体験レポート:
Fear of God

君はラウンジウェア後に来る世界を信じるか?

  • 文: Micah Peters
  • アートワーク: Megan Tatem

画像のアイテム:クルーネック(Fear of God)

ロサンゼルスで誕生したFear of Godといえば、これまでポップ スター、NBAの選手、メガ チャーチの牧師たちに最も近いブランドだった。毎シーズン「信者を作る」のは、大変な仕事だ。現在ウェブサイトで見られるのは、7番目のコレクションだけ。ルック ブックを見ると、タイム カプセルというより、現在の「古い新しさ、あるいは新しい古さ」を感じる。膝まわりのベルト バックルやワックス コーティングといったいかにもFear of Godらしいディテールで言えば、どれも90年代に見たことがあるだろうし、今でも古着屋や衣料品店を巡り歩けばいくつも見つかるだろう。僕が持っているものでもある。かっこよくダメージ加工されたジーンズは、3rd ストリートのLot, Stock & Barrelで見つけたジーンズに似ている。デトロイトっぽいダーク ネイビーのワークウェア ジャケットは、Melrose Trading Postで掘り出したCarharttのジャケットに似ている。タフタのカーゴ パンツはAmerican Ragの定価セールで買ったJohn Elliottのパンツに似ている。7つのコレクション、手ごろな価格帯のPacSun ライン、高級ベーシックのスピンオフを経て、2020年のFear of Godはエッセンシャリズムの方向へさらに歩を進めた。最新コレクションは、高価な商品に要求される「時代の超越」を完成している。

ラグジュアリー ブランドの感性と、自制心を強く求める宗教。このふたつを一致させるには、それなりの時間がかかるはずだ。「Fear of God — 神への畏怖」は、決して単なるブランド名ではなかった。ブランドの意図、精神的な豊かさ、徹底した抑制の表現は、すべて、ジェリー・ロレンゾ(Jerry Lorenzo)に深く根差した信仰から生まれている。とは言え、たまにはいくらか毛色の変わったものもある。例えば、VネックのNegro Leagues セーター。最高度に丹念な作りは他のアイテムと同じだが、下に何を着ればいいのか、僕はいまだに考えつかない。

ロレンゾの目標が天文学的に高級なアメリカン スタイルだとすれば、というか、どうやらそうらしいが、Negro Leagues セーターの腋に配したひし形のファブリックは、まさにその転換を象徴している。僕はやたらと手足が長いので、腕を上にあげたとき、スウェットシャツがいっしょにずり上がってこないのは嬉しい驚きだ。かといって、腕の動きが影響しないほどブカブカなオーバーサイズではない。何より大事なのはそこだ。リブ編みの袖口と裾は非常に伸縮性があるし、高温洗濯に100回まで耐えるほど丈夫だ。まあ何と言ってもFear of Godなのだから、普通はドライクリーニングを選ぶだろうけどね。厚手のスウェットシャツはニュートラルなオートミールのカラー。朝早くすきっ腹のままで、薪を割り、サンドバッグにパンチを打ち込む男の色だ。だがよく見ると、上品で、知性を感じさせ、ほとんど威厳さえあって、僕にはとても着る自信がないほど極上のベーシックだ。ルック ブックでは、フーディの上に重ねたり、ラウンジ パンツと組み合わせたりしてある。ロサンゼルスでは先週初めて、日中の最高気温が3月並みの20度程度まで下がった。仮にもっと寒くなることがあるとしても、ルック ブックみたいな着こなしをできるのはいつのことだろう。

「ニグロ リーグ」をテーマにしたカプセル コレクションには、その他に帽子、フーディ、その他いくつかのグラフィック デザインがある。野球は中産階級のアフリカ系アメリカ人が親しんだ伝統スポーツであり、もとは教会が賛同した活動だったという点で大多数の歴史家の意見が一致している。届いた小包からセーターを取り出すとき僕の脳裏に蘇ったのは、少年チームが近所の教会のチームと対戦するときに行なわれた試合前と試合後の祈りであり、だいぶ前に帽子専門会社のNew Eraが発売した最初のニグロ リーグ ヘリテージ コレクションだ。僕もフランネルのホームステッド・グレイズのベースボール キャップを買うつもりで小遣いを貯めたのだが、いざ母といっしょにショッピングセンターへ行ったら、帽子専門店のLidsを通り過ぎ、Gamestopでゲーム用品に使い果たしてしまった。結局ベースボール キャップは、「あなたの歴史の一部」だからという理由で、母が買ってくれた。ルック ブックにもグレイズのキャップが登場しているが、ニグロ リーグ カプセル コレクションは、アトランタ・ブラッククラッカーズのピッチャーだった祖父に捧げたロレンゾからのオマージュだ。

ロレンゾの父もモントリオール・エクスポズ、フロリダ・マーリンズ、シカゴ・ホワイトソックス、ニューヨーク・メッツなどで、メジャー リーグのマネジャーを務めたし、ロレンゾ自身もファッションをスポーツのように語る傾向がある。語り口、観客、演出は、どれもファッションとスポーツの共通点だ。実際のところ、全員黒人のチームの対戦は、見出しを飾るようになるずいぶん前から運営されていたように、Fear of Godも最初の5年は大小の成功を収めつつ、高級ベーシック分野への参入を目指す段階だった。この時期には、長い曲線の裾の奇妙なTシャツやロック ミュージシャンが大好きな袖なしのフランネル シャツもあったし、生地を完璧にドレープさせたナイロン ボンバーもあった。当時のデザインは、もっと若々しく、アナーキーだった。ブランドとしての突破口と評された今回のコレクションは、落ち着いたストーン グレーが背景だ。動きの一瞬か静止した一瞬を撮影したモデルたちからは、例外なく、ある種の真っ直ぐな清潔感が滲み出ていて、ブレのない確かな落ち着きを感じさせる。最高度の品格と節度をデザインしたコレクションで見事に着陸をきめた現在、Fear of Godは「ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)と同じレベル」を極める時機だと、ロレンゾは考えている。

メンズウェアの参考にしようと、Getty Imagesのストックフォトを掻き分けていくほどに、ロレンゾこそFear of Godの最高の広告塔ではないかと思わされる。現在43歳のデザイナーはいつ見ても、クラブへ行くところかクラブから出てきたところ、あるいは役員会議へ向かうところみたいだ。バスケットボール ショーツや、ジーンズのトラッカー ジャケットや、トラックパンツとオーバーサイズなTシャツの組み合わせはどれも、「やり手のビジネスマン」ではなく、「仕事する男」に見える。YouTubeには、ロレンゾの真似方を指南するチュートリアルまである。多くの場合、ユーチューバーたちが口にするのはストリート スタイルの目標だ。曰く、単なる外見だけでなく、何を表現するか。しかし2020年、僕たちがFear of Godで目指せる最高のスタイリングは、せいぜいパリ ファッション ウィークに現れたロレンゾを真似る程度だろう。「上はビジネス用、下は映画専門チャンネルをぶっ続けで視聴する用」のスタイルは、今年3月の後半から在宅勤務者が突入したスタイルだが、ロレンゾの場合は超上級バージョンだ。普通はだらしないか不注意な事故にしか見えない上下バラバラのスタイル、あるいはアンチ スタイルは、スナックのコマーシャルでも笑いものにされにされる。笑いものにならないためには調和と熟慮の両方が重要だ。ここでFear of Godの出番になる。ファッション ウィークに姿を見せたロレンゾのラウンジ パンツはおとなしく、仕立てのいいゆったりしたグレーのジョガー タイプで、ドレスアップもドレスダウンもできるディテールだ。ブレザーは、ファッション評論家のロビン・ギヴァン(Robin Ghivan)が言うところの「礼儀として必要なガードレール」にふさわしい。現代のプロフェッショナルは、脳が電話と仕事に占拠される午前中と、何時であれ、食べることを思い出したランチ タイムを分けないことには、正気を保てない。だが、僕個人の考えを言わせてもらうなら、違う種類の時間を、力むことなくスムーズに移動したいものだ。

画像のアイテム:クルーネック(Fear of God)

2014年、環境と難民の危機に晒されて、いつも何かが爆発している遠い未来の地球を舞台にした大型予算アクション映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の取材で、主演のトム・ハーディ(Tom Hardy)がインタビューに答えていた。『Esquire』誌の記者トム・ジュノー(Tom Junod)との電話で、ハーディは延々8分、ズボンについて喋り続けた。「世界中、ズボンだらけだ!」。出演作の合間のハーディは、今の僕と同じように過ごしていた。髪が伸びるに任せ、自分にとって大切なことを考え、時折り新しい暮らし方を見つける。そうやってハーディが採用した方法は、僕にとっても便利な指針だ。つまり、男のズボンは、[いや、ズボンに限らず何でも]、上質かつファッショナブルかつ実用的でなくてはならない。それを穿いて、ゴミを出しに外へ出られるか、食器を洗えるか、「国境まで快走できるか?」。ハーディは自分がFear of Godを解説しているとも、Fear of Godがここ何年も目指してきた抑制のラグジュアリを描写しているとも知らなかったはずだ。Fear of Godなら、ファッション ショーへ着て行っても、場違いに浮くことはない。そのままふらっと近所の店へクッキングシートや流し洗い用のスポンジを買いに行けるし、そこで誰かにブランドを尋ねられることもない。僕はゴミも出したし、床の幅木も修理したし、マンチェスター ユナイテッドの負け試合も観た。ちょっと疲れそうな「国境までひとっ走り」はやらなかったけどね。

Micah Petersは『The Ringer』のライター。さまざまなテーマで記事を書いている

  • 文: Micah Peters
  • アートワーク: Megan Tatem
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: November 24, 2020