ヘロンから世界へ

ニューヨークのデザイナーが、環境、シンプル、好奇心を語る

  • 文: Adam Wray
  • 写真: Pablo Attal

現代ビジネスの格言は「時間通りは遅刻。5分前が時間通り」。ヘロン・プレストン(Heron Preston)は、5分前を掴む才能がある。一連の単独アイテムのプロジェクトを通じて、プレストンは機運が高まりつつあった重要なカルチャーの転換に寄与してきた。2013年には、NASCAR、Google、Home Depotなど、さまざまなロゴに覆われたロングスリーブのTシャツを作り、大ヒットさせた。企業イメージを誠意的に取り入れる流れの予兆であった。Street Sweeperは、Gucciの生地でA Bathing Apeのロゴを切り抜き、Nikeのスウッシュに貼り替えてカスタムしたAir Force 1。Louis VuittonとSupremeが手を組む以前、ラグジュアリー ブランドが共同戦略を試していた時期であった。しかしながら、プレストンは最近、新たなこだわりを見い出した。環境である。2016年には、ニューヨーク市衛生局の廃棄物ゼロ戦略を支援するため、衛生局のユニフォームを作り直した。パリ ファッション ウィークでは、自身の名を冠した初のコレクションが発表されたばかりだ。「For You, The World (世界よ、あなたのために)」と題されたコレクションは、今まででもっとも完全にプレストンの提案を揃えた、サステイナブルな生産を目指す長期的プロジェクトの序章である。
アダム・レイ(Adam Wray)がミラノのスタジオを訪ね、すでに次のコレクションに取りかかっているプレストンに話を聞いた。

アダム・レイ(Adam Wray)

ヘロン・プレストン(Heron Preston)

アダム・レイ:初めての完全なコレクションをパリで発表したばかりですね。どんな気分ですか?

ヘロン・プレストン:ひとつのアイテムだけじゃなくて、ひとつのストーリーを完全に語れるのは素晴らしい気分だよ。NASCARシャツとかStreet Sweeper Nike Bapeとか、僕は個別のアイテムで知られているからね。50点ものアイテムを使って深みのあるストーリーを語れたのは、僕にとっても僕のキャリアにとっても画期的だった。すごく沢山のことを学ぶ体験になった。服の作り方、チームの動かし方、ストーリーの売り方。結局のところ、売れなきゃいけないわけだからね。まったく新しい次元が加わったよ。

人間って、いつも、自分の手に入らないものを欲しがる

新しいコレクションで展開するストーリーを要約すると?

パリのショールームに入ると、大きなバナーがあって「石油の次に、世界でもっとも環境を汚染しているのは繊維産業と服飾産業。変革しよう」と書いてある。それがメインのテーマだよ。僕はファション業界の人間だ。デザイナーだから、この統計に加担していることになる。僕が問題の一部だということ。だから、今ほんとに関心があるのは、問題解決の一部になることなんだ。そのバナーはPVCだから、次のショールームでは使いたくない。じゃあ、そのバナーをどうするか? 刻んでバッグにするんだ。そうすれば、ゴミ埋立地へ送らずにすむ。改善するためには、いろいろな戦略がある。説教する気はないけど、今の環境の状況を考えると、デザインの未来がどうなるのか、そこに興味があるんだ。今回の最初のコレクションで見せたように、自然と環境にはあらゆる接点がある。僕はアメリカの狩猟文化に傾倒してるから、コレクションには森の迷彩柄もあるよ。僕の名前のへロンは鳥のサギと同じだから、それもコレクションのストーリーに取り入れているんだ。実は今、全米オーデュボン協会といっしょに仕事をする機会を探ってる。オーデュボン協会は、いちばん歴史が長い環境保護組織のひとつで、野鳥をとっかかりにして意識を環境へ向けてるんだ。

a新しいコレクションで展開するストーリーを要約すると?

パリのショールームに入ると、大きなバナーがあって「石油の次に、世界でもっとも環境を汚染しているのは繊維産業と服飾産業。変革しよう」と書いてある。それがメインのテーマだよ。僕はファション業界の人間だ。デザイナーだから、この統計に加担していることになる。僕が問題の一部だということ。だから、今ほんとに関心があるのは、問題解決の一部になることなんだ。そのバナーはPVCだから、次のショールームでは使いたくない。じゃあ、そのバナーをどうするか? 刻んでバッグにするんだ。そうすれば、ゴミ埋立地へ送らずにすむ。改善するためには、いろいろな戦略がある。説教する気はないけど、今の環境の状況を考えると、デザインの未来がどうなるのか、そこに興味があるんだ。今回の最初のコレクションで見せたように、自然と環境にはあらゆる接点がある。僕はアメリカの狩猟文化に傾倒してるから、コレクションには森の迷彩柄もあるよ。僕の名前のへロンは鳥のサギと同じだから、それもコレクションのストーリーに取り入れているんだ。実は今、全米オーデュボン協会といっしょに仕事をする機会を探ってる。オーデュボン協会は、いちばん歴史が長い環境保護組織のひとつで、野鳥をとっかかりにして意識を環境へ向けてるんだ。

アメリカ国立公園のツイッター アカウントが気候変動の事実をツイートし始めて、その後、消されたことが、昨日は大きなニュースになりましたね。おそらくトランプ政権が検閲したんでしょう。

そう。バッドランズ国立公園とかね!

そのとおりです。全米オーデュボン協会もいくつかツイートを消されましたよね。こういうふうに、政府の職員が反対勢力として立ち回らざるをえないというのは興味深いですね。

それが現実なんだ。トランプが自分のビジネスの利益のためにツイートを揉み消すなんて、狂ってる。恐ろしいヤツだよ。世界中が「存在するんだよ。起こっているんだ、ずいぶん前から」って言っているのに、「ノー、そんなものは存在しない。そんなことは起きてない」

ファッション ブランドや業界人も、はっきり態度を示す責任があると思いますか?

今の時代、デザインやアートは力強い声を持っている。だから、ニューヨーク市衛生局とのプロジェクトも成功したんだ。衛生局は、2030年までに廃棄物をゼロにする目標を伝達するために、ファッション デザイナーと手を組んだ。そのためのプロジェクトだったし、僕が声を出したからこそ、皆が耳を傾けるようになった。デザイナーに責任があるか? あるかもしれないし、ないかもしれない。でも、変化を促すスゴい力がデザイナーにあることは確かだ。僕も30代になった。今までは、何であれ、深入りする気になったことはないんだ。ただ人生を生きて、楽しんで、クールなことをやっていただけ。目的なんてなかった。それがある日、「ちょっと待てよ、もう僕は公式に大人なんだ」って思った。じゃあ、自分の発言力を使ってどういう責任が果たせるんだろう、って考えたんだ。デザイナーやアーティストが自問自答して、自分の関心に気付いて、自分がパワフルな声を持ってると分かったとき、ようやく責任を果たしたくなるのかもしれないね。

自分の声が人の心に響く、それも若い人に届くということを、あなたは見付けましたね。あなたの何が人を引き付けると思いますか?

僕は、自分のプロジェクトを通して、若者の夢を助けたいんだ。若者が手にできないと思うものを、僕が与える。人間って、いつも、自分の手に入らないものを欲しがるもんだよ。それが人間ってもんだ。僕はいつもそれを示してきたんだと思う。ルールを破って、「権威なんてクソ喰らえ」って言い放して、反抗する。それがユース カルチャーの特性だ。僕のプロジェクトは、それを感じさせるんだ。NASCARシャツにしたって、「こんなにロゴをプリントして、どうして無事で済んだんだ? 使用停止通告は来なかったのか? 誰にも訴えられなかったのか?」って。そいつはちょっとしたミステリーだ。それが、僕のファンの心を掴むんだと思う。完全なコレクションを成功させることはチャレンジだけど、そういうミステリーを含めて、僕をここまで連れてきたものを失いたくないね。

人間って、いつも、自分の手に入らないものを欲しがる

とても現代的な働き方ですね。柔軟で、身軽で、何であれ、自分がその時熱中していることをやるために、自分で骨組みを作る。

僕は「ノー」という言葉が好きじゃないんだ。それに、金が足りないという考え方も嫌いだ。ずっと、すごくやりくりの上手い子供だったんだ。いつもやり方を見付けてた。ものすごく何かを作りたいのに、それが作れなかったら、気が狂っちゃうよ。僕は気が狂うのが嫌なんだ(笑)。

やってみたい夢のプロジェクトはありますか?

NASAと仕事がしたい。僕の最大の夢は、宇宙へ行くこと。衛生局や衛生局のユニフォームを見て「あれなら着れるな」って思ったのと同じで、宇宙飛行士にもユニフォームがあるじゃないか。たまたまそれが宇宙服なだけ。そこに関わりたいんだ。「ニューヨーク タイムズ」紙が僕の紹介記事を書いてくれたんだけど、その見出しが最高にクールだったんだ。「ストリートのカリスマから宇宙空間へ」。それを見て僕は「そうだ! まさにそれが僕のやりたいことだ」って唸ったよ。ストリートで築いた信頼を他の分野へ広げていく。キッズがなりたいのは科学者じゃない。キッズがなりたいのはスポーツ選手や、ラッパーや、クリエティブ ディレクターや、アーティストだ。だから、それ以外にも、その力を使って他の分野とコラボレーションすれば、何かすごく特別なものが作れることを見せたいんだ。ビル・ナイ(科学教育者)も歳を取ったし、今の16歳と繋がれるのかな? 10年、15年前、ビル・ナイは僕に訴えるものがあったけど、今、科学をクールに見せてくれるのって誰だろう? それが、僕の役目だと思ってる。次の世代のクリエティブ ディレクターを刺激して、可能性は無限大だということを理解してもらうことが、僕の目標だ。

フリーランスの公務員ってとこですね。

ほんとそうだよ。

以前、Nikeで働いた経験がありますね。

Nikeで5年間働いた。ニューヨークのNike Sportswearのマーケティング スペシャリストだったんだ。その後仕事が変わって、Nikelabのグローバル デジタル ストラテジスト。Nikelabのソーシャル メディアを立ち上げて、ソーシャルメディア戦略を立てたのは、全部僕なんだ。

あなたが自分の個別商品に取り入れた企業文化の、その発信元で学んだもっとも重要な教訓は何ですか?

二つあるな。先ず、プランを立てること。プランニングが全てなんだ。僕はプランが何かも知らずに入社した。スケボーのデッキすら知らなかった。持ってたのはアイデアだけ。今なら、どうしてボスがいつも「プランを練れ!」って怒鳴ってたか分かるよ。もうひとつは、シンプルに、ってこと。Nikeにはそういう根本的な原理があるんだ。Nikeの十戒だな。調べてみるといいよ。今でも覚えているのが、シンプルにしろってこと。複雑にする必要はないし、そのほうが早く動ける。Nikeで一番できる社員は、僕を採用してくれた上司のジュリアン・カーン(Julian Cahn)だった。今は、Converseのマーケティング最高責任者になってる。ジュリアンはとても整然とした人物で、メールで最小限の指示を出しすだけで最大限の仕事を片付ける。ジュリアンから来る返信は、すごく短くて、的確で、単刀直入。それが最大の教訓のひとつだね。物事はシンプルに、ぜい肉を削ぎ落として、集中する。

あなたの業界で成功するには、今起きていることや次に来るものをキャッチして、それらを理解することが不可欠ですね。そういうことを確実に実行する秘訣は?

好奇心を失わないこと。Nikeで働き始めた最初の頃、トイレへ行って戻ってきたら、デスクにコピーが置いてあったんだ。「好奇心を失ったらお終いだ」。僕はすごく不安で恐ろしくなって、「何だよ? クビか? そのメッセージか?」って思ったさ。あれは絶対に忘れないな。好奇心を失くしたら、胡坐をかいて、沈滞する。一巻の終わり。好奇心は僕のすごく大きな一部なんだ。どうしてかは知らないけど、一人っ子だからかもしれない。ニューヨークに住み始めた最初の2〜3年は、好奇心の赴くままに動いたな。Know-Waveのエーロン・ボンダロフ(Aaron Bondaroff)と縁ができたのも、Supremeのメンバーと会ったのもそのおかげだ。とにかく人に会いたかったんだ。どんな人物で、どんな仕事をして、どうやって仕事をしたのか、すごく興味があったんだ。そういう好奇心がある限り、いつも新しい繋がりを保てるし、見るべきものが見えるし、いつも新しいものを発見するだけじゃなく、同時に楽しめると信じてる。

  • 文: Adam Wray
  • 写真: Pablo Attal