ジョン・エドモンズと

7人のマドンナたち

ニューヨークを拠点とする写真家が光と色と戯れた、SSENSE限定オリジナル ポートレート

  • インタビュー: Durga Chew-Bose
  • 写真: John Edmonds

ニューヨークを拠点に活動する写真家ジョン・エドモンズ(John Edmonds)が、クラウン ハイツにある自宅のアパートメントからの電話で、SSENSEのために制作したポートレート シリーズを説明している。エドモンズの人生に登場した7人の女性の写真描写。ファインダーに収めたのは、アリース(Alyse)、アマリア(Amalia)、ベッキー(Becky)、ファラ(Farah)、ハサビー(Hasabie)、シュルメラ(Hlumela)、ジェシカ(Jessica)。

作品について話すジョンに耳を傾けていると、すぐに、その散漫な話し方に慣れていく。脱線が多い。作品の構図について、技術面だけでなく感情面でも、微に入り細にいって説明が続く。室内の光を説明するだけでなく、話の中に光を再現しようとするようだ。衣服の形や揺れ、それらがどんな風に人の輪郭を覆い、刻み、彼の中で詩的な火花を散らすか。彼は物思いに沈み、黙り込み、矛盾したことを口にする。ジョンは制作プロセスに没頭し、私の理解するところ、撮影が終わったあとも決してプロセスは完了しない。ジョンはそれぞれのポートレートを紐解き、その中に新たなストーリーと威厳を見出す。

「7は創造の数字なんだ」。後日、彼はそんなメールを送ってきた。「この女性たちはみんな、絶えず自分を創造し再創造していく。そして、美しく、有意義で、賢明な方法で、周囲の世界を形作っていく。優雅に力強く生きている。彼女たちは僕の『マドンナ』だと思いたいけど、彼女たちは、誰かに所有される理想化された美のイメージ以上の存在だ。彼女たちを所有するのは彼女たち自身なんだ。写真を撮る人間としての僕の役割は、感性や脆さに感応すること。同時に、自分もまた脆い人間であること。率直であり、別の人間の中に自分を認めること。どれほど違う人間であろうとね」

人生に登場した女性たちのポートレートを、ジョンが見つめ直す。

アリース

実は、この日はアリースの誕生日だったんだ。「これから毎年、お誕生日のポートレートを恒例行事にしなきゃ」なんて、とても興奮していたよ。作品作りにわざわざ参加してくれる、それも自分の人生を振り返って将来を考える日にそうしてくれる人って、すごく特別なものがあると思うよ。ふたりでいっしょに作品を作ったこの日は、とても特別な時間だった。ファッションやスタイルっていうのは、移り変わりながら、自分たちの変化や自分たちが見せたいイメージの性質を正直に伝える要素だと、僕は考えてる。

モデルには全員、モデルをしてるとは一切考えないで欲しいって伝えたんだ。モデルをすると思うと、写真を撮る側の美の基準みたいなものを満たさなきゃいけないと考えてしまうから。僕はとにかく、全神経を彼女たち自身に向けて欲しかったんだ。僕は「マドンナ」という言葉について考えていた。この言葉は常にはっきりとキリストの母や母性と結び付いてるからね。僕は「マイ レディ」という言葉の源について考えてみたかった。

モデル着用アイテム:ジャケット(Chen Peng)シャツ(Prada)

アマリア

通称マリ(Mali)は、僕が19歳か20歳の頃から知っている仲間のひとり。もう何年も彼女の写真を撮り続けてる。マリはスタイリストで、双子なんだ。ふたりを初めて撮影したとき、僕は19歳ぐらいだったかな。まだ大学生の頃だった。僕もふたりもワシントンDCの出身者だよ。マリは必ず僕の知り合いとも知り合いで、僕の写真活動の重要な人物になった。

黄色は、いつも扱いが難しいと感じる。溢れる活力を連想させるから。でもこの写真には、素晴らしい官能性と控えめな自信がある。堂々たる風格さえ感じさせる。尊厳があるんだ。僕が撮る写真ではモデルが視線を外してることが多いんだけど、この写真はカメラ目線だ。マリと僕がいっしょに仕事しながら築いた信頼を物語る、率直さがある。これは、双子じゃなくて、初めてひとりだけで撮影した写真の1枚なんだ。間違いなく特別な写真になってるな。あのふたりはとても仲がいいんだ。他の女性と強い絆を持っている女性というのは、必ず自分とも力強い関係を持ってる。この写真からは、間違いなくそれが伝わってくると思う。

ベッキー

ベッキーは、あの日、いちばん最初に撮影した女性だった。早朝のすごく生き生きとした光が写ってるだろ。今回のモデルの中には僕がよく知らない女性もいるんだけど、ベッキーはそのひとり。見るたびに、彼女の存在の持つ強さと威厳を感じる。

ベッキー自身とすべての質感に降り注いでいる光の輝きが、すごくいいと思う。ベッキーは強靭なアスリートのような体つきをしてる。その強さと力を計算に入れた写真を撮りたかったんだ。横顔がすごく印象的だよね。編み込みがいい。あらゆる形とあらゆる質感が調和して、ひとつのイメージに集約されてるよ。

こんな風に強くて優雅に見える有色人種や黒人の女性の写真は、滅多にお目にかからない。すごく威厳も感じる。ベネチア様式の横顔の肖像画みたいな威厳、初期ルネッサンス時代のイタリア絵画みたいな威厳だよ。

モデル着用アイテム:ドレス(Maison Margiela)ジャケット(Prada)

ファラ

初めて会ったとき、この人とは友達になるだろうなと何となく思うことがあるだろ?ファラがそうだった。彼女は、僕が個人的にいちばん親しい存在だよ。僕とファラはイエール大学で1年間一緒だった。ファラはUAE出身で、写真家で、パフォーマンス アーティストなんだ。この写真で気に入っているところ、それから僕が特にファラの好きなところは、ファラが永遠のティーンエイジャーみたいな苦悩を感じさせること。アーティストやパフォーマーを撮るのが面白くて難しいのは、自分がどう見えているかを彼ら自身が熟知してるからだ。ファッションが関わってくるとなおさらね。被写体が特定の外見や態度を伝えなきゃいけないと思ってるみたいなんだ。でも、この写真にはファラの感受性が前面に出てると思う。きちんと両膝を揃えて...。

モデル着用アイテム:ジャケット(Balenciaga)

ハサビー

初めてハサビーに会ったのは2011年のパリ。エチオピア生まれの画家だよ。かけがえのない、本当にかけがえのない友達のひとりなんだ。いつも美しいエネルギーと光に溢れてる。

僕は、学部生のとき、パリに夏季留学してた。ハサビーはノースカロライナ大学の学生で、僕が住んでたサンジェルマンの通りを下ったところのソルボンヌ大学で、授業を取ってた。友人を通して彼女に会って、ふたりの家へ行ったら、エッフェル塔が見えた。パリの夏の宵、ライトアップされたエッフェル塔を見ながら...それが僕とハサビーの出会いだ。数年後、ミッカリーン・トーマス(Mickalene Thomas)のスタジオで働いていたハサビーは、イエール大学に出願をして入学を許可された。ファラと同じく、僕よりひとつ下の学年で、絵画と版画の学部にいた。この写真は、肩越しにこっちを向いた妖精みたいだろ。ジャケットが翼のように見える。天使について、そして誰かの天使であることについて、僕はずっと考えてるんだ。ハサビーは現実にも空想にも見える。

シュルメラ

名前のHは「シュ」と発音するんだよ。シュルメラとの付き合いは、まだ1年にも満たない。映画制作を勉強中の学生で、母親でもある。南アフリカ出身。とにかく品があって優雅なんだ。155センチ位のかなり小柄だけど、高揚する美しさを考えさせる。フレームに収まったシュルメラの身体には、すごくパワフルなものを感じるんだ。腰に置いた手は、従来、美術の世界に古くからあるコントラポストという非対称のポーズとリラックスした体を象徴する。僕は、腰に置かれた手から、幼かった頃を思い出す。姉や母親のことを考える。家族で撮った写真で、女性は腰に手を置いてポーズを取ってる。コントラポストでも、エッジの効いたファッションでも、ただの近所の人でも、みんながなぜか好んで腰に手を置くポーズは、自信の表現だ。魅力的なポーズだよ。

モデル着用アイテム:シャツ(Balenciaga)

ジェシカ

ジェシカは、写真に対していちばん繊細で、それを隠さなかった。ジェシカにはある種の脆さがあった。本業はライター。初めて会ったのは2016年。彼女がキンバリー・ドリュー(Kimberly Drew)、テイラー・リニー・オルドリッジ(Taylor Renee Aldridge)、ジェシカ・ベル・ブラウン(Jessica Bell Brown)と一緒にブラック アート インキュベーターというプロジェクトに関わっているときだった。黒人アーティストが自分の作品について語るためのプラットフォームだよ。

ジェシカを撮ってたときの感覚は、道で誰かに声をかけて写真を撮らせてもらう感覚に近かった。あのデリケートな瞬間。レンブラントを思わせる光がジェシカに注いでる様子が、僕は気に入ってる。彼女の顔が陰から光の中へ入ってるところ。それとコーンローに編み込んだ髪もいいね! デビューしたてのアリシア・キーズみたいだ。僕は最近ギャラリーで過ごす時間が多いせいか、コーンローはあまり目にしないんだ。2本の編み込みが背に垂れて、この写真は無重力な感じがする。

ジョン・エドモンズは、ニューヨークのブルックリンで暮らし活動している写真家である

  • インタビュー: Durga Chew-Bose
  • 写真: John Edmonds
  • スタイリング: Eugenie Dalland
  • ヘア&メイクアップ: Miriam Robstad
  • モデル: Alyse、Amalia、Becky、Farah、Hasabie、Hlumela、Jessica