ソックスへの賞賛
New Icons: 2016 春夏において注目される隠されたエッセンシャル

新たに登場したアイコンが語る、今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話
ソックスが他の服や靴のアイテムが引き起こすような熱狂的な支持を受けることはめった にない。ネット上では、スニーカーオタクたちが次に流行るであろうスニーカーのスタンダードを血眼になって探しているが、スニーカーの従兄弟的存在であるソックスに関してはまったく関心が払われていなかった。
Rick Owens、 Gosha Rubchinskiy、そして川久保玲といったデザイナーたちにとって、ソックスは彼らのコレクションのスピリットに関するよりディープなストーリーを語るための隠された手法であった。それがRubchinskiyのソ連のアートやロシア権力への喚起であっても、Owensのギリシャ神話を通じてのフェミニニティーの強さへの探求においてでも、ソックスはまだ手をつけられていない領域であり、その機が熟したのだ。当たり前のことだが、ひとつのソックスはコレクションのシグネチャーのコートよりも多くを語らないわけだが、素晴らしいソックスの存在は明らかにその控えめな表現の手掛かりとなった。それらはパンツの裾とシューズの間の差し色であり、それ以外のことをも暗示する。一日を乗り切るための心地よいソックスを選ぶことには、ディープかつパーソナルな贅沢がある。結局、私たちは、どれだけ履き心地が良いか、ということでひとつのソックスを選ぶ。そこに、それ以上セクシーな理由は何も無い。
「ソックスは”服装に色とテクスチャーを足すアクセサリー”として位置づけている」とConsuelo Castiglioniは彼女のMarni の2016春夏シーズンのメンズウェアコレクションにおいて、「The Wall Street Journal」に語った。Castiglioniは、サンダルと組み合わせることにより若干の冷笑を買った事実があったにも関わらず、ソックスがコレクションにおいて重要なアイテムのひとつである、という最近のトレンドをつくりだした張本人である。MarniとVersaceはともに、この春のメンズウェアコレクションのレザーサンダルにソックスを合わせる提案をした。それはDonatellaにとってはパステルであり、Castiglioniにとっては分厚いニットのバリエーションであった。Bottega Venetaでは、Tim Blanksが「Vogue」に、「かつてファッションにおける最悪の無礼と位置づけられていたソックスとサンダルは、2016春のシューズのトレンドとして君臨している。この夏においては、(かつてはスタイリッシュではない人種の例として一番に挙げられていた)ドイツの団体旅行客たちのスタイルが最高にシックなものとされるだろう。」と称えた。厳しい非難を受けつづけてきたドイツ観光客のスタイルを責めることと並行して、「The Wall Street Journal」はこのトレンドが始まった起因において、往年のオジサンスタイルやヒッピースタイルも非難され得るとしている。
我々の祖先が足首にレザーのロープでアニマルスキンを巻きつけていた石器時代から、ソックスは人類の衣において欠かせないものだった。レザーソックスは古代ギリシャにおいて動物の毛の束にアップグレードされ、一方でもっとも残存している最古のソックスはナイル河沿いで発見された紀元300-500年のシングルニットのものである。おそらく偶然の一致ではなく、それらは指先が分かれていて、サンダルに合わせて履くのに向いている。ソックスには神聖な前世までもが存在する。日本では、神道や仏教の僧は今でも足袋という16世紀から履かれてきた指先がわかれた伝統的な白いソックスを履いて寺院を静かに歩き、これはサンダルを履くより都合が良い。先人の知恵において、親指を分けることは、脳への刺激やリラックス効果という健康効果があるとされている。世界中のモスクやヒンズー教や仏教の寺院、そしてシーク教のグルドワラで、訪問者は神聖なる敷地内に立ち入る際は裸足またはソックスを履かなければならないとされている。アメリカでは20世紀半ば以降、今も人気であるチューブソックスが、1960年代後半にバスケットボールやサッカーで名誉を受け、1970年代のフィットネスカルチャーが到来したことで、評価を受けるようになった。
神聖なフットウェアがこのように慎ましやかな歴史を重ねるなか、今シーズンついにデザイナーたちはソックスに再注目しはじめた。Owensのブラックアンドホワイトのふくらはぎ丈のリブソックスは、2016春夏の”Cyclops”コレクションという名前を担い、古代ギリシャのアポロ賛歌から女性の強さまでを表現する一方で、アグレッシブな男性らしさも表現した。その一方で、Marcelo Burlonはピクセルを使ったエンブレムあしらった黒と黄色のソックスを、コレクションの力強くストリートから影響を受けたエネルギーを足して大胆に見せつけ、Boris Bidjan Saberiは、ジェンダーの定義の変化を匂わせ、ほとんど男性ものの靴下のようなロングの白黒ソックスをショーツと合わせた。
2016春夏ウィメンズコレクションに関しては、Saint LaurentとComme des Garçonsはどちらも原宿ガールズを想起させるフリル付ソックスが象徴的だった。Hedi Slimaneはグランジにインスパイアされた黒の花レースアップブーツをレースでトリミングされたソックスと合わせることで、永遠の若さへの敬虔を今回も表現した。一方で、Gosha Rubchinskiyは自分自身が時代の寵児であることを自覚し、国家主義的傾向のストライプソックスをリリースした。ロシア国旗 (しかしかつ逆説的にアメリカの星条旗)の赤、青、白を使うことで、Rubchinskiyはソックスをそしてコレクション自体を初期のソ連のアートと1970年代のスポーツ熱を鮮やかにまとめあげる機会とした。
自らのコレクションのスピリットとともに、恣意的にソックスに文脈を語らせることで、デザイナーたちはエッセンシャルを理解することの喜びを再発見する機会を提供している。このソックスひとつがもつパワフルさは、素晴らしいストーリーを語ることと足をドライに保つことの両方を叶える。もちろん、これは我々誰もがもつソックス熱を刺激するのだ。
- 文: Karen Orton
- 写真: Nik Mirus
- スタイリング: Oliver Stenberg