Maisie Wilen:ビジネスだけど、気分はパーティー
カニエ・ウェストが後押しする新進ブランドの照準は、ワイルドに楽しむファッション
- 文: Erika Houle
- 写真: Alexis Gross

時の人となったデザイナーの自宅訪問といって思いつくのは、贅沢な敷物、コーヒーテーブルに並ぶアート ブック、ミッドセンチュリー スタイルのサイドボードだろう。だが、27歳のメイジー・シュロス(Maisie Schloss)が暮らすロサンゼルス、ロス フェリス地区のアパートは、最近立ち上げたウィメンズウェア ブランド、Maisie Wilenのスタジオを兼ねている。足を踏み入れれば、そこは驚嘆のマジック ワールドだ。曲芸師みたいに伸縮自在のウェアやサーカスの動物たちの小さな置物が詰め込まれた、さながらファッションのビックリハウス。マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)と「ルーニー テューンズ」が共演した『スペース ジャム』のグッズ、陶製の白鳥、赤ん坊ほどの大きさがあるYeezy Boostが完璧な調和で共存している。この雰囲気こそ、シカゴで生まれ育ったデザイナーの価値観そのものだ。シュロス曰く、「私が洋服を着るときに迷うのは、可愛くて見栄えがするスタイルと格好いいスタイルのふたつに分かれることなの。私が作りたいのは、その両方を満足させる服よ」
今日のシュロスは、スリーブがふわっと膨らんだブルーの70年代ビンテージ ドレスに、マルチカラーの厚底スニーカーというスタイルだ。ビーチが香るロング ヘアには、蝶形のクリップが留めてある。私たちが居間で話していると、2匹の猫、ティナとゾーイが仲間に入ってきた。壁には彼女たちのポートレートが飾られているし、シュロスの腕には彼女たちのタトゥーがある。Maisie Wilen特製の、鮮やかなイエローのネック スカーフでお洒落しているのがティナ。私に出された水をお味見したのがゾーイ。シュロスは苦笑すると、お詫びの言葉を連ねながら新しいグラスに水を注いでくれる。穏やかな物腰だ。そんな物静かな創作のプロセスと底抜けにカラフルな作品は、とても対照的だ。おまけに、ロスの街が眠っているあいだ、黙って仕事するのが好きだと言う。
シュロスは、スイムウェアとアクティブウェアの会社で働いていたときにカニエ・ウェスト(Kanye West)の目に留まり、今やカルト的人気を誇るブランドとなったYEEZYのウィメンズウェア デザイン チームへ引き抜かれた。その後3年間、曲線を強調するシルエットとイット ガール好みで知られるYEEZYでデザインの腕を磨き、その両方を前面に打ち出すMaisie Wilenを立ち上げた。ウェストが手がけるデザイナー育成の支援プログラムで、助成金を受けとった第1号がシュロスだ。ついでに、カーダシアン(Kardashian)一族のお墨付きも貰った。トレンドやデザインが上質のテーラリングやミニマルなスタイルへ回帰しつつある現在、シュロスは、あくまでパーティー ガールのスタイルを追求し、新しい表現を作り出している。例えば、数字にしたがって絵の具を塗っていく塗り絵から思いついたTシャツとレオタードの組み合わせ。シュロスが目指すのは、とにかく楽しむこと。シンプルだが、往々にしてファッション界は忘れがちだ。
私たちの周囲には、大雑把なスケッチと、万華鏡のようにカラフルなネオン カラーのボディスーツを詰めたバッグが並んでいる。午後は、サイズ分けと、仕分けと、箱詰めをやる予定とのこと。今年のはじめに初のコレクションを発表して以来、デザインと生産から四半期毎の納税申告まで、シュロスはビジネスのあらゆる面をひとりで切り盛りしている。パーソンズ スクール オブ デザインで学び、ニューヨークで暮らしたこともあるから、ファッション業界の目まぐるしいスピードはよく知っているし、ジョルジャ・スミス(Jorja Smith)、チャーリー・XCX(Charlie XCX)、ミーガン・ラピノー(Megan Rapinoe)、ローワン・ブランチャード(Rowan Blanchard)など、VIPやトレンド メーカーのファンも瞬く間に集まった。そんなシュロスが、仕事場、 ベッツィ・ジョンソン(Betsey Johnson)、ノース・ウェスト(North West)のために作った特別ルックについて語った。


エリカ・フウル(Erika Houle)
メイジー・シュロス(Maisie Schloss)
エリカ・フウル:シカゴで成長するのはどんな感じ?
メイジー・シュロス:シカゴという街で育って、本当によかったと思ってる。大きな都市だけど、中西部特有の雰囲気があるのよ。支援も豊富だし、良い講座もコミュニティもある。ニューヨークだとファッション デザイナー志望は掃いて捨てるほどいるけど、シカゴはそういうふうじゃなかった。私がやりたいのはデザインだってわかってたから、かなり早い時期からデザイナーを目指してたわ。
ブランド名にはお母様の旧姓を使ったのね。お母様から、どんな影響を受けたのかしら?
ちょっと変わったものや、ユニークな一点ものをよく着る人よ。
若い頃、尊敬してた人は?
中学生の頃はベッツィ・ジョンソンに夢中だった。シカゴ美術館の附属美術大学で勉強を始めてから、GaultierやMargielaのことを知ったわ。すごく興味を持ったのはViktor & Rolf。
その後ロサンゼルスへ移って、ロスのナイトライフはどう?
私の最強の切り札はサウス ベイ。同じロスでも、リラックスしてスポーティな雰囲気がある。何て言うか、みんなすごく…、サーファーなの。出かけるのは大好きよ。アートやファッションの仲間はすごく親しくて、お互いに助け合ってる。私は、私の服を買ってくれる女性たちのことや、彼女たちの遊び心を刺激するものを考えるの。



パーティー ガールを頭に描いてデザインするの? ボディコンのシルエットが、あなたのブランドのシグネチャだと思うけど。
ボディコンのデザインのほうが着やすいし、実際、かなり着心地もいいのよ。だけど、必ずしも毎シーズン、全部がタイトなデザインってわけじゃない。今シーズンは、インスピレーションや雰囲気とうまくマッチしたから、ボディコンが成功したということ。私ね、新体操の選手のイメージにすごく魅力を感じたの。抽象的なプリントや動きのあるプリントを使ったユニフォームがすごく面白いし、写真で見ると信じられないくらい体が柔軟なのよ。特に、体の周りで長いリボンがくるくる動いてるときの写真が大好き。グラフィックとしてすごく美しいと思ったし、私のデザインのやり方に通じるものもあった。
どういうふうに?
私の仕事は、ほぼ完全にコンピュータ頼りなの。イメージをフォルダーに入れて保管する、たくさん映画を観る、参考になりそうな文章を読む、できるだけリサーチしてできるだけ色々な参照元を見つける。全部にコンピュータを使うけど、すごくきちんと整理整頓するタイプだから、何に関しても細かくシステムを作ってあるの。だけど作るのは、遊び心があって楽しいもの。
いちばん影響を受けた映画は?
この前のシーズンのときは、『スイート チャリティー』にすごく感動してた。ボブ・フォッシー(Bob Fosse)の振り付けなんだけど、ダンス シーンが素晴らしいの。『魂のジュリエッタ』も大好き。


『ユーフォリア』のシーズン2にあなたのデザインが使われても、私、ちっとも驚かないわ。
『ユーフォリア』でいちばん好きなのは、ジュールズよ。彼女の雰囲気が最高。私のデザインを使ってもらえたら、すごく嬉しいんだけどな。もしも〜し、私、ここにいますよ!
誰かがMaisie WIlenを着てるって聞いて、思わず自分をつねってみたことある?
ノース・ウェストがオレンジのスーツを着てくれたとき。特別に彼女のために作ったミニ サイズだったの。Instagramから通知が来たときは1ドル ショップにいたんだけど、もう何もかも放り出して、すごい数のスクショを保存しまくって、友だち全員にメッセージを送ったわ。完全に舞い上がってた(笑)。
たくさんの仕事をこなすうえで、最大の難関は?
私は、ひとつのことに集中するんじゃなくて、あれこれ飛び回るタイプなの。「さてこれが済んで、お掃除も終了! 次は新しいスタイルを20枚ほど描いて、まとめてメールを書く」って感じ。躁的なエネルギーだけど、結局、ちゃんと全部片付くわ。四半期毎の税金申告とか、商標を登録するとか、今までよくわかっていなかったことを学べるから、会社の経営も楽しい。分析的で、ビジネスライクな仕事って、やってみるとすごく面白いわね。
『ヴォーグ』誌のインタビューで、ドリー・パートン(Dolly Parton)にあなたの服を着てもらうのが夢って読んだけど、どんな服を着せたい?
今までにデザインしたものを、彼女のために、うんと華やかにカスタマイズするわね。この前のシーズンで出したノースリーブのドレスなんか、きっとすごくよく似合うと思う。
彼女は両腕全体にタトゥーがあって、スリーブで隠してるって噂があるけど…。
本当だと思う?
思わない。
私も思わない。でも、想像すると楽しい。
Erika Houleは、モントリオール在住のSSENSEのエディターである
- 文: Erika Houle
- 写真: Alexis Gross
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: December 3, 2019