対しても、可能性に対しても、オープンであるべきだよ。僕たちはそれを表現しているんだ。人生にはいろいろな困難がある。上手くやっていくのはなかなか難しいし、人生と折り合いを付けるのも難しい。簡単じゃないから、人生がもっと楽になるように、もっとよくなるようにしたいんだ。何か自分の存在を気づかせるもの、自分をポジティブに表現できるものがあれば、もっといい人生になるんだから。

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