Juliusのインダストリアルな感覚

ノスタルジーを拒否する堀川達郎の世界観

  • インタビュー: Adam Wray
  • 写真: Monika Mogi

禁欲的なテクノビートに合わせて、堀川達郎は頭を動かす。「あなたの服を着た人に、何を感じて欲しいですか?」という私の質問に対する、無言の回答である。ちょっとしたダンスの動きを見せた後、笑いながら堀川は答える。「こんなふうに感じて欲しいね。そして守られてると感じて欲しい」。簡潔ながら、包括的な回答だ。堀川が自分のブランドJuliusで築いてきたものを遍く描写している。すなわち、音楽からの影響によって絶えず更新される、荒削りで表情豊かなミリタリー ゴスの美学。2017年春夏コレクションの構想は、イギリスのレーベルDownwardsから生まれた。特にレーベルの共同設立者であるレジス(Regis)の作品は、コレクション全体に浸透している。パリ ファッション ウィークのランウェイ ショーではDownwardsのアーティストたちによるパフォーマンスを使った。Juliusを設立して16年、当初はオーディオ / ビジュアル寄りのアートプロジェクトであったJuliusをファッション ブランドに転換して13年。堀川の仕事はテクノ トラックのように展開し続け、一貫した雰囲気を保ちつつも、パターンは少しずつ変化を辿っている。

東京・千駄ヶ谷の静かな通りにある、物がぎっしりと詰めこまれた地下迷路のようなJuliusのスタジオを訪れ、アダム・レイ(Adam Wray)が堀川と対話した。

アダム・レイ(Adam Wray)

堀川達郎

アダム・レイ:何か洋服に対して、子供の頃の何か強烈な記憶はありますか?

堀川達郎:服を作り始めたのは、実は、けっこう遅くてね。23歳か24歳の頃。それ以前は、ずっとグラフィック系の仕事でした。ファッションは別物だと思ってた。正直言うと、それ以前は、ほとんど服に興味を感じたことがないんです。音楽とグラフィックだけに目が向いてた。でも今では、それがプラスだと思ってます。考え方の枠組みになりますから。

服はこう作るべきだ、という先入観があまりなかったでしょうね。

我々にはそういう先入観がないから、もっと自由に自分たちを表現できるんです。今でも、自分たちのやっていることを「ファッション」とは考えていないように思う。ほとんど、彫刻みたいなもの。我々の服は、色やグラフィックより、パターンや形が大切なんです。現在も、彫刻的な考え方が背後にありますね。

服作りへの移行について、もう少し教えてください。どうして服作りに目が向いたのですか? 初めて作った服を覚えていますか?

初めて作った服は、よく覚えてますよ。1994年頃、「幻魔大戦」というSFマンガを基にしたコレクションを作りました。それまでは、ほとんどテクノのTシャツばかり作ってたけど、一緒にいるクルーや敬愛するアーティストのために、ユニフォームを作りたくなってね。でも、Tシャツでは自分の作りたい世界を表現できなかったから。あの頃には、ドラムンベースのクルーのために作ったコレクションもあります。とてもオーガニックでアシッドなグループだから、彼らのためにもコレクションを作りたいと思ったんです。そういうのは全部Julius以前、Nukeという最初のブランドをやってた90年代半ばのことです。

2017年春夏コレクションのDownwards Recordsとのコラボレーションは、どうやって始まったんですか?

レジスは、20代の頃から馴染みのあるアーティストなんです。彼個人としても、サージオン(Surgeon)とコラボしたBritish Murder Boysでも、ずっと敬意を払ってる。昔やってたVJでも、彼らの音楽を使ってました。だから、常に関連性があったし、いつか是非コラボレーションしたいと思っていたアーティストのひとりだったし。それに、あのコレクションは、テーマとしてユース カルチャー、特にバーミンガムのユース カルチャーをテーマにしたかったんです。ピンポイントで場所を選ぶのが面白いなと思って。そうすると、レジス以上の適役なんて、いないじゃないですか?

VJとしての仕事を、もう少し教えてください。

VJっていうのは、簡単に言うと、音楽と同期連携する画像やビジュアル要素を演出することです。ただ僕の場合、チラシのアートワークを作ったり、パーティのイメージや雰囲気を作ったりするアート ディレクションに関わるほうが多かったですけどね。イベントで、アナログ テレビの点滅を唯一の光源にしたこともあります。レーザーやストロボは使わなかったので、いつもクラブの照明担当と口論になってね。British Murder Boysも東京のリキッドルームでイベントをしたことがあるんです。そのときは、彼らの画像を小さく切って、それをミックスしたフライヤーやライブのビジュアルを作りました。

私がレジスの音楽で好きなのは、テクノのビートがきっちりあるのに、いつもボーカルがとても人間的でとてもオーガニックなところです。

僕たちの服の扱いにも、似たようなアプローチがあります。そういうふたつの側面のバランスをとる。どちらも我々の一部だから。僕たちは、バランスをとても大切にします。だから、コラボレーションするアーティストや人物を選ぶときも、似たような環境を持つ人がいいんです。レジスには間違いなくそれを感じたし、最近のショーでプレイしてくれたロティック(Lotic)にもそれを感じましたね。

ロティックとの関係は?

あのコレクションは、Cabaret Voltaireの影響が大きかったんです。どうしても、現代的な手法を蘇らせたいと思った。もちろんまったく同じじゃないにしても、似たような傾向のアーティスト探してるうちに、ロティックを見つけたんです。ロティックはポップ、セクシー、インダストリアル、ノイジー、すべてのバランス感覚が抜群で、そんなミュージシャンは他にはいなかった。もちろん僕たちは過去の影響からインスピレーションを得るけど、ノスタルジックなものを作る気はなくて、未来に目を向けるものにしたかった。その意味で、今現在、最先端と感じるアーティストと仕事をしたかったんです。過去を手掛かりにして未来を目指す、というコンセプトでした。

そのロティックがサウンドトラックを提供した2017年秋冬コレクションは、あなたの基準からすると、とてもカラフルですね。色彩を試したいと思わせた変化は何ですか?

黒に飽きたわけじゃありません。黒は、これからもずっと使うと思います。ただ今回は、もっとテーマに沿ったコレクションに取り組んでみたかった。そういうのは、今まであまりやってきませんでした。コレクションの下調べをしているときに散々聴いたSwans、Cabaret Voltaire、Depeche Modeから、テーマが生まれたって感じですね。そのテーマを、コレクションで表現したかったんです。色使いは、Cabaret Voltaireの「Sensoria」というシングルのジャケットがベースです。

刺激的な転換ですね。

たぶんやり過ぎかもしれないな。

いえいえ、私は好きですよ! 確かに、ショーの写真を初めて見たときは驚きましたが。テクノミュージックは、明らかにあなたの仕事に大きな影響を与えていますね。あなたにとってはそれが何を意味するのか、教えてもらえますか?

テクノは、単なる音楽用語じゃないんです。僕たちが考えるテクノの精神は、最先端であること、いかなるノスタルジアの感覚も持ち合わせていないこと、世界を前進させた欲求を持つもの。だから、テクノ精神は、音楽だけじゃなく、ファッションにでもアートでも表現できるものです。アプローチ、と言えばいいかな。何かひとつのものではなく、ひとつの考えです。

テクノが多くの人を惹き付けるのは、無意識にせよ、反復とじわじわと発展していくパターンが非常に瞑想的になる点だと思います。あなたは自分をスピリチュアルな人間だと思いますか?いや、スピリチュアルな人間ではないですね。僕は何よりも、精神的に強い人を信じていますから。

いや、スピリチュアルな人間ではないですね。僕は何よりも、精神的に強い人を信じていますから。

ノスタルジアは危険だと思いますか?

そうね。好きじゃない。ハウスミュージックです。

好きじゃない理由は?

過去に囚われたくないから。僕は、新しいこと、前へ進むことに目を向けます。そのほうがエキサイティングだ。我々は、今変化が起きつつあると感じてるし、前へ進むことが必要なんです。

今でも東京はインスピレーションを与えてくれますか?

「アキラ」か「ニューロマンサー」を知ってますか? どうしてそれを持ち出すかというと、東京にいて感じる特定の感覚と合ってるからなんです。ポップな感覚、という言い方がいちばん近いかな。東京か香港でしか感じない感覚。僕はドバイには行ったことはないけど、ドバイで同じ類の感覚を感じるとは思わない。東京での暮らしは、ちょっとSF感覚があって、確実に影響を受けますね。

「ニューロマンサー」は、特に現在、恐ろしいほど的確ですね。

僕のバイブルですよ。

著者のウィリアム・ギブソン(William Gibson)は、よくファッションについて書いたり、発言したりしていますが、あらゆる衣服は情報を含んでいるとどこかで読みました。あなたの服はどんな情報を持っていると思いますか?

社会的、文化的な抵抗。そしてインダストリアルな感覚。

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