Palm Angelsがロスからミラノへ持ち込む大麻的未来
Palm Angelsのフランチェスコ・ラガッツィが、大西洋を横断するインスピレーションを語る
- 文: Nate Kuchinsky
- 写真: Lukas Gansterer

「実際には何も知らないくせに、ロスをヒントに利用する奴らは気に食わないね」。そう語るのは、写真家でありデザイナーであるフランチェスコ・ラガッツィ(Francesco Ragazzi)。超きらびやかなセレブリティからスケートパークにたむろする若者まで、多種多様なライフスタイルが存在するロサンゼルスは、今や「さらにハイな」ハイ ファッションの中心地だ。テクノロジー、美容、ファッションは言うに及ばず、あらゆる業界のクリエイターが「天使の街」に熱い視線を注いでいる。インスピレーションの源泉、クリエイティブな先駆者が目指す陽光溢れる最前線。しかしインスピレーションにはある程度の体験が不可欠だと、ラガッツィは言う。「Palm Angelsは、大麻のシンボルをよく使うんだ。ロサンゼルスを歩いたら、大麻ばっかり匂ってくるからさ」

2017年を迎えて、より柔軟で新しい考え方で境界やフロンティアを捉えるうえで、ロサンゼルスはとりわけ肥沃な土壌に思える。ラガッツィ自身がその好例だ。Monclerのアーティスティック ディレクターも兼任するラガッツィにとって、創造力は故郷のミラノとロサンゼルスのスケート スタイルの相互作用から生まれる。その証拠は、エネルギッシュなPalm Angels。海の向こうからデザインしているにも関わらず、ラガッツィは、カリフォルニアへの郷愁をこめてブランドの原点を語る。「オレはよくベニスビーチに座ってたもんさ。砂があって、スケートボードをしてる奴らがいて、マリファナがある。ミラノで作るコレクションは、全部、そういう感じを出してる。インスピレーションを反映するんだ」


もちろん、都市がミューズになるのは、今に始まったことではない。ヨーロッパの人間が眩いアメリカ西海岸にインスピレーションを求めるのも然り。ロサンゼルスとフランスのつながりは強く、Balmainのオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)やA.P.C.のジャン・トゥイトゥ(Jean Touitou)のテイストも、大西洋を越えた忠誠を誓っている。もっと大胆なところでは、Saint Laurentで指揮を取っていたエディ・スリマン(Hedi Slimane)。彼は、フランスのブランドのデザインスタジオをパリからロサンゼルスに移した。こうした動きからパリとロサンゼルスをつなぐハイ ルートが誕生し、それがミラノまで延びて、今やラガッツィのいるミラノを取り込もうとしている。エディ・スリマンが言ったように、ロスが「現代世界」でパリが「教会」だとするなら、ミラノはファッション界の新旧の権威をつなぐもうひとつのリンクとして浮上するかもしれない。ロサンゼルスは、その脈打つ心臓である。

設立から2年。では、Palm Angelsはどのように誕生したのか? 時は、ラガッツィがベンチュラビーチとハンチントンビーチに滞在した時期へ遡る。スケートボード シーンを撮影しながら過ごしたラガッツィは、ミラノで、南カリフォルニアの空気に満ちたコレクションを立ち上げることに決意する(ちなみに、当時の写真は写真集「Palm Angels」として、Rizzoliから出版された)。「オレは、いつだって、自分のコンセプトを混ぜ合わせる、イタリアの感性とアメリカの感性をミックスするんだ」。ラガッツィは語る。「人生の半分位は、アメリカで過ごしてきたし、アメリカの文化をイタリアへ持って帰るっていうアイデアが好きなんだ」。アパレル ラインを立ち上げる前はMykita、Nick Fouquet、Marcelo Burlonなどと小規模なコラボレーションを行い、2015年の秋になって公式にPalm Angelsをスタートさせた。


Palm Angelsは堂々としたカジュアル ウェアだ。ロサンゼルスに遍在するマリファナ、グランジ スタイル、派手なロゴ、そして当然街中にあふれるスケートのサブカルチャー。Palm Angelsはそれらすべてを見せる。Palm Angelsの中核には、アナーキーなアイコンも存在する。ラガッツィのお気に入り写真の1枚、垂直に伸びた炎に燃えるヤシの木の写真だ。2017年秋のランウェイ ショーは、このイメージに覆われている。ワイドなフレアパンツ、フード、チェーン、フェイスマスクなど、同じイメージを反復した作品は、反体制のフラストレーションを主張である。


自らをひとつの場所に結び付けないラガッツィは、規範の外側に馴染みが深い。フロリダとイタリアを往復しながら暮らし、ロサンゼルスも頻繁に訪れる。ロサンゼルスにいるときは、セレブリティ御用達のシャトー・マーモントやビバリーヒルズ ホテルに滞在し、他の人と同じことをする。すなわち、耽溺。彼は「どこの場所」でも「よそ者」を自認するが、ロサンゼルスとミラノ間を移動することで、それぞれの都市に対するビジョンが活力を帯びる。ロサンゼルスからは太陽と不安を少し、ミラノからは高級感を少し。混ぜ合わせると、マリファナとイタリアのエスプレッソを同時に嗜むように、奇妙で愛らしいものが生まれる。

- 文: Nate Kuchinsky
- 写真: Lukas Gansterer