カイル・ウンの7枚のお宝Tシャツ
「Brain Dead」主宰、TV番組「Social Fabric」のホスト、漫画オタクのデザイナーが、格別に愛するビンテージを披露する
- 文: Arthur Bray

ファッション デザイナーのサクセス ストーリーは、Tシャツから始まることが多い。Tシャツは、シンプルだが多くを表現し、大衆的だが個性豊かな衣類だ。どんな人でも絶対持っているベーシックなアイテムであり、ストリートとハイ ファッションを結びつける役割を果たし、アイデアがあって努力を惜しみさえしなければ誰でもブランドをスタートできる点で、ファッション業界に革命的な変化をもたらした。メッセージを発信するパワフルなキャンバスとしてのTシャツ、そして愛するバンド Tシャツやコミックブック Tシャツを、コレクティブ集団「Brain Dead」の主宰者でありテレビ番組「Social Fabric」のホストでもあるカイル・ウン(Kyle Ng)が語った。その後、手持ちのTシャツ コレクションから選んだ7枚にまつわるエモーショナルな関連性を話してくれた。シーズン毎のドロップや一連のコラボレーションなど、ファッション分野での経験を積んだ現在も、ファッションではなくあくまでカルチャーとして「Brain Dead」ブランドを位置付けるウンの立ち位置が浮かび上がる。
アーサー・ブレイ(Arthur Bray)
カイル・ウン(Kyle Ng)
アーサー・ブレイ:Brain DeadのTシャツはファッションですか? それともブランド グッズ?
カイル・ウン:Brain Deadっていうのは、色々な形になれるアイデアなんだ。だから僕たちが提案するのは、基本的に、カルチャーを指向するグッズだ。いわゆるグラフィック Tシャツも作るよ、視覚的にラディカルだと思うから。だけど、大抵は、僕たちが目指すカルチャーを形作るためのグッズ。「カルチャー」って言うとすごく大袈裟に聞こえるけど、要するに、僕たちがコミュニティと関わり合うための手段だ。フードであれ、アートであれ、映画であれ、実際に着たり自分を表現できるカルチャーを、僕たちは作りたいと思ってる。僕がいつも着ているものも、結局は僕のライフスタイルに繋がるんだ。スケートボードをやるのも、コミックブックを読むのも同じ。Tシャツは、いつだって、アイデアを伝達する方法だよね。自分のあり方を示す掲示板だ。
一連のグッズを持っていれば、それはブランドだと言える?
意図的に何かをするのがブランドだと思う。例えば価値観、信念、実行することや生産するもの、実行しないことや生産しないもの…そういう意図を持っているのがブランド。なんらかの行為の主体がブランドなんだ。それは制作会社であるかもしれないし、マクドナルドかもしれない。ただアパレルを作ってるだけじゃ、ブランドにはなれないよ。視点のあるアパレルならブランドだ。
ブート品と正規品には違いがあると思いますか?
人気のあるヒップホップ系のオマージュTシャツは、ブートが多いよね。自分たちの言葉やデザインを勝手に付け足すことで、オリジナルにひねりが加わってるから、すごくラディカルだ。Tシャツの場合は、イメージのカット&ペーストみたいな独自のDIYのおかげで、正規品より良くなることもある。もっと粗削りでダイレクトだけど、面白い。正規品を作る会社は、決まった手順で製品を製造して、最後にロゴを貼り付けるだけだから。
最高のTシャツの条件は?
何らかの姿勢、観点、カルチャーと関連していること。一番とっつきやすいのは、グラフィック Tシャツだよね。グッズとして集める人もいるし、大衆的なものだから、当然だ。だけど、そのTシャツは何を伝えているのか? そのブランドは何を表現しているのか? そこなんだ。Supremeはもうオワコンだって言われるけど、マイク・ケリー(Mike Kelley)やジョン・ウー(John Woo)監督の『The Killer』とのコラボはエキサイティングだよ。大袈裟じゃなくて、抑制されてる。グレイトフル・デッド(Grateful Dead)が大好きで、グレイトフル・デッドをモチーフにしたTシャツを作ってるOnline Ceramicsもクールだな。ブランドとしてのストーリーが面白い。Come Teesもいい。どれもDIY的な印象で…。ブルックリンにある「Dripper World」っていうパンク系のストアは、ユニークなブート版のTシャツが揃ってることで有名だよ。

Fantastic 4
この「Fantastic 4」Tシャツは、「Please And Thank You」って名前のビンテージ ストアをやってる友達のジェニーから貰ったんだ。ジェニーが見つけて、プレゼントしてくれた。僕は90年代のコミックブックに目がないし、あの時代のTシャツのプリントはものすごく質がいいんだ。1994年と1995年は、コミックが大当たりの年だったな。パンク系のTシャツも良かったけど、僕はコミックブックを山ほど読んでたから、ひとしお懐かしい。

Free Winona
お気に入りの1枚。ブラックばっかりのコレクションのなかで、文字通り異色の1枚。「Free Winona」Tシャツのブート版だよ。僕はインディー系ロックのファンで、ウィノナ・ライダー(Winona Ryder)に夢中だった。彼女が2001年に万引きで捕まったとき、このブート版が店頭に出始めてね。なんといってもウィノナはインディー カルチャーの女王だし、万引きなんてとんでもないことをやらかすから、見逃すわけにはいかなかったさ!

1993年「Lollapalooza」フェスティバル
実はバンド Tシャツはそれほど着ないけど、この「Lollapalooza」Tシャツは特別。クールなデザインが揃ってて、音楽とカルチャーの重要な時代を象徴してるよ。フィットもワイルドなんだ。丈が短いクロップだし、縮み具合が完璧。陰陽は90年代に大流行りした「オルタナ」シンボルだけど、すごくクールでトライブ的だろ! 背中にプリントしてある出演者の顔ぶれも、唖然とするほどすごい。僕はサンフランシスコのベイ エリアで、ダイナソー Jr.(Dinosaur Jr.)やレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)を聴きながら育ったし、プライマス(Primus)やフロント242(Front 242)も大好きだ。大掛かりなフェスティバルはあんまり好きじゃないけど、このTシャツだけは僕の心に響くものがあるんだな。あの当時のフェスティバルのグッズは、今よりよっぽどクールだった!

イメージ コミックス「Spawn」
この「Spawn」Tシャツは、僕のTシャツ史でも空前絶後の超ヒット。「Spawn」は、コミックブックとしても、歴史を塗り替えたからね。90年代には、マーベルと袂を分かったコミックブックのデザイナーたちがイメージ コミックスという出版社を作って、コミックブック全体が息を吹き返したんだ。原作者はテレビにも出たりして、スター並みだった。そういう中で「Spawn」というキャラクターが生まれて、新時代が始まった。フリー マーケットでこのTシャツを見たときは、「絶対手に入れる!」と決意したね。子供の頃、夢にまで見たTシャツだよ。それが見つかるなんて、キリスト教徒が伝説の聖杯を探し当てたのと同じことだ。何とも言えず、色がいいよね。パンク Tシャツはどれもブラックとホワイトだけど、コミックスはどれもカラフルだろ? 色がすごく大切だから、色にすごく神経を使ってある。フェード具合がものすごくいい。

ハーモニー・コリン『ガンモ』
1997年に公開されたハーモニー・コリン(Harmony Korine)監督の『ガンモ』に関連したグッズ Tシャツ。子供の頃、僕は、『ガンモ』にすごく大きく影響されたんだ。映画作りにのめり込んだティーンエイジャーだったから、ハイスクール時代にこの映画を見たときは完全に舞い上がったよ。フロントの写真はあまりに有名なイメージだけど、何よりも、『ガンモ』のTシャツを持ってるっていうだけで、違うレベルの話なんだ。

クレイ・アーリントン × Brain Dead 「SOL PRISON」
Brain Deadが作ったなかで、とりわけ僕のご贔屓のTシャツがこれ。ニューヨークとロサンゼルスのアート ブック フェアのために、アーティストのクレイ・アーリントン(Clay Arlington)とコラボしたんだ。「Brain Prison」っていうタイトルで、ラジオ番組、書籍出版、Tシャツ販売、それと「Prison Sculptures」というありもしないアート ショーのポスターを展開した。全体のコンセプトは、ソル・ルウィット(Solomon "Sol" LeWitt)へのオマージュ。ソルの幾何学的なシェイプをスピーカーのグラフィックとレイヤードしたのは「Cone」って名前にしたよ。クレイ・アーリントンもソル・ルウィットも僕が大好きなアーティストだから、特に意味のあるTシャツだ。

Zorlac Skateboards × Pushead
これは「Zorlac」というスケートボード会社とPusheadのコラボ Tシャツ。グラフィックも好きだし、デコンストラクトなスタイルもいい。グラフィックをデザインしたPusheadは、メタリカやパンテラのアルバム カバーも手がけたアーティストなんだ。新品で買ったんだけど、散々着たから、もうボロボロ。でもこれは、くたびれるほどいいんだ。
Arthur Brayはファッションと音楽が専門のライター。以前は『HYPEBEAST』のマネージング エディターで、現在は『Crepe City Magazine』の総合監修を行う。また『032c』、『FACT Mag』、 『Intelligence』にも執筆している
- 文: Arthur Bray
- 写真: Arthur Bray、Richard Brookes