アイ アム スピード

フォトグラファーのニック・ナイトとAlyxが招待する、夜のロンドンのハイスピード ライド

  • インタビュー: Reva Ochuba
  • 撮影: Nick Knight & Matthew Williams

Alyxの2つの春コレクション「New Happiness」と「Love Chaos」に、SSENSEは写真家ニック・ナイト(Nick Knight) とのコラボレーションを企画した。真夜中のロンドン、通りがかる車のヘッドライトに照射されて、光反射ギアで全身を包んだ女性ライダーが街路を疾駆する。服をデザインする以前、すでにアイデアが生まれていたこのビデオ作品で、動的なフォースがファッションとテクノロジーを融合する。

Alyxを駆動するマシンにとって、コラボレーションは欠かせないパーツだ。長年にわたるニック・ナイトとのパートナーシップ以外にも、Alyxブランドのデザイナー、マシュー・ウィリアムス(Matthew Williams)はカニエ・ウェスト(Kanye West)やレディー・ガガ(Lady Gaga)のアート ディレクターを務めてきた。ウィリアムスのデザインは「ラグジュアリーなストリートウェア」と評されるが、ウィリアムス自身が考えるラグジュアリーは、エンジニアリングと耐久性に根ざしている。彼は、オフィスをニューヨークからイタリアのフェラーラへ一時的に移転し、地域で受け継がれているものづくりの豊かな伝統を学ぼうとしている。

自分自身が暮らしたい世界をデザインすること、未来のために現在準備することを、ウィリアムスがリーバ・オチュバ(Reva Ochuba)に語った。

リーバ・オチュバ(Reva Ochuba)

マシュー・ウィリアムス(Matthew Williams)

リーバ・オチュバ:Alyxの立ち上げまで、時間をかけた理由は何ですか?

マシュー・ウィリアムス:ミュージシャンと仕事をする前は、ファッション関係の組織やブランドで働いてたんだ。服を手掛けたいとは、いつも思ってた。デザイナーにとって一番難しいのは、コレクション毎に、ストーリーを語れるイメージを見つけることなんだ。コラボレーションするかもしれないパートナーに、自分のやりたいことをはっきり伝えられることが、俺にとってはすごく大切になった。そういう意味から勉強することが沢山あったし、結局のところ、最初から最後まで見通せる自信がつくまで待ったというわけだ。

そういう考えをAlyxのブランド理念として実践するとき、ストリートウェアとラグジュアリーが交差して相互に結び付く領域に、うまくマッチしていると感じますか?

最高の品質で作った服を表わす、別の言葉があったらいいんだけどね。過去に、俺自身がAlyxにラグジュアリーという言葉を使ったことがあったとしたら、果たして本当にその言葉を使いたかったのか、分からないな。ラグジュアリーって言葉にはすごく色んな意味があって、俺が必ずしも納得しないことを指すこともあるから。俺にとっては、長持ちする品質の良い服を作る、ってことに尽きる。自分自身を表現するための媒体なんだから、ただ大量にクソみたいな物を作って満足できるわけがない。愛されて、大切にされて、いつまでも楽しめるものを、俺はデザインしてるんだ。愛されて、次の世代に受け継がれるようなもの。次の年や次のシーズンにはお払い箱にされるような、くだらないものは作りたくない。環境にとっていちばん持続可能なのは、みんながいつまでも持っていたいと思うものを作ることだよ。これは、考えなきゃいけない、すごく大切なことだ。

自分でも自分がデザインしたものを着ますか?

そもそも、俺たちは、一体何のために服を作ってると思う? 俺は、女性が着てるところを見たい服、俺自身が着たい服、あればいいと思うけどこれまでなかったもの、そういうところからデザインをスタートするんだ。服作りには、着る人と同じ観点を共有する人間がいるべきだと思うよ。全部のアパレル企業やデザイナー全員が、そう考えてるわけじゃない。自分が着ない服とか、着られるとも思わない服を作るのにエネルギーをつぎ込むなんて、浪費だ。

Alyxの1回目のコレクションから、ニック・ナイトと一緒にビジュアルを作ってますね。二人の関係は、どういうふうに始まったんですか?

俺はミュージシャンのアート ディレクションをやってたんだけど、ある年の夏に、それを止めてナイトと一緒に仕事をしたんだ。その後も、色んなプロジェクトの件で連絡を取り合って、最後は友達になった。結局、本当に親しい人間と仕事をしたくなったのは、自然の成り行きだと思うな。壁がなくて、自分の考えてることをそのまま話せるから。お互いに良く知ってるから、本当にパワフルなビジュアルを作るためには、お互いを批評することもできる。だから、友達としてのつながり、長い期間一貫して共同でイメージを構築するプロセスが、現在に至ってるわけだ。今回が一緒にやる4回目のキャンペーンだな。

ビデオのコンセプトは、どうやって具体化したのですか?

ビデオは2つの春コレクションを編集したものなんだ。「New Happiness」と「Love Chaos」。「New Happiness」のほうは、スピーディ (Spidi)っていうイタリアのオートバイ会社とのコラボレーションが中心だった。スピーディはドゥカティ(Ducati)レーシング チームに、完璧な高性能レザー ギアを提供してるんだ。ビデオは、基本的に、女性ライダーが夜のロンドンの街路をオートバイで駆け抜けるところ。全身光反射のバイク スーツで、乗ってるバイクも全体が3Mの光反射材で覆われてる。AlyxがSSENSEのためにデザインした100%光反射素材のレインコートも登場するよ。とにかく綺麗なんだ。モデルの女性ライダーと同じように全体が光を反射するバイクは、スピーディが準備を手伝ってくれた。

ということは、モデルが光の束のように見えるのですか?

そう。女性のレース用のレザー ギアは、比較的最近になって登場した商品なんだ。プロ用のレーシング スーツの場合、ほとんどのブランドはユニセックスかメンズしかデザインがないから、女性ライダーはたいていオーダーメイドしてた。だから、女性ライダーが夜の街路をフルスピードで駆け抜ける素晴らしいシーンは、女性のエンパワメントも感じさせる。スタジオでも撮影したよ。潰れたバイクで作ったジョン・チェンバレン(John Chamberlain)風の彫刻と一緒に。それから、3Mスプレーでボディ ペイントした女性のショット。暗闇から浮かび出てる感じ。それと、ドローンでバイクを追いかけて、上空からすごくいいショットが撮れた。

ちょっと待ってください。今や、ドローンが必要なんですか?

ドローンでなくてもいいけど、前から一回使ってみたいと思ってたんだ。だから、飛行許可のある場所へ行って撮影した。ドローンを操縦するやつらの技術って、すごいよ。夜、それも風が強い道でも、高速で飛ばせるんだ。重いカメラや重い照明も取り付けてたのに。

ドローンは、どこか室内から操縦したんですか?

コントローラは俺たちと一緒に追跡用のバンに乗ったんだけど、ずっとドローンから目が離せないから、全然身動きしないんだ。ふたりいて、ひとりがドローンを操縦して、もう一人がカメラの操作。ニックと俺は後ろの座席。あちこち走り回って、すごく面白かった。

そのコンセプトが実現するまでに、どの程度かかりましたが?

先ずビデオのアイデアを思いついて、その後、アイデアを実現するインスピレーションとして服のデザインを考えたんだ。全部で1年半かな。アイデアが湧いても、日の目を見る準備ができるまで温めなきゃいけない場合があるからね。本当、よく待ったよ。

  • インタビュー: Reva Ochuba
  • 撮影: Nick Knight & Matthew Williams