時代を制する指輪物語
チェーンをほどこしたMargielaのリングから、シルバーのスカルまで話題のアクセサリーに迫る
- 文: Erika Houle

昔々、メンズ ファッションがロマンスに回帰したことがあった。その時とは、今のことだ。よりシャープで華々しく、今までにない視点をテーラリングに持ち込むことで、メンズウェアが「女っぽい」イメージをありとあらゆる方向に捻じ曲げているのだ。アクセサリーという形で着飾る男性が増えているのも、この流れに通じる。ポップ カルチャーの先頭に立つ男たちは、時にダサくなる一歩手前になりながらも、この不朽のジュエリーで自らのステータスに金メッキをほどこしてきた。けばけばしいが、魅惑的。ファッション リーダーや粋な紳士たちの間では、指輪が大流行している。
ケビン・デュラント(Kevin Durant)を考えてほしい。彼は、現在は2個、そして今後増え続けるであろう、巨大なチャンピオン リングをしていた。または、ハリー・スタイルズ(Harry Styles)のメットガラでのスタイル。こちらは、自分のイニシャルをあしらった指輪や、宝石を口に加えた獅子の指輪、踊るテディベアをデザインしたグレイトフル・デッド(The Grateful Dead)の指輪など、様々なスタイルの指輪をそれぞれの指にしていた。リル・ナズ・X(Lil Nas X)の特大バーンスターから、ブロンディ・マッコイ(Blondey McCoy)の自分のブランドのシグネット リングまで、今や、指にたくさんの指輪をつけることは、もっとも大胆に自分を表現する手段なのだ。「HighSnobiety」のファッション エディター アット ラージでスタイリスト、コーリー・ストークス(Corey Stokes)は、定期的に仕事で指輪を取り上げると言い、この最近の変化を支持している。「男が典型的なチェーン以外のジュエリーを身に着けることは、徐々にタブーではなくなってきてる。僕はそれにすごく興味があるんだ」

Kevin Durant、2017年 ウォリアーズ リング セレモニーにて

Lil Nas X、「Old Town Road」ミュージック ビデオより
愛する人への誓い、家族の歴史のしるし、神聖なお守り、あるいはファッションを通した大胆な主張としての指輪は、現在のようなトレンドになる前から存在した。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が提案する「ラグジュアリーな金属製品」以前、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)以前、そしてベン・ボーラー(Ben Baller)が、イーロン・マスク(Elon Musk)のためにTeslaのカスタム ジュエリーをプレゼントする前、古代エジプト人は、シンボルのひとつとして、無限に続くループ状の形をしている指輪に価値を置いていた。レザーや編んだ草などの自然の素材で作られた「愛の指輪」を交換することは、永遠の忠誠を誓う行為だった。子どもの頃は、指輪は、むしろカメレオンのように移ろいやすい気分を表すものだった。スパイス・ガールズ(Spice Girls)のおまけは、駄菓子屋で大人気だったものだ。純潔を守ることを誓うピュリティ リングといえば、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)とジョナス・ブラザーズ(Jonas brothers)だった頃を覚えているだろうか。結婚相手に出会う前に彼らはリングを外してしまったかもしれないが、今では全員が、結婚指輪をはめている。

Jeremy O. Harris、J. Cole、Lucas Hedges、Mobolaji Dawoduが『GQ』のために行ったスタイリング
人と会う際、いつでも最初に目に付くのが指輪だ。指輪は、わざとらしく見せびらかし、人の注目を集めるためのものなのだ。親密でありながらも私的であり、すばらしく人付き合いのうまい人のように、指輪は、つける人の状況に合わせて、その服装に個性を与える。指輪にはスタイル全体を変えてしまうパワーがある。例えば、スウェットパンツにスニーカーでも、飾りに金合金のステートメント リングをいくつかまとめてつければ、今人気のハイファッションとローファッションを組み合わせたスタイルに欠かせない要素となる。
「今じゃ『GQ』のメンバー全員が小指に指輪をはめてるんだ」と、『GQ』のファッション ディレクターでスタイリストでもあるモボラジ・ダワドゥ(Mobolaji Dawodu)は言う。ルーカス・ヘッジズ(Lucas Hedges)やJ・コール(J. Cole)、脚本家でパフォーマーのジェレミー・O・ハリス(Jeremy O. Harris)などが登場した雑誌のカバーやエディトリアルの中で、ダワドゥは、小さくても人目を引く、アクセサリーを強調したスタイリングをしている。指輪をつける位置として、小指には特別な意味がある。歴史的には、恋愛対象になる資格があることを示唆したり、『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネのようにアメリカの犯罪や職業上のステータスを意味していた。『インタビュー マガジン』の編集長トム・ベトリッジ(Thom Bettridge)は、ふたつのピンキー リングをしており、彼はそれを「母権的」な組み合わせだと考えている。ひとつは母親のもので、彼のいとこのジュエリー デザイナー、キャロライン・エレン(Caroline Ellen)が作ったリングで、もうひとつはパートナーからもらったCartierのトリニティ リングだ。ベトリッジもシグネット リングの流行に気づいてはいるが、それに加わることには興味がない。「シグネット リングは、実際に家族から受け継いだり、本当に意味があるものでないなら悪趣味だし間違ってると思う」と彼は言う。「当然、それには大学卒業のときに注文できる偽物のシグネット リングも入る。貴族制度は終わったんだ。そのことを受け入れて、上流社会を目指すアクセサリーを流行に変えてしまうのはやめようよ」

Dior メンズ、2019年秋冬コレクションの指輪
何十年もの間、GucciやVersaceは、さまざまな種類のロゴを型押ししたシグネチャ リングを発売してきた。だが、昨今の新進デザイナーたちは、より凝ったディテールをほどこすことによって、指輪で物語を表現する傾向にある。Pearls Before Swineのジュエリー デザイナー、ヒモ・マーティン(Himo Martin)は、彼女のアクセサリーは「90年代のノルウェーのブラック メタルのファン ジンに掲載された手作り作品や、時代遅れのミリタリー リングなどを研究し、そこから影響を受けている」と言う。「イット」ボーイからデザイナーに転身したルカ・ サバト(Luka Sabbat)は、『British GQ』が複数の指輪をつけるのが流行っているのはハリー・スタイルズのおかげだとツイートしたときにボロクソ言っていたことでも知られるが、彼はMoniniとのコラボレーションで、海賊のコスプレ用に作られたような、スカルが重なったデザインの指輪を発売している。彼自身が集めている指輪は、ダイアモンドをちりばめたChrome Heartsやエイフェックス・ツイン(Aphex Twin)のリングなど、まるで宝箱の中身のようだ。ファッションにおいてミニマリズムからの脱却が続き、かつてないほど厚底のスニーカーや、シルエットが拡大し続ける服が数多く出回る中、手のオシャレに対するアプローチも例外ではなく、多ければ多いほど楽しくて良いとう方向に向かっている。
結婚指輪はベビーブーム世代のコンプレックスを思い出させるかもしれないが、男性用エンゲージ リングの売り上げは、2019年になって着実に伸びている。ラブ ストーリーの大半がオンラインで始まり、ソーシャル メディア中にこの手の物語が溢れ、失恋後はアンフォローをクリックして忘れるだけの時代、私たちは、かつてないほどに、何がリアルなのかを思い出させてくれる、実際に触れられる記念品を必要としているのかもしれない。また、当然のことながら、指輪は不可逆的愛情を証明するためのものでもある。ビヨンセ(Beyoncé)とジェイ・Z(Jay-Z)の場合は、左の薬指のお揃いのタトゥーだったが。長きにわたって跡を残すことができるのだから、給料3ヶ月分を指輪ひとつにつぎ込む必要などないのだ。

Dior 2019年メンズ プレフォール コレクション、アンドロイド リング
指が触覚をつかさどる身体の一部でなくなっていき、むしろメッセージの入力やダブル タップや、自分たちの行動の一部始終をトラッキングする、ハイテク機器の延長になるような未来は、すでに実現しつつある。流行りの実用的な手袋に夢中になる人もいれば、ストリートウェアにインスピレーションを得たマニキュアで飾る人もいる。だが、マニキュアが剥がれ、流行が下火になっても、より大きなものや、より良いものを求める、指輪は永遠になくならない。Diorの2019年プレフォールのジュエリー コレクションで、デザイナーのユン・アン(Yoon Ahn)は、アーティスト空山基の「セクシーロボット」から着想を得て、指全体を覆う鎧のようなアンドロイド リングを発表した。いかなるときでも、人々の注目を一身に集めることで、指の1本1本が、美を誇示するための中心的役割を担うようになっている。
Erika Houle はSSENSEのエディターである。モントリオール在住
- 文: Erika Houle
- 翻訳: Kanako Noda