メドゥーサ Versus
ノスタルジア
New Icons:荒れ狂う時代にふさわしくアップデートされた、Versusのヒップ ポーチ
- 文: Zoma Crum-Tesfa
- 写真: Haw-lin Services

新たに誕生したアイコンが語る、
今シーズンとりわけ注目すべきアイテムの誕生秘話
けっして忘れない。
1990年代初期は、ファッションのグレイスランド(プレスリーの邸宅。今も多くのファンが聖地として詰めかける)として、永遠に記憶に刻まれることだろう。世界は好景気に沸き、人々は盛大に消費し、広告やポップカルチャーでは、女優ではなく、モデルが大きな役割を演じた。インターネットはまだ存在せず、その代わり、情報の拡散には明確なルートがあった。ランウェイ ショーは、たった一度限りの出来事だった。しかしながら、90年代の回想にひたるべく、往時に流行した水パイプを持ち出して喉を詰まらせつつも、決して忘れてはならないこともある。ロドニー・キングに端を発した黒人暴動、コロンバイン高校の生徒による銃乱射事件、ルワンダ虐殺、1991年にバングラデシュを襲ったサイクロンの大被害。都市部では不公平が拡大し、郊外にはポスト グランジの不安が潜んでいた。
ノスタルジアを抑えよう。
1997年、鬼才ジャンニ・ヴェルサーチ(Gianni Versace)が暗殺された。それ以後、世界は闇に包まれた。ドットコム バブルが弾け、当時の精神を象徴したウェスト ポーチが店頭から姿を消した。ウェスト ポーチは、体の形やサイズ、社会的背景を問わず、すべての老若男女のためにあった。けっしてクールだったわけではない。誰もが手にしうるものだった。今日、ウェスト ポーチは、新しい名前で、再び表舞台に姿を現した。プラスチックのジッパーやシマウマ(のような)模様がついたマヌケな素材は使われていない。デザインの実用性に重点を置いた新「ヒップ バッグ」は、安っぽいプリントと縁を切り、あなたが着ている洋服とごく自然に調和する。現代人に適した、より徹底した新しいアイデンティを備えている。世界中で通貨の価値が下がるとき、厳格な社会制度が出現する。財産の価値が失われたら、信用しか残らない。モノグラムに対する熱意の低下と対照的に、遺産の象徴(例えばVersaceのメドゥーサ)に予期せぬ人気の波が押し寄せているのはそのためだ。Versusのヒップ バッグは、戦闘的な言葉の数々が染み込んだ世界の消費文化にふさわしい。今や、ボンバー ジャケットや警官の偽制服がファッションになり、クラブキッズたちは残らずフリーランスであり、あたかもコメディアンのジェリー・サインフェルドかのごとく、誰もが場所をわきまえずAsicsを履く時代だ。
現代の世界で、あなたを支配するのは、あなた自身でなくてはならない。
- 文: Zoma Crum-Tesfa
- 写真: Haw-lin Services