メイド イン コリア: 2020年秋冬コレクション 한국 編
pushBUTTONからAndersson Bell、Kim Matinまで、5つの韓国ブランドが語るデザイン哲学
- インタビュー: Elaine YJ Lee
- アートワーク: Tobin Reid

文化的イノベーションの発信地として、今、韓国の勢いはとどまるところを知らない。実際、彼らはポップ ミュージック、映画、政治的な組織力で世界を先導し、そのエネルギーはファッションにも及んでいる。「新しい現実」という重荷のもとでトレンド サイクルが岐路にさしかかり、アパレル業界における製造のかたちが変容するなか、デザイナーたちには結果を出すことへの巨大なプレッシャーがのしかかっている。だが、これら5つのブランドに限っては、生き延びる方法としてデザイナーたちがすでに体得しているものによって、人々の注目を集めている。それは意外なデザイン要素であり、保守的なアプローチからは完全に一線を画しながらの、ヨーロッパのミニマリズムの影響に対する敬意でもある。ソウルのファッション シーンをより深く理解するために、SSENSEはエレイン・YJ・リー(Elaine YJ Lee)を特派員として韓国に送り、今いちばん元気な韓国ブランド5つの、デザイン揺籃期からファッション哲学にいたる情報を収集した。ブランドのデザイナーやクリエイティブ ディレクターたちは、みずからの仕事への姿勢を論じ、未来、そしてssense.comのために彼らが生み出そうとするアイテムたちについて、思うところを語ってくれた。

Keenkee 킨키
Keenkeeはグラフィック デザイナー兼アマチュア ボクサーとしてキャリアをスタートさせたヒョンキ・キム(Hyoungkee Kim)が心に温め、誕生したブランドだ。イエール大学で学んだあと、キムはMTVのプロデューサーとして働き、ついでPradaのアート ディレクターを務めた。Pradaでの経験が、自分の手で服を作りたいという思いに彼を駆り立てた。現在、キムが単独で運営しているKeenkeeは、独創的で未来志向、そしてジェンダーフルイドな彼の美学を具現化する、創造性あふれる表現手段となっている。
ヒョンキ・キム(Hyoungkee Kim)、デザイナー
1.Keenkeeとは何を意味しているの?
自分の名前の「kee」を「熱心な」という意味の「keen」という形容詞にくっつけたんだ。大学でブランディングの課題に使った名前だよ。その頃、僕が世界に対して持っていた価値観に一番ふさわしい言葉だと感じたから。「性的倒錯」という意味の「kinky」とかぶせるつもりはなかったんだけど、そういう運命だったのかもしれない。
2.あなたのデザイン哲学は?
メンズ ウェアはベーシックで退屈になりがちだけど、僕はそこからちょっと外れたいと思ってる。でも同時に着やすさも失いたくない。大事なのはジェンダーの多様性と性の流動性を追求することだ。
3.2020年秋冬コレクションのインスピレーションはどこから?
「2020」という数字にずっとこだわってたんだ。なんだかすごく未来的な感じがして。子どもの頃に未来を想像すると、よく頭に浮かんだのは、つるんとした楕円形の物体とか構造物だった。今シーズンのカラーと柄はそこにヒントを得てる。
4.今シーズン、SSENSEで取り扱いのある商品のなかでお気に入りのアイテムは?
ストライプのタートルネック。あのストライプを作るプロセスはけっこう複雑なんだけど面白いんだ。ネットで画像を探してきて、コンピューターでコーディングを使ってピクセルをアレンジし直すと、画像の情報は維持したまま、新しくプログラミングされたモジュールが抽象的なパターンを作り出す。このデザイン手法はここしばらく使っているけど、今後もブランドのトレードマークのひとつとして使い続けると思う。
5.Keenkeeが目指す未来は?
妻と一緒に暮らすために、スタジオをニューヨークからソウルに移そうとしてるところなんだ。ソウルの縫製工場の能力は素晴らしくて、すごく満足している。ブランドを普遍的でより広く受け入れられるものにしたい。一風変わったものと見られるんじゃなくてね。そしていつか、女性の服もデザインしたいな。

Post Archive Faction (PAF) 포스트 아카이브 팩션
服を単に身にまとうものとしてではなく、鑑賞に値する一個の作品として扱うPost Archive Factionは、服のさまざまな特性を分析して実験し、まったく新しいウェアの形を作るというアプローチをとる。共同創設者でクリエイティブ ディレクターのドンジュン・リム(Dongjoon Lim)は、大学で学んだインダストリアル デザインの知識を生かし、服の型を技術的かつ哲学的に解体して確認していく。その結果はブランドが呼ぶところの独自の「構造的公式」だ。2018年にデビューして、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の支持を得、今はデザイナーのヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)やラッパーのゴールドリンク(GoldLink)など錚々たる顔ぶれが、プライベートでPost Archive Factionの服を購入している。
ドンジュン・リム(Dongjoon Lim) 임동준、クリエイティブ ディレクター
1.Post Archive Factionの意味するものは?
文字通りに解釈してくれればいいかな。「Post Archive Faction」は未来においてアーカイブに入るものを作り、それを代表するデザイン集団だ。何かがアーカイブに入るってことは、それには時を超えて受け継がれるだけの価値があることを意味する。僕たちは10年後も20年後も、何世代先も価値を持ち続ける服を作りたいと考えてる。
2.あなたのデザイン哲学は?
僕たちはブランドをRight、Left、Centerという3つのラインにわけている。Rightは僕らの「基本モデル」で、プリントTシャツなんかのコマーシャル ラインだ。Leftは「急進モデル」で、もっと実験的な服を作っている。そしてCenterがそのふたつに橋を架ける「ブリッジ モデル」。RightとLeftをつなぐ要素を含み、ブランドとして完成させる。僕らのミッションは、このバランスを維持することだ。政党の権力分立システムみたいにね。
3.2020年秋冬コレクションのインスピレーションはどこから?
コレクションのデザインをしている最中に、建築家のアンドリュー・ザーゴ(Andrew Zago)の『Accident』という本をプレゼントされた。あらゆるタイプのアクシデントを集めた写真集なんだけどね。アクシデントは意図されたものじゃないけど、僕たちは服を使って意図的にアクシデントを表現したいと考えた。コレクション3.1の試作段階でも純粋なアクシデントがあって、その結果、すごく面白いデザインが生まれたんだ。
4.今シーズン、SSENSEで取り扱いのある商品のなかでお気に入りのアイテムは?
個人的には3.1 Down Leftジャケットが気に入ってる。ストレッチ素材を使ってパッドの入ったジャケットをぎゅっと絞るようにして、爆発を表現したんだ。
5.Post Archive Factionが目指す未来は?
僕らにとって、3つのラインのバランスを維持することがブランドの生命線だ。バランスだけがブランドとして長く生き延びる唯一の手段だからね。来年は有名デザイナーとコラボすることになってるけど、将来はもっと地元の韓国でコラボしたい。アート インスタレーションには特に興味がある。

Kim Matin 킴마땡
Kim MatinならぬMatin Kimはすでに韓国ではよく知られたレーベルで、手の届く価格帯のシックなカジュアル ウェアが人気だ。Matin Kimの商業的成功を受けて、創業者でクリエイティブ ディレクターのデイン(Dein)はKim Matinをスタートさせ、フォーマルなファッション ブランドを運営するという自身の真の夢を実現しつつある。ハイエンドのレーベルがセカンド ラインを立ち上げてより幅広い顧客層にリーチしようとするのは珍しくないが、Kim Matinの場合はその逆だ。こうしてお財布に優しいラインから、デインの世界観と美学をさらに完璧にとらえる特別なレーベルが出現した。彼女は自分がもっとも刺激を受ける都市はベルリンだという―じつは20代の初めに、今の婚約者である恋人と暮らすためにこの街に移り住んだ。どこか鏡映しのラブ ストーリーのように、デインはフィアンセとこの街に注ぐのと同じ愛情を、Kim Matinに注いでいる。
デイン・キム(Dein Kim) 김다인、クリエイティブ ディレクター
1.なぜブランドにKim Matinという名前をつけたの?
「Matin」はフランス語で「朝」という意味。Kimは私の苗字。単にフランス語が好きなだけで、特に意味はないわ。
あなたのデザイン哲学は?
今、それを考えている段階なの。ベルリンで服飾学校に入学申し込みをしてたとき、いつも訊かれてすごく困った質問のひとつが、「あなたのポートフォリオのコンセプトは何?」だった。そんなのわからない。好きなものを組み合わせてるだけだから。それに自分たちがやっていることに作り物のストーリーをくっつけたくない。
3.2020年秋冬コレクションのインスピレーションはどこから?
いつでもどんな場面でも着られる、特に意識しているのはクールでシックな服を作ること。これ見よがしで余分なディテールは削ぎ落して、ミニマルで都会的、かつナチュラルな作品を作りたい。こういう服作りは、多くの点でドイツで過ごす時間に影響されてる。単にスタイルという意味だけでなく、精神のありようとしてね。
4.今シーズン、SSENSEで取り扱いのある商品のなかでお気に入りのアイテムは?
5.Kim Matinが目指す未来は?
最近、ソウルにHouseという旗艦ショールームをオープンしたから、今後も、今まで通りソーシャル メディアからの顧客のフィードバックを生かしていくつもり。人々が何を望んでいるかを理解することがぜったいに必要だと感じている。それと、私たちのブランドはオーバー サイズの服が多いから、商品を買ってくれる男性のお客さんもかなりいる。だからいつかはメンズ ウェアにも挑戦したいと思ってる。

pushBUTTON 푸시버튼
pushBUTTONは韓国ファッションのピーター パンと呼ばれている。韓国ブランドの中では最古参のひとつでありながら、pushBUTTONはその永遠の若々しさで群を抜いているのだ。2004年の設立以来、クリエイティブ ディレクターのスングン・パク(Seunggun Park)は80年代への個人的偏愛を彼のキッチュなコレクションに生かし、韓国のセレブリティや世界のバイヤーからなる安定したファン層を築いてきた。K-POPの歌手、モデル、スタイリストとして活動したのち、パクは一周回ってpushBUTTONに戻ってきた。彼のブランドは今、ロンドン ファッション ウィークにおける韓国の「顔」だ。
スングン・パク(Seunggun Park)、クリエイティブ ディレクター
1.pushBUTTONの意味は?
ブランドの名前を付けようとしていたとき、マドンナ(Madonna)の「Hollywood」という曲を聴いていて、「Push the button, don’t push the button」っていう歌詞が頭にこびりついちゃって。はじめ、ブランド名は「Push the Button」だったんだよ。
2.ブランドのデザイン哲学を教えて。
僕らのミッションは、自分たちがやることすべてに喜びを感じ続けること。喜びというと、文字通り笑ったり楽しいことをすることでもあるけど、コレクションを制作するときのワクワク感や責任感にも通じるんだ。みんなで仕事を終えると、いつも自分に尋ねる。「楽しかった?」ってね。それが僕らのブランドのモットーだ。
3.2020年秋冬コレクションのインスピレーションはどこから?
僕らのブランドは全体にエキセントリックでカラフルだと思われてる。そのイメージを打破して、もっと大人なムードのコレクションを作ろうと思った。
4.今シーズン、SSENSEで取り扱いのある商品のなかでお気に入りのアイテムは?
文句なしにスカート ショーツ。じつはロンドン ファッション ウィークに出すためにデザインしたんだけど、すごくSSENSEに通じるものがあると感じたから、通常の限定アイテムにしたんだ。
5.pushBUTTONが目指す未来は?
将来に向けて、僕らにとって一番大切なのは老いないこと。ずっと若くあり続けるためにどんなときも努力し続けたい。

Andersson Bell 앤더슨벨
2014年の立ち上げ以来、Andersson Bellは韓国生まれのブランドとして指折りの成功をおさめている。スカンジナビア流のデザイン的発想に韓国の視点というフィルターをかけたコレクションは、常に対比というテーマを追求しつづけ、独特の外観とコンセプトを持つ服を提案する。ソウルの旗艦店を拡張し、チームの規模も拡大の一途をたどるAndersson Bellは、韓国を代表する次のビッグ ネームとして世界制覇に乗り出そうとしている。
ドフン・キム(Dohun Kim)김도훈、クリエイティブ ディレクター
1.ブランド名のAndersson Bellにはどんな意味が込められているの?
「Andersson」はスウェーデンではすごく一般的な姓なんだ。たいていの人はそれを「アンダーソン」と読むけど、sがふたつあるから、本来は「アンダーション」と発音する。僕はこの名前にスウェーデンのエッセンスが詰まっていると感じた。「Bell」は文字通り、音を鳴らすベルなんだけど、韓国の寺院にある昔からの鐘を指している。ふたつのまったく違う文化的要素をひとつに組み合わせたかった。
2.あなたのデザイン哲学を教えて。
ブランド名にスウェーデンと韓国が並置されているように、あらゆる作品で対比を表現することがAndersson BellのDNAだ。20代の終わりにスウェーデンをはじめて訪れたとき、かの国とその文化に強烈な衝撃を受けて、眩暈がしそうになった。スカンジナビアのデザインは、ヨーロッパのなかでも独自のアイデンティティを持っている。それは韓国の文化とはまったく異質だと感じた。Andersson Bellは、コレクションを通じてこのコントラストを観察し、表現することを目指してる。
3.2020年秋冬コレクションのインスピレーションはどこから?
出発点は、僕が大好きなミュージシャン、ジャニス・ジョプリン(Janice Joplin)だ。彼女は1967年に、カリフォルニアのモントレー ポップ フェスティバルで歌った。僕らのAW20コレクションは、その時代のヒッピーの美学と韓国的なテーマが交じり合っている。ヒッピー文化はアジア文化の真逆だとも言えるから、その対比をもとにデザインすることは興味深かったよ。
4.今シーズン、SSENSEで取り扱いのある商品のなかでお気に入りのアイテムは?
ウィメンズ ウェアではグレーのヘリンボーン ジャケットが気に入ってる。アシンメトリカルなデザインが面白いんだ。仕上げるまでずいぶんサンプルを作ったから、特別愛着があるし。それと、異素材を使ったメンズのSeoulフーディもいい。Andersson Bellのフーディの中ではイチ押しだよ。
5.Andersson Bellが目指す未来は?
ブランドとして、これからも興味深い対比を探求して表現することで、僕らにしか作れないものを生み出していきたい。もうひとつの使命は、地元で提携している工場が発展するように常に努力すること。ブランドが成長するだけでなく、縫製パートナーの成長も支えて、みんなで一緒に前に進んでいくべきだと思う。
Elaine YJ Leeは、ニューヨークとソウルを拠点とするライターで、韓国版『HYPEBEAST』の前マネジング エディター。『i-D』、『VICE』、『Complex』、『Highsnobiety』、『Refinery29』、『office Magazine』、その他多数に記事を執筆している
- インタビュー: Elaine YJ Lee
- アートワーク: Tobin Reid
- 翻訳: Atsuko Saisho
- Date: September 11, 2020