真珠の耳飾りの少年

ハリー・スタイルズからシェイクスピアまで男のピアスに迫る

  • 文: Chris Black

現代の男性セレブたちは、大々的にイヤリングを取り入れるようになっている。2019年のメットガラでは、ミュージシャンでファッション通でも知られるハリー・スタイルズ(Harry Styles)が、デザイナーのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)とピンク カーペットを歩いた際に、耳元で揺れるGucciのパールのイヤリングで人々の注目を集めた。俳優のアシュトン・サンダース(Ashton Saunders)は、数々のセレブが大コケする中で、Telfarの特注スーツで巧みに「キャンプ」のテーマを表現してみせ、その片耳にはパールの、もう片方にはルビーのドロップ イヤリングをアクセサリーに選んだ。さらにニック・ジョナス(Nick Jonas)までが、ルイ14世からインスピレーションを受けたDiorのスーツに、複数のイヤー カフをつけて登場した。

でも耳に「輪っか」? 僕はちょっとゴメンだな。

そう感じてしまうのは、もしかすると、僕が成人を迎えたのが90年代で、あの時代のセレブ男性たちがギラギラ輝く巨大ダイアモンドで耳元を飾っていたせいかもしれない。ド派手でどこでも目についた、当時のボーイ バンドのメンバーは、耳たぶに巨大な宝石をつけて、MTVの『トータル・リクエスト・ライブ』でスクリーンの端から端まで、滑るように動いていた。フロリダの垢抜けない白人の男たちが、当時の本物のヒップホップ アーティストを真似したスタイルだ。僕の好きなパンクやハードコアといったサブカルチャーにおいてさえ、ピアスは原始的な安全ピンから巨大な円盤のようなプラグに移っていた。汗臭い部屋に押し寄せ、ジャカジャカ鳴るギターに耳を傾ける、情緒的に未熟な郊外の男たちにとって、膿んだ耳たぶは抵抗の証だった。とはいえ、どういうわけか僕自身はその手のピアスを避けており、実際に穴を開けることにしたのは、アブレット(下唇)とセプタム(鼻中隔)だった。ちなみに、一般向けの公開フォーラムでこのふたつを認めるのは、重大な誤りだ。

個人的な感情はさておき、フィービー時代のCeline旋風にはまって抜けられなくなったアート系美青年スタイルであれ、単にジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)を真似しているのであれ、あらゆる形とサイズのイヤリングの人気は衰えていない。メンズウェアにおけるイヤリングは、何世紀にもわたり、富、高潔さ、異議、流行のスタイル、奴隷の身分、生殖能力、悲しみなど、あらゆるものの象徴となってきたのだから。

とはいえ、現代の身体改造は、もっと直接的な意味での虚栄心を表すようになっている。1960年代後半や70年代初期に、ヒッピーやゲイの男たちがピアスをするようになり、かつてはタブーだったスタイルは、流行のスタイルへと変わった。そしてこのトレンドは、80年代後半には、人種や文化の垣根を越えて、しっかりと根付いたのだった。右耳のフープ ピアスはゲイで受けを意味するという噂があったことから、どちらの耳にピアスを開けるかで、俗に「左は正しい、右は間違い」と言われることがあった。この言い伝えは、ストレートのお兄ちゃんたちを動揺させ、間違った耳にピアスを開けてしまったのではないかと不安にさせていた。左耳か右耳かについては、別の説も出てきており、離婚して恋人募集中を意味するとか、中には、民主党支持か共和党支持かを示しているという説まである。

JB (GOT7)

Carhartt WIP, 2019年春夏コレクション ルックブック

フェイス タトゥーが10代のSoundCloudラッパーの証のようになっている2019年においては、ドロップ式の華美なイヤリングなど、ほとんど地味といっていいように思える。マドンナ(Madonna)からMiu Miuまで、ありとあらゆる人たちと仕事をしてきたクリエイティブ エージェンシーGB65のアート ディレクター、クラーク・ルディック(Clarke Rudick)によれば、イヤリングは、それがどのようなタイプのものであれ、彼のスタイルにおいて極めて重要な要素だと言う。「僕はフープ ピアス、パール、スタッド ピアス、ペーパー クリップもつけてきた。ピアスをつけない自分なんて、想像もつかない」。そして彼にとっては、他の男たちがつけているイヤリングも、興味をかきたてる以上の存在だ。「男がつけているイヤリングには、どこか『俺はいくつかの人生を生きてきた。その中には、激しいゲイ セックスもあったかもしれないし、スケート パークで過ごしたあまりに長い時間もあったかもしれない』みたいなところがある」。

ニック・セシ(Nick Sethi)は、Helmut LangNikeといったブランドや、デザイナーのグレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonnerを通してファッションに関わる作品を作るアーティストだ。彼は18歳の頃からずっと同じピアスをしていたのだが、先日、それを変えることに決めた。「インドのラージャスターン州で、たくさんのコミュニティーや部族の人が特別なピアスをしているのを見た。最後に、自分用にひとつ作ってもらったんだ」と話す。「ちょっと突飛な感じだけど、毎日のように人から褒められるから、僕がおかしいわけじゃない」。セシはまた、耳飾りに関して、社会的影響の果たす役割も指摘する。「パンクのようなサブカルチャーにどっぷり浸かって大人になったせいで、誰も伝統的ファッションの慣例や規範とされるジェンダーロールにこだわらなくなったし、皆が自分らしくあっていいんだ、自分の思い通りの格好をしていいんだと言われてきた」。さらに「これと同じ感覚を、先日インドで、男も女も同じように凝った装飾のピアスをつけているのを見て感じた」と話す。

Ewan McGregor、『トレインスポッティング』、1996年

一方、ライターのナオミ・フライ(Naomi Fry)は、特定のスタイルに対して激しく反対する。「私が若い小娘だった頃から、いちばん興ざめしたのが、大きな輪っかのピアスをしてる男よ!」。ただし、それが小さな輪っかとなると話は変わってくる。「正しいスタイルを心得ている良い例は、『トレインスポッティング』でレントンを演じたユアン・マクレガー(Ewan McGregor)」ということだ。もっと最近のものだと、Carhartt WIPの2019年春夏シーズンの、90年代ガレージ風のルックブックだろう。そこでは、男性モデルが見事に均衡のとれた二連のピアスのスタイルを披露している。ナオミは、ひとつとても重要なことを言っている。自分のヒーローを参考に、そこからヒントを得ようということだ。もしかすると、若い頃のゴスっぽいロバート・スミス(Robert Smith)なら、耳飾りにおける北極星のような存在になりうるかもしれない。中年の危機がどんどん近づいており、ポルシェは高額でとても手が届かないかもしれないが、若かりし頃のジョニー・デップ風ピアスなら、憧れのエッジを効かせることもできるかもしれない。もしかすると、ファッションこそが君の救世主なのかもしれない。それならば、フェリーニの映画からインスピレーションを得た、Moschinoの2019年秋冬コレクションの肩にかかる刺繍イヤリングで周囲の注目を集めるのもいいだろう。

Martine Rose、2018年秋冬コレクション ルックブック

とにかく正しいスタイルを選ぶことが必須だ。ただピアスを開ければOKというわけにはいかない。オルタナ風、エレガント、スタッド ピアス、ドロップ ピアス、ゴールド、シルバー、光沢仕上げ、粗仕上げと、選択肢は無限だ。クロス、スカル、インダストリアル テイストの強いMartine Aliのリンク チェーンがぶら下がったもの、シンプルなフープ、なんならAmbushのファッション テイストを加えた洗濯バサミもある。要は、イヤリングで自分が何を伝えようとしているかだ。寝室から発信するブリーチした金髪のZ世代のポップ アーティストなのか、丈の短いカーゴパンツにワークブーツを履いた筋骨隆々のパパ風なのか、全身黒を着た中西部生まれの華奢なバーテンダー兼彫刻家なのか。あるいは、ただ自分がかっこいいと思うスタイルでも、まったく問題ない。ハウ・トゥ・ドレス・ウェル(How To Dress Well)名義でレコーディングを行っているミュージシャンのトム・クレル(Tom Krell)は、「ちょっと落ち着いた感じの原石」をつけるのを好んでいる。彼は、若い頃から、イヤリングをつけることが自己表現となることをわかっていた。「体育会系じゃないカッコいい奴らが、そういうのをやってたんだ。だから、僕も、よしこれで行こうと思った」。こんな風に、シンプルで構わないのだ。

ライターで『GQ』のエディターでもあるサム・ハイン(Sam Hine)は、現在、耳に初のピアスを開けようか検討中だ。「イヤリングを見るとオシャレなふたりの偉人を思い出すんだ。シェイクスピアと、海賊みたいな格好をしてた時期のジョン・ガリアーノ(John Galliano)。シェイクスピアは実際にはイヤリングをしていなかった可能性もあるけれど、それが誰であれ、『チャンドス肖像画』を描いた人が、シェイクスピアの左耳に太いゴールドの輪っかのピアスを描いたおかげで、彼はめちゃくちゃカッコよくなった」と彼は言う。シェイクスピアもきっと遊び好きだっただろうし、1600年代には、イヤリングは詩作の象徴であり、耳につけられた「クエイティブな人間」のしるしだった。だが、多くの要因があって、ハインは穴を開けなかった。「シカゴの郊外に住んでいた子どもの頃には、耳にピアスをするチャンスなんて皆無だった」と彼は言う。しかも、ピアスに抵抗することで、金も稼げた。「10代の頃、21歳までタトゥーもピアスも一切しなければ、まとまった額のお金をあげようと、祖母に取引を持ちかけられたんだ。ぼろ儲けだよ」。合法的にお酒も飲める年齢になった今、左の耳たぶの、少し真ん中からはずれた位置にピアスを開けることは、現実味を帯びてきている。また、ハインは、より難易度の高いアイテムに挑戦することも考えている。「さっそく真珠のドロップ ピアスを試してみようと思ってる」と言うのだ。だが、彼は抜かりがない。「成功の鍵は、自分のスタイルにしっくりくる自分だけのピアスを見つけることだと思う。シェイクスピアのイヤリングみたいに」と言い、こう続けた。「でもこの夏、おばあちゃんの家に行くときは、やっぱり外すだろうな」。スタイリッシュだが、バカではないのだ。

Chris Blackはライターで、ニューヨークのPublic Announcementの共同経営者。『T: The New York Times Style Magazine』、『Vogue』、『GQ』、『Architectural Digest』等に執筆している

  • 文: Chris Black
  • 翻訳: Kanako Noda