ハイブリッドなシューズたち

交配するデザインの相関図

  • 文: Emily Segal
  • 制作: Michael the III

シューズが繁殖しつつある! それは一体何を意味するのか? ジャンル、シーズン、ファッションのサイクルが支配力を失うにつれ、私たちの断片化したリアリティがハイブリッドなシューズに反映される。デザインに変異をきたしたシューズは、規範の破綻を示している。つまり、ある時代設定や文化の中に、別な時代や文化の要素が紛れ込むことに他ならない。デザート ブーツ、ペニー ローファー、アリゲーター パンプス、エスパドリーユ、シャワー スライド、ムーン ブーツは、もはや互いを拒絶しない。

2002年にManolo Blahnikから発売されたTimberland風スティレット ブーツは、ビヨンセの「03 ボニー&クライド」ビデオに登場し、ジェニファー・ロペスが「ジェニー フロム ザ・ブロック」で見事に履きこなした。ハイとローが同化した2000年代初頭の象徴であり、来たるべきハイブリッド ファッションの先駆けだった。

2010年代後半になると、「DIS」マガジンが今や伝説となったエディトリアル「シューズ イン シューズ」を掲載した。登場したのは、Tevaを履いたTimberland、Sketchersを履いた Vibram、YakTraxの滑り止めをつけたIssey Miyake、等々。「シューズの重ね履きは、マルチ シーズンに対応するハイブリッド スタイルな選択肢であり、合わないサイズを調整する簡便な方法だ」とDISは解説した。

2017年の現在、様々なブランドが厚底の「フランケンシュタイン シューズ」を発表して、フットウェアの集大成は最大限の可能性を実現している。時代は単なるハイとローを超えた。そして、東洋と西洋、過去と未来、熱帯と厳寒、それらの彼方へと広がっていく。以下にご紹介するのは、新たな世界の秩序を現した6足のシューズである。

FENDI スキューバ ソックス ローファー

20世紀半ばの名門女学生スタイルを、さらに屈折させた1足。ソックスは本当のソックスではない。お決まりのチューブ状コットンではなく、FlyknitsやYeezysにこそふさわしい高性能素材の実質を備えた別物だ。おしなべて、ソックスとシューズの上下関係は希薄になりつつある。長年使えた主人に対するソックスの下克上...ソックス ローファーはその始まりを証明している。

画像のアイテム:ブーツ(Miu Miu)

MIU MIU グリーン エコ シアリング

イタリアのメーカーTecnicaでは、70年代初頭、ひとりのデザイナーが月面着陸を目にしたのをきっかけに、元祖ムーン ブーツを新発売した。そして 80年代を通じて、色々と物議を醸すトレンドとなった。Miu Miuのバージョンには、バッキンガム宮殿衛兵の毛皮帽、アメリカのファブリック アーティストであるニック・ケイブ(Nick Cave)が「Sound suit」で披露したテクスチャ、そしてマウスウォッシュの色を彷彿とさせる。人気のバレー フラットから援用したピン バックル式のストラップが、黙示的な構成をまとめあげている。

画像のアイテム:ブーツ(MSGM)

MGSM ブラック パテント フリンジ チェルシー ブーツ

いちばん男性的な雰囲気のこのチェルシー ブーツは、一見、ペニー ローファーとチェルシー ブーツの交配種に見える。が、騙されてはいけない。このデザインにははるかに幅広い背景が秘められている。モカシンのフリンジ、エナメル レザーの品格、深く刻んだソールの耐久性。20世紀の男性らしさを象徴した幾多のアイデンティティを、全部ひっくるめてひとつに融合した成果だ。元来、簡単に履いたり脱いだりできるチェルシー ブーツのデザインには、加硫処理ラバーが極めて重要な役割を果たした。無頓着な一種のスリッパ的要素がブルジョワなローファーの形を取ったプロフェッショナルな従兄弟に出会い、耐水素材によってさらに用途を拡大した。

画像のアイテム:サンダル(Chloé)

CHLOE ベージュ シアリング カミーユ サンダル

密度の高いシアリングのアッパーとクッション性に優れたコルクのプラットフォームを組合わせたスライドは、異常気象という現実を微妙に表現している。歴史上の別の時期であれば、とても実用とはみなされなかっただろう。たとえコルク プラットフォームのスライドが夏向きのフットウェアであって、例えば水辺の遊歩道をポックリポックリ歩くにふさわしいシューズであるとしても、シアリングは完全に場違いだったはずだ。だがChloéのサンダルは、文字通り気象の観点からも文化の風潮の観点からも、完璧に見える。未曾有の分裂症的気象とインターネットが支配する状況で、ファジーなスライドはそれ自身がミームのごとき存在になった。

VERSACE ネイビー & オレンジ ロゴ ストラップ サンダル

ロッカールームのシャワーからNascarの走路まで、どこでもOKのセクシーでミニマルでオープントゥのスティレット。いかにもセレブリティ好みのシルエットだ。足を長く見せるアンクル ストラップと何千というパパラッチの写真でお馴染みの細いヒールは、レンジ ローバーからフラッシュライトの中へ現れる足首にぴったり。Versaceは、レッド カーペットのスタイルとシャワー サンダルのラバーの役割をミックスし、エクストリームなスポーツ車両の色使いで、 格別にハイな変異ハイブリッドを作りだした。

画像のアイテム:サンダル(Miu Miu)

MIU MIU シアリング パール エスパドリーユ フラットフォーム サンダル

想像しうる限り最高に豪華なMiu Miuのエスパドリーユは、逐一説明できないほど多くの二元性を浸食する。肌に風を感じるオープンなフラットフォームのスライドは同時にファーで足元を包み、カジュアルなビーチ サンダルが都会的な富裕の雰囲気を漂わせるパールやラインストーンとぶつかる。ジュートのサンダルは「インド」、シアリングは「UGG Australia風」、スワロフスキー クリスタル(そしてイタリアのDNA)はヨーロッパ。この一足はあらゆる場所に属し、どこにも属さない。

エミリー・シーガルは、アーティスト、ライター、トレンド予想家である

  • 文: Emily Segal
  • 制作: Michael the III