体験レポート:Gucciの「L’Aveugle Par Amour」サングラス
マイケル3世式、愛と冬の光を直視する方法
- 文: Michael the III

オレのサングラスはGucciだ。紫のベルベットのケースに入っており、それだけですでに中身の魅力も伝わってくる。まるで、何世代も受け継がれた古代の遺物のようだ。中には未知の魔法の力が封じ込められており、誰かがその蓋を開けるのを待っている。このサングラスをエルトン・ジョン(Elton John)がかけている写真を見たことがある。
レンズを通すと、世界が闇のグラデーションに染まって見える。プラムのような色の絹の保護バッグの間には入った説明書と証明書は、34カ国語で読むことができる。説明書の「コスメのような」遮光度という説明に、奇妙なまでにぞくぞくする。いちばん目に付く特徴は何かって? それはレンズを取り囲む「L'Aveugle Par Amour」という言葉だ。
このモットーは「盲目的な愛」や、あるいはより知られた「恋は盲目」という既存のフレーズに訳すことができる。ただし、このサングラスに関しては、名詞に焦点の当たった文構造になっている。直訳すれば「愛に目の眩んだ人」である。少し味気ない言い方をすれば、「頭ではなく、心で考える人」を示唆している。つまり、これは人生のあるステージではなく、人生のあり方を表現した言葉なのだ。
とはいえ、「愛に目の眩んだ」生き方に、オレはあまり魅力を感じない。「愛」の部分はいい。だが、自分の行動を制御できていないという点が気になった。ディズニーとはまた完全に違うタイプの、教訓を与えるおとぎ話のタイトルのように聞こえる。恋のベールに包まれたせいで過ちが目に入らないとか、もっとひどい場合、過ちすら許してしまうような人の物語だ。4度目のデートの頃には、主人公はピザの上にパイナップルが乗っていることにすら気づかなくなっている。ダメダメ、そんなのはオレ向けではない。
もしオレが、ギフトショップにあるような回転スタンドのように、自分の顔に表示するメッセージを選べるなら、オレが選ぶのは「職業はジョーカー」か「行儀が悪いのは生まれつき」だろう。「作詞作曲コール・ポーター」でも構わない。

Michael the III 着用アイテム:サングラス(Gucci)
現実に目を向けよう。「目は心の窓」というのなら、その目を言葉で飾ることは、いったい何を意味するのか? そもそも、なぜ窓止まりなのか?新しい壁の色を加えてみるのはどうか。オレの心にぴったりの藤色のカーペットや、ランプ、本棚も置こう。ブランケットやリモコン、さまざまなガラクタを収納できるタイプのフットスツールでもいい。ウォーホルの絵の横の棚の上なら、ユーカリの香りがするアロマ ディフューザーを置くのもいいだろう。だが、オレの心の窓には、これがぴったりのメッセージかどうかわからない。「子犬:無料で差しあげます」と書いた看板を貼り出す方がまだましな気がする。
サングラスが届いた次の朝、オレはいつになく寝覚めが悪かった。嫌な夢を見たあと特有のつっけんどんな態度。苛立った顔つきは、気にするまでもないのだが、どうにも気になって仕方ない。誰のせいにすることもできず、オレは眠り続ける恋人を置いて、冬の散歩に出かけた。この困惑するような新しいモットーには、クローゼットにある中でいちばんロマンチックな服を合わせることにした。大きな赤いバラの刺繍を胸の中心、つまりは心にあしらった、黒のタートルネックだ。
外に出ると、オレはこのサングラスの馬鹿馬鹿しさが徐々に気になりだした。サングラスは、言葉にならないメッセージを隠すために使われることが多い。ファッションショーで最前列に座ったアナ・ウィンター(Anna Wintour)や、プロのポーカー プレイヤー、刑務所へ向かうパリス・ヒルトン(Paris Hilton)を見ればわかる。そこにあるのは、思っていることを露呈させないという考えだ。バラ色のメガネを通してみれば人生を楽観視できるなら、このサングラスをかけたオレを見て、人々はオレが本気だと考えるのだろうか?
それから、オレは降ったばかりの雪で覆われた公園に行き、木の間を肥えたリスが跳び回っているのを見た。オレは白のイヤホンをつけ、今日のサングラスのスタイルにアクセントを加える。イヤホンから流れてくるのは、何の因果か、カイリー・ミノーグ(Kylie Minogue)の1988年のシングル曲「愛が止まらない 〜ターン・イット・イントゥ・ラヴ〜」だ。この曲は、楽観的な歌詞と繰り返されるコーラスが特徴的な、ヒットチャートで1位に輝いたヒット曲(ただし日本限定)なのだが、おそらく覚えている人はいないだろう。愛しいカイリー・ミノーグがオレにこう歌いかける。
「自分の心の奥を覗き
何に心をかき乱されるかわかったら
誰かを信じなければダメ
憎しみに囚われないで
ただそれを愛に変えて、愛に変えて
心を開いて
そうすれば、もう二度と恥ずかしいなんて思わない
ただそれを愛に変え、愛に変えさえすれば」

1週間後、その日は、友人から一緒に中華料理の点心でブランチをしたいとメッセージをもらって、幸せな気分で目覚めた。近頃は、この主張の激しいアイテムを身につけるのに、我慢の限界に達し始めていた。もしGucciとカイリー・ミノーグがなければ、怒って部屋の反対側に投げつけていたところだ。このサングラスにうまく調和するスタイリングはないものかと、シルク スカーフに合わせてみたり、3シーズンほど前に流行ったバスケットハットに合わせてみたりしたのだが、どれもいまいちしっくりこない。「何に心を乱されるのかを理解しなければならない」のだ。以前ならキレていたところだが、今のオレは心を落ち着け、バスケットハットのつばを折り上げた。ハットのつばが微笑み返してくる。ただ「愛に変えて、愛に変えて」いくことがミソなのだとオレは考える。
点心を食べたあと、耳にピアスを開けた。これが初めてのピアスだった。オレはタトゥーもしていない。もしかして、ファッションのせいで盲目的になっていたのだろうか? オレは、サングラスに合わせたメタルのピアスを耳たぶに差し込んだ。これはただの自己愛かもしれなかった。あるいは、自己愛こそ、真に盲目的な、唯一の愛なのだろうか? この問いに対する答えは、猫か子どもの里親になるか、オンタリオ州北部の高速道路のボランティア制度に参加するときにわかるだろう。だが今のところ、このゴールド フレームの怖いほどに楽観的なサングラスは、耳にそっと収まっている、この新しいゴールドのスタッド ピアスとよくマッチしていた。
そのうち、サングラスとオレはチームとして機能し始めた。もっとはっきりと見たいと思えば、ただ空に向かって鼻をすこし上げればいい。そうすることで、視線がレンズのグラデーションの色の薄いところに当たり、ほぼありのままの世界を見ることができる。サングラスをかけるとつい辺りをジロジロと見てしまうものだが、これもオレにはぴったりだった。夜にはこのサングラスをかけてチャイコフスキーの音楽を聴いた。街を歩き回り、公園や、イルミネーションに照らされた活気のない通りや、隠れた裏通りに佇んで、誰にも気づかれることなく目を閉じた。客のいないレストランで、ハンサムな店主が無理に忙しく見せようとしている様子を観察した。ナイトクラブのある角に立ち、ピアスを空けたばかりの耳にした金属を通じて、魔法のように、音楽の振動でエロティックな快感が沸き起こるのを感じた。今なら何であっても愛に変えることができる。
もし物事が思う通りに運んでいたならば、オレは今頃、ファッション考古学者になっていたはずだ。毎晩、エトルリアの砂が枕に振りかかり、オレは古代の謎かけについて考えながら目を覚まし、即座に答えを導き出す。たとえば、この小さな金色のGucciのハチは何を表しているのか? そしてそこから、50歳までに、美術史家のような道に進むかもしれない。恋人たちは、オレの指先が古くなった紙のような味がすると文句を言い、オレはそれを聞いて信じられないほど退屈だと感じるだろう。見慣れた絵画の裏面に何かがあるのを発見するかもしれない。ローマの文字でメッセージが彫り込まれた、薄く色のついたフィレンツェのメガネだ。オレはこうしたすべてのことを達成するのだが、最初にGucciのサングラスの謎を解くきっかけとなったのは、20歳の頃のカイリー・ミノーグだ。憎しみや、失恋、罪悪感、恥、破壊に費やされていた、すべてのエネルギーを厳密に特定し、それを愛に転化させることができるのならば、その反響のために盲目になってもいいのではないか。愛はとにかく透明だ。不透明ではない。それに、どのみち、パイナップルはピザから取り除いてしまえるのだ。
「サン-グラス」、あるいは「太陽メガネ」という言葉は1878年にも用いられており、そこでは太陽光を直接見るためのレンズ、この危険な生命すべての熱源を直視するためのレンズを表していた。そしてオレは、このサングラスのおかげで、愛の炎を掻き立て、研究するため、それに直接視線を向けることができるようになった。サングラスのメッセージは宣言しているのではない。約束しているのだ。「盲目的な愛」というのはひとつの志向なのである。しばしの間、オレはこれまでに自分に与えられてきた愛に感謝する。それが良い愛であれ、悪い愛であれ、永遠の愛であれ、束の間の愛であれ。夜の光の中でサングラスを外すと、オレはその眩しさに目を細めた。

Michael the IIIはモントリオール出身のライター兼フォトグラファー。『Gayletter』、『Document Journal』、『THEFINEPRINT』など多数に執筆を行う
- 文: Michael the III